お風呂の準備が出来ました!
ご覧いただきありがとうございます。
かなり間が空きましたが、のんびりと再会していきたいと思います。
お暇なときにでもお楽しみいただけると幸いです。
お腹いっぱいになったわたしたちは良い気分で帰り道を歩いている。夜風がとても気持ち良い。
「いいなぁ」
「どうしたんですか突然?」
きれいな満月を見ながらそう言ったわたしにキーアが首を傾げた。
「いやぁ……別にぃ……」
「なんですか、それ」
怪訝そうに返す彼女にわたしは、なにも考えずにただ口走った。
「ふふ……キーアと一緒にいられてうれしいなぁってね」
「な、なんですかそれ」
言葉はさっきと一緒だけれど今度は嬉しそうなのが声色からわかった。
「キーア……」
歩調は変えずに彼女の手を取る。
「どうしたんですか?」
つかみどころのないわたしに困惑しているかのような顔をしつつも、彼女はしっかりと手をつないでくれた。
「あったかいなぁ」
「そうですね」
「……わたしたちって出会ってどれくらいだっけ?」
「お昼からですから……半日くらいじゃないですか」
「まだそれだけかぁ」
「そうですよ」
少しの間を開けてわたしは口を開いた。
「キーアって恋人いるの?」
「いるわけないじゃないですか。友達だっていませんよ」
「えー、じゃあわたしは? キーアにとってわたしは?」
「……あー……どうでしょうね」
はっきりしない彼女にわたしはわざと手を握る力を強くした。すると、彼女はこちらの顔色を窺うように見てきたが、気づかないフリをして夜空を見上げた。
「……ともだち…………ですか?」
「友達かぁ……」
「不満ですか?」
「んーん。そんなことない。うれしいよ、キーアと知り合って友達になれたことがうれしい」
彼女は満足げに笑った。そして、試すような視線をわたしに向けた。
「ただの友達ですよ?」
「いいよ、ただの友達で」
「…………そうですか」
彼女は期待外れといった感じで目を伏せ、その繋いだ手の力が少し緩んだ。そんな彼女は言外に、「寂しいです」と言っている様でとても愛らしかった。
「だからもっと仲良くなれるでしょ?」
そう言って微笑みかけると嬉しそうに頷いた。
「……随分と仲良くなられたようで私は嬉しいです」
その声の方に二人して目をやる。そこには木の幹にもたれ掛かって腕を組むフロリーナがいて、気が付けばもう屋敷の前だった。
「ふ、フロリーナ……なんだか怖い顔をしてどうしたの?」
木が月明かりを遮っていてフロリーナの顔はわからないけれど、声に怒気が含まれている様な気がしてわたしは少し怯んでいた。
ふと隣を見ると顔の前で腕を構え、戦闘態勢の様な姿勢をとるキーアがいた。いや、さすがにそこまで警戒する必要はないと思う。そんなことされたら余計に怖くなってくる。
確かにこの子はわたしが絡むことになると、多少常識から外れる気があるのだから。
「お嬢様!」
「は、はひ!」
「準備ができております!」
「な、なななんのでしょうか?」
わたしはビビり倒していた。決闘でも始まらんばかりの気迫だ。
「お風呂でございます!」
フロリーナがそう宣言した瞬間、馬鹿馬鹿しいといった感じの大きなため息がとなりから聞こえた。
※
「もっと普通に伝えて欲しかったのだけれど」
部屋にもどって荷物を置いたわたしたちは、フロリーナに連れられてお風呂に向かっていた。先ほどの不満を伝えたけれど、彼女は無視して浴場に向かっている。
「あともう大丈夫よフロリーナ。自分の家のお風呂に案内される必要はないもの」
鼻息荒く、ずんずん進むフロリーナの圧に押されて流されていたが、わたしがそう言うとキーアも隣でうんうんと、頷いた。
「いえ、お嬢様。今日は色々ありましたでしょうから、私めが隅々まできれいにお清めさせて頂きます」
色々、の部分に含みがありそうな気がしたのはわたしの気のせいだろうか……。
「いや、だいじょ――」
「いえ、お嬢様。今日は色々ありましたでしょうから、私めが隅々まできれいにお清めさせて頂きます」
わたしとキーア互いに目を合わせた。全く同じことを言われた気がしたからだ。
「フロ――」
「いえ、お嬢様。今日は色々ありましたでしょうから――」
「あぁ! もう! わかったから!」
彼女の鋼の意志を感じてわたしはため息をついた。今日のフロリーナに勝てる気がしない。
しかし、おかげでキーアとお風呂に入ることができる。まともに誘ったら絶対に嫌と言いそうだから、キーアには悪いけれどこれはこれでわたしとしては願ったり叶ったりだった。
ご覧いただきありがとうございました。
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