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報告書シリーズ

秋遊の報告書

作者: 藍佳印

息抜きにアップ。報告書シリーズ開幕です。

 ご無沙汰しております。あるじ様。今日の出来事を報告したいと思います。

 今日は、初めて瑠璃るり様が立ちました。壁に手をつけながら立つ姿はとても愛らしく、見られない主様がとても不憫でなりません。

 最近の瑠璃様のお気に入りは、らいに様々な本を読んでもらう事のようです。アレは芸が細かいですから、配役に会わせて声音を変え読んでいます。とてもとても楽しそうに聞いております。

 折角の担当なのですが、特に書ける事がないのが残念でたまりません。


 そうですね、手紙を書こうと思ったら視線を感じました。視線の先には瑠璃様がいました。柱から顔だけを出すように、覗き込む姿は大変可愛らしかったです。思わず、絵の上手いゆきに描いてもらうほどには。ちなみに一緒に入っている紙は瑠璃様がご自分でかいたものです。ちなみにソレに関しては私は何も言っておりません。


 それでは主の無事の帰還を祈り終わりたいと思います。


++++++++++


 「うらやましいぞーーーーーーーーーーーーーーーー」


 そう言って、式神に届けた貰った紙を握りつぶす。黒の長髪に瞳。陰陽師の服装をした整った顔立ちの若者。彼は有名で実力のある陰陽師だった。


 亡き妻の忘れ形見。忌々しい事に名があるがゆえに、面倒事を押しつけられた彼。本当なら可愛い娘を連れてきたがったが出来なかったのだ。今回の任務は危険だから。だからこそ、彼は信用できる式神に娘をまかせたのだ。


 しかし、彼は忘れていた。式神――それは人の理を知らざるもの。元は人だったモノもいるが、人でも国を出れば環境が違えばルールが違う基準が変わる。すなわち、式神の基準はあくまで式神の基準でしかなかったという事である。


 これはうっかりソレを忘れて娘をまかせた陰陽師が、使役している式神からの報告に頷き笑ったりする。後に「禍の始まり」と密かにささやかられた、ある報告の日の物語である。


++++++++++


 「ご無沙汰しています。主様。今日の報告担当は私がもぎ――いえ、私になりました」


 [絶対、もぎ取ったと書こうとしたな]


 手紙の書いた式神は、かれこれ幼少期の頃から使役していたものであり、古株のうちの一人――厳密には一式である。


 そこそこ有名な陰陽師――ここでは、あえて名前は伏せさせてもらおう――は妻が一人いた。彼は強い陰陽師であるとともに愛妻家としても有名だった。そんな彼の妻は娘を妊娠。そして出産したと同時にこの世を去った。


 亡き妻の忘れ形見を、彼は大事に育てていた。崇拝してくる馬――失礼、とにかく慕ってくる後輩に、上手車の様に働かせても良心が痛まないこ――信頼できる部下。とにかく使えな――ある一定の事に関しては凄い同僚。多くのこ――多くの頼れるモノと協力して幸せに過ごしていたのだ。それも馬――上層部のア――方々によって打ち砕かれた。


 彼は優秀だった。周りが無の――ついていけないほどに。任務なら娘も連れて行けばいい。普通なら。しかし、今回の任務は危険すぎた。まだ、幼い娘を連れてはいけない。彼は仕えるこ――信頼できる者達に脅――頼み、頼れる式神に頼んで泣く泣く任務に行くことにした。


 そして、随時、報告と称しての手紙を送るように指示したのだ。


 初めに来た手紙は、常識的なモノだった。しかし、あとから来る手紙の数々に彼は己の失敗を悟った。


 (ああ、そういえばアイツらは人としての常識がない奴だった)


 わりかし人らしい式神がいる。しかし、彼らは根本的に違うのだ。そこに人としての常識を求めるのが間違っている。そう、今回ばかりは彼が悪かった。彼も動揺していたのだ。だが後悔もほんの数分。結局彼はいやある意味こちらの方が安心だとばかりに深く頷いたのである。――結局のところ彼も立派に同類、いやこの場合は彼の特性に式神が似たともいえるのだろう。


 「最近の瑠璃様のはやりの遊びは、死体遺棄です」


 中々物騒な単語が出てきた。しかし、彼は動じることなくむしろ


 [ほう、あの子は良い趣味をしている]


 親バカだった――いや、この場合は娘の思考をたった一行で読めた父親なので、さすがというべきだろうか。


 「あの時の、馬鹿の顔は傑っ――中々面白いみせモノだったと思っております」


 [言いなおしても意味ないぞ]


 式神の裏表もない素直な意見に彼は、それはちょっとと思うが、傍から見れば彼も同じ。いや、理論武装で反論する機会も暇も与えない彼の方が、紛れもない凶器である。


 「しかも――仕掛けた理由が可愛くて可愛くて、さすが主様の子ですね」

 「そうだろうそうだろう」


 手紙の褒め言葉に思わず頬を緩め口に出して頷く。彼は傍から見たら奇功に走っているのだが誰も注意をしない。人間誰しも自分の身が可愛いからだ。彼は邪魔ものと敵には本当に容赦ない性格だ。外見に反して。――外見は甘くカッコイイから貴婦人など様々な範囲で人気を集めている。


 「死体の振りをし、ご丁寧にも獣の血を上手く服に付着――ああ、もちろん要らない服を使用しておりますので安心してください。ワザと何回か乾かして色を定着させた後、真新しい血をかけ倒れます。――もちろん標的の前で。術をつかっているとはいえ歪なのに気がつかないなんて素敵な思考回路をしているようですね。おかげで掃除が楽です。主様、ご安心ください。今日も元気に瑠璃様は遊んでおります」


 あえて言うなら、この報告の仕方も変だし、ソレを遊びと称して止めないのもオカシイ。しかし、仕方がないといえよう。彼らに常識を期待する方が間違っている。間違っているのだ。


 「ちなみに瑠璃様は怒っておいででした」

 「なにっ!?」


 あまりの形相と殺気で大声を出したため、彼に視線が集まる。しかし彼は気にするどころか、ギロリと一にらみで黙らせる。美形が怒ると、普通の人が怒るよりも迫力があるのだ。


 「大変素敵な笑顔で――とても主様に似ており可愛かったです。――「あはは、とと様を馬鹿にしているあの方たちはさぞ優秀なのでしょうね」と言っておりました。私も、大変同意せざるおえない思いです」


 字が異様に濃くなっているその部分に式神の怒りも感じられるが、彼の怒りの矛先は別だった。


 「ほう、屑どもがいい度胸しているな」


 自分の為に怒ってくれたことは素直に嬉しい。だからこそ、くだらないゴミに侮辱され可愛い愛娘にそんな馬鹿と一緒にされたくないという感情である。子供――特に娘は親元をいつ離れるか分からないのだ。出来るだけ一緒にいたいが嫌われるのは嫌である。なら一緒にいるうちは尊敬の念を「とと様、カッコいい」と思われたいという大変素直な感情によるものだった。


 隠して彼は、数年かかると言われた実験を一突きで終わらせ、大掃除を決行することになる。一月で終わらせる為に起きたひと騒動や、大掃除の出来事はまた、時間がある時に話をしよう。


 ただ、言えるのはこの時の彼は非常に良い笑顔だった。


その他設定、世界観、また後日。


次回予告、「雷による報告書」。器用な雷による報告書。

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