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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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九十五話 赤き夢⑬

 俺は薄く『剛魔』を維持して身体を強化して波に耐えつつ、半時間ほど魔力を休めた。

 ……ひとまず木偶竜へ戻るだけの魔力を取り戻すことができた。

 もう少し様子を見ておきたかったが、あのハイエルフのロクデナシ王オルヴィガと一緒にメアを残しておくのも不安だった。


 海面を疾走して来た道を戻る。

 正直、身体は今全身に違和感があるが、麻痺したかのように痛みはない。

 今はいいが……後に来るであろう身体への反動が恐ろしい。俺、死ぬんじゃなかろうか。

 ……戻ったら錬金術師団に手伝ってもらい、反動が来る前に痛みを和らげる薬を全力で作ろう。


 やがて海上を漂う木偶竜ケツァルコアトルを見つけることができた。

 俺は海面を蹴って跳び上がり、上部へと乗り込んだ。


 メアは木偶竜上部の端に立って俺を待っていた。

 俺を見つけると表情を輝かせて駆け寄ってくる。


 ……端っこで震えているオルヴィガが視界に入ったが、何も見なかったことにする。


「ただいま、メア。無事に全部終わったみたいだ」


「おかえりなさいアベル! メア、アベルなら絶対に無事で戻ってきてくれるって信じてました!」


 メアがそのまま抱き着いて来る。

 ……結構勢いが残っていたが、『剛魔』がまだ維持されていたのでよろけずに済んだ。

 恰好のつかないことにならなくてよかった……。


「よくぞ戻ったぞアベル! さぁ、余を早く城へと戻してくれ! 茶菓子でも摘んで美女と昼寝して、今日あったことを全部忘れたい!」


 オルヴィガが両腕を広げ、抱き着かんとばかりに俺達の方へと走って来た。

 俺は思わず足を振り上げ、オルヴィガの顔面を軽く蹴り飛ばした。

 オルヴィガの身体が綺麗な放物線を描き、木偶竜の端へと飛んでいく。


 ――三十分後、俺は木偶竜を動かして天空の国(アルフヘイム)へと向かっていた。

 わざわざディンラート王国のすぐそばまで来たのに引き返すのは面倒だが、何はともあれ、オルヴィガを送り返してやらねばならない。


 正直こいつのためにそこまでしてやる義理も感じないのだが……オルヴィガの立場を考えれば、これ以上雑に扱えば戦争の火種にもなりかねない。


「いいか、アベル? 本来なら余の顔を蹴り上げるなど、同胞のハイエルフであっても一万回死んでも償いきれぬ愚行である。他でもないお前だから、余も空の様に広い心でギリギリのところで許してやっているのだ。そのことをゆめゆめ忘れぬようにな?」


 オルヴィガがパンパンに腫れた左頬を摩りながら言う。


「わ、わかっている。それに関しては本当に悪かったよ。俺も気が緩んでいて……なんというかその、ついイラッとしてそのまま足が出たというか……」


「そうだ、わかっていればいいのだ、わかっていれば」


 こいつ……また態度が大きくなってきたな。

 まあ、今くらい我慢しておこう。

 天空の国(アルフヘイム)に返せば二度と会うことはないだろう。


「しかしその……お前達の神を吹っ飛ばしたところなんだが、それに関しては特に思うところはないのか?」


「何を言うか。己の地位のためだけに自身を信じる民を死地に巻き込む神など、とっとと滅んでしまえばよいのだ。挙句の果てに(ディン)を破損させるとは、まったく迷惑この上ない。巻き込むなら勝ち戦だけにせよと言いたい。余は今日もいつも通り幸せで穏やかな一日を送るはずであったというのに」


「そ、そうか……」


 オルヴィガは自分の言葉で思い出したように、ふと不安げに空を眺める。


(ディン)……少しばかり欠けたようだが、大丈夫であろうか? 光は弱まったようだが、その分近づいたからセーフか? おいアベル、お前はどう思う? 賢いのだろう?」


 目を細めて必死に(ディン)を観察している。

 破損具合を見ると少し欠けた……では済みそうにないんだがな。

 かなり都合よくフィルターが掛かっていないか?


 ハイエルフは(ディン)の光がないと魔力や生殖能力、果ては寿命まで弱体化するので、随分と必死なご様子だった。


「距離も光も変わったなら、これまで通りにはならないだろうな。いい方に傾くとはあまり思えないが」


「そ、そんな……! 嘘でもいいからいい方に言ってくれ! 不安になるだろうが!」


 なんでこのヘタレ、ハイエルフの王に選ばれたんだ……?


「というか、(ディン)についてはお前らの方が専門家だろ」


「余はこういうのは代々賢者に投げていたのでよくわからん。ゴーグルに丸投げするか……死にかけの老人であるし的外れなことも口にするが、知識だけはまあ頼りにならんこともないからな」


 一万年間何もしていなかったのか……?


 それからまた少しばかりして、ようやく天空の国(アルフヘイム)へと戻って来た。

 ついにこれでこの無能王とも別れられる。

 メアも直接口には出さなかったが、心底ほっとした表情をしていた。


 浮遊大陸の上空を飛び、高度を下げてハイエルフの王城へと戻っていく。

 オルヴィガも大はしゃぎで王城を見下ろしていた。


「おおっ! おうおう、民草が見上げておるわ! 祝福せよ、貴様らの王が帰還したぞ! ここまで来れば余のものだ! ご苦労だったなマーレン、余をしっかりと送り届けたことだけは褒めておいてやろう!」


「……そうか、よかったな」


「そうだ、貴様らも天空の国(アルフヘイム)に来るか?」


「いや、結構……」


「フハハハハ! 冗談に決まっておろうが! 貴様らはせいぜい地上で我々を見上げておるがいい! さぁ、とっとと降ろすのだ!」


「……嬉しそうで何よりだよ」


 俺はふと下を眺める。

 さすがの人望というか、視界の限りの全ハイエルフがオルヴィガを見ていた。

 こんな奴でも、一万年生きたハイエルフの中のハイエルフだからな……。


「あれ、何か連中殺気立ってない?」


 どのハイエルフも皆、目が怖い。


「何を言うか、貴様らが余を誘拐したからであろう」


「……メア、あの人達がオルヴィガさんを睨んでるように見えます」


「そうか? 余も地上の奴らは全員ぼうっとした表情に見えるが、貴様らにとって我々はそう見えているのか」


 そう、俺もてっきり木偶竜のせいかと思っていたのだが、どうにもオルヴィガを睨みつけているように思えるのだ。

 ついでに言うとオルヴィガへ杖を掲げているようにも見える。


「オルヴィガが戻って来たぞ! 殺せ!」

「自己愛と年齢だけ肥大化した無能のゴミめ!」

「俺は前からあいつ何もしないじゃないかと思ってたんだ!」


 王城に近づくと、ハイエルフ達が叫んでいることが聞こえて来た。

 さすがのオルヴィガも現実逃避できなくなったらしく顔を真っ青にした。


「ど、どういうことだ! 賢者ゴーグルはどこだ! 賢者ゴーグルゥ! 説明せよ、王の不在の地で何が起こった!」


 王城の上に立つ、深い皺の目立つ小柄な老エルフが杖を掲げた。


「よいか皆! あの愚王は力だけが取り柄であったにも拘らず侵攻者に敗北し、それだけではなく己のプライドを守るためだけに天空の国(アルフヘイム)が半壊することを承知で禁断の魔術、星落としを、よりによって我らのこの神聖な地で行ったのだ! (ディン)に罅が入ったことも、シルフェイム様が我らの王の体たらくにハイエルフを見限ったからに違いない! この呆れ果てた男を、これ以上我らの王にする道理がどこにある!」


 老エルフが叫ぶと、国中から賛同する声が上がる。


「クーデターだと! おのれ、神にも等しきこの余に反旗を翻すとは愚かしい! 血迷ったかゴーグル!」


 オルヴィガが血眼になり、木偶竜から身を乗り出して叫ぶ。


「全部正論じゃないか」


 愚かしいのはお前だよ。

 よくよく考えたらこいつ、ムキになってこの都市に隕石落とそうとしていたな。

 さすがに許されなかったらしい。当たり前か。


「これほどの屈辱は初めてだ! よかろう、後悔させてやるぞ! 余の強大さと恐怖に脅え、自身の愚かさを嘆きながら朽ち果てて行くがよい! 空の下の森羅万象を統べるシルフェイム様より見込まれた我が魔力、思い知らせてくれるわ!」


 オルヴィガが憤怒の顔で叫ぶ。

 その怒声には、至近距離で聞いていた俺はぞっとさせられるものがあった。

 ハイエルフ達の顔にも緊張があった。

 一万年ハイエルフを統べて来たオルヴィガの貫録を思い知らされた。


「さあ頼んだぞアベル! あの恩知らずの愚か者共に力の差を見せつけてやれ! とりあえず都市を四分の一くらい破壊してやろう!」


「おう、じゃあ王城の上に降ろすぞ、オルヴィガ。後は頑張ってくれ」


 俺がオルヴィガに杖を向けると、オルヴィガが滑らかに土下座し、素早く俺の足に抱き着いて来た。


「余を死なせるつもりか? 頼むアベル! 天空の国(アルフヘイム)の四分の一を……いや、半分をやろう! 他に頼れる者がいないんだ!」


「結構だ。俺も早く帰りたいんでな」


「わかった! 天空の国(アルフヘイム)の全土をやろう! 余は王城の一室とかだけ残してくれて、ほどほどに贅沢させてくれればそれでいい! 形だけの支配者として余を残しておいた方が都合がいいと思わんか? お願いします先生!」


「とにかく放せ、動きづらい! 俺はこんな揉め事に手を貸すつもりはない!」


 俺がオルヴィガと揉み合っている間に、ハイエルフ達の一斉攻撃が始まった。

 木偶竜に向けて天空の国(アルフヘイム)より魔弾の嵐が放たれる。

 結界が弾いてはいるが、凄まじい量だった。


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