那朗高校特殊放送部~水着選び2020編~
筆者:与那嶺瀬奈
今年の春も終わり、梅雨の時期が近づいて来ました。
でも、もう夏の陽気が訪れて来ていて気候的にはもう夏のようにも感じます…
そんな夏の始まりとも言えるかもしれない時期に、特殊放送部の女子達が集まってやっているのは、水着選びです。
企画にするかどうかはともかく、海に遊びに行くこと自体はほぼ確定らしくて、サイズも変わって来たのもあって、新しい水着を皆で買いにいくのはもう決定らしいです。
私は去年の物がそのまま着られてしまいますけど…
でも実は、水着を皆で買いに行くのは今回が初めてなんですよね。
私は去年からの参加ですけど、他の先輩達も初めてらしいです…
「今年はどんな水着にしよっかなー」
一番明るくて元気で、目標にしたい先輩の、夏輝海先輩が、
水着コーナーの一番目立つ場所、今年の流行水着のコーナーを物色しています。
確か去年の夏輝先輩の水着は、オフショルのシンプルなトップスと、ホットパンツを重ね着したビキニタイプのボトムスだったと思います。
色も黄色で、先輩の元気な雰囲気に合ったオシャレな水着でした。
「今年はクールな水着にしようかなーって思うんだよね!」
先輩はワンピースタイプのシュッとしたデザインの水着を手に取って、身体に当てながら様子を見ています。
ワンピースと言っても、元々はビキニ想定の水着をワンピースタイプにしてみた、というようなどちらかと言うとカッコイイ寄りなデザインで、スタイルの良い夏輝先輩なら、確かにクールに着こなせそうな感じがします。
そこに、また一人の先輩がやってきました。
「貴女がクールは無理があるんじゃない?」
そう言いながらやって来たのは倉井雪絵先輩でした。
倉井先輩は特殊放送部の中では私の次位に小柄なのですけど、結構ズカズカ本音を言ってくるし、中々のサディストですし、見た目以上に威圧感があります。
先輩より小さい私にとってはなおさらです…
「どうせそんな水着着ても、いざ海に行ったらはしゃぎ倒すのが目に見えてるわ」
「そっ…そんなことはほら、あるかもだけど、そうと決まった訳じゃないでしょ??」
でも、倉井先輩の言う事にも一理あって、
確かに夏輝は明るくてキラキラしていて、いつも楽しそうで、裏を返すと、クールとはほぼ真逆の性格をしています。
趣味がコスプレなので、多分さ写真を撮るときとかはバッチリ決められるんでしょうけど、普段もそうできるかと言われると、どうなんでしょう…?
「正直あなたにクールは似合わないと思うわよ?」
「でもさー、せっかくの大学生だしちょっと大人な感じにしてみたいじゃん?」
ハッキリと本音を伝えて来る倉井先輩と、
自分の気持ちに正直な夏輝先輩。
「確かにね。それであなたが多少大人しくなってくれるのなら、こちらも助かるわね」
「へっへっへ、それはどうだろうねー?」
「目指してる大人の雰囲気はどこ行ったのよ…」
ケラケラと笑う夏輝先輩と、それに頭を抱える倉井先輩。
もう何度も見ているおなじみの光景がここでも繰り広げられています。
お店の一番目立つコーナーの所ですけど、他のお客さんも水着選びに浮かれて気にしてはいません。
「あ、そうそう」
普段はこの絡みこれで終わるのですけど、今日は違うみたいです。
夏輝先輩は何かを思い出したように言います。
「実はユキちゃんに似合う水着も考えてたんだよねー」
「私の?」
夏輝先輩は沢山の水着がかけてあるラックをごそごそと漁っています。
「言っておくけど、ピンクのフリフリとかふざけた物出して来たらぶん殴るわよ」
「分かってるって。私だってそんなの着たユキちゃんと一緒に海歩きたくないしー」
「その物言いはそれはそれでむかつくわね…」
腕を組みながら苦い顔をしている倉井先輩ですけど、水着を漁る夏輝先輩を止めようとはしませんし、この場を置いて立ち去るそぶりも見せません。
やっぱりこの二人、言い合いは多くても仲が悪い訳ではないのです。
「あ、あったあった。ほらこれ!」
夏輝先輩がラックの中から、お目当ての物を見つけ、バン!と見せつけます。
「・・・っちょ、ええ??」
出てきたのは真っ黒なビキニでした。
でも、横は紐だったり、水着の一部がスケスケになっていたり、事実上の布面積はかなり少なめの水着です。
他のお客さんも居る中でその水着が出てきたので、少し店内がざわつき始めた気もします。
「ユキちゃんはスレンダーだし、髪も綺麗なストレートだから似合うと思うんだよね」
「いやだとしてもね、これはチャレンジング過ぎないかしら…!」
倉井先輩は珍しく顔を赤くしながらな夏輝先輩が体にその水着を当ててこようとしてくるのを阻止しています。
「ビキニはスレンダーな方が似合うんだって!」
「それは知ってるわよ…そうじゃなくて、もっと無難な奴は無いのかって言ってるのよ」
「それじゃあ去年と一緒じゃん」
そう言えば、去年も倉井先輩は暗めの色のビキニでした。
勿論、今夏輝先輩が見せているような感じの物ではなく、もっと大人しいデザインで、しかもその上からTシャツを着ていたと思います。
「いいのよ、そんなに目立ちたいわけじゃないし」
「そんなんじゃモテないよ?」
「海でナンパしてくるような男に好かれて何になるのよ」
夏輝先輩のアピールも空しく、水着は倉井先輩直々に棚に戻されていきました。
と、このやり取りをいつまでも見ている訳にはいきません。
私も私の水着を決めなきゃですね。
去年は、しっかり正統派なビキニに薄手のワンピースを合わせたスタイルで行きました。
気弱な性格を直すために少し冒険してビキニにしたのですけど、恥ずかしくなっちゃってワンピース付きのやつにしたので、今年こそは、去年のビキニだけ…はまだ無理でも、もう一歩踏み出した奴に挑戦したいな、って思います。
本当は夏輝先輩にもアドバイスを聞いてみたかったんですけど、今は先輩達で話しているので難しそうです。
身長が中学生と比較してもやや小柄で、
体型的に大人向けの水着はサイズが合わないので、小、中学生向けの水着コーナを見る事になるんですけど、
当然というかなんというか、小、中学生向けの水着は無難な物か、ちょっと可愛い過ぎる感じの物が多くて、目指している大人っぽい水着はそんなにバリエーションがありませんし、そもそもコーナが小さめで品ぞろえ自体もあまり多くはありませんでした。
「むむむ…」
選択肢の少なさに唸っていると、
「あ、与那嶺さん」
「は、はいっ!?」
急に横から声をかけられてビックリして大き目な声を上げてしまいました。
見てみると、そこには紅葉部長が私の視線に合わせて中腰で立っていました。
コルセットのような部品と深いスリットのある赤いワンピースという、個性的なファッションです。
コルセットのおかげで、胸部が強調されていますけれど、部長の場合そうでもしないとお腹が太っているように見えてしまうので仕方ないのかもしれません。
その割には必要以上に締まっているような…
「あっちに小柄な人向けの小さいサイズの水着コーナーありましたよ」
「本当ですか?」
そんな朗報に、部長に案内されて付いていく事にしました。
そう言えば、部長って後輩の私にも丁寧語で接してくるんですよね。
癖…なんでしょうか?
案内された先には、確かに小さ目のサイズの水着コーナがありました。
一つ適当に手に取ってみると、私でも着られそうなサイズの大人っぽいシックなデザインの水着です。
ここなら、求めているものが見つかるかもしれません。
…と思ってはいたのですけれど、探している様子を紅葉部長がずっと見てきます。
今回は別に撮影している訳ではないただのお買い物なので、何か特別な事をする必要は無い筈です。
「あの…部長は水着探さなくていいんですか…?」
理由を聞いてみると部長はやや苦笑いをしながら、
「なんというか…今いまいち気分がノッてなくてですね・・・」
「あ、なんとなくわかります、それ」
お買い物は割と気分が大切で、特にお洋服なんかは気分に乗っている状態じゃない時に買うと、いざ買ってから着ようとしたときに、なんだか違う気分になったりするのです。
逆に気分に乗り過ぎているときに選ぶと、嫌いじゃないけど着るタイミングの無い変な服を買ってしまったりするのが悩みどころだったりはするのですけど、そこがお買い物の難しくて楽しい所です。
「だから、気分が乗るまでは他の人の水着探しでも見てようかなと」
「なるほど・・・」
中々腑に落ちる理由だと思います。
お買い物の流儀には、時には待ちも必要です。
ただ、待つときは選択肢でも広げておこうかな、と物色するのはNGで、それは優柔不断な結果になりかねないのです。
とまあ、そんなこんなで、部長が私の水着探しを手伝ってくれる事になりました。
「与那嶺さんはどういう水着を探してるんです?」
「えっと、去年の水着って覚えてますか…?」
「確か…ピンクのパレオ付きの、」
「そ、そっちじゃなくて…私の方です」
「あっ、なるほど!」
微妙に噛み合わない会話に、二人して顔を赤くしながら苦笑いします。
「与那嶺さんの水着…黄色いビキニとノースリーブのセーラーワンピでしたっけ?」
「はい、そうです、それです」
部長はちゃんと覚えて居てくれていたみたいです。
「あれも、少し冒険して派手めな物にしようかな、と思って最初はビキニだけだったんですけど、いざ試着してみたら恥ずかしくなっちゃって…」
「あー、確かにあれくらい紐の多い水着はハードル高いですよねぇ」
「それでワンピースを着合わせたんですけど、今年はどうしようかなって…」
「うーん…」
部長は少し考えてから聞いて来ます。
「与那嶺さん的には、やっぱり今年も冒険したい感じ?」
と。
勿論、正直に答えます。
「はい。早く夏輝先輩に追いつきたいので!」
私が夏輝先輩を目指して、派手めな恰好に挑戦していることは紅葉部長も知っています。
けれど、帰って来た答えは少し意外な物でした。
「うーん、正直なところ、与那嶺さんはもうだいぶ明るくなったと思いますけどね?」
「えっ?」
想像していなかった返答に、先輩であることを忘れて聞き返してしまいます。
「昔と比べるとだいぶいろんな人に話せるようになってますし、何なら私とかにツッコミも入れられるようになってるじゃないですか?」
「それはその…会話の流れというか…」
「例えそうでも、出来ているなら十分です!」
ビシッと人差し指を立てて、眼鏡のフレームを光らせながら部長は言います。
「だから、意図的に目立つような水着でなくとも、与那嶺さん自身が着たい水着とかでいいんじゃないかなって、私は思うんですよ」
ややオーバーめなリアクションを取る部長。
スリットからレースのミニスカートが見え隠れしています。
「まぁ、結果与那嶺さんが本当に着たいのがああいう水着なのだとしたら、止めはしませんが…」
「え、えっとですね…私が着たいのは…」
実際の所、気弱な性格を直すために派手めなファッションを選ぶ、という事を繰り返してきた結果、
衣服の好みもすこしそちら側に流れてきている節はあるのですけれど、
やっぱり本当に興味があるのは違うというか…それもそれで派手めではあるのですけど、系統が違って…
「えっと、こう、フリルがいっぱいついてる可愛いものが良いかな、って…」
今でもやっぱり一番好きなのは可愛い感じの衣装です。
子供っぽい、って言われるのが好きじゃないので、普段そんなに着たりはしないですけど…
「なるほどなるほど?じゃあ…こんな感じですかね?」
ふっと柔らかい表情になった部長が、ラックから一着の水着を取り出して来ました。
典型的なワンピースタイプで、胸とスカートの部分に何層ものフリルがあしらわれています。
ただこれはやっぱり…
「デザイン的には、もう少し子供っぽくない奴のほうがいいかな…って思います」
お買い物、特に服などのファッションにあっては妥協できないので、例え先輩であっても良くない所はしっかりと指摘します。
「ううむ、じゃあやっぱりセパレートタイプの方が良いですかね?」
部長もその辺りはちゃんとわかってくれているのか、いやな顔一つせず、さっきの水着を元の場所に戻し、別の案を探り始めてくれます。
「子供っぽくないフリルだと、それこそ去年の私みたいな感じが良い按配ですかね」
「…たしかに部長の水着は、いい感じだったかもです」
確かに紅葉部長の去年の水着は、上下ともにフリルのあしらわれたセパレートの水着で、
それでいて大人っぽい黒いベルトと金属のリングを使っていて、やっぱり個性的ではありましたけれど、方向性的にはいい感じです。
「じゃあ、あの感じの水着を探していきましょうか」
「はい!」
そうして部長と私で、水着探しが始まりました。
お値段やデザイン、色など、沢山の要素を比較して、やっとお目当ての水着を見つけることが出来ました。
「どうでしょう?似合ってますか…?」
「大丈夫!バッチリ似合ってますよ!」
どうせならと試着させてもらった水着は、上はメッシュ風のハイネックタイプで、胸の部分に沢山のフリルが付いているもの、
下も、一部がメッシュ風なビキニタイプで、横と後ろにフリルスカートが付いています。
上下ともに大人っぽい要素を取り入れつつも、全体的は可愛い方向で纏まっている素敵な水着です。
試着室のカーテンを開けてすぐに、部長は大絶賛してくれました。
「ありがとうございます。私の水着、これで決定しますね!」
「分かりました!いやぁ、一緒に選んだ甲斐がありますね!」
なんでか部長も嬉しそうです。
それはそれとして、部長には気になるところがもうひとつ。
「ところで、部長は水着選ぶ気分になれたんですか?」
元々私の水着選びを手伝ってくれたのも、そういう理由だったはずです。
そう思って聞いてみると、
「そうですねぇ…」
紅葉部長はほんの少しの間だけ指を口元にあてて考えた後、
「与那嶺さんが私の去年の水着の方向性で行くのなら、私は逆に去年の与那嶺さんの水着の方向性で行こうかなって思っちゃったり?」
とお茶目な表情で答えます。
「それってええと…」
「皆の目を引く派手めな水着、ですかね?」
「だ、大丈夫なんですかそれ…?」
紅葉部長も、そんなに積極的な方じゃないと思うんですけど…
「まあ、何とかなるでしょう!」
そう言いながら、普通の水着コーナーへと向かっていく紅葉部長。
もしやこれは、お買い物ハイなのでは?とあまりよくない予想をします。
お買い物ハイと言うのは、ショッピングの際、ショッピングの行為そのものが楽しくなってきてしまって、
普段買わないようなものを買ってしまう状態…
所謂、気分が乗り過ぎてしまっている状態です。
そんな状態での水着選びは、まあまあ危険なんじゃ?
と思います。
「あ、あの部長!今度は私が一緒に部長の水着選び、手伝っても良いですか…!?」
「もちろん!むしろありがたいくらいですね!」
そうなってしまったときの対処法は、冷静な人と一緒にお買い物すること。
私もそんなに冷静じゃないですし、後輩である以上どこまで頑張れるかはわかりませんけれど、暴走しすぎないように、出来るだけ頑張ってみます。
「まあ、どんな水着でもダイエットは必要ですね。ここ数ヶ月全然動いてなくて脂肪が…」
「あ、やっぱりそのコルセットのそのつもりで…?」
「え?あ、これはただの趣味というか…お腹にはあんまり肉が行かない体質ですからね」
「わっ、それ羨ましいです」
普通に和気藹々としているので、あんまり抑止力にはなれないかもしれません…
紅葉「霜月さん、去年は競泳水着でしたけど、お洒落とかしないんですか?」
霜月「あたし的にはあれがお洒落なんだって」
夏輝「でももっと装飾あった方が良くない?」
霜月「競泳水着に装飾ゴテゴテにした、なんか嫌だろ…」