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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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四十九話 伯爵⑦

 俺としてもかなりギリギリだったが……どうにか、ジェームを生け捕りで捕らえることに成功した。

 これでメアの居場所を吐かせることができる。

 ジェームをオーテムにでも封じておけば、連中とも交渉できるかもしれない。


「メアの居場所とお前達の狙いを、隠さず吐いてもらうぞ、ジェーム」


 ジェームは憔悴した顔で俺を睨んでいたが、不意に口許が歪み、不気味な笑みを形作った。


「おや、おかしなことを言う。私は、ジェームではありませんよ」


「何を……」


 近くで、妙な魔力の動きがあった。

 海の方、いや、海面の下だ。

 俺は、ジェームの後方、船の外へと目を向けた。


 今の精霊の動きは……転移の魔術か?

 そこまで理解して、今何が起こったのか、ようやく気が付いた。


「分霊の身代わり……!」


「それでは、さようなら。まさか我々が、ここまで逃げに徹しなければいけない相手が人間の中から出て来るとは、思いもしていませんでしたよ。もう二度と、我々があなたと会うことはないでしょうが」


 ジェーム、いや、名も知らない生まれたばかりの精霊は、人間の姿が崩れてただの緑の光の塊となり、そのまま奇妙な音を立てて蒸発した。

 精霊崩壊だ。

 全体の精霊体の魔力を一気に絞り出して身体中を移動させ、精霊体の許容量を超えた濃度の魔力を循環させることで、自主的に精霊崩壊を引き起こして自殺したのだ。

 この方法で自殺されては、捕らえる暇もない。


「やられた……」


 俺は唇を噛みしめる。

 今死んだのは、正確にはジェームではない。

 ジェームの囮として、ついさっき分霊によって造られた精霊だ。


 ジュレム伯爵は、自身の左腕の精霊体を用いて分霊ジェムを造り出した。

 ジェームはその逆だ。

 俺からのカオス返しを受けた際に、カオスの黒い靄による死角を利用し、両腕以外の全身の精霊体を用いて分霊を造り出したのだ。


 直前でカオス返しを察していた割には、安易に直撃を受けたものだと思った。

 そうではなかったのだ。

 ジェームは両腕に精霊体を凝縮し、カオス返しを利用して俺の死角を突いて切り離し、衝撃に乗じて後方の海へと投げ捨てたのだろう。


 全身とは言えども、精霊である連中にとって、見かけ上の体積などさしたる問題ではない。

 道理で精霊体がすかすかだと感じたはずだ。

 ジェームにとって分霊による蜥蜴の尻尾切りは少なくない精霊体を捨てる行為ではあっただろうが、それでもよくて全体の三割未満といったところだろう。


 本来は特異現象であるはずの分霊を自在に使いこなせるということが、ここまで厄介なものだとは思わなかった。


 精霊体は悪魔にとって力の源である。 

 よく迷う素振りを見せずに一気にやってのけたものだ。

 最初からジェームは、俺を挑発しつつもまともに戦うつもりなど頭になく、タイミングを見計らって逃走することに絞って行動を取っていたのだろう。


 ……ジェームの分霊だけでも捕らえておくべきだったが、まさか精霊崩壊を用いてのノータイムでの自害を取って来るとも思わなかった。

 こんな真似ができるのなら、奴らを捕まえることはほとんど不可能だ。

 最初からジェームを捕まえることは諦め、確実に始末するように立ち回るべきだったのかもしれない。

 だが……それだと、どの道メアの行方を追うことができない。


「ク、クソッ!」


 俺は船の端まで走り、ジェームが転移を使ったであろう海面へと杖を向ける。


আত্(精霊よ)বলা(語れ)


 水が跳ねて空洞が開き、崩れた魔法陣の光が走る。


 元の魔法陣の形が再現できれば転移先がわかるかもしれないと思ったのだが……不完全である上に、暗号化が難解すぎる。

 時間を掛ければ解けるかもしれないが、部分的である上にそれも難しい。

 そもそも別の地点を経由されていれば追うことは不可能であるし、ジェームが真っ直ぐジュレム伯爵を追いかけていったかどうかもわからない。


 俺は目を瞑り、今までに俺が掻き消したジュレム伯爵とジェームの転移の魔法陣を脳裏に浮かべ、記憶を辿って宙へと転写して並べていく。

 さすがに完全に再現することはできないので穴だらけであるし、どれも高度な暗号化が用いられている。

 これではどうすることもできない。

 せめて転移先の座標の見当が付けば逆算的に紐解くこともできるかもしれないが、現状ではどうすることもできない。


 俺は身体から力が抜け、その場に膝を突いた。

 ……これで、メアを連れ去られたまま、ジュレム伯爵を追う手掛かりを完全に失ってしまった。

 クゥドルやペテロが信用しきれないからと逃げ出した結果がこれなのだから笑えない。

 最悪の結果を招いてしまった。


「メア……」


 俺は膝を突いたままの姿勢で、しばらくそうしていた。

 だが、ふと顔を上げたとき、まだ夕刻前だというのに、空の果てに光を帯びかけたディンが昇っていた。

 月祭ディンメイが近づいているため、もう随分と大きくなっている。

 噂には聞いていたが、想像していたよりもずっと大きい。


 本来のディンの大きさは前世で見た月に遠く及ばないはずだが、それだけディンが接近してきているということなのだろうか。

 既に普段の五倍以上の大きさに膨らんで見える。


 ふとそのとき、脳裏に引っ掛かった言葉があった。


月祭ディンメイは既に明後日となった。もうキミの役目は既に終わっているんだよね』


 港街でジゼルを扇動して襲撃を仕掛けてきた、精霊シムが言っていたことだ。

 あのときはそれどころではなく聞き逃していたが……奴らにとって、月祭ディンメイが重要な意味を持つのは初耳だ。

 月祭ディンメイの間際に連中が動いたのはただの偶然だと思っていたが、そうではなかったのか?


「まさか……」

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