相思相愛?
ご覧いただきましてありがとうございます。
キーアちゃんの可愛いシーンを早く書きたくて仕方ありません。
はぁ、どうしよう。完全に誤解されている気がする。……うん、誤解っていうかそもそも誤解ではないよね。むしろあの反応は正解というか、正常というか。しかし、このまま物置で考え込んでいる訳にもいかない。
フロリーナは……まぁ、どうでもいいとして、キーアさんなんだ問題は。この世の美を集結させたような悪魔的美しさ、わたしのハートのど真ん中を打ち抜いて愛の奴隷に変えたあの子。出会って間もないけれど、あの子はわたしの生きる理由になった。
彼女を初めて見た教会での出来事を思い出す。
教会の階段を下りてくる姿。風に揺れるマントが彼女の身体をちらちらとさらけ出し、そのたびに絵画のように美しい褐色の腹筋が見え隠れする。腹筋の縦のラインに沿うように、するりと細長いく伸びるおへそがとても官能的だった。
食べちゃいたいくらい、という表現の意味が少し理解できた気がする。わたしも彼女を食べてしまいたい。食べるというよりは、こう……身体に取り込むような、思いきり抱き締めて自分の身体に溶け込ませたいという風な。そんな感覚。とにかく彼女を愛でたい。抱き締めて滅茶苦茶にしてしまいたい。彼女をおかしくなるまで愛したい。乱れるキーアが見たい。
「…………」
あー、どうしよう。まだお昼なのに。今からこんな気分になっていたら夜なんてどうなってしまうのだろう。先に進められないじれったさと相まってすごくモヤモヤする。何か行動を起こすにしても、キーアさんとの距離感から考えて、今のままだと何も起こらないか、告白したとしても、拒否してどこかへ行ってしまうだろう。
……よく考えたらあの状態で彼女を一人にしてしまったのはまずかったのではないだろうか。もしかすると身の危険を感じてここから出て行ってしまうかもしれない。
そう思ったわたしは物置部屋のドアが壊れるんじゃないかという勢いで開け放ち、自室までの廊下を全力で駆けだしたのだった。
※
自室の扉をそっと開けて中の様子をおそるおそる確認してみると、そこは大きく開け放たれたテラスからの気持ちよい風がカーテンを揺らしており、キーアさんは椅子に座ったまま俯いて眠ってしまっているようだ。風がそんな彼女の前髪をやさしく撫でていた。
その光景にほっと胸をなでおろし、ひとまず考えうる最悪の事態は避けられたことに安堵する。わたしが渡したティーカップは空になって隣のテーブルに置かれていたが、あの時、羽織ったマントはそのままになっていて微妙に申し訳ない気分になったけれど、なぜだかそれが面白く思えてきて、くすりと笑ってしまった。
嘘をつけと言われるかもしれないけれど、わたしは彼女の全てが好きだ。確かに見た目から好きになってしまったけれど、それはきっと運命の相手だったから。彼女はきっと内面も見た目に負けず劣らず美しい人だと思う。
おもむろに彼女の前にしゃがみ込み、すーすー、と可愛らしい寝息を立てるその寝顔を覗き込んだ。長いまつ毛がとてもきれい。口は小さく空いたままで、その端には涎が少し出てきて艶めいていた。小動物の様な庇護欲をくすぐられる、とても可愛い寝顔だ。なんて尊いんだろう。心の汚い人間にこんな寝顔ができるだろうか?
まぁ、そんな尊い彼女の運命の相手がわたしかよという、至極もっともなツッコミは遠慮してほしい。運命とは時に残酷なのである。
それにほら、わたしだって捨てたものじゃない。だって今ならマントを剥いだら、彼女の鎖骨やら腹筋やら腰やら脇やら見放題なのに一切手を付けていない。起きた時に嫌われたくないからだろうという向きもあるだろうが、断じて違う。そんなことはほんの三割程度しか考えていない。
そんな馬鹿なことを考えながら、わたしはマントをそっと取り上げ、ベッドにきれいにしつらえてあった真っ白な布団を彼女にかけてやった。
朝からいろんなことがあり興奮していたせいか、お昼すぎだというのにもう眠たくなってきた。よく考えたらお昼ご飯すら食べていないことを思い出し、キーアさんに悪いことをしたなと思いつつも、やはりベッドに倒れ込んだ。
※
……ん? なにかふわりとした感触で目が覚めた。ふと右側を見るとベッドの横に立つキーアさんと目が合った。
「あ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか」
困ったような申し訳ないような顔をして彼女は言った。
「いいのよ、ありがとう。お客様を置いたまま寝ることにならなくてよかったわ」
そう言って上体を起こしながら、彼女の掛けてくれたばかりの布団を腰のあたりで折り返した。
「布団ありがとうございました」
「え、あぁ、ちょっと寒いかなと思ったからね」
特に他意はなくそう言ったのだけれど、彼女はそう思わなかったようで、
「あ……あの時は……すみません…………びっくりしちゃって」
と、先ほどキーアさんが「寒くなってきた」と言ってマントを羽織った時の自分の反応を謝罪しているようだった。
「あぁ……ごめんね、あれは……ほんと忘れてください」
わたしは顔が真っ赤になっている様な気がして思わず俯いた。
「ふふっ」
笑われてしまった。いや、まぁいいや。笑いごとにして流してくれるなら、そっちの方がわたし的にも助かる。変に警戒されちゃう方が何倍もつらいしね。
「私、気にしてませんよ?」
「……?」
寝起きで頭がボーっとしているのか、彼女が何を言っているのかわからなかった。わたしが意味を理解しようとベッドの横に立つキーアさんを見上げると、そこにはいたずらっぽい微笑みがたたえられていた。予想外の状況に理解が追い付いていないわたしはたぶん間の抜けた顔をしていたと思う。
「うれしかったんです、私」
「え?」
「突然でびっくりしましたけどね」
彼女はわたしを置いて、楽しそうに笑った。
「私……見た目であまりいい思いしたことなかったんです。ほら、茶色いでしょう。汚らわしいって言う人も多いんです」
「なっ……!」
彼女は自分の頬に掌をあてて、自虐的な笑みを浮かべて言った。そして、異議を唱えようとしたわたしを遮る。
「それが一人ぼっちになっちゃった理由……なのに」
きっと酷い人種差別を受けてきたのだろう。わたしは彼女のことを何も知らない。だから、知りたいと思うし、知って彼女の支えになりたい。
「それなのにサイファさん――」
彼女はまた笑った。
「――きれいだって……言ってくれた」
わたしの目を見ながら微笑む彼女が、うっすらと涙目に見えたのはわたしの妄想だったのだろうか。
「私もね……サイファさんのこと」
わたしはきっとまた間の抜けた顔をしている。
「きれいな人だなって思ったんです」
そう言って本当に嬉しそうに微笑む彼女の顔は、まるで女神のように美しかった。
これは想いが報われたと思ったからか、彼女の美しさに感動したからなのかはわからないけれど、わたしの間の抜けた顔に一筋の痕が流れた。
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