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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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五十一話 火の国からの来訪者①(side:ジーム)

 ――ディンラート王国の遥か西にある地、マハラウン王国、マハラ・ラオル宮殿の最奥部、王の間。

 マハラウン王国の五大老の長であり、国の王である大柄の老人、マグラが王座に座っている。

 王座の周囲には、王の護衛である僧兵が並び立っている。


 マグラ王の前に、身体中を布で覆った、矮躯の老人が頭を垂れていた。


「マグラ王よ、少し、私はこの国を出させていただきましょう。大事な、大事な用事ができましたのでな。しかし……余計な気は、起こさぬように。宮殿内には、私に心酔している者も多いのですからね。ヒホホホホ……」


 彼は五大老の一人、ジームである。

 ジームは立場上はマグラ王の下であるが、同じく五大老の一人であった穏便派のリムドが他国の要人と内通していた事実を暴き出し、他の五大老から脅迫に近い形で了承を得て彼を強引に投獄して以来、内部で急速に発言力を増していた。


 力業とはいえ、穏便派のリムドの投獄が通ってしまった時点で、ジームを中心に政治を進めるという流れができてしまったのである。

 また、ジームの言う通り、宮殿内の重鎮に彼に従う者が急激に数を増していた。

 ジームを嫌っていた人間が唐突に行方不明になってしまったことも珍しくない。

 一つ一つは偶然と言い切れなくもないが、結果だけ見て振り返れば、マハラウン王国の政治機関である五大老が、完全にジームによって乗っ取られつつあることは確かであった。


「ジーム殿……何故だ。何故、この様な……」


 マグラ王が恐る恐る尋ねる。

 いつもならばジームは「何のことでしょうか」と白を切るところだった。

 しかしこの日、ジームは少し顎髭に手を触れて考える素振りを見せた後に、猿の様な顔に邪悪な笑みを浮かべ、マグラ王を嘲弄した。


「ヒホホホホ……マグラ王よ、あまり深く考えない方が身のためでは? 聡明は毒でございます。それに、もう、詰んでいるのですよ。貴方を処分するのは、少々後処理が面倒になる。私がリムド殿を五大老から追い出したときの様に、ずっと黙って震えておってくだされ。既にこの国は、私のものなのですよ。貴方方は、ただの置物であるのです」


「や、やはり貴様は、ジームではなかったのだな! いつからだ! なんなのだ! 貴様は何者なのだ! 何が狙いだ! マハラウン王国で何をするつもりだ! この神聖なるマハラウン王国をどうするつもりだ!」


「失敬ですな。私はジーム。正真正銘、本物のジームでありますよ、愚鈍で憐れなマグラ王。ただ一つ偽っていることがあるとすれば、私は貴方が思っているよりも、ずっとずっと長生きであるということだけです」


 ジームは小ばかにした様な言をマグラ王へと向ける。

 今までは建前を持ち出して取り繕っていたジームの、暴言に近い素の言葉。

 忠誠を装う意味もないという宣言でもあった。

 それは既に、マグラ王に状況を覆すだけの力がないことを如実に表していた。


「そして私は、正しき世界へと導くだけですよ。何かを企てているなどと、とんでもない。私の望みはただ一つ。人間の妄執が人為的に造り上げた邪神クゥドルを滅し、人間が人間を支配する異常な時代に終止符を打つのです。古きより生きた精霊が神と称され、穢れた猿共を奴隷として使役する、マハルボ教典でも聖なる時代とされていた、正しき世界へね」


「そのために、ディンラート王国を火種に世界中を巻き込み、神話時代の戦争の焼き直しをしようというのか! 大それたことを! 貴様は狂っておる、狂っておるぞジーム!」


 マグラ王が大きな杖を手に立ち上がる。


「貴様は、貴様は、絶対に生かしておけぬ! 例え五大老が崩壊し、国が混乱に陥ろうとも、貴様だけはここで止める! すまなかった、リムド殿……やはり間抜けは、儂であったのだ。だが、儂は、ここで過ちを正す!」


 その際に、王の護衛としてこの場にいるはずの僧兵達が、一斉にマグラ王へと杖を振りかぶり、頭や身体のすぐ手前で止めた。

 身体に向けられた杖が寸止めされていなければ、間違いなく全身を滅多打ちにされて落命していた。


「ヒホホホホ……いやはや、間抜けというご自覚があったようで何よりでございます、マグラ王よ。しかしご自分で思っているよりも、もう少し低く評価されてみては如何か……? 貴方ではなくリムドを先に五大老から蹴り落としたのは、貴方が全く敵視するに値しないほどの無能であったからにございます」


 マグラ王は静止したまま周囲へと目線を向け、顔を蒼白にする。


「お、お前達……裏切ったのか! その男に従っていれば、この先には破滅しかないのだぞ! なぜそんなことがわからぬ!」


「我々はジーム様に従っているのではございません。火の神マハルボ様に、そして偉大なる先人方の遺志に従っているのです。マグラ王、貴方はもう、この国には必要ない」


 僧兵の一人がそう口にした。


「ジームゥ! 貴様、既に内部で独自の思想を広めておったのだな! 騙されるでない! それは経典の曲解である! 邪教による乗っ取りだ! マハルボ様の意思を歪めて利用しておる、何よりも許されぬ大罪である! ジームは異端者だ!」


 マグラ王が叫ぶ。

 しかし、誰もそれに耳を傾けはしなかった。


「王は乱心なされておる。今後はこの王の間から、いや、その王座から立てぬ様に見張っておけ。ヒホホホホ。それから……誰でもよい。四人ほど私の旅路に付き添うがいい」


「はっ、ジーム様! 承知致しました! すぐに準備させましょう! して、どこへ向かわれるのですか?」


 僧兵達が返事をする。


「ディンラート王国とリーヴァラス聖国の境の地へな。後に初代国王となった五大老のドグマは、土の神ガルージャのいぬ間にガルシャード宝殿より黄金の竪琴を持ち出したという。私もそれに倣おうと思ってな」


「……と、仰いますと?」


「またとない機会だ。ジレメイム殿は余計なことはするなと言っておったが、これを逃す道理はない。奪うのだよ。異界の忌み子の造った、悪魔の兵器をな。ディンラート王国にあんなものを野放しにしておく理由もない。我々がいただいてしまえばよい。キヒヒヒヒ、ヒホホホホホホホ!」


 ジームは笑い声を上げながら、王の間を後にした。

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