002.ユニークスキル【剣召喚】
俺が持つユニークスキル【剣召喚】。それが発現したのは、俺が死の危険に直面した時だった。
それは今より2年ほど前……年齢なら13歳くらいの頃だろう。既に両親が他界して、俺は生きるためにギルドから依頼を受けて日々の糧としていた。
だがまだ未成年のため、当然ながら採取かお使いの依頼のみ。その日も何の事無い、普段通りに採取クエストへと出かけたのだった。
だがそこで俺は、運悪く魔獣と出くわした。ケイブベアという魔獣だが、当然俺にはとてつもない相手。死をも覚悟したその時、俺の脳裏にアスカではない自分の記憶が一気に溢れ出した。
それは前世──日本人剣飛鳥だった時の記憶だ。俺の家は代々剣術を伝える武家の血筋だった。俺も例に漏れず剣術をならっていたが、自分の名前にもある『剣』に魅了された人間だった。
日本人の心ともいうべき刀は無論、ソードやダガー、レイピアといった海外の剣や、エクスカリバーのような物語に登場する剣にまで、俺の興味は広がっていった。
その興味は剣の持ち主へも向き、空想でしか見れない剣に至ってはゲームや小説などにも目を通すほどだった。
結果、剣関係に偏ったオタクみたいになったが、本筋である剣術に関しても手を抜かずに日々鍛錬をしていた記憶がある。
だが、俺はいつのまにか日本人としての人生を終え、この世界で新たに“アスカ”として生きているようだ。
それを実感した瞬間、何かにはじけるようにステータス画面を開く。誰かに教わったわけじゃなく、前世で遊んだゲームを思い出し本能的に呼び出したのだ。
その画面には、いかにもゲームだといわんばかりに並ぶ数々のパラメータ。そして一番最後にある項目“スキル”に書かれていたのは──
【剣召喚】
という文字だった。
ただ漠然と書かれたこの文字が、何故だかとてつもなく頼りがいのある物に感じる。そして、これまで忘れていた自分の中の何かを思い起こすような感覚も。
驚くことに、これらの思考と行動がほんの一瞬で行われていた。
ようやく自身の状況を思い出した時、先程のケイブベアはまだ俺を認識して威嚇しているタイミングだったのだ。
だがついにここで、ケイブベアがこちらに突進してくるのが見えた。前世の記憶を思い出し、多少剣術の心得があっても俺にまともな武器はない。
なのだが俺はいま、どうすればいいのかなんとなく理解できた。頭に思い浮かべるのは日本刀。そして──
「【剣召喚】童子切安綱!」
名を呼んだ刀は、酒呑童子を斬ったという伝説を持つ国宝の日本刀。史実では足利、豊臣、徳川へと受け継がれたという名刀中の名刀。
俺が『童子切安綱』の名を口にする。その瞬間、急激に体から力が抜け出すような感覚をうけ、目眩と共に気が遠くなりそうになる。
そんな意識が持っていかれそうになる俺の目の前に、一振りの刀が鞘に納まって出現した。何故かそれは、俺が呼び出したものだと本能的に感じて手をのばす。鞘を握ると同時に、自分の手にずしりとかかる重さに意識が戻された。
今自分が手にしているのは、名刀『童子切安綱』であると確信が持てる。
すぐさま俺は近寄ってくるケイブベアに対し、振り抜きながら踏み込み、鞘を左手で持った姿勢での居合い斬りを放つ。
確実に斬った手ごたえはあったが、慢心せずすぐさま振り返って様子を見る。走り抜けたケイブベアは、少したたらを踏むようにした後──その場に崩れ落ちた。その衝撃で、頭が胴体から離れて転がる。……そして、少し遅れて周囲の木が何本かスパッと切り倒されてしまった。
そこまで来て、いつの間にか召喚した『童子切安綱』が消えていることに気付いた。周りをみてもどこにもその姿形は無いが、振るった俺の手にはまだ感触がしっかりと残っている。
「これは……凄いな……」
思わず漏れた俺の声。それが意味するのは……スキルか、刀か、はたまたその威力か。流石に自分の剣術を自画自賛したとは思えないけれど。
もっとも、それに返事や相槌を返してくれる者はどこにもいなかった。
こうして手にしたスキル……おそらくは俺特有のユニークスキル【剣召喚】。
家に帰ってから改めてステータス画面を見ると、先程は何もなかった部分に【剣召喚】の所に新たな文字が入っている。
A:『童子切安綱』
それによく見るとスキルの欄に書かれた文字にも追加があった。
【剣召喚】C
ステータス画面を見ながら色々と検証した結果、以下の事が判明した。
・召喚できる剣にはS~Cのランクがある
・現在【剣召喚】はCなので、こちらも同様にS~Cのランクがあるかもしれない
・一度召喚した剣は登録され、次からは口頭召喚以外にもリストから召喚も可能
・名前と形状知識がある剣であれば召喚が可能
・自分の【剣召喚】より上位ランクの剣を召喚すると身体負荷が大きくかかる
おおよそ判明したのはこのあたり。
ちなみに剣ランクだが、
C:一般的な汎用武器
B:所有者が存在する剣
A:所有者が存在する強力な剣
S;伝説と呼ばれる剣
という感じだと予測した。ひとまず手当たりしだいにCランク剣を呼び出してみたところ、特に身体負担も感じずに幾つか召喚できた。これらは先程召喚した『童子切安綱』と違い、俺が手放すまで消えることはなかった。
そんなCランク武器は、
C:『ショートソード』
C:『ブロードソード』
C:『ダガー』
C:『レイピア』
といった感じで、ゲームなどでも聞きなじみのある武器が並んでいる。字際のところこのランクはこれくらいで良いと感じている。
問題はBとAだ。Aに『童子切安綱』があることから、ここにそういう武器が並ぶのだろうと予測はした。なので身体負荷を覚悟の上、俺は『三日月宗近』を召喚してみた。
『三日月宗近』は『童子切安綱』と同じく、足利所有の後に三好、豊臣、徳川へと受け継がれた名刀だ。『童子切安綱』を含み天下五剣と呼ばれる中で、最も美しいとさえ言われている。
その『三日月宗近』の召喚は問題なく出来たが、案の定思い切り目眩を起こしてしまった。先程と同じ位の衝撃だろうと心構えはしておいたが、わかっていても結構つらいものだと実感した。
なのでこの手の名刀名剣の召喚は、自室で十分な体調の時に行うように決めた。一度召喚できさえすればリストに追加されるので、日々こつこつと追加していくことにした。しかし、よもやこんな形で自分の剣好きが生かされるとは思わなかったが。
ちなみにSランクについてだが、じつはこの時はAまでかもと思っていた。だが後々ちょっとした事があり、今現在はSランクがある事を知っている。
こうして俺は、この世界の人間では手にすることが出来ない武器に触れる機会を得ることになる。
かつて『神様なんて、居ないと思ってた』と言っていた俺だが、今ではその考えを少しばかり改めている。
──神様も、たまには居るのかもしれない──と。
◆初出の剣◆
A:『童子切安綱』
天下五剣の筆頭といわれる刀。酒呑童子を斬ったという伝説がある。
所有は足利家→豊臣→徳川。
現在は国宝に指定されている。
A:『三日月宗近』
天下五剣の中で最も美しいといわれる刀。
所有は足利家→三好→豊臣→徳川。
現在は国宝に指定されている。
C:『ショートソード』
西洋の歩兵が扱った一般的な剣。
ソードの中では最も基本となる剣で単に「ソード」と呼ばれる場合もある。
主に片手用で盾と併用して扱うことが多い。
C:『ブロードソード』
「幅広の剣」という意味だが、これは当時の主流であるレイピアと比較して幅が広いという意味であり、他の刀剣と比較しても特別広いわけではない。
持ち手を守るためにヒルトに工夫がされている
※ヒルト……剣の柄を表す
C:『ダガー』
古代ローマ時代にも使用された短剣で、日本刀ならばドスに近い。
中世ヨーロッパで用いられたダガーは刃渡りが40センチほどあり、本作では別物として認識している。
C:『レイピア』
細身で先端の尖った刺突用の片手剣。
刀身は細いが両刃であり、フレール(フェンシング競技武器)とは異なる。
見た目から折れやすいイメージだが、実際は切り付けに十分な強度を誇り重量も見た目のイメージより重い。