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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

デザートバイキング 『アッフォガート』

作者: 桜沢 純
掲載日:2009/02/15

「ウミ。この人が、お付き合いしてるスグルさん」

「……こ、こんにちわ」

「はじめまして。本当に、ソラとそっくりだね」

「それは、そうよ。だって双子だもの」

 お姉ちゃんが、恋人を連れてきた。

 背の高い、美術の石膏像みたいな顔をする人。確かに格好良かった。

 お姉ちゃんはボクと同じ顔だけれど、柔らかい長い髪と、優しい笑顔。すごく美人。

 ボクはお姉ちゃんと同じ顔だけれど、少しクセのあるポニーテール。子供っぽい。

「それじゃ、スグルさんがお姉ちゃんと結婚したら、ボクのお兄ちゃんになるわけだ」

「ちょっと、気が早いわよ、ウミ」

「あはは。その時はよろしく、ウミちゃん」

「こちらこそ、お兄ちゃん」



 胸がざわついた。

 きっと、これから、ボクは辛くなる。

 三人でテーブルを囲んで、お姉ちゃんが作ったゴハンを食べながら、楽しいひととき。

 お兄ちゃんはとてもいい人で、頼りになって、面白くて、すぐに好きになった。

 お姉ちゃんが好きになった人なら、ボクも好きになるって、わかってた。

 だけど、きっと、ボクは辛くなる。



 ちっちゃい頃、ボクはすごく泣き虫で、いつもお姉ちゃんの後ばっかり追いかけてた。

 ボク達は生まれつき身体が少し弱くて、お姉ちゃんは時々病院に行くくらいだった。ボクは時々熱が出るくらいで、だけど、お姉ちゃんがいないと眠れなくて、一緒に病院に行ってた。

 お姉ちゃんは身体が弱くてもしっかり者で、活発で、明るくて、いつも笑顔だった。

 そう、あの時も、笑顔。

 その日、お姉ちゃんが検査入院で病院に一泊することになった。

 お父さんがお姉ちゃんと。ボクはお母さんとお留守番。

「ウミ。お姉ちゃん明日には帰ってくるんだから。寝てたら、すぐだからね?」

「うん……」

 お姉ちゃんに言われて、ボクはお気に入りのクマのヌイグルミを抱きしめる。

「ほら、ウミ。お母さんがホットケーキ作ってあげる。一緒に作りましょう?」

「ソラ。行くよ」

 お母さんがボクの。お父さんがお姉ちゃんの手をとって、ボク達は玄関のドアの向こうとこっちに離れていく。

「やだー!! あたしもお姉ちゃんと一緒に行くーッ!!」

「あ、ウミッ!!」

 ボクはお母さんの手を振り払って、玄関から飛び出す。雨が降っていたけれど、カサもささずに走っていった。門を開けて、道路に飛び出した。

「あ……っ」

「ウミッ!!」

 キィィィィィッ!!

 目の前に光。それは車のヘッドライト。

 固まっているボクの身体を、抱きしめて……

「ソラ! ウミ!!」

「いやぁっ!! ソラぁッ!!」

 ボク達を避けようとした車は、塗れた路面でスリップして、壁に激突した。

 その、車の破片が。

「あ……あぁ……おねえちゃんっ!!」

 お姉ちゃんの、お腹に、刺さっていた。

 刺さって、真赤に、血が、溢れて。

「ウミ……大丈夫? 怪我はない?」

 お姉ちゃんは、ニッコリ笑って、ボクの頭を撫でてくれた。

 お姉ちゃんは、命に別状はなかったけれど、お腹に、消えない傷ができてしまった。

 ボクのせいで。

 泣き虫ウミのせいで、お姉ちゃんのお腹に。

 ごめんなさい、お姉ちゃん。

 ごめんなさい、お姉ちゃん。

 ボク、いい子になります。

 ボク、強い子になります。

 それから、ボクは『ボク』になった気がする。



 それから、数年後。

 ボク達の両親が、事故で死んでしまった。

 二人で、何日も泣いた。

 おじいちゃん達が『ウチに来るか?』と言ってくれたけれど、ボク達は二人で、この家で暮らすと言った。

 お姉ちゃんはショックでゴハンも食べられなくなって、ずっと泣いていた。

 その背中を見て、ボクは思った。

 今度は、ボクがお姉ちゃんを助けるんだって。

 それから、毎日、毎日、ボクは掃除も、洗濯も、苦手な料理もした。

 お姉ちゃんは、少しずつだけど、ゴハンを食べるようになって、ちょっとずつ、笑うようになってくれた。

「ウミ……強くなったね」

 お姉ちゃんの言葉に、ボクは泣いた。

 泣き虫ウミはそう簡単にはなおらないけれど、少しは強くなれたんだって。

 いつも、お姉ちゃんとお揃いにしていた髪を、ポニーテールにしたのは、この日からだった。



 そして、現在。

 お兄ちゃんは、しょっちゅうウチに来るようになった。

「うーん……顔とか声とかはそっくりなのに、何で料理の味はこんなに違うんだろう」

「なーに。文句あるんだったら食べなくていいんだよ?」

 お姉ちゃんは病院の検査が長引いたので、今日は帰れないと連絡があって、ボクとお兄ちゃんは二人でゴハンを食べていた。

「いや、美味いよ? ただ、ウミの味付けは、ソラと違って濃いというか、なんというか」

「美味しいならいいじゃない。男が細かいことをグチグチ言わない!」

「はい。すみません」

 そんなやりとりをしながらご飯を食べ終えると、お兄ちゃんがコーヒーを入れてくれた。

「はい。ウミは砂糖三個だっけ?」

「せいかーい。よく覚えてるね」

「……もうすぐ、ほんとに妹になるからな」

「……」

 二人でソファに向かい合わせに座って、コーヒーをすする。

「来月、結婚することにしたよ」

「そっか……おめでと」

「ありがとう……それで、さ。ソラの体調もあるし、俺は一人暮らしだし、ウミさえよければ、俺もこの家で暮らそうかって、ソラと話してたんだ」

「ふーん……いいんじゃない? 部屋も余ってるし」

 ズキン。胸が、痛い。

 だけど、ボクは精一杯笑顔を作って。

「そ、そっか……ちょっと、安心したよ」

「なんで? ボクが反対するとでも思った?」

「い、いや、お前ら、仲いいからさ……なんか、ちょっとな」

 苦笑するお兄ちゃん。ボクは、変な顔にならないように頑張る。

「でも、うん。お兄ちゃんがいてくれると助かる。庭の木も随分伸びちゃったし」

「え、俺、雑用係!?」

 二人で、笑う。

「んじゃ、ボクはちょっとお姉ちゃんに着替え持っていくよ。お兄ちゃんはお風呂でも入ってくつろいでて。留守番よろしく」

「え、あ、ああ。送っていかなくて平気か?」

「そんな子供じゃないよ。行ってきます」

 ボクは用意しておいたおねえちゃんの着替えの入ったバッグを持って、玄関のドアを開けた。

「あれ……?」

 突然、涙が零れた。



「お姉ちゃん」

「あ、ウミ。ありがとう」

「具合は?」

「ぜーんぜん。何ともないのに入院なんて、最悪。退屈で退屈で、余計に具合悪くなるよ」

 お姉ちゃんはくちびるを尖らせて、バタバタと両足をばたつかせる。最近お姉ちゃんは、何だか子供っぽくなった気がする。きっと……お兄ちゃんがいるから。

「スグルさんは?」

「留守番してもらった。今頃お風呂入ってるんじゃない?」

「……話、聞いた?」

 お姉ちゃんが、恐る恐るって感じで尋ねてきた。少し、不安そうな顔。お姉ちゃんがそんな顔をするのは珍しくて……なんか、昔のボクみたいだなって、思った。

「うん。おめでと。最近物騒だし、男の人がいてくれると、安心だよね」

「ウミ……ありがとう」

 お姉ちゃんが、ボクの手を握って、微笑んだ。

 胸が、ズキンて、痛くなった。

「あ。ウェディングケーキ、ボクが手作りしてあげようか?」

「え、ちょ、ウミ、まともにケーキ作れたことないじゃない!」

 あははって、笑った。



 そっか。

 お兄ちゃんがいてくれるなら、ボクはもう、いなくてもいいんだな。

 うちに帰って、お風呂に入って、鏡を見ながら思う。

 髪を下ろせば、お姉ちゃんと同じ姿。

 同じ顔。同じ髪。同じ……傷痕。

 右の脇腹に、傷痕。

 お姉ちゃんが、私をかばってくれた次の日。お姉ちゃんが怪我をした同じ場所に、突然傷痕ができていた。

 双子だから?

 わからないけれど、この傷痕が、ボクを強くしてくれていた。

 だけど、もう、ボクがいなくたって、お姉ちゃんを守ってくれる人がいる。

 大好きなお姉ちゃん。

 大好きなソラ。

 大好きな……。

 急に、寂しくなって、怖くなって、お風呂場で泣いた。

 泣き虫だったころに戻ったみたいに、シャワーを浴びながら泣いた。



「結婚おめでとう。お兄ちゃん。お姉ちゃん」

「ありがとう」

「ありがとう、ウミ」

 結婚式。お姉ちゃんはとってもキレイだった。

「髪……切ったんだね」

「うん。似合ってるでしょ?」

 首をかしげるボクに、ウェディングドレスのお姉ちゃんは、そうね、って笑った。ちょっとだけ、寂しそうに。

「大人っぽくなったじゃん」

「コラコラ、ボクに惚れたらいけないよー?」

 お兄ちゃんも、格好よかった。

 結婚式前日。ボクは髪を切った。

 鏡の中からお姉ちゃんが消えていった。

 心の中に、ぽっかりと、大きな穴があいた。

「これからも、よろしくね」

 そして、バイバイ。

 ボクのお腹から、傷痕が消えた。


あまりGL要素はありませんが。

タイトルと合わせてお楽しみ頂ければ幸いです。

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