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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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八十四話 赤き夢②

 クゥドルの身体を中心に魔法陣が展開される。

 クゥドルの姿が光に包まれて消えた――かと思えば、木偶竜ケツァルコアトルの後方に、元の姿を現したクゥドルが浮かんでいた。


 球根を連想させる巨大な青白い肉の塊から、禍々しい無数の触手が伸びている。

 肉塊の上部には、人間体の面影を残した青白い人型の姿が見えた。

 二つの大きな翼が、クゥドルの巨躯を宙に留めている。


 クゥドルの中央部の巨大な単眼は、迫りくる三つ目の巨竜、シルフェイムを見据えていた。


『一万年振りだな、悪魔シルフェイムよ。この我と対面せぬよう小細工を弄していたようだが……そこのガキの奇行で全て無に帰したらしいな。今度はしっかりと消滅させてやろう』


 クゥドルがシルフェイムの行く手を遮るように大きく触手を伸ばした。


『ほざいているがいい! 恐ろしいのだろう? この私の、新たな力が! 今の私の力は、クゥドル、貴様さえ大きく凌いでいる! そのことがわからぬ貴様ではあるまい!』


 シルフェイムの三つの目玉が、ギョロギョロと蠢く。

 裂けた口が大きく開かれた。


『脅えているのは貴様だろう、空神を自称する憐れな悪魔よ。その名の通りに、大人しく我が手の及ばぬ空の彼方で眠り続けておればよかったのだ』


『脅えている? フ、フフ……そうであるとも。私は、私が恐ろしい。私は臆病でな……貴様を超えるために精霊体を集め続け、魔力を貯め込み続け……気がつけば、随分と歪な存在となってしまった。世界が、私の存在その物を拒絶しているのだ。一万年前は感じなかったが……今は分かる。貴様も、これを感じていたのであろう?』


 シルフェイムの言葉にクゥドルが目を細める。

 クゥドルが強大すぎる存在故に、大きな枷が掛けられていることは知っている。


 かつてゾロモニアもクゥドルを目にして、世界のあらゆる法則がクゥドルの力を引き剥がそうとしているようだと評していた。

 魔力の回復が極端に遅いこともそうだが、ただ存在し続けるだけで本体に大きな負荷が掛かっているという話であった。

 だから大きな敵がいることを予期しながらも、力を失わないためにクゥドルは遺跡の奥地にて眠り続ける必要があったのだ。


 恐らくシルフェイムにも似た制限が掛かっているのだろう。

 いや、崩れた外見から察するに、クゥドルよりも重傷なはずだ。

 クゥドルはそこまで言及していなかったが、シルフェイムの世界から拒絶されているという表現から察するに、存在するだけでかなりの苦痛を感じているのかもしれない。

 本体を動かすことを嫌っていたわけだ。


『だが……この膨大な魔力も、今の私にとっては副産物のようなものだ。フフ……私は、絶対に負けることなどあり得ない。私は一万年という時の牢獄の中で……ついに、編み出したのだ。我が身に、本物の神を宿す手段をな。私は臆病なのでな……今度こそ私の、絶対支配者という立場を永劫に失わぬ様に……! この、『赤き夢』としてな!』


 シルフェイムの六つの腕の一つが、赤黒く染まった自身の胸部を示した。

 歪な巨竜の胸部では、大きな人間の顔が眠り続けていた。

 ……クゥドルも警戒していたが、やはりアレは相当ヤバい代物らしい。


『くだらぬな。神を自称しながら……己の幻想の神に縋るなど!』


 クゥドルとシルフェイムが激突した。

 クゥドルの長い触手がシルフェイムへと絡みつく。

 シルフェイムは六つの腕でそれを引き剥がそうとする。


 俺はその間にオーテムを動かして自分の許へと寄せて、オーテムコールの準備を進めていた。

 シルフェイムを観察しながら魔法陣を浮かべる。


『フ、フフ……クゥドルよ、やはり、私の力の方が勝っているらしいぞ……!』


 クゥドルの触手が、シルフェイムの腕に押し退けられつつある。


『今だアベルよ!』


 クゥドルの声が響く。


「わかっていますよ!」


 ……少しでも距離を取りたいのだが、神火球を当てるにはもう少し接近する必要があるか。

 俺は木偶竜の軌道を曲げ、シルフェイムの方へ戻る。

 木偶竜の先端の口が大きく開き、シルフェイム目掛けて十発の神火球が放たれた。


 同時に俺は詠唱を始める。


বায়ু(風よ)


 俺は杖を天に向け、頭上に風を生じさせる。

 風を狭い範囲で巡らせ、直径五メートル程度の円盤を作った。


 同時に俺の左右のオーテムが、俺と同じ呪文を詠唱し、魔法陣を浮かべる。

 それらの上にも同様の風の円盤が浮かんでいた。


 魔力を際限なく投下し、回転速度の引き上げを行う。

 威力を拡散させない、切断力に特化した極薄の風の刃である。


 円盤が唸りを上げる。


「トリプル・アベルノコギリ!」


 俺は杖を降ろす。

 三つのアベルノコギリがシルフェイムの許へと飛来していった。


 シルフェイムはクゥドルの触手が絡まったまま強引に高度を上げようとするが、クゥドルが抵抗してそれを許さない。

 シルフェイムが腕の一つを神火球の連弾へと向ける。


『我が力を思い知るがいい!』


 瞬時に巨大な竜巻が生じた。

 下では海面を大きく窪ませて巨大な穴を作っており、上では雲を貫いて掻き乱している。

 とんでもない規模の攻撃だった。

 ジュレム伯爵とは比べ物にならない。

 巨大な竜巻が神火球の連弾を暴発させて潰していく。


『少々過剰反応であったか?』


 シルフェイムが巨大な口を歪ませて笑う。

 だが、その刹那、先陣を切ったアベルノコギリが竜巻を切断した。

 竜巻は大きく捩じれて形状を歪ませた後、上下に二つに分かれて縮小していく。


 三つの風の円盤が、シルフェイムへと着弾した。

 一発はクゥドルの触手越しだったが、こればかりは仕方ないだろう。

 肩、腹部、腰に激突し、シルフェイムの体表を削っていた。


『うぐ……面倒な魔術を……!』


 シルフェイムは身体を捻ってアベルノコギリを後方へと受け流そうとするが、クゥドルの触手が邪魔でまともに動くことができないでいた。

 シルフェイムの身体がどんどん深く削られていく。


 クゥドルとの戦闘においては、アベルノコギリは後方へ受け流して被害を抑えられていた。

 だが、今回はクゥドルが触手で対象を押さえ付けてくれている。

 これならばアベルノコギリは絶大な威力を発揮することができる。


 それなりにダメージが通っている。

 神火球を牽制に用いてアベルノコギリをぶつけ続ければ、如何に強大なシルフェイムとていつかは限界が来るはずだ。

 この方法で削っていくのが一番確実か?


『やはり、『赤き夢』を使わざるを得んか……』


 シルフェイムが零す。

 シルフェイムの胸部に存在する大きな人間の顔面の瞼が、ぴくぴくと痙攣した。

 その瞬間、シルフェイムの身体を削っていた三つのアベルノコギリが、唐突に消失した。


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