ob.4 explanation <2>
ぎりせっふ(汗)
そういえばシルクリアという名前のサプリがあるらしいですね。
全く知らなくてめっちゃビックリしてます。
「シルク様、一つ大事なことを教え忘れなさっているようで」
一通り国土や居候のことを話し終えて、これから買い出しなどをするような雰囲気になっていた矢先に、唐突にレヴィアがそんなことを言い出した。
(はて、とりあえず国のこととかは聞いたし、一体何を教わっていないのだろう)
と、秀が内心で首を傾げているのを余所に。
「あっ、そうでしたね。レヴィア、ありがとうございます」
「いえ」
どうやら本当に聞かせていなかったことがあったらしい。
「秀さん。この世界には『魔法』と呼ばれるものが存在しています」
「魔法……ですか。それはどういったもので?」
秀が心底不思議そうに尋ねる。
「魔法とは、一種の超能力のようなもので、「人類史上最も大きな発展」とも言われるほど強力で便利な力なんです……そうですね、今から実際に見てもらいましょうか」
そう言ってシルクリアは、何かブレスレットのようなものを徐に取り出し右手に付ける。そしてそのまま右手を、先程まで蒼茶を飲んでいたカップの上へと持っていった。
「右手に注目してください。今からこの掌の上に水を生み出します」
(魔法……超能力……どんなのかはわからないが、先程シャワーで見た水と同じものが手から出てくるのか?そうだとしたら凄いな……)
秀はまだイメージがついていないのか、悩ましい表情をしていた。
シルクリアが言うや否や、ブレスレットについている宝石のようなものがぼんやりと青色に光り、その瞬間。
彼女の右手から、カップに透明な液体が注がれていく。カップが小さいゆえ注ぐ時間も短くなるが、溢れるまでもうすぐといったところで液体は止んだ。
「さあ、秀さん。飲んでみてください」
そのまま彼女はカップをこちらにずずいと差し出してきた。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
言われるがままに、秀はカップを口にもっていき傾ける……そのときだった。
「……これは間違いなく水だ……」
「えっ?」
「えっ?」
「……え?」
言った本人が、一番素っ頓狂な声をあげた。
「……秀さん、記憶が戻ったんですか?」
「え、あ、いや……」
秀はしどろもどろになっている。そうだろう、何故なら本人ですら自分の言ったことが理解できていないのだから。
「それともあれですか?記憶喪失のフリをしてシルク様につけこもうとなさったのですか?もしそうであれば相応の報いを差し上げても構いませんが」
レヴィアはいつの間にか、宝石があしらわれた身の丈の半分ほどもある大剣(しかもうっすらと発光している)を握って、剣先が秀の首もとに来るように構えていた。その声は猛吹雪のように冷たく苛烈である。
「あの、ちょっと待ってください!俺も今どうしてあんなことが口から溢れたのかまったくわかってないんです!てかその剣どっから出たんですか持ってませんでしたよね!?」
秀は両手を挙げて必死に故意ではないことを主張する。そりゃそうだ、自分が殺されかけているのだから必死にもなる。さぞかし肝が冷えたことだろう。
「__剣を下げなさい、レヴィア」
だがそんな彼の、文字通り死ぬ気の否定の声とは別のそれが銀の主から発せられた。
「っ……!」
「さっきも言ったでしょう、『嘘はついていないし、自分に家がないことを確信していた』と。あのときは予め読心魔法をかけていたので、この言葉が嘘であることはありません」
そうやってシルクリアが諭すと、レヴィアは仕方ないといった面持ちで剣を引いた。
「こ、怖かった……」
胸を撫で下ろす秀。
「レヴィアがそんなにむきになるなんて滅多に見ないですよ。一体どうしたのですか?」
シルクリアは物珍しさと心配を含んだ目でレヴィアを見やる。
「いえ、シルク様の身に危険が及びかけたのかとつい体が」
「『つい』で人の首に剣当てられたらたまったもんじゃないですよ!?死ぬ心地したんですから!」
「衝動で殺しても良いのは危険な魔物だけですよレヴィア」
「勿論です。このわたくし、無駄な不貞は働きません」
「話がだんだんとずれてきていません!?」
その秀の的確なツッコミに、あっ……と揃って気づくのは仲のよろしい主従である。
「それで、魔法については以上ですか?」
「そうですね……今はこのくらいでいいでしょう。あとは先程話題にあがっていた魔物の存在について軽くご説明しましょう。レヴィア、図鑑を持ってきてください」
「承知致しました」
そう言ってレヴィアはソファから立ち上がり、リビングの奥にある本棚へと向かう。
しばらくして、何やら分厚い本を手に戻って来て、またソファに座り直した。
彼女はその本をシルクリアに手渡し、シルクリアはこちらに見えやすいように本のページを広げる。そこには、蟻のようなものから猪のようものまで、種々の人外の生物が絵と説明付きで載せられていた。
「これは魔物図鑑です。この世界には魔物と呼ばれる人外の生物が存在しています。今現在確認されているのは500種ほどで、そのうち約50種が”指定危険魔物一種”という、人に多大な危害を及ぼす危険な魔物として国に認定されています」
そう言いながら彼女は、一つの魔物を指差した。
「これは「ポイズワイトラビット」という魔物でして。かわいらしい見た目とは裏腹に、体内に入り込むと麻痺障害を引き起こす毒を持っています。加えて俊敏なので一種にリストアップされています」
パタンと本を閉じるシルクリア。顔を上げて、改めて秀を見据えた。
「とまあ、このように人間以外の生物も存在していますので、せめて指定魔物だけでも覚えてくださいね。でないと重傷か、最悪死に至りますよ」
「わ、わかりました……」
無力な自分はその危ないやつらにはなす術もなく食べられてしまうだろうな、と秀は内心少し怯えていた。
ああ、そういえば、とシルクリア。
「話が前後してしまいますが、魔法について、その仕組みを説明しておきましょう」
「仕組み……ですか?」
確かに、いかなる方法を以て手から水を生み出したのかは至極疑問であった。
それゆえ秀は無意識なのか、少しばかり身を乗り出している。
「私たちの体には”魔力”というものが流れていて、私たちの生きているこの世界には”魔素”が存在しています。魔力は火水土風光闇の6属性に加え属性のない”無属性”の計7属性が確認されています」
ふんふん、と真剣に耳を傾ける秀。
「魔力は『どのくらいの規模の魔法が使えるか、どれくらい多くの魔法を行使できるか』という風に、魔法の行使に直接的に関与してきます。しかしいくら魔力の保有量が多くても、魔素感応力がなければ宝の持ち腐れです」
「まそかんのうりょく?」
ここまで。耳慣れない言葉ばかり聞こえてきているので、秀は困惑している。そんな彼の様子を見つつシルクリアは丁寧に説明していく。
「魔素感応力は「魔法の使いやすさ」に関わってきます。先程『魔力の保有量が多くても、魔素感応力がなければ宝の持ち腐れ』と言ったのはそれがあるからですね」
「なるほど……思ったよりも複雑なんですね」
(もっとこう、さっきの様子からすると、道具を使ったら誰でも使えるものだと思ってたけど違うんだな……)
自分にももしかしたら魔法が使えるかもしれないと密かに期待していたが、そんなことはなさそうだとわかった秀はがっくりと項垂れた。
「まだ秀さんは測定していないので魔法が使えないかどうかはわかりませんよ」
「え、本当ですか?」
……少し考えればわかることだが、別に秀が魔法を使えないなんてそもそもわからないのだ。記憶喪失である以上、魔法が使えるかどうかを確かめる方法が、測定しかないのだから。
だが、気がつかないくらい秀は落ち込んでいたらしい。シルクリアの言葉を聞いて、目にみるみる光が戻っていく。
「俺にも魔法が使えるかもしれないんですか?」
「そうですよ。ですので、その測定も後で行いましょうか」
「はい!」
「ああ、あともう一つだけ」
「まだあるんですか!?」
魔法は複雑なので説明することが多い。
「私たちが魔法を行使するときには、『魔晶』という特別な石を使っています」
そういってシルクリアは自信の右手に付けているブレスレットを外し、手に持つ。
「このブレスレットにも付いていますよ。この蒼いのがそれですね。これがあるから私たちは魔法を使えているところはあります」
「それはまた、どうして」
秀はそう疑問を呈す。
「実のところ、今の魔法は魔晶に魔力を送り込み、魔晶を媒体として自分の使いたい魔法をイメージと共に無意識に命令し行使しているらしいです。ですが、「どうしてイメージと命令が為されるのか」「魔晶はどのように命令を魔法という現象に変えているのか」などはまだわかってはいません」
手に持っているブレスレットを大事そうに撫でながら、シルクリアは遠くを見やる。
「それが私の今やりたいことなんですけどね。薬草学と合わせて、研究なんかは好きなので」
「は、はぁ……」
「まあ、とりあえずは秀さん、貴方のためにいろいろ用意しないといけないことがありますので、着替えましょうか」