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ご覧いただきありがとうございます。
とりあえず出会い編終了……かな?
「ちょっとだけ待ってね」
わたしは良いことを思いついて扉に手をかけた。
「え! ちょ、ちょっと待ってください! まだ最後ま……」
「すぐ戻るから」
そう言って部屋を出た後ろからキーアの怒る声が聞こえた。
「こんな状態で置いていくんですかー!」
※
とは言うもののわたしは何を隠そう小心者だ。好きな相手に手を払いのけられ変態と罵られれば、ほぼ冗談だとわかっていても残りたった数パーセントの確率でも本当に嫌われたかもれないと思うと何もできなくなる。このあたりはフロリーナを見習うべきだと思う。彼女はわたしがフロリーナを嫌いになるなんて微塵も考えてはいないだろう。
そんなわけで簀巻き(すまき)状態のキーアを部屋に残して、わたしはフロリーナを探している。キーアの気晴らしのために外でご飯を食べようと思って、夕食の用意をしなくていいと伝えたかったのだ。
……それにしても見つからない。屋敷の誰に聞いても知らないというので伝言をお願いしてきた。部屋を出てから結構時間がたったので、そろそろキーアの様子が気になってきた。
※
……うーん、あれは一体なんなのだろう? 扉を少し開けてその隙間から中を覗くと、さっきまでわたしとキーアがいたベッドには人の大きさくらいに膨らんだ布団がある。いや、まぁ布団の中にキーアがいて、膨らんでいるだけなのだろうけれど、わたしが言いたいのはそのふくらみがもぞもぞ動いていることについてだ。キーアは中で何をしているんだろうか。
うーん…………とりあえずこっそり近づいてはみたものの何をしているのかさっぱりわからない。なんか微かに声が聞こえるような気もするけれど。ベッドの周りをぐるりと見てみたけれど特に手掛かりはなかった。キーアのブーツがベッドの下に置いてあったくらいのものだ。……とりあえず開けてみよう。
わたしが掛け布団を一気に引き剥がし、布団がずるりとベッドから零れ落ちた。すると、その中には全身を丸めて横倒しになり、わたしの枕を膝で抱き込んで、それに顔を埋めているキーアがいた。
「な、なにしてるの?」
枕に顔を埋め、全身を丸めたまま、太ももの間から手が伸びていてその手が何かを探すように右往左往していた。おそらく引きはがされた布団を探しているのだろう。はやく布団に隠れたいというのがその動きから感じ取れた。それに何より彼女の今の格好である。チューブトップは胸の上に捲くれ上がりパンツは少しずり下がっていた。
そのあられもない姿を見てわたしはなんとなく事情を察した。正直、興奮したけどこんなところを目撃してしまって申し訳ないという気持ちもあった……ような気もしたけれどやっぱりいたずら心が勝ってしまった。
「キーアさーん?」
わき腹をつつきながら名前を呼ぶ。呼びかけには応じないが、つつく度にくすぐったいのかビクン、と跳ねるのが面白かった。
「やめてください!」
怒った。
「じゃあ何してたのか教えてよ」
「なにもしてないです」
枕に顔を押し付けながら言うので微妙に聞き取り辛い。
「どうして枕抱いて丸まってたの?」
「そういう寝相なんです」
布団を探すのをやめた手でチューブトップを下に引っ張って戻そうとしながら彼女は言った。
「どうしておっぱい出ちゃってるの?」
「あ、あああつかったんです」
動揺しながらもまだ言い逃れようとしている彼女に微妙に感心させられながらも、わたしは無慈悲に追撃する。
「どうしてパンツもずれてるの?」
「あ、暑かった……から……」
さすがにあきらめモードに入ってきたのか、明らかに語気に力がなくなってきた。
「どうして――」
「だって!」
やっと枕から顔を離して言った。
「あんな、中途半端に触られたらモヤモヤするじゃないですか! サイファさんのせいですよ! あんな焦らし方するなんて! もう! ヘンタイ!」
恥ずかしい事実を暴露してタガが外れたのか、頭から湯気でも出そうな勢いで怒りながらよくわからない言い訳をしだした彼女が、さすがに可哀そうになってきてわたしは助け船をだした。
「ごめんね、キーア。お詫びに――」
「え!?」
「――今から散歩がてら外に出てどこかで美味しいものを食べましょう」
彼女はわたしが言い終わると露骨にがっかりした顔をした。
「ん、まぁ、いいですけど」
「不満?」
「いえ、そんなことはないですけど……」
「なら決まりで!」
彼女は気持ちを切り替えたのかベッドの上に起き上がり、んっ、と両腕を上に突き上げて大きな伸びをした。
「さ、じゃあ早く行きましょう、サイファさん!」
彼女はブーツを履きながら、先ほどと打って変わって元気一杯といった感じでそう言った。
「うん、どこに行こうかな」
「どこでもいいですよ。おすすめを教えてください」
元気ににこやかな笑顔を見せる彼女はやっぱり可愛かった。
「んー、じゃあ歩きながら考えましょうか」
わたしは上着を羽織りながらそう提案する。
「はやくいきましょう!」
テンション高めの彼女は待ちきれない様で先に部屋から出て行った。その彼女の後を追うようにして部屋から出る。
どんなお話ができるのか楽しみになってきた。一緒に歩く道で。一緒に食事する場所で。
玄関近くにいた使用人に軽く会釈して出たキーアに続いて、わたしは、行ってきます、と声をかけて同じように家から出た。
出てすぐのところでキーアは立ち止まってこちらを振り返った。
「楽しみですね」
「そうだねぇ」
二人で同時に笑った。
「ところでさ」
「ん? なんですか?」
キーアがかわいらしく小首をかしげた。その動きや表情は自然体で、とてもきれいで、とても可愛らしかった。
「ちゃんとイけたの?」
「もうほんとに嫌いです!」
人の照れた顔を見るのがこんなにも幸せなことだとは知らなかった。
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