【一時限目】覇王登場!2
「ただいまー」
「あ!おかえ…り?」
轟也の後ろにいる奇妙な格好をした大男。
奈緒美は困惑した
「む?轟也、この女は誰なんだ?まさか…敵か?」
「な訳あるかアホ。この人は俺のかーさん」
「轟也の母であったか。これは失礼したな」
「まぁ、とりあえず夜飯一人分追加なかーさん」
「待って待って轟也。お母さん混乱しちゃってわけわかんなくなってるの。誰なのその人?」
「あー…こいつはね…」
ーーーーーーーー数時間前ーーーーーーーーー
「どうした、早く城に案内せんか貴様。」
砂煙からいきなり出て来た大男が轟也に言った。
「いや…その…」
轟也は困惑していた。
轟也は変わった日常が欲しいと心のどこかで願っていた。しかし、いざ起きてみるとものすごく困惑した。
「なんだ、この「覇王」の要求が聞けぬのか?」
覇王。そのワードはこの国で一番知られている昔話の中の登場人物だ。轟也はさらに困惑した。
「いや…そうじゃなくて…えっと…」
「もうよい。貴様は消えろ。」
大男は腰にある黒い剣を抜き出し、その切っ先を轟也へ向けた。
「ちょ、ちょ、ちょちょっと待って!」
「問答無用ーーーーーーーー」
大男は黒い剣を振りかざし、轟也の頭へーーーーー
「待ちやがれってんだよ!!!!!!!!このゴミ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ーーーーー剣が止まった。ーーーーー
大男はその剣を放り投げた。
「あ…その…す、す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! 」
轟也は全力で謝罪した。
「くっ…」
やべーよ、絶対怒ってるよ、轟也はそう思った。
「ふっ…フハハハハ!!!!!我にそこまで言えたのは貴様が初めてだ!!気に入ったぞ!!」
意外な反応だった。
轟也は驚いた。
こういう変な人というのは侮辱されると、さらにブチ切れてとんでもないことになると、轟也は小学生の頃から教わっていたからだ。
「な、なんだよ…ビビって損したじゃねーかよ…」
轟也は安堵の表情でゆっくりと腰を下ろした。
それを見て、大男も腰を下ろした。
「貴様、名はなんというのだ?」
「俺は一道轟也だ。ていうか、それ俺のセリフだから、お前誰なの?」
「よくぞ聞いてくれた。我が名はゴルド・エイム。ゴルゼフ王国国王である。民衆からは「覇王」と呼ばれている。」
ゴルド・エイム。これもまた、昔話に出てくる名前。
轟也は気になったが、先に聞かなければならないことを優先した。
そして、轟也は「じゃあ…」と話を切り出す。
「お前はなぜここにくるに至ったんだ?」
轟也は真剣な眼差しでゴルドを見つめた。
そして、ゴルドは一度目を閉じ、ゆっくり息を吸い話し始めた。
「ゴルゼフ王国は、世界で一番栄えた国だった。そしてその頂点として、国王として君臨する我は世界で一番強かった。我は自分の思い通りの政治をした。我は"あの時"の悲劇を繰り返さぬように、常に冷酷であり続けた。
国の掟に逆らった者、犯罪を犯した者、我に刃向かう者、それら全てはすぐに殺した。我はそうやって国の治安と平和を守っていた。そう思っていたんだーーーーー
だが、それは只の思い込みだった。我は重臣達の裏切りによって、国を追放され、国から「犯罪者」として追われる身となった。奴らに殺されるなら、自分で死んだ方がマシと思った。我は近くにあった洞窟で自害した。
その時決意したのだ。「必ず、ゴルゼフ王国に戻ってくる。そして、もう一度我が国王として君臨してやる」その時に、目の前が真っ白になって、人が現れた。
そいつは我にこう言った。「あなたの願いを叶えてあげましょう」と。そして我はここに突き落とされたという訳だ。」
轟也は少し気になる部分があった。
ゴルドの言う"あの時"とはなんなのか?
いつを指しているのか?そして、何があったのか?
しかし、聞くことができる雰囲気ではなかった。
轟也はゴルドがその部分だけ、少し濁らせたのに気づいていたからだ。
「我は全てを話したぞ。つぎは轟也、貴様が話す番だ。まずここはどこだ?ゴルゼフ王国ではないならば、ウリシス王国か?」
「いや、ここは日本という国だ。お前が伝説の「覇王」なら、お前の時代から約2000年後の未来だよ。」
「なっ…み、未来だと!我は未来に来てしまったのか!?」
ゴルドは困惑の表情を見せた。
「そうだよ。未来だ。この時代でお前はーーーーーー」
轟也は、ゴルドが現代でどういった扱いでどのように伝説として伝わっているかを話した。
「なるほど…轟也の話を聞く限り、嘘ではなさそうだな…まさか「島落とし」まで伝わっているとは」
ゴルドはすんなり現実を受け入れた。
「ところでだが…」とゴルドが話を切り出した。
「轟也、貴様はなぜ我を「覇王」と信じることができたのだ?この時代では我は伝説の様なものなのだろう?」
「…なんとなくだよ…」
「そうか」
なんとなくなんかじゃない。
確かに始めは轟也も信じなかった。ただの癖の悪いコスプレイヤーだと思っていた。
でも、あの時、黒い剣が振りかざされ、寸前で止まった後、轟也は見てしまった。
後ろにある山が真っ二つに割れていたのを。
そこで轟也は確信した。こいつは「普通じゃない」ことを。
「最後に、頼みごとをしてもよいか?」
ゴルドが鋭い目つきで轟也に問いかける。
「ああ、別にいいけど。」
「我と契約をしてくれないか?」
契約。嫌な予感がした。
「まさか…お前実はそっち系だった…見たいな?…」
「む?何をいっているかわからないが貴様の考えているのとは違うと思うぞ。」
「じゃあどんな契約なんだよ?」
「説明すると長くなるが…まぁ、簡潔に言えば、貴様に「覇王」の力を渡す契約だ。」
ゴルドはそう言うと、立って轟也の方へ近づき、手を差し伸べた。
「轟也、契約するならばこの手を取れ。」
轟也は迷っていた。
この手を取れば確実に求めていた変わった日常は手に入る。でも、そんな簡単に信じていいのか?
こいつは、昔話でもあった様に冷酷で無情な「覇王」なんだぞ。何をされるかわからない。轟也はそう思った。
だが、決断は一瞬だった。
何もしなければ何も起きない。
轟也は、いつも人に流され、普通や一般という波に乗っていた。だから、いつもやりたいことも欲しい物もなかった。轟也はいつもこれを後悔していた。
「もっと、自分の事を主張すべきだった。」
その経験が後押しした。
轟也はゴルドの手を取った。
バチチチチチィィィ!!!!!
ーー手に電撃が走った。ーー
なんだここ。
なんだよこれ。
轟也はどこかわからない暗闇にいた。
そして轟也は少し先に光を見つけた。
ーーーーーもう少しで届く。
ーーーーーもう少しで変わる。
ーーーーーもう少しでーーー
ーーーーーもう少しーーー
轟也は光を掴んだ。
「ん…」
轟也が目を覚ましたのはそれからしばらく経ってからだった。
「起きたか。」
そういってゴルドは轟也が寝ている側へ近づいた。
「伝えておこう。契約完了だ。今日からは我が「覇王」ではない。貴様が「覇王」だ。一道轟也よ。」
この時から俺は「覇王」になった。
ーーーーーーーー現在ーーーーーーー
「ふーん、ゴルちゃんも苦労したのねー。」
奈緒美が答える。
「え!?母さん今の話信じてくれるの!?」
轟也は驚いた。
「当たり前じゃない。そんな真剣な表情して話す子供を信じない親なんていないわよ。」
轟也と雅そして奈緒美は血の繋がっていない親子だ。
轟也と雅の父は2人が幼い頃に他界し、母は育児放棄した。
そして、施設に入れられた轟也と雅を引き取ったのが奈緒美なのだ。奈緒美は結婚経験はなく、で子供はいなかった。でも、轟也と雅を本当の子供の様に育ててくれた。
だから、今の奈緒美の言葉は轟也の胸にグッとくるものがあった。
「で、その「覇王」?の力はどんな感じなの?ちょっと見せてよ。」
「実は俺もよくわかんなくて、まぁ、後々わかるっしょ」
轟也は「覇王」の力を継承したとはいえ、それがどの様な力なのか、どうやって使うのかわからなかった。
ゴルドにも聞いたがゴルドも「知らない。それは元々は我の力だからな。」と言うのだった。
「まぁ、この話はとりあえずやめて、2人ともお風呂はいって来なさい!すごい汚れてるわよ!」
気づかなかった。
ゴルドが落ちて来た衝撃で砂煙が充満していたことを轟也は思い出した。
「じゃあ…入るか…」
「うむ、入るぞ」
轟也は誰かと風呂に入るなんて久しぶりだった
最後に入ったのは、雅が…と、思い出していると、
「邪魔するぞ」
と、ゴルドが入って来た。
「な、な、なに!?ヒッコリー・ホーンド・デビル…だと!?」
轟也は北米一大きい幼虫の名前でゴルドのイチモツの大きさを例えた。
そこだけではなく、ゴルドの肉体美は轟也も何か目覚めそうになるほど美しかった。
身長も2メートル近くあるだろうか。
こんな奴と戦う奴って頭いかれたんだろうな。と、轟也は思った。
風呂から上がると、相変わらず凝った料理が並べられていた。
「今日はゴルちゃんもいるからねー、お母さん、結構頑張っちゃった!」
と、奈緒美は力こぶのない白く、細い腕を叩いている。
「とりあえず食べよ」
轟也と奈緒美とゴルドはそれぞれ席に着いた。
「ねぇ、ゴルちゃんって、何歳なの?あっ!もしかしてあれ?"我は覇王だったのだぞ!年など取るわけなかろう!"(ダミ声)みたいな!?」
と奈緒美がバカにした感じで質問する。
「いや、覇王だったといえども年はとっているぞ。ん〜…確か今は…43だ」
ガチャン!!!!!!
「ま、ま、マジでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
奈緒美と轟也は叫んだ。
「いやいやいや、え?私より年上?なのに、お肌ピチピチ?これも覇王の特権なの?」
奈緒美は目を丸くしながら言う。
「轟也の母よ、貴女もなかなかの若さであるが、何歳なのだ?」
「22よ」
平然とした顔で嘘をつく奈緒美。
「嘘つけ!いいだろ普通にいえば!!」
轟也が突っ込む。
「ハッハッハッ!!!お前らは仲が良いのだな!実にいい親子だ!」
ゴルドは声を上げて笑いながら言った。
「いやいや、それほどでも…」
奈緒美が後頭部に手を当てる仕草をしながら言う。
「それよりさ、雅どこいんの?雅。」
「ああ。雅なら美貴ちゃんの家に泊まりに行くって。多分明日の夕方には帰ってくると思うわ。」
「美貴ちゃんって、雅が一番仲がいいって言ってた友達か、あ!叶んとこの妹か!」
「そうそう!うわぁ!久々に聞いたわね!叶くんの名前!どうなの?今元気にしてるの?」
「ああ、はちゃめちゃ元気。」
轟也と奈緒美が盛り上がっていると、ゴルドが困った顔をして、
「すまぬ、2人とも。お前らが言っている「雅」と「美貴」と「叶」は誰なのだ?」
「雅が俺の妹、美貴が雅の親友、叶が美貴の兄で、俺の親友。」
「なるほど。覚えておこう。」
ゴルドは納得した。
「ゴルちゃんって奥さんとかいたの?やっぱり国王ともなると、妻とかたくさんいるの?」
奈緒美が質問する。
「いや、我にはすでに思い人がいたからな。妻はいなかった。まあ、思い人はとうの昔に死んだがな…」
明るかった場に少しだけ、マイナスな空気が流れる。
轟也はその時、あの言葉がよぎった。
ゴルドが放った"あの日"というワードだ。
轟也は直感的に"あの日"と、ゴルドの「思い人」は関係があると思った。そして轟也は問いかけた。
「ゴルド、お前が言ってた、"あの日"ってなんだ?話したくなかったら話さなくてもいいけど、教えてくれないか?」
ゴルドは下を向き、少ししてから顔を上げて話し始めた。
「我は元々、王族でもなんでもなかった。ただの村人だった。我は普通の日常を何もせず、ただ生きていた。我は正直、この日常に飽き飽きしていた。だから変革を求めたーーーー
その村には古い祠があった。その祠には幻神が宿っていると噂されていた。我はそこに願った。
「変革が欲しい」
でも、その変革は我に絶望をもたらした。
ただ「普通」に生きてきたから、後先考えずに行動してしまった。
その祠に行く時の掟を忘れていたのだ。
その掟は村のものなら誰でも知っている。常識だった。
我は無知だった。
掟を破れば、祟りが起こる。
村に祟りが起こったのだ。
幻神の逆鱗に触れ、村を怪物たちが襲った。
我が知らせを聞き、村に辿り着いた時には、遅かった。
村は跡形もなくなっていた。父が愛した動物も、母が作った畑も、村の皆が楽しんだ集会所も、
そして、我が愛した思い人も。ーーーーーーーー」
「あら、もうこんな時間ね」
長い間の静寂を破ったのは奈緒美の一言だった。
轟也は時計を見ると、すでに、11時を回っていた。
「んじゃ、俺とゴルドはもう寝るわ、あ、俺の部屋で寝るから大丈夫。」
「分かった。じゃあおやすみ。」
轟也とゴルドは寝室へ向かった。
「じゃあ、我は寝るぞ。」
「おうよ、おやすみ。」
轟也は今日あった出来事を整理していた。
まさか、急に日常が変わるなんて思いもしなかった。
自分の望んでいた変わった日常がいきなり訪れるなんて
思いもしなかった。
そして、ゴルドの"あの日"の話な違和感。
轟也はあの出来事を知っているような気がした。
怪物、祠、幻神、祟り。
このワードで何か突っかかりを覚えた。
この問題については、まだ謎は多いだろうと轟也は思った。
さらに、轟也は、自分が持つ「覇王」の力について考えていた。
この力がこれからの生活にどう影響するかはわからない。
だけどこれだけはわかる。
確実に日常は変わりつつある。
そして、轟也は長い一日を終え、眠りについた。