第1話 噂の男
パン屋要素はまだ出てこないです(´・ω・`)
「おい。あの噂聞いたか?」
強面の男ががたいが良い男に話しかける。
「なんの噂だ?」
「ほら、あれだよ。銀の鎧だよ。」
ピク
「あの鎧かぁ!それで、今度は何をやらかしたんだ?」
「それがよぉ、この前王国軍が取り逃したっていう盗賊がいただろ?」
ピクピク
「あれか、盗賊団が竜の谷に逃げたってもんで王国軍も手を焼いてたやつだろ?まさか・・・奴らをやったのか?」
「ああ。それも一人残らず皆殺しだってよ・・・」
皆殺しぃ!?全員生きてるよ!!しっかり王国軍に引き渡して今はきっと地下牢の中だよ!?
「うへぇ!ひでえ事しやがる・・・まぁ、所詮盗賊だから、捕まっちまえば死刑は免れねえか。」
「ああ。それで国王に多額の報酬金を要求したらしいぜ。何せ革袋がパンパンになるほどの報酬を受け取ってたんだとよ!」
「マジかよ!俺たちも、盗賊でも捕まえて。金でも作ろうぜ」
いや、タイミング悪く銀貨と金貨が切れてたみたいで全部銅貨で受け取ったら、革袋いっぱいになっちゃっただけだから・・・。まぁ、盗賊の全員だったからそれなりの額はもらったけれど・・・。
「バーカ。俺たちの腕じゃ、どうせ捕まって殺されるのが関の山だよ。まぁそれよりも、今回の噂のおかげでしばらくは盗賊は出ないだろうよ!」
「ハハハハハハ!ちげえねえ!じゃあまぁ!ここは一つ、乾杯するか!」
「そうだなぁ!鎧の男に」
「「かんぱぁい!!」」
「乾杯って・・・まぁ、悪い気はしないけど・・・」
ふぅーっとため息をつき、食べかけのパンに噛り付く。うん、やっぱり、うちが納品してるパンはやっぱりうまいや!何と言ってもこのベーコンの香ばしい匂いとパンの噛み応えが
「待てー!逃げんじゃねえええ!」
とても・・・ん?なんだろう。外が騒がしいな。パンを食べながら外の様子を伺つつ宿から外に出る。
外に出ると宿で給仕をしているお胸の大きいお姉さんがいた。
「ふぉ-ひふぁんふぇふふぁ?」
「ちょっとリアン君!喋るか食べるかどっちかにしなさいよ」
「もくっもくっんく。えっと、どうしたんですか?」
やっぱりお胸が大きいですね・・・!そんなことを思いつつも状況を聞いてみる。
「はぁ、まったく・・・。どうやら市場の方で片づけをしていた商人が、お金と商品が入ってる鞄を盗られちゃったみたいなの。」
「へぇ・・・それで、どんな鞄だったの?盗った人はどんな見た目は?」
「そこまでは、わからないわ。私もちょうどお使いから帰って来た所だから・・・」
これはちょっと聞きこむ必要がありそうだな。
「・・・リアン君。貴方それを聞いてどうするつもりよ?まさか、自分で捕まえようなんて思ってないでしょうね?」
「え?い、いや!まさか!ちょっと気になっただけだよ!」
「それならいいんだけど・・・。いくらDランクの冒険者だからって、まだ学生なんだから!もう夜も遅いし、明日は朝からバイトなんでしょ?そろそろ部屋に戻って寝なさいな」
「うん。わかったよ。じゃあお休み!エミルさん!」
「はい。お休み!」
そう言って、宿に戻り階段を上って自分の部屋に戻る。
田舎の村出身の僕は、立派な冒険者になるために王都にある学園に通うことにして、親戚が営んでいる宿屋『小鳥の湖』に部屋を格安で借りて、かれこれ3年程お世話になっている。
そんな僕には、誰にも言えない秘密がある。
左腕に付けている銀色の腕輪と首から下げている銀色のハルバードのネックレス。
全神経を集中させて、全身の魔力を高める。
そして、右手でネックレスを掴み、右手と腕輪を嵌めている左腕に高めた魔力を集中させる。
高めた魔力がどんどん腕輪とネックレスに吸い取られていき、全身の力が抜けそうになる。
「っく!」
やがて腕輪とネックレスが輝きだし、僕の全身を包み込んだ。
僕の体は銀色の鎧と兜に包み込まれ、右手には巨大なハルバードが握られていた。
「よし・・・いつもよりも早く展開できたな・・・・・」
これでも僕は学園じゃ魔力の総量は高い方なんだけど、鎧とハルバードを展開するだけで疲労感が全身を襲う。鎧と武器には《身体能力向上》《魔法技能向上》《《特殊物理耐性》《特殊魔法耐性》《各種状態異常耐性》《精神汚染耐性》《第五感強化》《自動回復》など、これでも一部ではあるが様々な固有魔法が備わっており、鎧と武器を展開するために莫大な魔力を消費してしまう。
「それじゃあ、さっそく聞き込みと犯人探しをするとしますか!《中位魔法・透明化》」
人に見つからないように透明化の魔法をかけてから窓から外に出て、効果が切れない内に宿から離れる。普段は使えないような魔法であっても鎧の固有魔法《魔法技能向上》のお陰で使えてしまうから、すごく便利だ。
人目が無い所に到着すると同時に透明化の効果が切れた。ギリギリだったか。いくら鎧の効果で魔法の技能が向上してるといっても、素の状態での魔法技能が低いと効果を発揮してくれない。もうちょっと練度を上げないとな。
そんなことを考えながら市場に向かう。もう夜も遅いが、魔石の街灯のお陰で町はまだ明るい。市場に到着すると既に大半の露店は店を閉めており、残っている商人たちも片付けを始めていた。
「《独創魔法・声帯変化》」
人に声をかける前に魔法で大人の声に変えてから、盗まれた時の現場を見ていて現在もこの場にいる可能性が高い者、要するに後片付けをしている商人に話しかける。
「なぁ、ちょっと。聞きたいことがあるんだが。」
「あぁ?なんだよ。俺は今忙し・・・!ぎ、銀・・・の鎧!な、何の御用でしょうか?少し急いでいるもので手短にしていただけるとありがたいのですが」
小太りの商人が鎧の姿を見て震えてる。
そんなにプルプル震えなくても・・・話しかけただけなのだが、ちょっとした罪悪感に駆られる。
「分かった、手短にな。つい先ほど、市場で盗みがあったと聞いたのだが、まだ犯人は捕まっていないのか?」
「ええ。王国憲兵の連中が探し回ってるらしいですが、恐らく犯人は捕まる事はないでしょう。」
「捕まる事はない・・・?それは何故だ?」
小太りの商人の言葉に引っかかり尋ねると、小太りの商人は「しまった」という顔を一瞬したが、すぐにが答えた。
「は、犯人はスラムの奴らと聞きました。荷物も今頃スラムの連中が山分けしていて、中身は勿論。鞄すら捨てられることはありませんので、証拠が出てこないからですよ。」
「そうか・・・それは誰から聞いたんだ?」
「さ、さぁ私も噂話を聞いただけでして、私の露店とローレンスの露店は場所が離れてるので、誰が犯人を見たのかも分かりまんね。」
「そのローレンスって奴が鞄を盗まれた被害者か?」
「そうです。今は憲兵の詰所で聞いてもらってるみたいです。」
「そうか。そちらに行ってみるとしよう。手間を取らせて悪かったな。」
すると、商人はあからさまにホッとした表情を浮かべた。
「ああ、それと。お前の名前を教えてくれないか?」
「な、名前を・・・ですか?」
小太りの商人の頬を汗が伝っている。
「これから何か探している時に、厄介になるかもしれないからな。」
「そういう事ですか。私はジギンと申します。」
「ジギンか・・・。ありがとう。助かったよジギン。」
「いえいえ。近々店を持つ予定ですので、その時にはご贔屓にしてくださいね。」
「ああ、その時はよろしく頼む。」
ふぅ・・・鎧を着てる時だけ口調を変えるのは大変だなぁ。そんなことを思いながら、街の中心にある憲兵の詰所に向かう。
憲兵は王国直属の組織ではあるが、王国軍とは別で街の中で起きた問題に対して対処を行っている。王国軍はその逆で街の外の問題を対処しており、町の警護を憲兵に託しているため王国軍は非常時と遠征時以外は訓練をすることができ、高い戦闘水準を保っていられるらしい。
街の中央に近づくにつれて人が多くなり、ボソボソと声が聞こえてくる。
「見ろよ・・・銀の鎧だよ。今度は何をする気だ?」
「さぁな。だが、分かるのは血の雨が降るって事だな」
いや、降らないからね?多分。
詰所の前に着くと、頭に包帯を巻いた30代前半であろう男が深く項垂れているいた。多分話に聞いたローレンスだろうと思い声をかける。
「お前が、ローレンスか・・・?」
「っえ・・・?はい。そうですが、どなたで・・・っひい!」
こちらの姿を見るや否や顔を青ざめさせて飛びのいた。
「あ、あなたは!ぎ、銀の鎧!?私が何かご無礼を!?」
「あ、いや。市場で強盗が発生したと聞いてな。困っているのではないかと思って来てみたんだ。良ければ力になれるかもしれない。話を聞かせてくれないか?」
「そ、そうでしたか。わざわざありがとうございます。」
「あれは、突然の事でした。今日は病気の妻のために薬を買おうと、いつもよりも早めに店を閉めようと片づけをしていた所でした。顔まで覆った茶色のローブの男が『鞄を寄越せ』とナイフを突きつけてきたのです。もちろん私は拒否しました。何せ妻に買う万病薬の代金も鞄に入っておりましたので。」
怪我は魔法で治せるが、病気は薬でしか治せず、万病薬はその名の通りどんな病気にも効き不治の病すら直すことが出来ると言われていて、調合には材料は危険なモンスターが蔓延る土地にしか咲かない花や死の谷に住む猛竜の角、世界一高い山に湧き出る水が凍った氷、海の底にある輝く水草、天空の土地にある消えず冷たい炎など、SランクからAランクの冒険者に採取を依頼されるような物ばかりだ。
そのため、万病薬を買おうとすると家一軒分の値段と同等と言われている。
「誰かが憲兵を呼んでくれると思い、できるだけ時間を稼ごうとしたのですが、男は焦っているようで、いきなりナイフの柄で私の頭を殴りつけてきたのです。数秒意識が飛びました。気が付いた時には鞄を盗まれてしまい、奴がどこに行ったのか分かりませんでした。」
「商人仲間が言うには、スラムの方へ逃げたと言っていたので、今も憲兵の方達が必死に探していただいているのですが、私が見た限りでは奴の身なりはスラムに住む者ではありませんでした。」
見た目がスラムの者ではないが、目撃した商人仲間はスラムの人間で、スラムに逃げて言っている・・・か。
「他に犯人の特徴は?」
「特徴ですか・・・。殴られて意識が飛ぶ寸前に見えたのですが、男のマントの隙間から腰に『赤い蛇』が描かれた布の様なモノが巻かれていたのが見えました。」
「そうか・・・赤い蛇か。では、その犯人はスラムの人間だと言った商人仲間はなんて名前なんだ?」
「ジギンという名前の小太りの商人です。」
ジギン・・・さっき市場で話しかけた奴だな。何か怪しかったし、あいつが糸を引いているのかもしれない。それに『赤い蛇』というと、盗みや人攫いを主に活動している闇ギルドだ。
ギルドメンバーは自分がギルドの一員だと証明するギルドの証を持っている。過去に捕らえることができた『赤い蛇』の一員から赤い蛇が描かれた布がギルドの証であり、赤い蛇では捕まる前に絶対にギルドの証である布を燃やし証拠を残さないということが分かっている。だが、『赤い蛇』のメンバーを捕らえたとしても、捕らえた時にはギルドの証が燃やされ証拠が無いため、『赤い蛇』の関わっていると断定できず、『赤い蛇』が犯した犯罪行為はスラムの住人か盗賊の仕業として片づけられてしまい、ギルドや王国軍すら尻尾を掴めていない。
そんな面倒な闇ギルドを壊滅させたら・・・報酬も結構期待できそうだな。
「分かった。盗まれた鞄は俺が見つけ出してやる。」
「ほ、本当ですか!?あ、ありがとうございます!でも、犯人の目星はついているんですか?」
「ああ。今の話で大体分かった。」
「なら、私も連れていってください!ここで待っているだけなんてできません!」
「ダメだ。」
「お願いします。」
鎧への魔力の供給が切れたら、腕輪に戻っちゃうから一人じゃないとばれる可能性が出てくるし。ばれたらそれはそれで、面倒になるからなぁ・・・どうにかして諦めてもらわないと。
「死ぬぞ。」
「覚悟はできています・・・!」
目を見れば真剣なことが分かる。うん。でも魔法が使えない人と一緒にいると守らないといけないし、その間に逃げられる可能性もあるから、大人しく待っててほしいんだよね。
「そうか。だがダメだ。」
「何故です!?」
間髪入れずにローレンスが身を乗り出して、聞いてくる。
「お前が来たところで、何の役にも立たない。大人しく待っていろ・・・それに、待っている人が居るんだろ?傍にいてやれ」
「・・・分かりました。・・・お願いいたします」
ローレンスが頭を下げるが、握られた拳は震えたままだった。・・・強く言っちゃってごめんねと心の中で謝る。
「・・・《中位魔法・空中歩行》《低位魔法・速度強化》」
闇ギルド『赤い蛇』。ほとんどがスラムの出身。そのため本拠地はスラム街にあると思われる。ギルドの証も隠しているだろうから、犯人を見つけるのは難しい。だったら、ジギンという小太りの商人を探して後をこっそりつければその先に『赤い蛇』に行きつくはず!
闇ギルドへ依頼や報酬の受け渡し等は一般人や憲兵等が少ない夜遅くに行われるだろうから、スラムの入り口が見やすい場所を見張っていれば、目当ての商人も見つかるはず!
「《固有魔法強化・視力》《中級魔法・暗視化》」
鎧の固有魔法をさらに強化し、暗視化の魔法で暗い夜でもばっちり見える。これで問題なく探せるぞ!それに、そろそろ憲兵も引き上げる時間だから、もう来る頃だよな。
「いた・・・後はこっそりつけるだけだな。」
気が付かれない様に空から追いかけていると、薄暗い路地に入っていき店の様な建物の前に行きついたため、向かい側の建物の屋上に降りる。
入り口を見ると二人の見張り役がいるのが確認でき、腰や腕に巻かれている布には赤い蛇が描かれている。
「当たりだ・・・!」
その二人の見張り役とジギンが何やら話してる。
「何話してるんだろ《固有魔法強化・聴力》」
聴力をさらに強化し、会話の様子を伺う。
「兄貴が待ってます。中へどうぞ。」
「ああ・・・」
「そろそろ来る頃だと思ってたぜ。ジギンの旦那ァ。」
「憲兵の奴等が居なくなるのが待ち遠しかったぜ!で、例の物はちゃんとあるんだろうな?」
「もちろんだぜ。これだ。あのローレンスって野郎がさっさと渡さねえから頭をぶん殴ってやったら気絶しちまったぜ。」
「そのまま目覚めなければ良かったんだがな・・・まぁ良い。どれどれ・・・すげえ枚数の金貨だな・・・!」
「確認できたら、ここに署名をしてくれ」
「分かっている。これでいいか?」
「ああ、問題ない。これで依頼は完了だ。」
「ククク・・・!ハッハッハッハッハ!これで俺の店が出せるぜぇ!ローレンスの野郎に客を取られちまって、店を持つことができねぇって思っていたが、わざわざこんな大金を用意してくれるとはな!ハッハッハッハッハ!」
「そういう理由だったのか・・・ジギンが話しているのは恐らく犯人だよな。まぁとりあえず、証拠もありそうだし行くか。」
建物から飛び降り店に近づくと、見張り役の二人組が近づいてくる。
「何だ!お前は!」
「ここが何処か知って来てんのか!」
「邪魔だ」
近づいてきた見張り役の一人を殴り飛ばす。壁を突き破り埃が舞い上げながら店の奥まで吹き飛び、大人しくなった。間髪入れず残りの見張り役の頭をを掴み窓に投げ込む。
「グハァ!」「なんだ!?」「どうした!?」
突然の事に場が騒然とする。開いた壁穴から姿を現したのは2メートル近いハルバードを手にした銀色の鎧。
中にはジギンの他に20人程度の男たちが居た。ジギンからの依頼書もジギンの前にいるやつが持っている。
「て、てめえは!?」「ぎ、銀の鎧何故ここに!?」「銀の鎧だあぁ!?」
店の中は酒場だが、どうやらまともに営業はしていない様だな。なるほど。店でカモフラージュしているから、ばれないって事か。
突然の出来事に犯人と思われる男が依頼者であるジギンの胸倉を掴み怒鳴り散らす。
「てめぇ!後をつけられてたな!?」
「そ、そんな事俺は知らん!知らんぞ!!」
「そんなことは後にしろ!!」
「っち!話はあいつを殺してからだ!」
話が終わったようなので、スゥっと息を吸いこみハルバードを見せつけるように掲げる。
「闇ギルド『赤い蛇』、並びにその闇ギルドに犯罪を依頼した商人ジギン。」
「お前たちを・・・壊滅させる・・・!」