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暁の向こう 作者:冥龍帝

〜第2章 彷徨う想い〜

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幕間3 本田忠の決意



 「ふんっ! はっ! せいっ!! そおりゃっ!!!」

 「ちょっとちょっとすなおちゃん? 槍術の練習しちゃ駄目よ?」

 「むっ!?」

 自分以外は誰も居ないはずの空間に、突然誰かの声が聞こえてくる。得物である鬼夜魔おにやんまを収め、汗を拭うと声がして来た入り口方向に、紅蓮華ぐれんげ学園生徒会副会長である本田ほんだすなおは顔を向けた。

 「おぉ……これは小曽木庶務殿! 大変失礼致した!」

 頭を下げた際に黒のポニーテールの毛先から汗が滴るほどに、本田は全身を濡らしており。さらし姿ということも相成って、妙に艶めかしい姿となっていた。

 それを見た生徒会庶務の小曽木(おそき)悠々乃(ゆゆの)はドアから覗かせていた顔から溜息を漏らす。

 「確かに生徒会室は広いから問題はないけれど、でももうこの学園も共学校になったんだから、男子生徒も居るのよ? 少しは自分がどういう姿をしているのかも気を払わないといけないわよ?」

 「心配には及びませぬ! 私など一ノ瀬(いちのせ)会長に比べれば色気のいの字も無いに等しいですからな!!」


 (…………そういう問題じゃあないんだけどねえ)


 胸を張って本田は言うも、小曽木からしてみれば理由も滅茶苦茶であるし彼女自身が女性であるという事実も変わらない。だが自信満々の本田の顔からはそれで理屈は成り立っているのであろう。桐花への忠心が少しおかしい方向になっていた。

 「それにしても…………桐花(とうか)ちゃんは大変ね」

 庶務専用の席に座ると、頬に手を当てて小曽木は呟く。

 自身らを束ねる生徒会長である一ノ瀬(いちのせ)桐花(とうか)。しかし彼女は5月29日現在で学校には居なかった。

 その理由は、彼女が超越者トランセンド…………圧倒的な実力を持つ超人デュナミスであることが起因していた。

 「まさか……南米の方に貪魔ドーマを駆逐しに行かないと駄目だなんてねえ……」

 「…………そうですね」

 薄桃色の長髪を指で遊びながら、溜息交じりに小曽木は言い放ち。そして本田も同様に嘆息をする。

 それは昨日のこと。南米の某国にて貪魔ドーマの出現が確認されたのだ。貪魔ドーマに対し有効な攻撃手段を持たないその国は、基本的に他国が守るという形を取っている。

 普段であれば近隣の大国である米国がその国に出現した強力な貪魔ドーマなどを駆逐するのだが、今回のそれは今まで出現した中でもトップクラスの凶暴性及び戦闘力を持っていた。故に某国政府は日翔国ひのとくに超越者トランセンドの出動を要請し、それに桐花が応えたのだった。

 「ただでさえ生徒会の業務とかも忙しいのに、こういう案件も引き受けなくちゃならないなんて……桐花ちゃんは大変ね」

 「然るに、我々が居るのでしょう。不在の一ノ瀬会長に恥じぬように仕事をしなければ!」

 タオルで全ての汗を吹き取った本田は、拳を握り締めて気合を迸らせる。だがこう見えて桐花の出発前夜は泣く程に心配をしていたのだが、それは生徒会メンバーのみぞ知ることであった。

 「そうねえ。じゃあ頑張っていきましょうか。ところで…………切奈せつなちゃんとひとみちゃんは?」

 「持明院じみょういんは何やら外せぬ用事だとかで今日は居ないらしく、一ノ瀬会長からも許可を頂いているとか」

 「そう。なら仕方ないわね。じゃあ切奈ちゃんは――――」

 「居るよ」

 そう返事がなされるが、部屋のどこを見渡しても声の持ち主は見つからない。2人が訝し気に思っていると、ひとりでに椅子が回転を始める。その椅子は、生徒会長である桐花専用のもので。

 「…………ここに」

 だがそこに座っていたのは、ちょうど本田と小曽木が探していた生徒会会計――太刀洗たちあらい切奈せつなだった。

 金髪ツーサイドアップに宝石のような碧眼の彼女は今日も可愛らしい身なりだ。だが普段は座れない会長席に座れているからか満足気な表情だ。

 「あら切奈ちゃん、そんな所に居たの?」

 「……会長の席……どやぁ……」

 「ふふふ、嬉しそうね」

 「太刀洗貴様ァァァァ!! そこは一ノ瀬会長の席だぞォォォォォォ!!」

 微笑ましく会話をしていた2人の間に、大いに怒る本田が割って入る。

 「貴様は会計であろうが!! なのにそこに座るとは思い上がりも甚だしいわ羨ましいそこ代わって下され!!」

 「ちょっと本音漏れてるわよ忠ちゃん」

 「ええい!! とりあえず降りろ太刀洗ィィィィィィィィィィ!!!!」

 胸倉を掴み揺らすも、太刀洗は虚空を見つめて応じないままで。

 そして太刀洗がようやく桐花の席から動いたのは、5分後のことであった。









 「……よし。では本日の業務に取り掛かるとする」

 先程の怒り心頭はどこへやら、落ち着き払った態度で本田は口を開いた。

 「今回は一ノ瀬会長と持明院書記が不在の為、今会議での決定は仮決定とします。意見をまとめたものを後日会長にへと提出、書記は代理で私が務めることとします。異論はないですか?」

 「はーい」

 「うん」

 2人の了解を取ると、本田も頷く。3人だけではあるが、紅蓮華学園生徒会の1日が始まった。

 生徒会の業務は主に学園(主に生徒)の統治及び風紀を守ることだ。それ以外には生徒の意見をまとめて教師側にへと直訴したり、入学式や学園祭などの各種イベントの運営であったりなど。基本的には他の学校と比較しても大差は無い。しかし――

 「あら? これは…………」

 「な……な……!?」

 「…………おぉ」

 近年男女共学化となった紅蓮華学園には、今までにない問題が起きていた。それは男子生徒が居るからこ(・・・・・・・・・・)そ起こる問題で(・・・・・・・)

 驚愕を露わにする本田、困ったように笑みを浮かべる小曽木、興味を見せる太刀洗。それぞれの反応をする3人が見つめるのは――――ほぼ全裸の女体が描かれた本であった。

 表紙に、そして大概のページに淫らな描写が載っている――所謂エロ本であった。

 生徒の落とし物を管理し持ち主にへと返すのも生徒会の仕事の1つ。しかしこれ(・・)は――。

 「これは……困ったわね」

 「見たい。見せて」

 「駄目よ切奈ちゃん。切奈ちゃんにはまだ早いわ――あれ?」

 「ぬうああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 手元にあったはずの本は、本田は愛槍の鬼夜魔によって滅多刺しにされていた。

 「あら……持ち主さん可哀想に」

 「こんなもの滅ぶが良い!! というより男が滅べ!! 全くもって男というのは汚らわしい存在だ!! 男女共学化など反吐が出るわッッッ!!!!」

 鼻息を荒くしながら、男子生徒と母校のシステムを全否定する本田。桐花に心酔している彼女は男子生徒の存在を快く思っていなかった。

 「まぁまぁ思春期だから仕方ないわ。それに男の人が誰しもこういうことばかり考えてるという訳でもないんだし、落ち着いて? ね?」

 「ね?」

 「落ち着いてなどいられませんぞ!! これは風紀が乱れている何よりも証拠ではございませぬか!! 今すぐに全男子生徒を招集し、その身に罰則を与えねば!! うおおおおおお滅べ滅べ滅べええええええええええええ!!!!!」

 「……こうなったらもう桐花ちゃんにしか止められないわねえ」

 「…………うん」

 八つ裂きにしたものをさらに細切れにしていく本田を、小曽木と太刀洗は遠い目で見つめていたのであった――。 






 「…………では…………雑務も終わったので…………会議に入ります」

 流石に我を忘れて怒り狂っていたからか、咳払いをしてから本田は言い放つ。先程の本の処理も含めた雑務がようやく終わり、本題(・・)に入ろうとしていた。

 「差し迫って対策すべき案件はやはり貪魔(ドーマ)の件であると思われます」

 「そうねえ…………」

 「うん…………」

 和気藹々とした雰囲気もあった先ほどとは打って変わって、張り詰めた空気となる生徒会室。3人の顔からも笑みは消え影を落としたものとなっていることから、問題の深刻さを物語っていた。

 「4月21日にあった貪魔ドーマの襲来では、迅速な誘導と教師及び生徒の避難行動もあり、人的被害は最小に留められました。しかしながら1年E組所属の森永もりなが良太りょうたは重傷を負い、同組所属の直江なおえひいらぎも怪我こそはありませんでしたが避難を出来ていなかったという結果となりました」

 「森永君かぁ……。今にして思えば、その時から無茶をする子だったのねえ」

 「全く以てです。無論、我々生徒会も避難誘導や貪魔ドーマの駆逐が至らなかったというのは反省すべきことだと思います。ですが、森永も森永です。誘導に従って避難をしてくれれば……」

 「――――でも…………守ってくれた」

 「え?」

 「森永君…………紅蓮華学園…………守ってくれた。2度も」

 太刀洗の言葉もまた事実で。本田は複雑な表情をする。さらには

 「そうね…………。1度目はともかく、2度目は…………森永君が居なかったら…………私もすなおちゃんも…………死んでいたかもしれないわ…………」

 小曽木の付言は否定する余地のないことであった。本田もそのことは重々承知であり。

 「……分かっている……分かっていますとも! だからこそ悔しいのです!! 生徒を守る立場である生徒会の私が、逆に一生徒である森永に守られたのですから!! 自身の命も、この学園も!!」

 打ちつけようとした拳を机に当てる寸前で止める本田。その顔からありありと憤りを滲ませていた。

 「…………不甲斐ない…………本当に…………! 一ノ瀬会長の右腕など…………これでは名乗ることなど出来ん…………!!」

 「…………そうね。でもね忠ちゃん、生きていればこそよ。生きてさえいれば…………やり直せるわ。その悔しさも、力に変えていける。私も、あの時のことは悔しいわ。だから…………」

 本田の背後に回り込むと、そのまま小曽木は抱きついた。 

 「強くなりましょう…………一緒に。大好きな皆を、大好きなこの場所を、守っていけるように。悔しいのは…………忠ちゃんだけじゃないわ」

 俯いていた顔を上げると、身を乗り出してこちらを覗き込む太刀洗も居て。

 「…………1人で守るの…………難しい。会長だって…………私達を頼ってくれる…………だから…………」

 口数が少なく加えて不器用な彼女は、それでも伝えようと必死に言葉を選んでいた。


 (…………小曽木先輩殿…………太刀洗…………ありがとう。分かっている…………。1人(・・)で全てを守る(・・・・・・)ことなど、出来るはずがない。故に――)



 『――――いっ、一ノ瀬桐花次期会長殿(・・・・・)!!』

 『おっ、君は…………。あぁ、2年D組の本田忠さんか。どうしたんだ?』

 『ご認知頂けていて恐悦至極です! お忙しい身だと重々承知の上でですが、この度は次期会長殿に折り入ってお願い申し上げたいことがございまする!!』

 『何だ? 私に出来ることであれば叶えるが』

 『私を、どうか生徒会に入れて下さらぬだろうか!? まだまだ力不足であることは痛感してはおりますが、私は次期会長殿の熱い気持ちに溢れた演説に心打たれ、そしてあなた様の下で働きたいと思っております!! 無論、現超越者(トランセンド)であるあなた様には既に他者の力など不要であるかと思われますが、どうかご一考の程を!!』

 『希望者か! ありがとう、ちょうど探していたんだ。では宜しく頼む』

 『…………なっ、何ですとおおおおおおおおおおおおお!!!? よっ、よよよろしいのでござりまするか!?』

 『あぁ。とは言え生徒会の過酷さは分かっているな? 常日頃の通常業務に加えて、貪魔ドーマとの戦闘も時には必要とされる。その覚悟は出来ているのだろうな?』

 『も、もちろんでございます…………。ですが、本当に私の力など役に立つのでしょうか? 超越者トランセンドである次期会長殿の足元にも及ばぬ実力の私めが…………』

 『もちろんだ。私だけでこの学園の皆を守れるはずがないからな。1人で出来ることなどたかが知れている、それが超越者トランセンドであろうとなかろうとな。だから改めて、これから宜しく頼むぞ――――本田忠次期副会長(・・・・・)



 (一ノ瀬会長は…………桐花様も、そう仰られていた。あれ程の力を持つあのお方でも…………1人では全てを守ることは出来ないと…………。その為に…………誰かと協力することが、必要なのだ…………!)

 「――――申し訳ない。太刀洗、小曽木先輩殿」

 今にも泣き出しそうな顔だった本田は、その顔を決意のものにへと変えると言い放った。

 「そうだな! これから私達はもっともっと強くならねばなるまい!! だが、1人だけでではない!! 皆で共に、だ!!」

 皆と一緒なら、信頼できる仲間(生徒会の皆)と一緒なら、どこまでも強くなれそうだと、その確信を持って。











お読み下さって誠にありがとうございます!!


久々の紅蓮華学園生徒会メンバーの出演回でした! 誰やねんとお忘れの方もいらっしゃるかもしれませんが…………(震え声) 第3章ではこの皆にも活躍してもらう予定ですので、楽しみになさっていてください!!


よくよく考えたらわざわざ学校にエロ本持ち込む奴なんてまずいないですよね。僕は持ち込んでいましたが← ご意見・ご感想などいつでもお待ちしております!! それではまた次話でお会いしましょう!!
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