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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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八十二話 旧き精霊達④

 これでシムとジェームは片付いた。

 倒しきれたかどうかはわからないが、少なくともどちらも今すぐ戦闘に復帰できる状態ではないはずだ。


 シムはいてもせいぜいが囮役だろうが、ジェームは攻撃の要であった。

 カオスを用いた魔法を操れるのはあいつだけだろう。

 ジュレム伯爵も、さっきの洪水の魔法でかなり魔力が厳しくなっているはずだ。


「……まだやるか?」


 俺は木偶竜の尾に立つジュレム伯爵を睨む。

 いつの間にか、ジュレム伯爵の隣にはシェイムが並んでいた。


 シェイムは黒焦げになった萎んだバレーボールのようなものを手に抱えている。

 何かと思ったらシムか。

 ……まさか、あそこからまた復活できるのか?


 シェイムの動向は見失っていたが、どうやらシムの回収に走っていたらしい。

 やはり戦闘面において特に秀でているわけではなさそうだ。


「予定を早めるしかないみたいね。クゥドルが弱るまで伏せておくつもりだったのに……まさか、アベルちゃん相手に、アレを使うことになるとは思ってなかったよ」


 シェイムが小さく首を振り、降参したとでも言うように両手を広げた。


「バイバイ、アベルちゃん。それじゃ、ジュレム、一口でお願いね。アタシも結構怖いんだから」


 その瞬間、ジュレム伯爵の顔に線が走り、左右に分かれた。

 断面にはぎっしりと、鮫の様にずらりと牙が敷き詰められている。

 ジュレム伯爵はシェイムとシムを、纏めて喰らった。


「なっ……!」


 はみ出ていたシェイムの腕が痙攣する。

 色を失ってどろりと溶け、そのままジュレム伯爵の狭間に吸われていった。 


 ……シェイムとシムを、取り込んだ?


 恐らくだが……元々、ジュレム伯爵達は分霊によって分かれた一体の高位精霊であるはずだ。

 ジュレム伯爵も、ジェームも、シェイムも、シムも、ジームも、恐らく全員元は同一の高位精霊だ。


 分霊は悪魔にとっても、自我や自己同一性を破壊しかねない危険な現象であるはずだ。

 分霊によって生まれた新たな悪魔が、自分とは別の目的を持つこともある。

 恐らくは少しでもそれを制御するために名前を重ねているのだ。


 分霊を取り込むことで、元の一体に戻るつもりなのか?

 いや、そんなことが気軽にできるはずがない。

 分霊によって分けられた精霊が再び合体するなど、そんな前例は聞いたことがない。

 簡単にできることならば、ジュレム伯爵達ももっと気軽に活用していたはずだ。


 そもそも……今更精霊体を失いまくった四体が合体したところで、そこまで大きな脅威になるとは思えない。

 ジームの分、まるまる一体欠けているのだ。

 ……だが、今の行動に、俺は不穏なものを感じ取っていた。


 ジュレム伯爵は断面が閉じた後も、左右の身体が不自然に若干ずれていた。


「……貴様は、ここまで我々を追い込むべきではなかったぞ。私としても残念だ。クゥドルが弱るまで、アレは出すつもりではなかったのだがな」


 ジュレム伯爵は左右ズレた口を動かし、淡々とそう言った。


「今更負け惜しみを……」


「我々高位精霊は賭けに出るのが嫌いなのだよ。本当に貴様は、私達が世界戦争とメビウスだけを頼りにクゥドルへと挑もうとしていたと思うか?」


 ……高位精霊は賭けに出ない。

 それはシムも口にしていたことだ。

 この世界の摂理の一つとして悠久の時を生き続ける高位精霊は、人間の様に一時の感情で身を危険に晒すことを好まない、と。


 確かに、戦争を起こしてクゥドルへ世界中の戦力を仕向けても、メビウスをしつこくぶつけても、そこまで大きな決定打になるとは思えない。

 クゥドルはディンラート王国の守護神ではあるが、追い詰められれば国土や民に多少損害が出ることよりも、確実にジュレム伯爵を滅する道を選ぼうとするだろう。

 その辺りを考慮すると、ジュレム伯爵達が効率的に挑むことができたとして、今見えている戦力だけでは勝率は二割もないはずだ。


 ……夥しい時間を掛けて打倒クゥドルを企てていたジュレム伯爵達が、そんな不確定な策を実行するというのはやや不自然ではある。


「我々は、クゥドルをも凌ぐ強大な力を手に入れた。だが……それは、膨大すぎるが故に、完全に制御することができなかった。力を入れ過ぎれば、最悪全ての世界を壊してしまいかねないのでな」


「ク、クゥドルを凌ぐ力……?」


 ……あり得るのか、そんなものが?

 クゥドルでさえ、過剰な魔力を貯め込み過ぎたが故に行動に大きな制限を受けている。


 というか……クゥドル以上の化け物がいるならば、はっきりいって俺ではどうにもならない。


「故に少しでも力を出さずに済む様に……奥の手を出す前に、クゥドルを弱らせておく必要があったのだ。お前のせいで、全ては無駄になったがな。ゴブリンをドラゴンで潰すようなものだが……仕方あるまい。お前は強すぎた」


 ジュレム伯爵が、木偶竜の尾を蹴って飛び降りた……かと思いきや、一直線に空高くへと、凄まじい速さで飛んでいく。

 途中でジュレム伯爵の輪郭が崩れていき、ただの緑の光の塊となっていた。


「追え! 神火球!」


 木偶竜が口から連続的に火の球を吐き出す。

 だが、途中まで追い掛けた後は軌道を真っ直ぐに変え、狙いを外して無関係なところへと飛翔していった。


「逃がしたか」


 ……移動速度が速すぎて、今から追い掛けるのは無理だ……。


「お、追い払ったのか? さすがマーレン……いや、我らが新たな同胞よ! 余に名乗る権利をやろう!」


 オルヴィガが手を叩いて喜んでいた。

 ……だが、どうやらそれどころではないかもしれない。


 ジュレム伯爵の緑の光は、遥か空の彼方……地上へと大接近している(ディン)へと吸い込まれていっていた。

 魔法樹アルベリュートの下部の方からもう一つ、弱々しい光がジュレム伯爵を追って真上へと飛んでいく。

 恐らくあれはジェームだ。


 この移動は(ディン)の重力を利用したものか。

 わざわざ俺に戦いを仕掛けておいて、このタイミングで戦闘から離脱して(ディン)にジュレム伯爵一派を集めるのか……?


 嫌な考えが頭を過ぎった。


 クゥドルはディンラート王国を護るために造られた人工精霊兵器であり、敵になり得る強大な魔力の塊を感知することができる、ということだった。

 

 ジュレム伯爵はクゥドルの感知能力の対策のために、(ディン)からメビウスという兵器をこの地へ運ぼうとしているのだと考えていた。


 だが、足りないのだ。メビウスの魔力にクゥドルが過敏に反応するとは思えない。

 確かにそれなりの力は有していたが、魔力の最大出力だけで見ればせいぜいジュレム伯爵と同等程度だろう。


 ……メビウスはあくまで戦力の一つであり……もっと危険な主戦力が(ディン)には眠っているのではなかろうか?


 俺はジュレム伯爵が危険を冒してまで分霊で精霊体を分けていた理由は、クゥドルの感知能力を警戒して一個体に留まることを恐れているためだろうと考えていた。

 魔力を分散させれば感知には引っ掛かりにくくなる。


 だが、仮にジュレム伯爵がもっと凶悪な大精霊で、多少分霊で精霊体を分けてもクゥドルの感知能力から逃れることができなかったとすれば、果たしてどう動くだろうか。

 俺ならば本体はどこか安全な場所に隠して、地上を出歩くための身体としてごく一部の精霊体のみを使って分霊を生み出すかもしれない。


 ジュレム伯爵は、その安全な隠し場所を持っている。


「まさか、本体は……(ディン)に?」 


「ア、アベル……今、あの人が言っていたのって、いったい……?」


 メアが俺へと歩み寄りながら、恐々と尋ねてくる。


「おお、お前はアベルというのだな! 奴らからも何度か呼ばれていたな! ……では、アベルよ、騒ぎも終わったことだし……余を城へと返してくれるのであるよな?」


 オルヴィガも遠慮なく走ってくる。


「……悪いけど、お前を送り届けている時間はないかもしれない。とにかく、(ディン)の近くはまずい。今すぐディンラート王国まで戻りたい」


「な、なんだと! 約束を違えるつもりか! 余をエルフの城へと送り届けろ! 届けてください! これ以上巻き込まないでくれ! 余なんていなくてもどうでもいいであろうが!」


 そのとき……空に浮かぶ(ディン)に罅が入った。

 砕けた残骸が、無数の巨大な隕石となって落ちてくる。

 オルヴィガも木偶竜の上に這いつくばり、呆然と空を見上げている。


「そ、そんな馬鹿な……わ、我らハイエルフの象徴である(ディン)がなくなっては、我々は滅ぶしかないのだぞ……?」


 (ディン)に入った罅の奥から、巨大な顔がこちらを覗いていた。


「な、なんですか、あの化け物……」


 メアが呆然と零す。

 俺も、そのあまりの不気味さに言葉を失った。

 巨大な顔は竜の様だが……大小異なる目玉が雑に配置されており、その全てが憎悪を込めて俺を睨んでいた。


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