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Guilty Oblivion  作者: 宵々
3/5

ob.3 explanation

寒いのが好きで、薄着で過ごしていたら風邪と熱が併発して二日間寝込んでました。

まだしんどいのですが投稿しないわけにはいかないので少し短めです。


それでは3話、どうぞ。

2018.11.16加筆修正しました。王国の名前忘れるのはアホとしか言えませんね……。

「いらっしゃいませ、秀様」

「あ、秀さんこっちですよ」


ドアを開けると、そこは別天地だった。


(……って、俺は一体何を考えていたっ)


もとい、リビングだった。彼が寝かされていた客間よりも数段、高貴で清廉な雰囲気を醸し出している。思わず彼が理想郷だと見紛っても仕方のないことだった。


やはり白と青が基調となっているリビング。部屋の手前、右側にはソファやカーペット、ローテーブルなどいかにも団欒向きな家具が一通り揃っていて、奥の方、左側には丸テーブルやロッキングチェア、暖炉など一人一人が憩う家具が見受けられる。例に漏れず丹念に掃除されており、まるで聖堂にいるような神聖さが醸し出されていた。それでいてアットホームさも感じられる。


シルクリアとレヴィアは、二人ともソファに座っていた。二人とも蒼茶のカップをテーブルに置いている。


「あ、はい……では」


ソファは複数人掛けのものが一つと、一人用が一つ、直角に据えられていた。彼女たちは複数人掛けの方に座っていたので秀は別の方にゆっくりと腰を降ろした。


(ふおお……なんだこれ!すごく沈んで座り心地良すぎる……!)


瞬間、秀の臀部を絶妙な柔らかさが包み込む。何で出来ているのやら、秀は一瞬このまま背中を預けて寝てしまいたい衝動に駆られた。


が、何とか抑えて彼女らの方にきりっとした顔を向ける。


「ふふっ……可愛らしいですね」


それを見ていたシルクリアは、そんな彼の挙動に思わず笑みを溢す。秀はまたしても顔を熱くさせてしまった。


「んんっ、シルク様。それよりも話すことがあるでしょう」

「あっ……そうですね。秀さんに知っておいてもらわないと」


シルクリアは身なりを正し、秀に向き直った。

そうして厳かに口を開く。


「とりあえず、まずは国土について知ってもらいましょうか」


***


「私たちが今住んでいるのは、エデヴニア王国という国です。国としては隣国のスール帝国やオグリス共和国よりかは歴史が浅いですが、優れた魔法具研究や豊富な資源の活用で、両隣国とそれなりに渡り合える程には発展してきたらしいです」

「ふむふむ」


そう言いながら、彼女はテーブルの上に地図のようなものを広げる。というか地図だった。

シルクリアと秀はそれを二人して覗き込む。


「今指差しているのがエデヴニア王国で、秀さんから見て王国の右隣が帝国、左が共和国です」

「……なるほど、大体広さは同じくらいなんですね」


彼女の白く細い、白子のような指に気を取られつつ(具体的には、目がその指に吸い込まれそうになりながら)知識を吸収していく秀。


「そして、このエデヴニア王国には”三大貴族”と称される有力な貴族が、三家存在しています。政治のファトラス、武力のレルガス、魔法具のダストリア。この三家が、今現在国内での発言力が強いですね」

「なるほどなるほど……ん、ファトラス?」


ファトラスって、さっき聞いたような……。


「……貴方の推測通りです。私はファトラス家の長女として生まれました。ご近所さんや同人仲間の皆には「ファトラス」ではなく「フレイス」と名乗っていますが」

「……それは、どうしてですか?」


秀はズバッと聞いていく。

確かにそうだ。そんなに大きいお家柄ならば、シルクリアはこんな小さな家に住むはずがない。それに雰囲気からしてここにはシルクリアとレヴィア、二人しか居ないようで。

シルクリアが名家の出身だと言われても、いまいちイメージの結び付かない状況だった。


そんな彼の反応がある程度わかっていたのか、彼女は特に躊躇う様子もなく答える。


「実は私、家出しちゃいまして」

「へぇ、家出ですか…………え、家出?」


まるで重くもなく、さらっとした口調だったので、彼は一瞬肩透かしを食らったようだった。


「いえ、そんな大層な家出ではないんですよ?」

「大層じゃない家出ってなんですか!?」


思わず突っ込んでしまうのも仕方のないことだった。


「家柄上、政治学の分野をどんどん学ばなければならなかったのに、魔法薬学と魔法具研究にばかり走ってしまって。それで父上の対立して、やけになって出てきちゃいました」


てへ、と言わんばかりの視線。


「……なんか、すごいですね」


なんと言えば良いのかわからず、ただそう返すしかない秀。


「ちなみにレヴィアは、私が家出するときに付いてきてくれた唯一のメイド兼従者ですね」

「わたくしの命はシルク様と共にありますゆえ、いかなる場所であろうと付いていきます」


心なしかきりっとした雰囲気を漂わせる無表情のレヴィア。そんな彼女を見て、秀はため息を漏らす。


「はぁ……なんだかレヴィアさんが羨ましいですねえ…」

「シルク様に惚れましたか?」

「い、いや別にそういうわけでは」

「そんな……私のことを何だと思っていらっしゃるの……?」

「シルクリアさんがどうとかは一言も喋ってないんですけど!?」

「……なかなか良いツッコミですね」

「これは面白くなりそうですね、レヴィア」

「あれ、何やら嫌な予感がするぞ?」


どうやら秀はツッコミ役に適しているらしい、と彼女らにとっては思わぬ発見だった。


「そ、それで、家出したは良いですけどお金とかどうするんですか?」


まあ、普通はそこ気になる。


いくら大貴族の出だとは言っても、流石に二人だけで暮らしていく分のお金を稼ぐとなるとそれなりに必要だろう。そこのところはどうなのか、秀は気にせずにはいられなかった。


するとシルクリアは、今日一の満面の笑みを浮かべて__


「家からぶん取っ……いくらか持ってきたので暫くは大丈夫なんです!それに稼ぎ口もありますし」

「今ぶん取るとか聞こえたんですけど」


強かな貴族令嬢だった。


「まあまあ、今まで使い道に困ってたお金ですし。三人でやっていくには恐らく十分ですよ。まあ、どうなるかは流れに身を任せましょう」

「三人?もう一人いるん……」


見当たらぬもう一人の所在を聞こうとしていた秀の脳裏に、少し前のシルクリアとレヴィアのやり取りが過る。



『…………そういえば、男手が欲しかったんですよね』

『……ああ、前々からおっしゃっていましたね。高いところとか私たちだけでは届きにくいですし、こちらには男性を連れてきていませんから』


「……って、まさか」


秀は、おそるおそるシルクリアの方を見る。

その視線に答えるように、彼女は。


「はい、そのまさかです。秀さん、是非この家に住んでください」


とんでもない提案をした。

……考えてみれば、それも仕方のないことなのだ。


(秀さんは今記憶を失くしていますし、家もないと言っています。彼が嘘をついていないことは魔法で分かりましたから、何処か別のところに行ってもらうのは厳しいですね……。それに、万が一家があったとしても、思い出せないのなら意味はないですね。それならどのみち、暫くは私の家に居候してもらうしかなさそうです)


シルクリアは何も考えずにあんなことを言ったわけではなかった。こうするしかなかったのだ。

彼はこの世界についての知識も全くなくなっているようだった。彼女たちが今いるのは王都から遠く離れたヒューロットという町。ここには宿のようなものもあまりない。


故に、これが最善策なのだと判断するに至ったのだった。


「……いや、流石にそこまでしてもらうのは」


が、そんなシルクリアの思惑なぞつゆ知らず。

しばらく呆けていた秀は我に返り、曖昧にも断る意思を見せた。

そりゃそうだろう。秀とて、これ以上見知らぬ他人に迷惑をかけようものなら何をもって恩を返せばいいのかわからなくなる。


と、ここで今まで黙っていたレヴィアが久方ぶりに口を開いた。


「考えてみてください。秀様は今、事実上の家なき子なのです。おまけに土地勘や人脈もないですし、言語等も思い出せないでしよう。それならばここで、この家でしばらく居てもらう方が、わたくし達も安心できます。それに男手も丁度欲しいと感じていましたし」

「…………」


彼女の言うことは正しい。現に、何も思い出せない今の状況では、下手に見知らぬ土地で過ごそうものなら必ず何かトラブルに巻き込まれてしまうのは容易に想像できる。


つまり、彼女ら二人とも秀の身を案じての提案だった。


「……わかり、ました。それなら、しばらくよろしくお願いします」


それに気が付いた秀は、しぶしぶといった様子で提案を受諾した。


こうして、一人の記憶喪失の男は美女二人の家に居候という形でお世話になることになった。

何か質問等あれば感想欄に。

11/24修正しました。直感→魔法

閉口→黙って

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