儂とサービスカット
日常回を意識しました。
「あぁ……、何だよアレ……!?」
「嫌だ、まだ死にたくない……! お父さん……!!」
「俺は……、俺は故郷に娘を残してるんだ! こんなところで!!」
地上にて儂らを見つめる虫ケラが鳴いている。
「超新星隕石!!」
天空より降り注ぐ儂、メフィスト、エイラ。
焔を纏いて地上を爆滅させる一撃。
昼過ぎで明るい今ですら、見えてしまう燃え上がる炎の揺らめき。
南西ダンジョン入り口に向け、光速にて繰り出される衝撃。
それはダンジョン諸共、ダンジョンへ挑まんとする冒険者たちを塵一つ残さず滅却させていく。
「ほほ、着いたぞエイラ」
地上に降り立った儂はニッコリと微笑んで振り返る。
「エイラなら消滅したぞ」
メフィストが服の埃を払いながら呟く。
なん……じゃと……!? 弱い生き物じゃのう。
「メフィストや、今死んだ奴らを生き返らせてやっとくれ」
「いや、ジジイ。一度生き返らせた人間はーー」
「生き返らせてやっとくれ」
メフィストは無言のまま魔力を振るう。虚空に塵芥が集合していき人の姿を形取る。
何人もの人影。そしてエイラが目の前に現れる。
「ほほ、着いたぞエイラ」
「クロス。ここは……?」
何じゃ、覚えとらんのか? まったく、若いのにーー。これは前に言ったかのう?
「南西ダンジョンじゃ。ステータスを見るアイテムを探しに来たんじゃよ」
「……そっか。私たち高層ビルのギルドから飛び出して来たんだっけ」
「そうじゃそうじゃ。では行くぞ! いざ、ダンジョンの中へ!!」
腕を振り上げ、ズンズンと歩みを進める。
矮小な虫を消し飛ばし、宝を狙うライバルはゼロ。
生き返らせるから罪悪感も無し!
美少女のエイラを連れて気分はウキウキ。
そう! これが! 冒険者じゃ!
「ジジイ、周囲の冒険者はどうする?」
「何じゃ、生き返らせたんじゃ無かったのか?」
「数が多すぎて時間が掛かるが放っとくのか?」
「うるさいのぅ、その内戻るじゃろ。融通を利かせんか阿保めが」
喋りながらも、崩落したダンジョン入り口のガレキを消し飛ばして進む。
「あ! 待ってよクロスー!!」
エイラが儂へと駆け寄り腕を組む。
おほぉー!! おっぱいが腕に当たって堪らんのぅ!
「ちっ、スケベジジイが……!」
エイラの揺れるサイドテール、押し付けられる胸。大興奮じゃ! これには自然と混沌砲出しまくりじゃわい。
ダンジョン内に溢れるモンスター達も、儂の発射するエナジーを受けて逝きまくっておる。
「楽しいのうエイラ。きっと孫がいたら、こんな感じなんじゃろうなぁ」
笑顔で彼女を見つめる。
「あはは! クロスってば子供なのにお爺ちゃんみたい!」
儂とエイラ、共に笑いながら歩みを進める。
こんな時間が、いつまでも続けば良いのにのぅ。
「ジジイ、その先の道は右だ」
儂は黙ってナビに従う。本当にコイツは、小間使いでしか役に立たんのぅ。
「メフィストさんは道がわかるの?」
「あぁ、さっき殺した冒険者達の記憶を覗いたからな」
メフィストはあたかも自分の手柄のように言っているが、殺したのは儂じゃ。
「そうなんだ? メフィストさん凄いんですね!」
「ふふ、エイラは良い子だな」
メフィストが穏やかに微笑む。
褒められた事が少ないのか、ヤケに嬉しそうじゃ。チョロい悪魔じゃのう、そんなだから儂に利用されるんじゃ。
「違うぞエイラよ。凄いのはメフィストを従えてる儂じゃ」
「黙れジジイ」
しばらく進むとナビを続けていたメフィストが、突然に口を閉ざす。
「どうしたんじゃメフィスト。もう疲れたのかの? はぁー使えんのぉー!」
「ジジイ、この先の道にある扉の中、何者かが交戦中だ」
ふむ、それが何じゃ。
「交戦中とは語弊があるな。女が、恐らく冒険者だがモンスターに襲われている。
囲まれて今にもやられそうだ」
何じゃと!? 女が!? モンスターに!? 襲われている!?
どんな風に!!
それは是非にでも見たい、いや、見学しなければのう。
「クロス大変! 助けに行かないと!!」
そうじゃ! 儂はヘンタイじゃ! 今すぐ見に行かなければ!
「走るぞ、掴まっておれ!」
その言葉を受けエイラが儂の服の右袖を、メフィストが左袖を掴む。
太もも、ふくらはぎ、足裏へと闇の魔術によるブーストを加える。衝撃は出さない様、最小限に抑え込む。
速さのみを追求した構え。
「瞬過俊走!」
超加速した走行。
風を斬る音が鳴り響き、一陣の突風が巻き起こる。
同時に何かが弾ける音。
この先で、女が襲われておる!!
視界に映る巨大な扉。
あれか!
何やら重そうな扉が見える。恐らくあの奥で、あぁんな事やこぉんな事が!!
「おおおおお!!」
拳を覆う様に力を纏う。右拳に闇、左に光。
万物には全て急所が存在する。それは無機物でも同じこと。
扉の急所を即座に見破る儂!
右拳を上方へ掲げ、左拳を左下へと向ける。
その拳による打撃を寸分違わず同時に叩き込む。
「爆砕のお! 破壊双拳!!」
扉へと伝わる力の衝撃。光と闇の波導が共鳴する。
「ジ・エンドじゃ……!」
その言葉と共に扉が音もなく、静かに地へと崩れ去る。
さぁお待ちかねのサービスシーンじゃ!!
徐々に晴れる土煙の先に広がる光景。
とても広い部屋。巨大な人影は恐らく魔物。
そして中心で戦う少女が構えるは短剣。
ほぅ、シーフ。盗賊かのぅ。
良いぞ良いぞ。年中薄着の女の子は需要があるじゃろう。
だが、やがて土煙が完全に晴れた光景に驚愕する。
何故じゃ……、何故……?
どうしてこんな事に……!?
儂は何を間違ってしまったんじゃ……!!
「ゴーレム……じゃと……!?」
思わず口から漏れる言葉、そしてその嘆きは止まらない。
少女を取り囲むモンスター達は石で出来たゴーレム、生殖本能の無いこやつらでは……!
儂の望みを果たすことは出来ない……!
「グッ……、がっ……! キキッ……!
馬鹿な!! そんな筈は……!? 何故じゃ、何故こんな事に! くそ、くそじゃ!! メフィスト、貴様……、儂を謀ったと言うのか!?」
じゃがメフィストは返事をしない。
怒りに身を任せ振り返ると、遠くの方でメフィストとエイラが走っている。
何じゃ? 何が……? 一体何が起きているんじゃ……!
二人とも手に何かボロ切れの様な物を持っているが……。
「あんた冒険者!? ちょうど良い! お願い! こいつら倒すの手伝っーー」
思案していた儂へと声が掛かり、儂は再び前を見る。
シーフの少女。小柄な体躯、白髪、そして耳と尻尾の生えた姿。
ふむ、獣人種か……。中々可愛らしいのぅ。
じゃが彼女の言葉は途切れ、沈黙へと変わる。
そして、響き渡る。獣人少女の悲鳴。
「な!? ななな!? なんであんた裸なの!?」
む? 何じゃ何を言っとるんじゃ? 儂は全裸で登場するほどのヘンタイでは無いぞ!!
「クロスー! 待ってー!! 振り落とされちゃったー!」
「ジジイ! 速く走りすぎだ! 置いてかれたぞ!!」
エイラとメフィストが走りながら叫ぶ。相変わらずボロ切れを持ったまま、それを振りながらやってくる。
あのボロ切れ、どっかで見たことがあるのう?
「クロス! 服ーっ!!」
「ジジイ! 加速に耐えきれなくて服が破けているぞ!! 変質者か!」
その言葉を受け、疑問が渦巻いていた儂の脳内で、カチリとピースが嵌り歯車が回り始める。
そして自分の姿を見回す。
肌色の体躯。
生まれたままの姿。
一糸纏わぬ裸体。
「いやん」
儂は体をくねらせ、照れ笑いを浮かべた。
Q.今まで平気だったのに何今さら服破けとんねん。
A.焦って服の強度を考えない加速しました。今までは服に何らかのバリアを張ってました。
という事でお願いします、決して思い付きでは無いと思ってください。