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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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六十五話 空統べる耳長の軍勢①

 精霊ジームの討伐に成功した俺は、ラルクのいるラッセル村近くの森を歩く。

 暗くなってきたため、口の中に光を灯したオーテム型カンテラに先を歩かせていた。

 俺はある場所まで来たところで足を止め、顔を上げた。


「……まだここにあってよかったよ」


 俺は溜息を吐く。

 目前には、全長二十メートルにも及ぶ、巨大な木彫の竜が鎮座している。


 俺が錬金術師団の面子に手伝ってもらい、ペテロに気前よく出資してもらって完成させた、木偶竜ケツァルコアトルである。

 元々俺が対ジュレム伯爵兵器兼、クゥドル対策として造ったものであった。


 これを用いて……恐らくはメアとジュレム伯爵がいるはずの、天空の国(アルフヘイム)へと乗り込む。

 

 対ジュレム伯爵においては魔力波塔も兵器として運用したかったところだが……残念ながら、アレを使うわけにはいかない。

 まだまだ兵器としては未完成なのだ。

 下手に試運転すれば何かあったときにディンラート王国が世界から消し飛びかねないので、時間を掛けてゆっくりとやっていくしかない。


 俺が木偶竜ケツァルコアトルに乗り込んだとき……かたりと背後から物音が鳴った。


「しまっ……!」


 意識が完全に木偶竜ケツァルコアトルに向いていて、何者かが潜伏している可能性を考えていなかった。

 俺は杖を抜いて振り返るが、肩に体重を掛けられ、そのまま地面へと組み伏せられた。


「確保ーーーーーっ!」


「うぶっ!?」


 聞き覚えのある高い声と共に顎が床に叩きつけられ、頭に衝撃が響く。

 振り返れば、目つきの悪い巻き髪女が俺の背に跨っていた。


「やっぱり……森の一部が吹っ飛んで火柱が上がったのを見て、絶対にアンタだと思ってたわ!」


「ア、アルタミア!」


 俺は周囲を見回す。

 ペテロやクゥドルの姿は見えない。

 単独で動いていたようだ。

 アルタミアが不敵に笑う。


「ゾロモニアか魔力波塔、木偶竜のどれかに用事ができたんだと思ったけど、ここに賭けて正解だったわね。ペルテール卿に頭を下げに来たのかもと思ったけど、そっちならわざわざ私が先回りする必要はないし、そもそもアンタがそんな殊勝な行動取るはずないもの」


 ……俺は必要とあれば、誰が相手であろうといくらでも頭を下げられる自信はある。

 こう見えてプライドより実利主義なのだ。


 ただ、今回の件についてはペテロには下手に話せない上に、クゥドルの手も借りられない。

 クゥドルは個人より国を、国より世界を見て動いている。

 メアがジュレム伯爵に攫われたと知れば、救出よりも彼女を殺しに掛かるだろう。

 確かに俺はペテロに謝らなければならないことが山ほどあるが、それができるのは全てが終わってからだ。


 ついでに概ねリーヴァイの槍の解析が終わっているため、ゾロモニアには本当に用はない。

 知恵と破滅の大悪魔と謳っておきながら彼女は至らない点が目立つため、とりあえず魔導書を読み漁っておいてもらおう。


 アルタミアがばっと腕を俺に見せつけて来る。

 何をやっているのかと思ったが、腕に革で巻かれた円盤がついていることに気が付いた。

 えっと、これは、確か……。


「私の魔導携帯電話(マギフォン)壊れちゃったんだけど、ねえ! 落としたりしてないのに!」


 ああ……アルタミアを誤魔化すために強引に形にした、試作品の魔導携帯電話(マギフォン)か……。


「やっぱり粗があったか……」


「や、やっぱりって何!? そもそもアンタ、どうするつもりなのよ! 魔導携帯電話(マギフォン)開発に月祭(ディンメイ)の祝い行事に錬金術師団の育成に魔導携帯電話(マギフォン)開発と仕事が山ほど残ってたのに、全部中途半端に放り投げちゃって! ラルク男爵、もう凄い怒ってるわよ多分!」


 アルタミアが俺の首を締め上げる。

 本気ではないはずだが、かなり苦しい。

 俺は必死に床を叩いた。

 魔導携帯電話(マギフォン)開発二回言いやがった。

 怒ってるのはラルクじゃなくてお前だろうが。


「ス、ストップ! ストップ! ちょっと、一回離して! 本当に死んじゃうから!」


「いや、それらはいいとしても……魔導携帯電話(マギフォン)はよくないけど……ジュレム伯爵の問題もあったんでしょう? アベルの指示に従って、ペルテール卿も財力注ぎ込んで出資してくれてたのよ! さすがに無責任が過ぎるわ! ペルテール卿に何されても知らないわよ!」


 アルタミアがようやく俺の首から手を離して立ち上がった。

 俺は咽ながらその場で転がり、木偶竜の内装の手摺伝いに立ち上がる。


「……アベル、あの子はどうしたの? どこかで待たせてるの? そもそも、何のためにこの木偶竜を取りに来たの?」


 アルタミアが木偶竜の端に立ち、森を見回す。


 アルタミアは、メアの赤石騒動については知らないようだった。

 ペテロはさすがに、俺が逃げた際にデフネかクゥドルから情報を得て知っているのだろうが……。


「メアは……ジュレム伯爵に連れ去られたんだ。俺のせいだ」


 俺が言うと、アルタミアは驚いた様に目を見開き、身体を硬くした。


「え……あ、あの子が?」


「……ちょっと事情が入り組んでいる。ペテロはきっと今のままだと、誘拐されたメアをどうにか殺そうとする」


 ペテロにその力がないとしても、クゥドルは直接天空の国(アルフヘイム)に乗り込んで暴れる、くらいはあっさりとやってみせるだろう。


「……だから、ペテロが強硬策に出る前に俺が奴の隠れ家に乗り込んでメアを助け出し、ジュレム伯爵を完全にぶっ潰す」


 ジュレム伯爵とも、伝説の錬金術師ジレメイムことジェームとも、既に戦った。

 確かに強かったが、クゥドルのような圧倒的な力はなかった。

 奴らはクゥドル打倒のために何かの策を組んでいるようだが……木偶竜ケツァルコアトルは、元々クゥドル対策で俺が造った浮上要塞だ。


 しばらくアルタミアは呆気に取られた表情で固まっていた。

 少し間を置いてから頭を押さえ、「状況、全然呑み込めないんだけど……」と小さく零し、言葉を続ける。


「勝算は、あるんでしょうね?」


 俺は頷く。


「……そ、じゃあ見逃してあげるわ。ちゃんとあの子を助けてあげなさいよ。帰ってきたらペルテール卿に頭下げて、魔導携帯電話(マギフォン)と魔力波塔の開発も進めるのよ。私がついていってあげてもいいんだけど……足手纏いにしか、ならなさそうね」


 アルタミアはそう言い、軽やかに跳んで手摺の上に立った。


「……死んだら、承知しないわよ。楽しみにしてるんだから」


「ああ……任せてくれ。戻ったらもう、兵器だのなんだのは必要なくなってるはずだからな」


 アルタミアはそう言って空を見て……目を丸くした。


「……随分、(ディン)が大きいわね。今回の月祭(ディンメイ)は特別だって話だったけれど……それにしても、異様すぎるんじゃないの? 昨日と比べて、急に大きくなったわね」


 俺はちらりと空を見る。

 ついこの間までは通常の倍程度の大きさだった(ディン)が、今夜は五倍近い大きさになっていた。


「……急いだ方が、よさそうだ。悪いアルタミア、行かせてくれ」


 アルタミアは小さく頷き、木偶竜ケツァルコアトルより飛び降りた。

 俺は木偶竜の頭の方へと向かい、埋め込まれた魔鉱石の塊へと杖を振るった。

 木偶竜の眼が光を放ち、その場から浮かび上がった。

 木偶竜の周囲を何重もの結界が包み込む。


「無事でいてくれよ、メア、すぐに行くからな……!」


 俺は歯を食い縛り、空に浮かぶ巨大な(ディン)を睨む。


 精霊だか、神話時代からの因縁だかは知らないし、興味もない。

 世界の支配権だのは好きに争えばいい。

 事実、俺はクゥドルに協力の要請は受けていたが、すっぽかして逃げるつもりだった。

 だが、メアに手を出した以上、俺が全部終わらせてやる。

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