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覇王の日常生活!  作者: アブドミナル
5/7

【一時限目】本物の笑顔

「でさぁ!それからぁー!…」


轟也は例の通り美丘と話しながら登校している。

しかし、轟也はその話をムー○ィ勝○のように右から左へ受け流していた。


「ねぇ、聞いてる?なんか最近私の扱い酷くない?ねぇねぇ、轟くん、ねぇ!」


「あー、悪い悪いちゃんと聞くから。もーごめんって!なっ!」


瞼に熱いものを溜めながら訴えかける美丘に轟也は「少しやり過ぎたな (笑)」と思いながら、美丘を慰める。

美丘は (笑)を付けられたいることは分からず「ぐすんっ」と実にわざとらしい仕草で立ち直った。




ーーーーーーーーー学校ーーーーーーーーーー



「おっはよ〜!あっ!春ちゃ〜ん!昨日は楽しかったね!」

「そうだね!私楽し過ぎてコマネチだったよ!コマネチ!」


この「春ちゃん」とは、宮城 春菜みやぎはるな

黒髪ボブヘアーでソフト部。クラスのムードメーカーで美丘の親友。どうやら昨日、遊んだようだが話からは何をしたのか皆無である。


「がっはは!がっはは!がっはは!どわっ!?」


向がズッコける。


「はぁ…どうしたら毎朝そんな元気になれるんだよお前ら…」


轟也は改めてこの1年5組の異常性を振り返る。

入学早々にやらかしたのは向。入学式の途中に熱唱し始めたのだ。その他にもやらかしているが多いので割愛する。


「一道、うぃっす」

「あ、真中起きてる。今日は何も思い残すことないように、生きよう!」

「遠回しに皮肉ってんのは俺でもわかるぞ、一道。」


轟也にとって、真中が起きていることは天変地異の予感がする程のことなのだ。

そんなやりとりを終え、「はぁ〜」と真中がため息をつきながら着席を呼びかける。最早毎朝のルーティーンになっている。



ーーーーーーーーーー昼休みーーーーーーーーーー


「うちのクラスやたら元気だよな。朝にあんな騒ぐクラス中々ないぞ。」

「あぁ、俺もそう思う。はぁ…全く疲れるよ本当に。」


轟也と叶は昼休みには屋上へ行き、駄弁っている。

実は2人ともこの時間を楽しみにしていたりする。


「んで、覇王の力、どうな訳?」

「あー…一応完璧に使いこなせるようにはなった。例えばだけど…」


そう言って轟也は空に向かって拳を突き上げた。

すると大気にヒビが入り、付近にはとんでもない衝撃波が生じる。上空には橙色のオーラで出来た拳があった。

オーラの拳はそのまま上昇すると、天へ消えていった。


「すげぇ…格闘家かなんかになれば良いんじゃないか?」

「ならんわ。なったとしても相手が死んじまう。」


余りの凄さに腰が抜け、尻餅をつく叶。

轟也は何事もなかったかのように叶に手を差し伸べ、立ち直させる。


「お、もう時間だな。じゃあ戻るか。」

「あー、悪りぃ。俺川栄ちゃんに呼び出されたんだった。先行ってたくれ。すぐ戻るから」

「おう、分かった。あ、あとさ…」


叶は少し間を空けて真面目な顔をして轟也を見る。


「向 晴矢、あいつ普段は元気かましてるけど、相当苦労してるみたいだぞ。親がどうたらで」

「あ?何だそれ、おい!叶!待て…」


轟也は叶が重要な事をこのタイミングで伝えてきたことに少しムッとなったが、意外な事が聞けた。

向は何か家庭の事情で元気を振りまいているのだ。しかも、親が関係している。

轟也も「本当」の親とは色々とあったので、少し引っかから部分ではあった。


「はぁー…叶の奴面倒な事を…」


勿論、見逃せない轟也だった。


ーーーーーーーーーー授業ーーーーーーーーーー


「はい、じゃあ…これわかる奴挙手!んーと…向!これやってみろ」

「はい!!任せなさいっ!!!!」


先生の呼びかけに、向が唯一人、ビシッ!と手を挙げた。


「これです!!!」


黒板に書かれたのは、日本地図。しかも地味に上手いのがイラッとくる。


「お前…ふざけてんのか!」

「いっっってぇぇぇ!!!!!」


アハハ!とクラスメイトの笑い声が教室に響く。先生も向のことは諦めているようであった。

唯一人だけ、轟也だけはその行動を分析していた。


「こいつがバカなのは、家庭が忙しいからじゃないのか?そうしたらいつもの行動にも辻褄が合う。いつもの元気もクラスメイトや先生に事情を悟られないために振りまいているとしたら…」


轟也は今まででは考えられない程の集中力で頭を回転させる。

これは覇王の力の一つ「賢者の知恵」である。

外界の情報を遮断する事で人の限界を超えた知能と集中力が得られるという物だ。


「ちょっと覗いてみるか。」


轟也は「賢者の知恵」を解除し、覇王の力の一つ「時止め(タイム・ストップ)」を発動する。轟也を中心に世界が灰色に変わる。そして、 時が止まる。


さらに轟也は向の近くへ行き、向の頭を軽く指でチョンと押す。すると、轟也の頭の中にビジョンが入ってくる。これも覇王の力一つ「記憶取得ピック・メモリー」相手の記憶を映像化して観れるという能力。しかし、得られる記憶にはある程度の制限がある。


轟也は向の記憶を覗く。要求内容は「父と母との印象的な出来事」である。

すると、映像が轟也の頭に入って来た。2つの人影があった。モザイク化していてはっきりとは見えないが、多分人であるだろう。その2つの人影は横たわっており、悲しみや後悔の感情が溢れていた。そこで映像は終わった。


轟也は何も言わずに席に着き、「時止め」を解除する。

世界に色がつき、何事もなかったかのように時間が流れる。そして、轟也は決意をした。



ーーーーーーーーーー放課後ーーーーーーーーーー


「いやぁー!疲れたぁー!」

「一緒にかえろぉー!」

「部活行こうぜ!」


そんな声が聞こえる中、轟也は向の方へ歩く。


「向、俺今日お前ん家泊まるわ。」

「は?何言ってんだお前?無理に決まってんだろ?」


速攻で拒否された。轟也は地味に傷ついたが、すぐに立ち直る。そして、もう一度頼み込もうとすると、


「おい、向。俺もお前の家に泊まるぞ。」


真中が登場し、まさかの展開になる。


「え?は?ちょっとお前ーーーーーー」

「俺もだ。轟也が行くなら俺も泊まる。」


そして、叶も参戦しカオス状態。


「はぁ〜、分かった分かった。もう泊まっていいから。」


向は勢いに圧倒され、珍しく諦めた。



ーーーーーーーーーー向の家ーーーーーーーーーー

向の家に着いた。家は狭くもなく、広くもなくで、小規模なマンションだった。


「取り敢えず、入ってくれ。お〜い!友達連れて来たぞー!!今日は鍋パーティーだぞ!!」

「「うぁーい!!!!鍋パーティーだぁーー!!!」」


向の呼びかけに出て来たのは、1、2、3、4、5人の小さな子供。向の弟、妹である。

何故、鍋パーティーになっているかというと、泊まる代わりに買い物に付き合わされ、流れでそうなった。


「ねぇ、にいちゃん!今日はなになべ?」

「なになべ?」

「なになべ?」

「なになべ?

「なになべ?」

5人は息のあったコンビネーションを見せる。


「今日はなぁー!!なんと…海鮮鍋だぁーー!!!だっはははは!!!」

「「やったぁーー!!!」


そうして、海鮮鍋パーティーが開催された。





「なぁ、向ちょっと話あんだけどさ、ちょっと外でないか?」

「お?なんだ?まぁ別にいいけどさ!」


轟也と向は近くの公園へ行った。


「んで?話って?」

「あぁ…お前さ、1人で弟達の面倒見てんの?」

「まぁな!親がいない訳だしな」


少しトーンが暗くなったのに轟也は気づいた。「今しかない」と思い、本題を切り出した。


「向、お前の親について教えてくれないか?」


その時、向が見せたことのない表情になる。


「なんでだよ?なんでお前に教えなきゃいけないんだよ?お前になんて…わかんないだろうが!」


向が叫ぶ。だか、轟也は怯まない。轟也が逃げてしまえば向は昔の自分の様になってしまうから。


「いや、俺はお前にそれが聞きたくてお前の家に来た。今更黙って聞かない訳にはいかないからな。」

「うるさい!!!黙れ!!!お前は何を分かっていてそんなーーーー」


向は、叫ぶのをやめた。轟也の目が嘘がなく、純粋な目だったから。あいつとは違ったから。


「…俺の親はさ、もう死んでんだよ。事故で。」


向は自分の家庭について話し始めた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



向 晴矢は、ごく普通の一般家庭に産まれた。

父はサラリーマン、母は主婦で、それなりの生活はできていた。

いつも明るい雰囲気が家庭には漂っており、みんな仲が良かった。


そして何もないある日、向の家族は旅行へ出かけていた。車で山道を登っている途中だった。

向は父と母の顔が何故か焦っている様に見えた。

しかし、幼かったためあまり気にすることはなかった。


そして、その時はやって来る。

バコォーーーーン!!!

父が運転する車がガードレールに突っ込みそのまま山へ飛び込んだ。

母は咄嗟に向を庇った。向はまだ事態が分かっていなかった。

そのまま車は山へ落ち、転がっていった。

向は本能的に割れた窓から外へ出た。

そして、「お父さん!お母さーーーー」


ドゴォーーーーーーン!!!!!


車が爆発した。


向は訳が分からず、唯その場に座り込んでいた。




そしてしばらくして、音を聞いた近隣住民が通報し、向と車が発見された。そして、中から出されて来た。人の形をしたものを見て、初めて事態を理解した。


「お父さんとお母さんは死んだんだ。」


向は泣きもせず、叫びもせず、ぼんやりと景色を眺めていた。向が8歳の頃だった。


両親の死後は親戚の家に引き取られた。

そこには5人の小さな子がいたが、すぐに仲良くなれた。親戚の叔父さん叔母さんも優しくて、居心地が良かった。

しかし、一ヶ月後、叔父と叔母は自分の子供さえも放置し、家を出た。

そして、向達は近所の人に引き取られることになった。

そして、後から聞くと、父と叔父は祖父の財産のことで揉めており、家族旅行の事を聞いた叔父は、車に細工をし、事故を起こさせたと言うのだ。

そして財産が手に入ったら叔母と一緒に実子を置いて逃げたのだ。もちろん、逮捕はされた。


その後は、近所の人に育てられた。

その人は優しく、両親がいなくなった向達には本当の母親の様になっていた。


そして、その人はいつも、「苦しかったら笑え!悲しかったら笑え!寂しかった笑え!」と言っていた。

その言葉が今の向のスタイルに繋がっていた。


今は離れているが、向達にとってはその人が間違いなく、今の母親なのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「これが俺の全部だよ…聞いてどうにかなるのか?まぁ、期待はしてないんだけどな…」

「なぁ、向。」


下を向く向に轟也は真剣な眼差しで話し出す。


「お前は結局何がしたいんだ?その「今の母親」が言っ

た言葉ってのに縋って悲劇のヒーローぶってんのか?」


「は!?なんだよお前!!!俺がどんだけーーーーー」


「しらねぇよんなもん。お前の苦労なんて今ちょっと聞いただけだからな。知らねえ。」


「な、ふざけんな!!!!お前は分からないからーーーーーーーー」


「俺も本当の両親はいない。」


向の目が点になる。


「でも、俺はそのことに向き合っている。今を生きている。でも、お前は何だ?昔のことを引きずって、現実に目を向けようとしない。ただのファザコン、マザコン野郎だ。」


「っ…」


「それで、「今の母親」の言葉だ〜とか言ってよ、教室で無理した笑顔とか、笑いとか、ギャグとかなんか気持ち悪りぃよお前。」


「でも…それは!…」


「早く「今」と向き合え!大人になれ!お前の周りにはお前を裏切る奴なんて誰もいねぇよ!クラスにはーーー1年5組にはそんな奴いねぇ。いたら、俺がぶっ飛ばしてやる。後ろを向くな。一緒に歩いてくれる仲間と、まだ先にある未来を見てみろ!」


轟也が叫ぶ。暴言じみているが、必死の叫びだ。

轟也も、形は少し違うがほとんど同じ環境の中生きている。だから、向が言い訳を作って逃げているのが許せなかった。


「そうだぞ。裏切る奴なんて誰もいない。」

真中が言った。

「俺たちを頼ってもいいんだぞ!向。」

叶が言う。

「そうだよ!にいちゃん!にいちゃんは僕たちが守るんだ!」

「守るんだ!」

「守るんだ!」

「守るんだ!」

「守るんだ!」

弟達が言う。


向の瞼に熱いものが溜まる。

今まで慰めてもらって生きてきた向はこんなこと言われたことがなかった。そして、それは溢れ出してきた。


「っ…ありがとう!…ありがとう!…皆本当に…」


向は子供の様に泣いた。

轟也も真中も叶も弟達も今まで見たことがない向の姿だった。


そして、しばらくして向の家へ戻り、鍋パーティーを再開した。最初の時より何故か楽しい気がした。





ーーーーーーーー次の日ーーーーーーーーー


「おっーす」


轟也が教室に入ると…


「おっす!!轟也!!がっはは!!!!三河!!!!もっと元気だせや!!!!がっはは!!!」

「ちょ…向くん…無理だよぉ〜」

「がっはは!!がっはは!!」


相変わらずの向だった。

教室にいた真中、叶、轟也は苦笑いで顔を見合わせた。

でも、今までの向とは違う、【本物の笑顔】の向だった。











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