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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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七十話 空統べる耳長の軍勢⑥

 オルヴィガは呆然とした顔で空を見上げていた。

 何度も目を擦った後、ペガサスから落馬してそのまま地面へとへたり込んだ。

 地面に突っ伏したまま何か口許で言葉を繰り返していたようだったが、距離があったため聞き取れなかった。

 ペガサスを通しての思念波もないので、全く何を言っているのかわからない。


 まぁ、別にわからなくてもいいかもしれない。

 なんというか……ぶっちゃけ、オルヴィガはしょっぱい奴だった。

 これ以上有益なやり取りもできないだろう。


 他のハイエルフ達も戦意を失ったらしく、空とオルヴィガを交互に見ては、失望した様に顔を手で覆っていた。 

 中には泣き崩れている者もいる。

 ……自分達の崇めていた、一万年を生きる王があれだけ無様を晒したのだから、当然なのかもしれないが。


 ……もう、ハイエルフ達に用はない。

 勝手に空を飛ばさせてもらって、ジュレム伯爵の気配を捜すことにしよう。

 これ以上向こうからちょっかいを掛けて来ることはないだろう。

 少なくともこの場に居合わせたハイエルフは出張ってこないはずだ。


「あ……」


 そこまで考えて、ふと気が付いたことがあった。

 そうだ、なぜこんなことに俺は思い至らなかったのだ。


 オルヴィガは、俺がここに来るのを事前に知っていたかのようなことを口にしていた。

 精霊も来ていた、と言っていた。

 オルヴィガは恐らくジュレム伯爵を知っている。


 つまり、オルヴィガを締め上げればジュレム伯爵とメアの居場所が割れる算段が高い。


 捜すまでもなく手掛かりが向こうから来てくれていた。

 ハイエルフの王を捕まえる様な真似は天空の国(アルフヘイム)に混乱を招くだろうし、極力穏便に動きたかった俺にとっては避けるべき行為だった。

 しかし、オルヴィガが向こうから突撃してきて勝手に自爆した今、その縛りももう大した意味はない。


 無関係なハイエルフ側にあまり迷惑を掛けたくはなかったが、それも今更の話だろう。

 オルヴィガの言動を見ていると罪悪感も萎みつつあった。

 そもそも、ジュレム伯爵の関係者であったならば、オルヴィガは無関係でも何でもない。

 ひっ捕らえられてボコボコにされてもそれは仕方のないことだろう。


 俺は木偶竜を旋回させ、オルヴィガの近くへと戻ることにした。

 オルヴィガはペガサスの横で地面へ頭を打ち付け続けていた。

 何か妙な呪文を詠唱し続けているようだった。


「おかしい、悪夢が覚めない、悪夢が覚めない……悪夢が覚めない!」 


 気のせいだった。 


 俺はオルヴィガへと大きく近づいた後、彼へと杖を向けた。


বায়ু(風よ) বহন(運べ)


 生じた風の塊が、オルヴィガへと纏わりついて彼の身体を宙へと浮かす。

 そのまま木偶竜の上まで一気に引き寄せていく。


「うっ、うおおおおっ! なぜ余が空へと落ちていく! そうか、やはりただの悪夢であったのだぁぁあああああっ! だとしたら早く覚めてくれええええええっ!」


 ハイエルフ達が呆然と見上げる中、オルヴィガの姿が空へと舞っていく。

 そしてそのまま、徒手のハイエルフの王を俺の目前へと叩きつけた。


「ひゅぶごうっ!?」


 オルヴィガは登場時の優雅な様子からは想像もつかないような無様な声で悲鳴を上げた。

 俺はそのまま木偶竜の高度を上げ、その場から離れることにした。

 ハイエルフ達が、自身らの王であるオルヴィガを取り返しに来る恐れがあった。

 まずないだろうが。


「とっとと目を覚ませ、ここが現実だ。お前と遊んでいる時間は俺にはない」


 オルヴィガはふらりと立ち上がり、俺を睨んで不気味な笑みを浮かべた。


「愚か者め……この余が、杖がなければ何もできないと思ったか? 大型魔導兵器に生身で対峙させられてはさすがの余とて苦戦を強いられたが、この奇船の上に乗ってしまえばこちらのものだ。さあ、先程までのお返しをさせてもらおう……」


「……বহন(運べ)


 俺が杖を振るうと、十の魔法陣が浮かび、同じ数のオーテムが前方に現れた。

 オルヴィガは顔を強張らせた後、一体一体を値踏みするように目を血走らせて確認する。


「どうする? やるか?」


 俺が問うと、オルヴィガの額を汗が伝った。

 オルヴィガは汗を拭うと息を呑み、強張った顔をせいいっぱい誤魔化しながら不敵に笑ってみせた。


「よかろう! 来るがよいマーレン! やはり神託の男よ、ただものではなかろうと最初から睨んでおった! 余が、貴様を対等と見て、アルフヘイム流の決闘を申し込む! これは地上人に過ぎぬ貴様にとって最上の名誉であるぞ! さあ、その木偶人形と杖を一度手放……!」


 俺は無言で杖を振るった。

 十のオーテムが一斉にオルヴィガへと襲い掛かっていく。

 オルヴィガは大きく口を開けて背後に走って逃げようとしたが、木偶竜の端まで来て逃げられないと観念したらしく、身を翻して腕を高く掲げた。


「よし、わかった! この余が話を聞いてやろうではないか!」


 オルヴィガの提案と同時に、先頭を駆けていたオーテムが彼の腹部を頭で撃ち抜いた。

 オルヴィガの身体が床へと叩きつけられる。

 残る九体のオーテムがオルヴィガの身体へと一斉に殴打を始めた。


 数分袋叩きにした後、俺はオルヴィガを解放した。

 オルヴィガは痣だらけで床の上に伸びていた。

 ……普通の人間ならここで折れるだろうが、ハイエルフは頑丈な上にプライドの化身だ。

 その王であるオルヴィガであれば尚更だ。

 ここは少し、時間が掛かるかもしれない。


「神託とやらについて、話してもらおうか。俺についても何か知っている口振りだったな? お前達にとっても大事なことなのだろうが……隠し立てするなら、手段は選ばないつもりだ」


 俺が杖を向けると、オルヴィガは身体を丸めて頭を地に着けた。


「わかった! 何でも話そう! この国には高価な魔法具や魔鉱石もある! 何ならこの国の領地の一部を貴様にやってもいい! 余自ら、貴様を名誉ハイエルフに認定してやってもよい! だから、余の命だけは見逃してくれ……!」


 意表を突かれて俺は硬直した。

 な、何かの罠か……? いや、例え罠でもハイエルフにここまで無様な真似ができるか?


「お前……何を考えてるんだ?」


「何を考えているだと? 王の命に勝る宝などあるものか! 余が助かるならば安いものだ!」


「いや、ハイエルフのプライドとか……ないのか?」


「愚か者め! 小さき考えだなマーレン! どう足掻こうとも百年と生きられぬ下等生物の考えよ! なぜ余が神話戦争末期より一万年生きながらえ続けて来たと思っている! 余は自分自身の命を何よりも優先してきたからだ! そのためならば一切の手段を選ぶつもりはない!」


 ほ、本気か、コイツ。

 最初に想定していたのとは別の方面で十倍クズだった。

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