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うちに褐色天使がやってきたようです

お越しいただきありがとうございます。


ここからはサイファとキーアの甘々物語!のはず……。

距離が近づくにつれ彼女の姿がよりはっきりと見えるようになり、肌のきめの細かさや左の目じりの下にあるホクロを見つけた時には、鼓動がピークになり体中の体温が上がりきっている気がした。この悪魔的な魅力を帯びた子が教会から出てくるなんて出来すぎなのだ。


「……はぁ……かわいすぎ……やば……」


 熱に浮かされたように口にする。

出さないと身体の中で爆発してしまいそうになっていたのだ。呼吸すらも喉が焼けるほどに熱かった。


「あの、すみません。道を尋ねてもいいですか?」


 少年のようにも聞こえる彼女の声は、不純物の感じられない低音の鈴のような可愛らしいくて落ち着く声だった。

わたしは彼女をなめるように見る視線への苦言でなかったことに、とりあえず安心した。気を落ち着け、鼓動を抑えるように胸を手で覆う。彼女にこの興奮を気取られてはいけない。ごく普通に平然と返事をするのだ。


「ふぁ、ふ、はい!」


完全に失敗した。きっとこれで彼女はわたしを不審者と決め打ったに違いない。


「ふふっ、どうかしたんですか?」


予想に反して彼女は微笑んだ、そのかわいらしい瞳を細めて。

しかもわたしを不審者扱いするどころか心配してくれている。小首をかしげる彼女はより一層、悪魔的であり、彼女の心配をよそにわたしはその愛らしい姿に更に動揺してしまっていた。


「い、いや、ごめんね、なんでもないんです。ちょっと驚いただけ。……ところでどうしたんですか?」

「じつは、さっき教会でこの町で一番安い宿を聞いてきたんですけど、ちょっと奥まったところにあるから道案内できる人に聞いたほうが早そうだと伺ったので」

「何て名前なのですか?」

「チープホームっていうとこらしいです」


すごく思い切った宿名だった。確かに激安感はあるので、安さで押していく戦略としてはいいなと、どうでもいいことに感心してしまった。おかげで、ちょっと落ち付きを取り戻せたけれど。


「知らないなぁ」


まぁ、自分の家がある街の宿屋なんて基本的に接点がないものだろう。


「そうですかぁ……ありがとうございました」


 では、とどこかへ行こうとする彼女をわたしは焦って引き留めた。


「あ、あああの! よ、よよよかったらうちに来ませんか? 部屋ならたくさん余ってますし」


 まるで変質者が少女を誘拐するワンシーンみたいになってしまった。


「え、でもそんなの悪いですし」


驚いて困惑する彼女に、わたしは狼狽した。見ず知らずの他人の家に突然泊まれだなんて不安になるに決まっている。しかし、このチャンスを逃すわけのにはいかない。こんなに胸のときめく相手にこれからも出会える保障なんてないのだ。そこでわたしは人生で一度も使ったことのなかった親の権力を初めて振りかざすことにした。


「わたしこう見えて公爵の父がいまして! なので屋敷に一人ぐらい来ても全然問題ないのですよ! いつも父には人助けをしろと教えられていますので!」


 と、必死に余計な嘘まで付け加えて。


「貴族の方のお家に私なんかが行ったら……迷惑じゃないですか?」

「ん? どうして? うちなら全然大丈夫。使用人のみんなもいい人ばかりだし」

「うーん……それじゃあ……せっかくなので」

「よしっ!」


わたしは静かに右こぶしを握り締めた。





「わたしはサイファ。あなたのお名前は?」

「キーアです。短い間ですがよろしくお願いします」


 キーアと名乗る彼女はそういいながら手を差し出してきたので、念入りに手汗を拭ってから握手をした。そして、彼女の温かい手の感触をかみしめながら、屋敷へとむかった。


その道すがら、お互いに基本的な情報交換をしていると、彼女にはとある事情で家や家族がないらしく、今までずっと野宿などしながら生きてきたらしい。城壁の外は魔物はもとより盗賊などもいるのだ。だから遠方に行く行商人などは外に出るときは必ず遺書を書き残しているという。それくらい危険なのだ。この子がなかなかの生命力や戦闘力の持ち主であることがわかる。

 わたしなんて一人で外に出たら、おそらく一晩で死んでいるだろう。


「ところで、キーアさん。この町にはどれくらいいる予定なの?」

「えーと、まだ決めてないんです。宿代見てから決めようと思っていたので」

「あぁ、宿代かからなくなっちゃったものね。うちはいつまでいてくれてもいいのよ」


 むしろ、明日にでも発つと言われたらどうしようかと思っていたところだ。しかし、彼女にしてみれば当然、気を遣うところだろうし迷いどころだろう。隣で顎に手を当てて「うーん」と唸ってしまっている。そんな姿もかわいい。


「旅支度をしたいので、図々しくて申し訳ないんですが二、三日泊めてもらってもいいですか?」

「いやいや、遠慮せずもっといていいのよ」


「え、でも」と遠慮する彼女に、

「旅のお話とか聞きたいからもうちょっといて欲しい」と言うと、

「そこまで言ってもらえるなら」

 と、こんな流れで一週間に伸びた。


わたしにしては珍しい押しの強さで、自分でも驚いたけれどきっと可愛すぎるせいで理性が外れかかってるんだと思う。恋愛に興味ない的な自分って何だったのかな……。





 家に帰るとフロリーナが発狂していた。


「サイファ様が愛人を買ってきた!」

「ちょっとおかしなこと言わないで! キーアさんに失礼でしょう!」

「だっておかしいじゃないですか! 私と一緒におもちゃを買いに行くって言ってたのに! まさか金にモノを言わせて生ものを買ってくるなんて!」

「言ってないしあと、生ものとか言わないで!」

 

キーアさんは居心地が悪そうに苦笑いしていた。


 わたしとしても初めて見た時からあんな妄想をして下心丸出しだった為、フロリーナの言うこともあながち間違っている訳でもないのがつらいところだった。


「そんなこと言われてもびっくりしますよ、普通。だってサイファ様、犬や猫だって拾ってきたことないのに……それが突然女の子拾ってこられたら」

「い、いやでもわたしだってあるわよそんなことくらい。ほら……えっと、あ。お魚とか!」

「いや、それ食材として買ってきただけでしょ! 生きてすらないじゃないですか! そんな小ボケでこの場を乗り切ろうなんて……やっぱり怪しいです!」


 いつになく厳しい視線を向けてくるフロリーナに怯んだわたしは、強引に話を終わらせた。


「ああ、もうフロリーナうるさい! もうこの話はおわり! いいからキーアさんにお茶を用意してあげて頂戴、疲れているでしょうから。おねがいね」


 無理やり終了宣言をしたわたしにフロリーナはまだ納得がいかないようで、口を尖らせぶつぶつ文句を言いながら持ってきていたお茶の用意を始めた。


「あ、あの……私のことはお構いなく」


 わたしの部屋に通されたキーアさんは、脱いだマントを膝の上に置いて椅子にちょこんと座りながら控えめにそう言った。マントがなくなってあらわになった彼女の身体は、やはりきれいな褐色であり、その艶やかな肌は息を吞むほどに美しかった。


「……きれい」


『え?』


そう言って、同時にこちらを見た二人にわたしはハッとなり、思わず口を手で押さえた。思っていることが完全に口から洩れていたようだ。自分のことながら、もはや病気だと思う。


「サイファ様……まさか、ほんとに……」


フロリーナは泣きそうな顔で驚いている。


「あ……いや、違うの。これは……ホントに」


 どう言い訳しようか困り果て、キーアさんの方をちらりと見ると、うつむいたままいそいそとマントを羽織ろうとしていた。わたしに気を遣っているのだろう、小声で「寒くなってきた」とか言っているのが、余計にダメージが大きかった。あなたそれさっき脱いだばっかりだよね? ありがとう……わたしもうだめだわ。

 なんと言えばこの場が丸く収まるのか、まったくわからずにパニック状態だった。フロリーナに至っては、


「性欲処理なら私に言ってくれればいくらでもしてあげるのに!」


 と、わけのわからない発言を残して部屋から出て行ってしまった。あいつは【立つ鳥跡を濁さず】ってことわざを知らんのか。


 どうしようもなくなったわたしは、フロリーナが入れてくれたお茶をキーアさんに渡してから、「ちょっと待っててね」と、言い残し物置部屋に逃げ込んだのであった。余談になるけれど、お茶を渡すときに手が触れてしまって、その瞬間キーアさんが怯えるようにびくっとしたことはわたしの一生の心の傷になると思う。


今回も読了いただきありがとうございました。

自分で書いておいてなんですが、借りてきた猫ちゃんなキーアがもどかしい。



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