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未来予報図

「アキちゃん、人多いから気を付けて」

「うん。みっちゃんも買い食いしすぎないように気を付けてね」

「え、あはは。善処します」

 あたしと秋穂は近所のお祭りにやって来ていた。お祭りとは言っても町全体で一日中騒ぐような大規模なものではなく、少し小高い丘の上にある神社の境内に屋台が並び、花火が十発程度打ち上げられるような小規模なものだ。あたしたちはお揃いの柄の浴衣を着て、お祭りへとやって来た。夜とはいえ、暑さはそこらに残っており、歩いているだけでも汗が流れる。

「じゃあゆっくり見て回ろっか」

神社への階段を上がって鳥居をくぐったあたしたちは、本殿への参道を進みながら屋台を見て回った。

「お、綿あめがあるよ。アキちゃん半分こしよ?」

「焼きそばだ!祭りの必須フードだよね」

「りんご飴買ってもいいかなアキちゃん?」

 道中にいろんなものに気を取られて寄り道するのがあたしだった。いつの間にか秋穂の左手には綿あめが、あたしの右手には焼きそばが、そして口にはりんご飴の割りばしが咥えられていた。

「アキちゃんは何かやりたいものとかある?」

「うーん、そうだなぁ」

そう言って秋穂はしばらく屋台を見回していたが、あるところで止まって動かなくなった。視線を追うと、その先には大きく目立つ『金魚すくい』の文字。

「じゃ、アキちゃん金魚すくい行こっか」

「え?なんで分かったの!?」

秋穂の視線を追ったらバレバレだよ、というのも何となく夢がないなと思って、

「アキちゃんのことだからだよ」

と気障っぽく言ってみたら、笑われるかと思いきや。彼女は顔を赤くして

「嬉しい…」

とつぶやいた。あぁ可愛いなと思いながら、彼女と共に金魚すくいの屋台へと近づく。

「お嬢さんたちいらっしゃいませ!一回200円だよ」

 屋台の横に座るおばさんが話しかけてきた。秋穂は早速

「お願いします!」

とお金を渡して道具一式を借りた。いざ金魚すくいだ。金魚すくいというのは金魚の習性を知っているかどうかと金魚をすくう紙の扱い方が勝負の境目だと聞く。水の中に斜めに入れてなるべく紙に負担をかけないようにする、というものだ。勿論そんな知識があるはずもない妹は気合を入れて水の中へと進入させた。

「えいっ!…ってあぁ」

秋穂の紙は無残にも真ん中から大きく破れてしまっていた。

「あらら残念。好きなもの一つお椀で掬っていいよ」

屋台のおばさんは愛想よく秋穂に言うが、取り逃した彼女はとても悔しそうだ。

「あたしがやろうか?」

「え、みっちゃん?」

もう200円をおばさんに支払って、あたしも秋穂と同じ道具一式を借りた。

「みっちゃん…」

心配そうな妹にニカッと笑って任せなさいと胸を張った。果たして数年ぶりにやった金魚すくいであったが、勘は案外鈍っていなかった。水面ぎりぎりをゆっくり泳ぐ金魚を片っ端からすくう、すくう、すくう……。大きく元気な魚はお客さんを引き付けるトラップだ。あたしは動きがゆっくりしていて紙に負担の少なそうな金魚をひたすらに狙ってぽんぽんテンポよく金魚をお椀に入れた。最初はすくうたびに歓声を上げていた秋穂も20匹を数える頃には声を出すのも忘れて目を輝かせていた。

「すごいすごい!みっちゃんって本当に何でもできるんだねぇ」

「ふっふっふ、あたしにまっかせなさーい」

「青い浴衣のお姉ちゃんはす、すごいねぇ」

屋台のおばさんにドン引きされながらあたしは額の汗を拭った。秋穂が持ってくれたあたしの戦果は結局32匹を数えた。おばさんや周りの人には若干申し訳なく思ったが、秋穂の華やいだ顔を見ていると、よく頑張ったあたしと自分の成果に満足した。

「そろそろ、花火が打ちあがる時間だね」

 手首に巻いた腕時計を見ていた秋穂が言った。あたしたちは花火をゆっくり見れるような場所を探してうろうろする。こういう時に絶好の鑑賞スポットを知っている友人たちは羨ましい。あたしたちは本殿の脇にポツンと設置されていたベンチをようやく見つけて、二人で腰掛けた。

「ふぅ、ようやく休憩できた。アキちゃん、はいラムネ」

「ありがとね」

持って歩いていた焼きそばは量が多いかなと思ったが、二人で食べていたら案外すぐに無くなってしまった。最後に残っていた綿あめを二人交互に食べていると、アナウンスがあって、花火が始まった。

 初めに打ちあげられたのは白い花火。しゅるしゅると昇っていき、一瞬の静寂の後の、開花。花火大会と呼ぶにはあまりにも小さいもの、でも近くで打ち上げているためにすぐ近くで夜空に花が咲いたような感覚だ。一瞬遅れて聞こえた破裂音はあたしたちの座っているベンチを境内の地面を確かに揺らした。

あたしたちは花火が始まって、息をするのも忘れて見惚れていた。隣を見るとその目に花火を映した最愛の人。

「アキちゃん、ちょっと…」

「え、何々?」

花火の合間に少し声を大きくして隣のアキちゃんを呼んだ。次の花火が始まると赤、青、緑とあたしの方を見る秋穂の顔は染まっていた。

「前髪にごみが付いてる。取ってあげるからちょっと目を瞑って」

「うん」

あたしの言葉にためらいなく目を瞑って顔を近づける秋穂。あたしは一瞬ためらって、それから決心して彼女に自分の顔を近づけていき…


「…ん、綿あめの味…甘い」

「ふぇ!?みっちゃん…、今の」

「今の、何?」

「も、もうアキちゃんはズルい!アキちゃんのバカぁ!もう一回してくれないと分かんなかった!」

「ふふん、油断したのが悪いんだよ」


あたしたちは花火が終わってしばらくしても手をつないだまま、しばらくベンチに座っていた。夏祭りは今宵限りの夏の夢。あたしたちはその余韻と二人でいる幸せをかみしめながら空を眺めている。夏の空に一条の流れ星が青い夜空をすっと滑っていった。

最後までお付き合いくださりありがとうございました。少しでも何か残るものがあれば幸いです。それではまた

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