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仲良し度★★★☆☆

お越しいただきありがとうございます。


もうちょっとじっくり二人の関係を書きたいんですが、どうしても書きたいシーンを書いてしまう!

「キーアさん…………キーアさん!」


 わたしは感動のあまり彼女の手を握りしめ、その名前を繰り返した。


「さ、サイファさん……何も泣くことないと思うんですけど」


 彼女はちょっと困ったような顔をした。


「うー……だって、うれしかったから。同じように思ってもらえてたなんて」


 わたしは人前で涙を流したことなんて物心ついてからはほとんどないと思う。けれど嫌われたかもと思っていたから。こんなうれしいサプライズイベントがあったら、いくらわたしでも涙の一つくらい流してしまうようだ。


「キーアさん……ありがとうね」

「どういたしまして」


彼女の手を握ったまま、わたしはしばらくこの幸せな雰囲気を噛みしめていた。


「ところでサイファさんっておいくつなんですか?」

「え? 十七歳だけど……」


そういえばまだ歳を聞いていなかったな。


「じゃあ、私の方が年下ですね。十六歳なので」

「あ、いっこ下なのね。たぶん年下だとは思っていたけれど」

「じゃあ、私のことはキーアって呼んでください」

「いいの?」

「当たり前じゃないですか。サイファさんの方が年上なんですから」


 それに、と彼女は面白いいたずらを思いついた子供のように笑って言った。


「かわいい泣き顔まで見せてもらったんで。もう初対面って感じでもないですし」


 かわいい泣き顔と言われてわたしは耳が熱くなった。

 そんなに泣いてる泣いてると言われると少し恥ずかしくなってくる。まるでわたしが泣きじゃくってたみたいじゃないか。涙がちょっとこぼれただけなのに。


「じゃあ……キーア?」


 はーい、と間延びした返事をしてくれた彼女はとてもかわいくて、わたしは堪らずベッドの上で悶えた。

何なのこの子可愛すぎない? このまま襲ってもいいの? そういう意思表示なの? 自慢じゃないけどわたしそういうの疎いから全くわからなくて困るんだけれど。


「サイファさんって変わってますよね」


 そう言って彼女はわたしの隣に勢いよく腰を下ろし、その髪の毛がふわりとはねた。チューブトップとショートパンツという服装でこちらに背を向けて座っているため、その色気のある褐色のうなじから肩にかけてのラインや思わず抱きしめたくなるようなキュッと健康的に引き締まった背中とくびれを間近に堪能できる。これなんのご褒美かな。あー、もう死にたい。幸せすぎて死にたい。このままの状態をキープしたい。

 そんな幸せの渦に巻かれつつも、わたしは平静を装って返事をした。


「どんなところが?」


「初対面の私に向かってかわいいとか言ってくるところですよ」

「へ? なんのこと? わたしそんなこと……」


そう言っていない。妄想の中ではもう何回言ったかわからない程度には言ってるけど、キーア自身には言ったことがないはず。彼女をほめるようなことはさっき言った、きれいだけだったはずだ。


「えー、言ったじゃないですか。教会前の広場で」

「…………?」

「覚えていないんですか?」


彼女は自分の後ろに手をつき身体ごとこちらを振り向いて、少し不満げな表情をして見せた。


「あ」

「思い出しましたか?」

「あ、いや、もしかして……」


 あの初めて近くで彼女を見た時に感動のあまり「かわいすぎてやばい」とか言ったことだろうか……。(五話目参照)いや、あれはかなり小声で言ったと思うから聞こえていないはず……。この子が凄まじい地獄耳だったのなら聞こえてたのかもしれないけれど。


「聞こえて……た?」

「はい!」


どうやら凄まじい地獄耳だったようだ。さすが小悪魔。そんな小悪魔の顔はとってもいい笑顔だった。絵画にして残したいくらい。しかし、今はそんなことすら考えられないくらいに恥ずかしかった。わたしは今日一日でおそらく三十年分くらいは恥ずかしい思いをしている気がする。旅してると耳がとても大事なので聴力が発達したんだと思います、と地獄耳たる理由を説明してくれていたが、今に限ってはどうでもよかった。


「あの……あれはその……違うんです」


何が違うのかは自分でもわからなかったけれどとにかく何か言い訳を探していた。


「私もさすがに聞き間違いかと思いましたけど、さっきここでもきれいって言ってくれたんで、じゃああれもたぶんホントに褒めてくれてたんだなって思ったんです」


 でも、とキーアは言った。


「さすがに吐息交じりであんな風に言われると初対面だったらヘンタイさんかと思いますよ」

「いやぁ……あはは……」


 もはやわたしは恥ずかしいと言う概念がわからなくなってきていた。彼女も小さく笑っていた。変なやつだと思われていないことを願いつつ彼女の顔に目をやると、彼女はまた窓の外に顔を向け、わたしからは表情が見えなくなった。


「でも本当にうれしかったんです」


彼女は静かに言った。


「私だって一応、女ですから。サイファさんと違って、こんな肌の色で胸もないし声も低いし筋肉質だしその上、いつも男の子と間違えられるけど……」


 今、彼女はどんな顔をしているんだろう。わたしは今すぐ彼女の顔を見たくなった。


「キーア……」

「だからさっきはちょっと照れちゃったんですよね……フロリーナさんもいましたし」


 そう言って照れるように笑った彼女は、だから、と言って言葉をつないだ。


「次からは二人きりの時に言って下さいね。誰かいると照れちゃってちゃんとお礼も言えないんで」

「…………」

「サイファさん?」


 わたしは今、たぶんおそらく、いや。絶対に他人様に見せられるような顔をしていない。赤の他人ならまだしもわたしのことを綺麗だと言ってくれているこの子にだけは、絶対に見せるわけにはいかない。わたしは前屈するようにして布団で顔を隠した。


「サイファさんってば……ちょっと無視しないでくださいよぉ……私、なんか舞い上がっていろいろ言っちゃったから……すごく恥ずかしいんですけど」


そう言って彼女は背中を丸めて布団にうずまるわたしの頭をそっと触った。遠慮がちに触れられたその手はすぐに離れていったかと思うと、しばらくするとまたそっと頭に触れた。そして、今度は離れずに、ゆっくりと感触を確かめるように頭を撫でた。わたしは子どもに戻ったような気分になり、頭を触られている安心感がとても気持ちよかった。そのまましばらく、その心地よい沈黙が続いた。


「サイファさん……」

「…………」


 沈黙を破り彼女が名前を呼ぶけれど、わたしはこの幸せすぎる夢から目覚めたくなかった。


 しかし、しびれを切らしたのか、彼女はわたしの耳元で静かにささやいた。



「サイファさんのお顔が見たいです」


ここまで読んでいただきありがとうございました。


次回、★★★★☆の予定です( *´艸`)

また次回もよろしくお願いします!

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