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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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七十二話 太古の破壊者メビウス②

 木偶竜ケツァルコアトルはついに魔法樹アルベリュートへと入った。

 青白く輝く巨大な枝を木偶竜の頭でへし折ったり削り飛ばしたりしつつ、突き進んでいく。


「き、貴様のへし折った枝の数々、どれだけの価値があると思っておる!」


 オルヴィガは魔法樹の枝がへし折れるたびに、頭を抱えて嘆いていた。


「悪いがこっちも時間が惜しいんだ」


「シルフェイム様の神樹を無碍にするようならば、さすがの余も容赦せんぞ!」


「焼き払って進まないだけまだよしとしてくれ」


 俺が杖を掲げると、オルヴィガがぎこちない笑みを浮かべ、手を揉んだ。


「も、もうちょっとだけ避けたりできぬか? 気持ち避けるくらいでもよいのだが……」


「……わかった、善処する」


 とりあえずそう返しておけば、オルヴィガはそれ以上言葉では抗議して来なかった。

 ぶつかる度に、露骨に表情を歪ませて非難がましく俺を睨んでいたが。


 ……魔法樹アルベリュートの中に入ってしまえば、樹というよりまるで複雑に入り組んだ崖の連なりの様であった。

 しばらく上に向かっていると、大地の如く広がる巨大な枝の上に、大きな石造の古い宮殿のようなものが見えて来た。

 空を見上げれば、僅かに日の光が差し込んできている。

 魔法樹アルベリュートの最上部まで到達したようだった。


「……あれが、旧大神殿でいいんだな」


「あ、ああ、そうだ」


 ……ついに、ここまで来たか。

 これで俺にとってのジュレム伯爵騒動も終わるはずだ。

 メアさえ取り返せば、後のあいつらに用はない。


「……神殿ごとぶっ飛ばすか、いっそのこと魔法樹丸ごと焼却できれば話は早かったんだが、メアが囚われているのが痛いな」


「…………」


 オルヴィガが死んだ目で俺を見ていた。


「何か言いたいことでもあるのか?」


「……いや、好きにしてくれ。余に危害さえ加えないならばもうどうでもよいわ。さっさと終わらせて余を城に戻せ」


 俺は神殿のすぐ近くに木偶竜を停めた。

 ……ここに木偶竜を放置していくのは危険な気もするが、この規模の兵器となると気軽に転移魔術で遠くへ隠すことも難しい。

 起動条件を厳しく設定し、オーテムを配置して警備させるしかない。


 俺は魔法陣を浮かべ、木偶竜ケツァルコアトルのセキュリティを再設定して強めておいた。

 この規模であれば、さすがに転移させて安全なところに隠すというのもあまり現実的ではない。

 最悪壊されてしまってもいいが、最も警戒するべきなのは木偶竜ケツァルコアトルの操縦権を奪われることだ。


「よし、行くか」


「お、おい! 余は、余はどうなる? 早く城に戻せ!」


「そこで待っておいてくれ。妙なことはするなよ、すぐにオーテムが反応してお前を袋叩きにする」


「お城帰りたい……なんでこの余が賊に攫われて、こんなところまで誘拐される羽目になるのだ……」


 オルヴィガががっくりとその場に膝を突く。

 ……まぁ、今更ハイエルフ程度の連中に何かができるとは思えないし、後で城に返しておいてやろう。


 俺は木偶竜を守るようにオーテムを配置した後、枝の上へと降り立ち、旧大神殿の門を潜った。

 長い通路を抜けた先の、大きな広間に出た。

 シルフェイムに所縁のある高位精霊を模した像が左右の壁に並んでおり、奥には巨大な四枚の翼を持つドラゴンの壁画があった。

 ……空の神、シルフェイムだ。

 土地や宗教によって描かれる姿は若干異なることもあるらしいが、ディンラート王国で見たものとそう大きな違いはない。


 ……そして、壁画の前の祭壇には、メアが寝かされていた。

 なぜか普段とは違い、赤と黒に彩られたローブを着せられている。

 そして祭壇の前には、見覚えのある緑色のポニーテールの少女が、俺に背を向けて立っていた。


「……やっほーアベルちゃん、ちょっと振りだね。ジュレムが戦って逃げたって聞いて、アベルちゃんならここまで来るんじゃないかなって思ってたよ」


 シェイムがゆっくりと俺を振り返った。


「……一人か?」


「今はね。これ以上面子を減らされるわけにもいかないし……アベルちゃんを余計に刺激しないためにも、アタシが単身でここに待つのを提案しておいたの」


「まるでお前だけだと、俺を怒らせないと思っているみたいだな」


 俺はシェイムへと杖を向けた。


「……よくもあれだけ手酷く裏切っておいて、堂々と姿を晒せたな。親友だと思っていたのは、俺達の方だけだったらしい。はっきり言って俺は、お前らジュレム一味の中でお前が一番嫌いだシェイム。俺も平穏に解決させられれば何よりだと思っていたが、お前達がまともな話し合いをする気がないのは知っている」


「アタシ達が信じられないのはわかるけど、それでも理は信じられるんじゃないかな? クゥドルは魔力の回復効率が悪くて、魔力を失うことを何より恐れているのは知っているでしょ? アタシ達も同じよ。魔力の消耗を強いられ続けられると、クゥドル相手に明確な詰みが見えてくるの」


「…………」


「はっきり言って、アベルちゃん相手にシムを瀕死に追い込まれて、ジュレムとジレメイムを大きく消耗させられて、挙句の果てにジームまで処分されたのは、もうサイアク中のサイアクなの。アベルちゃんにとってもそうだろうけど、明確に対立せずに済んだかもしれないアベルちゃんと正面から何度も衝突することになったのは、アタシ達にとっては大損害だったよ」


 ……よく言ってくれる。

 こっちはクゥドルとジュレム伯爵の争いに巻き込まれては無事で済まないと考えて、メアと逃げる道を選んでいたのだ。

 そこに横槍を入れて来たのがシムであり、最悪の形で裏切って邪魔してくれたのがシェイムであり、不要になった俺を処分しようとしたのはジュレム伯爵だ。

 何度も仕掛けてきたのはそっちの方だ。


「ここで残った四人でアベルちゃんを叩くっていうのがジュレムの策だったけど、それで勝ったとしてもアタシ達にとっては戦って消耗した時点で負けのようなものなの。だからアタシは、その前に交渉する機会をくれるように提案したの。今のアタシ達は、リスクを背負ってでもアベルちゃんに譲歩する理由がある。わかってもらえるかな?」


「長々と無駄な話をして信用を得ようとするのは詐欺師のやり口だ。まずは結果から言え。この場でメアを返して、俺達にもう干渉しないというのなら俺から何かをするつもりはない。だが、それ以外なら呑まない」


 シェイムは少しの間黙って固まっていたが、やがてゆっくりと首を振った。


「……悪いけど、それはもうできないよ」


「なんだと?」


「おお……久しいの。そこにおるのは、シェイムか? 五百年振りではないか」


 祭壇より、メアの声が響いた。

 俺が驚いて目を向けると、メアがその場に立っていた。

 いや……よく見れば、メアではない。

 額には赤の魔力結晶が輝いていた。

 メアはほとんど魔力がなかったが、目前の女からは禍々しい魔力の塊を感じる。

 それに、何より、メアとは顔つきが違い過ぎる。


「うむ、よい、しっくりと来る躰である。さすが、これまでのテストとは規模が違うの。……して、シェイムよ、そこにおるマーレンの男は何者じゃ?」


 俺は呆然と、目前の女を眺めていた。

 それから説明を求め、シェイムの方を見る。


「……彼女はドゥーム族の始祖、メビウスよ。知ってるんでしょ? 空神シルフェイムは、クゥドルを相手取るに当たって魔力回復の遅い精霊だけでは無理があると判断して、最強のニンゲンを造って、彼女を守りながら何度も攻撃を仕掛ける策を練ったの。それがメビウス。元々、メアちゃんのようなドゥーム族の赤石の赤子は、(ディン)の重力に封じた彼女の魂の入れ物なの。メアちゃんの魂は、もうメビウスのおっきな魂に押し潰されちゃったのよ」

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