五十九話 火の国からの来訪者⑨(side:収集家)
「奴が作ったものとなると、気に喰わぬな。が……」
収集家は真幻銅の剣を右手に、ジームと対峙する。
「性能だけは保証されておる。遠く及ばぬが、失った我が宝の弁償代として受け取っておいてやるとしよう」
「ヒホホ! たかだか対精霊剣如きで、我が『龍流し』を破れるはずがあるまい!」
ジームが六つの腕を伸ばし、収集家へと掴みかかる。
収集家はジームを避けるために大きく引きながら、剣で宙を薙いだ。
ジームの伸ばした腕の一本に大きな剣傷が走る。
ジームの全身の目が見開いた。
「馬鹿な、こんなことが……! 私の完成させた、無敵の秘技が……!」
「バカめが! 誰の造った兵器を求めてここに来たのか、思い出すべきであったな!」
収集家は深く踏み込み、ジームの身体を狙って刃を放つ。
ジームは素早く背後に跳び、体勢を取り直そうとする。
収集家は遠ざかるジームを睨みながら、垂らしていた左腕を伸ばして剣を握り、両手持ちへと切り替える。
「あり得ぬ! 左腕は、確実に握り潰したはず……!」
「消し飛ぶがいい! 『王神竜の咆哮』!」
収集家の魔力が真幻銅の剣の刃を伝い、実体を伴った斬撃として放たれる。
ジームは腕を伸ばし、地面を叩いて自分の身体を宙へと跳ね上げて回避する。
放たれた斬撃は木々を斬り、地表を根こそぎ削り取り、彼方へと飛んでいく。
ジームの身体に浮かぶ目玉は、一斉に斬撃の軌道を追っていた。
あれが直撃すれば、ジームとて無事では済まない。
収集家が歯を剥いて笑う。
「ほう、気に入った」
剣を軽く振るい、再び構える。
以前の剣の様に、『王神竜の咆哮』に刃が耐えきれずに朽ち果てることもなかった。
「その円塔が、何かわかっておらぬのか! そんな制御も怪しい莫迦げた威力の技を振るって、もし円塔に当たれば何が起こるか……!」
「知ったことかァ! ならば、貴様が退くことだ!」
収集家はジームへと駆けながら、途中で再度『王神竜の咆哮』を放つ。
収集家とて、剣が耐えたとしても、そう気軽に撃てる技ではない。
だが、彼も既に力を温存している余裕はなかった。
攻撃手段を得た今、短期決戦以外に選ぶ道はない。
ジームは地面を蹴って宙を舞い、『王神竜の咆哮』を回避する。
収集家は続けて『王神竜の咆哮』を放とうと剣を振り上げるが、その隙にジームが間合いを詰めていた。
「安易に連打しおったな!」
ジームが一組の腕を組み、『煉獄槌』を収集家へと叩き込む。
収集家は剣で応じる。
真幻銅の剣の前では『龍流し』は無意味であるため、純粋な力と力の押し合いとなる。
力押しを制したのは、ジームの『煉獄槌』であった。
収集家は押し負けて弾かれ、剣を引きながら後退する。
ジームは収集家の体勢が崩れたその隙を逃さない。
『煉獄槌』とは別の腕で収集家の首を掴み、地面に頭から叩き落してから上へと掲げる。
続けて残る五本の腕で、収集家を執拗に乱打し始めた。
「お前の異常な打たれ強さはわかった! 捕まえたからには、確実に息の根を止めてくれるわ!」
ジームの五本の腕が、豪速で収集家を打ち続ける。
収集家はもがいて抵抗するが、びくともしない。
ジームはもう、収集家を逃がすつもりはなかった。
収集家の死を確認するまで解放する気はない。
血が舞い、肉が削げ、身体が曲がる。
身体を守っていた腕も、だらりと地へ垂らされていた。
「わ、私もいるんだから! 忘れない事ね!」
「む……」
アルタミアは十二の炎の球を浮かべたまま、ジームのすぐ頭上へと直接転移魔術で移動した。
そして彼の背へ、次々に炎球を叩きつけていく。
「あ、当たった……?」
アルタミアが不安げに言う。
ジームの全身の目が、苛立つ様に彼女を睨んでいた。
ジームの意識がアルタミアへと寄ったその刹那、収集家がかっと目を見開き、手にしていた剣を円を描く様に振るう。
収集家の首を押さえ付けていたジームの腕の手首が半分ほど切断され、指を離した。
解放された収集家が、足から着地する。
「また仕留め損ねたな! フハハハハ! 多少の役には立つではないか魔女!」
「なぜ、なぜ動ける……!」
ジームは全身の目で、収集家をくまなく観察する。
そのとき、収集家自身が血塗れでわかり辛いが、身体が内部から急速に治癒し始めているのが見て取れた。
治癒が働く際、僅かに体内が青く発光している。
「そうか……その不死身に近い生命力、かつてお前が天空の国より強奪した、三杯のアムリタの副産物か」
「そうらしいな。もっとも、我が傷を負うことなどないので、これまで気づかぬままであった。我に怪我を負わすなど、やるではないか、精霊如きにしてはな」
収集家は豪快に笑い、剣を振り上げてから構える。
「強がっても無駄だ。アムリタも力も、もう尽きようとしておるのが私にはわかる。それに……もう一度捉えてしまえば、もう先程の様な幸運は訪れぬぞ」
収集家に斬られたジームの手首が震え、傷が再生していく。
「確かに、私はここまでニンゲン如きに追い込まれるとは、夢にも思っておらんかった。誇るがいい、この大精霊ジームと単騎でここまで渡り合ったニンゲンは、貴様が初めてだ。だが、この私を倒しきることなど、絶対にあり得はせぬのだ」
ジームの言葉に、収集家は口の両端を吊り上げて歯を見せた。
「思い上がるなよ精霊!」
収集家は地を蹴り、掲げた剣を豪快に振り下ろす。
ジームの手刀がそれを受け止め、そのまま収集家を真上に弾こうとする。
上に飛ばせば、相手の行動を大きく制限することができる。
だが収集家はジームの腕を蹴り飛ばして反動で真横へ飛び、地面へと着地した。
収集家は更に背後へ跳び、『王神竜の咆哮』を撃てる間合いを作ろうとする。
だが、ジームはすばやく迫り、距離を潰す。
「もう出し惜しみはせん! 私の最後の絶技を見せてくれる!」
ジームは六つの腕を広げ、駆ける速度を上げた。
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