【一時限目】覇王くーん!!
キーンコーンカーンコーン
ベタなチャイムで今日も学校生活が終わる。
「はあぁぁ〜、結局今日も収穫無しか…」
「まぁ、仕方がないだろ。まだその力もらってすぐなんだからよ。とりあえず、ゆっくり時を待てばいいさ。」
深いため息をつき、下を向く轟也に叶は励ますように背中を叩く。
この力を貰ってすぐといってももう一ヶ月半くらいは経っている。その一ヶ月半の間で覇王の力について分かったことは体がめちゃくちゃ丈夫になったことくらいだ。
いつもは悶絶していた雅の溝落ちキックが全く痛くなかったのだ。
だが、分かったことはそれだけで、轟也は少しだけ焦っていた。
「ただいまー」
玄関に轟也の声が響く。
「あら、おかえり」
「おお、おかえり、轟也」
「なんか…むず痒いな…お前のその雰囲気」
最後の声の主は言わずもがな知ってると思うが、元「覇王」ゴルド・エイムである。
ゴルドはこの一ヶ月半の間で、完全に現代に染まっていた。奈緒美の熱血指導の賜物だ。
「俺もいつまでも「むっ?轟也帰っていたのか。」なんて言ってたら仕事に行けないだろ?」
ゴルドはその体型には合わないピンクの奈緒美からのお下がりエプロンを着て、奈緒美の料理を手伝っている。
「そうよ、轟也。この家に来た以上、ゴルちゃんにはしっかり働いてもらわないと!」
「もー、なーちゃんは厳しいなぁ〜!」
うふふふ、あははは、と2人のイチャイチャした笑い声がリビングに響く。
轟也は内心「ウゼェ、キメェ、ダリィ」と思いつつも、その気持ちを抑えて自分の部屋へ入った。
「はぁー、本当になんなんだろうな」
半分、自問自答で呟いた。
「覇王」の力。
未だ全く効果がわからない能力に轟也はイライラしていた。
「一ヶ月半探って体が丈夫になるだけって…なんか、泣けてくるわ…」
と、枕に顔を埋めていると、
「悩んでるみたいだな。」
「ゴルドか、相変わらずノックしないんだな。思春期真っ只中の男子高校生だぞ?俺がナニをなにしてたらどうすんだよ。」
「そのままなーちゃんに報告だな。」
「ぶっ飛ばすぞ!!」
ノックもせずにいきなり部屋に入ってきたゴルドとそんなやりとりをして、轟也も少し気が楽になる。
轟也はなんとなくだが、ゴルドがこの家に来てから雰囲気が明るくなったのを感じている。
雅はゴルドと気が合うようで、兄である轟也が見たことのない笑顔で話している。
奈緒美は…どうやら特別な感情をゴルドに抱いているようだ。
轟也も、友達感覚でゴルドとは話すことができる。
「話を戻すけど…覇王の力について悩んでるみたいだな」
「まぁな、一ヶ月半も経ったのに成果無しとか萎えるぜ流石に。お前この力をどうやって使いこなしてたんだ?」
「ん〜、はっきりとは覚えてないけど、なんかすげえピンチの時にブワッと力が湧き出してくるっていうパティーン?」
「ごめん、わかんねぇや。」
轟也の一言にゴルドは少しガッカリとして、部屋を出た。
「もぅ、いいかな。めんどくさいし、や〜めた!」
轟也は疲れていた。覇王の力がいつ発動するか、毎日気を使って、血走った目を見開き、おかしな歩き方をする轟也は側から見れば変人の様だった。
元々、飽き性で、短気な轟也なので、この時すでに覇王の力は諦めていた。
そして、夕食を済ませると、すぐに寝た。
ーーーーー次の日ーーーーー
「轟くぅ〜ん!!おっはよぅーーーー!!!」
「うわぁ!!びっくりしたーー!!!!アホかお前は!!朝っぱらからウルセェよ!!」
とんでもなくでかい声で、轟也に飛びついたのは、美丘だ。この行事は毎朝行われる。
「もぅ、いいじゃんちょっとくらい、スキンシップは大事だよ?」
「お前の場合スキンシップどころじゃねーんだよ。お前のスキンシップが俺のスキンをシップしてんだよ。」
轟也は美丘が、背中に飛びついた時に感じる柔らかい
"アレ"の感触に毎朝、ナニを悶絶させていた。
遠回しすぎる下ネタ表現に、美丘は頭の上に?マークを出現させる。
説明するのは面倒くさいし、何かとヤバイので「行くぞ」とその場を切り抜けた。
学校に着くと、三河が吐血し、向がずっこけ、そして真中が適当な感じで呼びかける。いつものパターンだ。
ーーーここで、1年5組の他のメンバーを紹介。ーーー
長谷川 亮太男。 陰キャ。ネット民。某掲示板のアイツとは別人。
宮城 春菜女。 クラスのムードメーカー的存在。辛いものが大好き。
星野 聖 学校一のモテ男。性格も良く、文武両道。及川の男バージョン。
山井 江是 (やまいこうぜ)名前の通り、登山部。身長195センチメートル、体重124キロの大男
駒井 渚 (こまいなぎさ)女。クラスのマスコット。とてつもない人気でファンクラブがある。
金谷 哲治男。金持ち。名前に貫禄があるが、細身。
及川 夏美超美人。本当に美人。すごいほど美人。星野聖の女バージョン。
浜野 由美香及川の親友。こちらもすごい美人。
桜木 勇人男。謎。逆に目立つ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よぉ真中。大変そうだな。」
「あぁ…昨日あんま寝れてないんだよなぁ…はぁ…超めんどくさい。」
真中は轟也の呼びかけにかったるそうに答えると、机に伏せて動かなくなった。
「だっはは!!!!晴矢くん、だいかつやぁーく!!!
だっはははは!!!」
向はそう叫びながら、教室を暴れまくる。
轟也は「おい、まな…」と真中を起こそうとするが、真中はすでにハイパースリープモードに入っていて、起きそうにない。轟也が「めんどくさいけど…しゃーなしだな」と向を止めに行こうとした瞬間、
「ちょっと、向君!!駄目だよ、教室で暴れたら!」
少しだけ茶髪がかった髪にスレンダーな体型、目はキラキラと輝いており、見るもの全てを幻に誘う。
彼女は及川夏美。学校内では有名で、容姿端麗、文武両道の完璧美人。男達は見るだけで恋に落ちる。
「ふ、ふぁい。とぅいません…」
流石の向でも及川の魅力は通じており、向は目を蕩けさせて、及川を見つめる。その美しさに、男子生徒も目を蕩けさせる。そして、その時、
「ん?なんだ?何があったんだ?」
突如現れたこのイケメンは学校一のモテ男、星野聖だ。
及川の男バージョンと言えるほどのパーフェクトヒューマン。星野の登場により、女生徒が目を蕩けさせて星野を見ている。
轟也は「アホだなぁ…」と呆れて、席に着く。他の生徒もハッ!と我に帰り、席に着いた。
轟也の席は教室のグラウンド側一番後ろの席という、神ポジションを手に入れていた。
轟也は陰キャではないが、陽キャでもない、いわゆる普通なのだ。轟也が「世界で最も普通な高校生」と自分で豪語しているくらいである。なので、なるべく人気者とは関わりたくなかった。
なので、この席の位置は轟也にとって最高のものだったのだが…
「一道君、おはよう!今日もいい天気だね!」
最悪である。この、一道轟也という男は運が良いのか悪いのか、及川の隣の席なのだ。男子生徒の誰もが羨むであろう席だが、轟也は例外だ。
「そうだな」
轟也は及川をあまり得意としていない。
人気者で関わりたくないのもあるが、それ以上に…
「ねぇ!聞いてるの?一道君?」
近い近い。距離が近い。
轟也には苦手なものが3つある。
一つ目は「ヒーローショーの時にいるお姉さん」
二つ目は「体育の着替えの時に腹筋自慢する奴」
三つ目は「距離感が近い奴」
及川はこの三つ目、「距離感が近い奴」である。
「うっ…うんうん、聞いてるから、わかったわかった。
あ!いい天気だぁ!すごいほど天気だね!!ビューティフルだよ!ビューティフル!これでいいか?」
「あっ!適当に流そうとしてる!もうっ、ふざけないでよ!」
側から見れば、イチャついてる様な会話をする轟也と及川、男子生徒は妬みの目を轟也に向ける。
「はーい、静かにー、真中君呼びかけ頼むわ。」
この人は、轟也達の担任、川栄 美穂子30代くらいで大人の色気を漂わせる川栄は男子生徒に人気があり、女子生徒にも相談相手として、慕われている。
「しずか…に…たの…む…」
死に際の兵士の様な声を出し、パタリとハイパースリープに入る真中の呼びかけにクラスの生徒が反応し、自分の席に着いた。
「よし、今日は体育テストが実施される。みんな準備しとけよ。」
クラスの生徒から、「やったー!」「しゃ!やったるぞ!」「一緒に走ろうね!」「勝負しようぜ!」「授業ないじゃん!」などの歓喜の声が上がる。
そんな中、轟也1人だけが絶望していた。
轟也はそんなに運動が得意ではない。
というか、普通なのだ。
なので、体育テストの時間は轟也にとっては超無駄なのだ。
「よし、じゃあ、男女で別れて着替えをしろー。着替えたら、グラウンド集合なー。」
ーーーーーーーーーー着替え後ーーーーーーーーーー
「全員そろったな。じゃあ、初めは握力測定な。」
生徒は番号順に並んでおり、番号順に測定をしていく。
「きゃーー!星野くんすごーーい!」
「流石星野だな!」
どうやら、星野がものすごい記録を出した様だが、轟也には興味がなかった。そして、ついに轟也の番が回ってきた。
「轟くん!がんばってぇー!」
怒涛の展開に影が薄くなっていた美丘がそこまで遠くない距離なのに、叫ぶ。
「一道君、がんばってね!」
美丘に続いて、及川が轟也を応援する。
「いやいや、ただの握力測定だから、どこで頑張りどころがあるんだよ。」
轟也が応援に答える。
美女2人から熱烈な声援を受ける轟也を狂気に満ち溢れた目で男子生徒達が睨むが、轟也はあえて無視をした。
「ほれじゃ、始め。」
川栄の掛け声が響く。
轟也は掛け声に反応し、握力計を握ろうとしたその時に轟也にピンチが襲う。
「あっ、やべぇうんこしてぇ。」
轟也は握力計を握る寸前で止めて、その便意に身を震わせていた。
あまりにも変態感が溢れていたのか、川栄が心配そうに、「大丈夫か?」と問いかけている。
轟也はここで止めるのも後々面倒なので、握力測定を続けることにした。
便意に悶えながらも轟也は大きく息を吸い、気合いを入れる。
「しゃーねぇ!やってやらぁ!!」
轟也が握力計を握ると、持ち手の部分が砂の様にサラサラになった。
そしてその瞬間、とてつもない風が起こった。
生徒達は吹っ飛ばされている。
轟也はオレンジ色のオーラを纏っていて、轟也の周りの地面はひび割れていた。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」
轟也は今起きているありえない事態に絶叫する。
「ちょ、一道君!とりあえず、それとめてぇぇぇ!!」
及川の叫びが耳に入り、我に返った轟也はそのオーラをしまう。
ちなみに、なぜしまえたかは轟也もわからない。
そして、クラスメイト達から質問をマシンガンの様に連射される。
「おい、今のなんだよ?」
「一道君、何したの?」
「今のやり方教えろよ!」
「お前、やべぇな!」
轟也は暫く、クラスメイト達の対応へ追われることになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ!覇王くんだ!」
「本当じゃん!覇王くーん!」
覇王くん。それが今の轟也のあだ名だ。
あの「握力測定事件」で、クラスメイト達に事情を話した結果、そのことはすぐに広まり、今では全生徒が知っている常識になっている。
その事件以降、轟也は「覇王くん」と呼ばれる。
「はぁ…なんでこうなるんだか…」
轟也はもはや呆れていた。
覇王の力を手に入れ、その力が覚醒したのはいいのだが、それのおかげで轟也には被害が及んでいる。
クラスに入れば、その行動を観察されるし、体を触られるし、隣のキラキラは近いし、幼馴染のバカはうるさいしで、学校に落ち着ける場所がない。
「んで、毎日昼休みに俺を屋上へ呼ぶわけだ」
「もう、俺の味方はお前しかいないんだよ、叶」
轟也は屋上しか居場所がなく、昼休みになると、そそくさと屋上へ移動し、「覇王」の力の一つである、「念話」で叶を呼ぶのだ。
「便利だよなぁ、「覇王」の力って。」
「そうだけど、結構面倒だぞ?」
「でも夢があるだろ?男なら一度は手にしたいものだと思うけど?」
「でも、クラスメイトから弄られる。」
「確かにな。」
「あだ名が覇王くん。」
「うん。」
「力の使いどころがない。」
「うん…」
「…でさ、俺思うんだけどさ…」
一通りのやりとりを終えた轟也は一息つくと、ぼんやりとした顔で叶に微笑む。そして、自分の中で引っかかっていたことを伝える。
「確かに、「覇王」の力はすげぇ便利。でも…」
「覇王の力って必要なくね?」
投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
少し、ぐだっていますがこれが私のスタイルでありますのでご了承くださいませ。
怒涛のキャラ登場で混乱を招いたと思いますが、後々の話に繋がってくるので、出しておきました。
話の構成としては、三章構成で、一年生、二年生、三年生という風に進みます。
始めはクラスメイトに焦点を当てて、その後に何かしら起こるという感じです。
よろしくお願いします