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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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四十八話 伯爵⑥

「あなたは駒として扱うには、少々危険過ぎたようですね。ですが、これまでです。我々のシナリオに、ここから先、あなたは不要ですから」


 ジェームが手元の魔法陣より生成した、球状に留められた黒い靄の塊、カオスを俺に向けて放つ。

 カオスは球体から膨れ上がって分散しながら俺へと向かい、船を削りながら迫ってくる。

 向かって来るカオス自身にそこまでの速度はないが……厄介なのは、こいつの性質だ。


 俺の周囲のヒディム・マギメタルが自動で動いて盾となった。

 しかし、ヒディム・マギメタルの盾は、カオスに触れた途端に砕け散り、貫通した部位が綺麗に消失していた。

 これは、ただのヒディム・マギメタルでは防げない。


বায়ু(風よ) ফলক(刃を象れ)!」


 カオスに照準を合わせ、その延長線上にジェームを狙って風の刃を放つ。

 だが、風の刃はカオスに呑まれ、容易く掻き消された。

 


 俺は魔術の反動で背後に飛ばされ、肩を床に打ち付けた。

 通常の魔術は完全に自身側への衝撃は抑えているのだが、今回の魔術は咄嗟にカオスを避けるために魔法陣を弄り、反動を僅かに残したのだ。


 俺のいた位置でカオスが完全に分散し、船の中央に大穴を開けていた。

 ……ヒディム・マギメタルを貫通する物質を、あんな手軽に生み出せるのか。

 魔力の消耗は激しいはずだ、と思いたいが、相手の底もまるで見えない状態で魔力切れを待つのは危険過ぎる。

 ジュレム伯爵との会話から察するに、ジェームよりもあいつの方が魔力量では勝っているようだったが、魔術の力量は明らかにジェームの方が格上だ。


 俺は杖を振るう。

 ジェームの手許に、横線の入った魔法陣が浮かび上がる。


 転移の魔法陣だ。

 戦意を剥き出しにしたのはブラフで、カオスを放って脅かした隙に転移で逃げるのが狙いだったらしい。


 かなり際どいタイミングだったが、成功した。

 転移は空間を繋げるための距離に比例した準備時間が生じるため、どれほど魔法陣を弄っても縮められない隙があるのだ。


 魔法陣の暗号化が厳しく大まかにしかわからなかったが、今崩した感覚だとほぼ発動しかかっていた。

 理論上最速クラスだ。

 何回も使われたら割り込みに失敗して逃げられかねない。

 長期戦に持ち込んでオーテムで結界を張るのも手だが、恐らくそれだと船の方が持たなくなる。


「……口で騙して逃げようなんて、随分と汚い小細工を使うんだな」


「わざわざこれ以上顔を合わせてあげる必要も本来ありませんでしたからね。しかし、よくもまあこの距離で、魔力の気質とタイミングを合わせられますね。素直に賞賛しますよ。私にも、そこまでの精度の魔術潰しはできませんから」


 ジェームが魔法陣を浮かべ、再びカオスの塊を手許に生じさせる。

 ジェームは立ち位置を変えない。

 ガードの効かないカオスを撃ち、隙を見つけては転移を再試行するつもりだろう。

 ……下手に宙に浮かず船上にいる限りは、俺が大規模魔術を撃てないと踏んだ上での戦法だ。


 さっきは突然だったので不格好な回避を取らざるを得なかったが、カオスの動きは概ね掴んだ。

 ヒディム・マギメタルに自分を運ばせれば、身体を床に打ち付けることなくカオスの回避はできる。

 しかし、あんな魔術を何度も撃たれては、船の方がこれ以上は持たない。

 カオス自体はすぐに消滅するためまだ船は形を保っているが、何度も使われれば船の方が先に沈んでしまう。


 ……簡単に防げないため、俺が動かざるを得ない。

 どうしてもそのときに隙ができてしまう。


「次はさっきよりも大きいですが、どう対処します?」


 ジェームの手許からカオスが放たれる。


 俺は二体のオーテムをジェームに突進させた。

 オーテムはそれぞれ左右に回り込んでカオスを回避する。


 下手にジェームへオーテムを近づければあっさりと消失させられかねない上に、あまり戦いながら新品のオーテムを呼び出す余裕があるとも思えないが、後を考えていればジリ貧になるだけだ。


 数を減らされる前に、今手許にあるものでできることをやっていくしかない。

 ……彫ったオーテムを壊すのは気が引けるが、今はそんなことを言っている猶予はない。


 二体が宙を跳び、ジェームを挟み込もうとする。

 当たったかと思ったが、ジェームの輪郭が崩れて緑色の光の塊となってオーテムの合間を綺麗に回避し、またすぐ元の形を取り戻す。

 二つのオーテムが衝突する。

 ジェームはオーテムが停止した一瞬の隙を突き、それらの頭を素手で掴んだ。


「残念でしたね。この人形は、もらっておきますよ」


 ジェームの前方に魔法陣が浮かび、魔法陣は漆黒に塗り潰されていく。

 アベル球を異空間に落として受け流した魔術だ。

 あそこへオーテムを放り投げて封じるつもりらしい。

 ガード不可攻撃に異空間追放と、本当に厄介な魔術ばかり使ってくれる。だが、想定内だ。


 俺の周囲のヒディム・マギメタルが大きな腕を象り、俺の胴体を掴んで持ち上げる。

 だが、これは、カオスをこの腕の移動で避けるつもりだとジェームに思わせるための、ただのフェイクだ。

 ジェームの気がオーテムに向いている隙に、転移魔術の準備をさせてもらった。


হন(運べ)!」


 俺は分散しかかっていたカオスを丸ごと包み込み、転移魔術で俺の目前から消し去った。

 範囲が大きいため魔力の消耗が激しいが、仕方がない。しかし、消費魔力に見合ったリターンはあるはずだ。


「随分と、強引な真似をする。カオスを船の外へ転移させたのか……」


 ジェームはそこまで言い、目を大きく見開いた。

 即座にオーテムを異空間に叩き込もうとするが、間に合わない。

 二つのオーテムが急激に朽ち果て、全体に細かい穴を開け、カオスの黒い靄を放出する。


「しまっ……!」


 ジェームの姿が黒い靄に覆われて消え、両腕が吹き飛び、眼鏡が床に落ちた。


「……そうか、そういうことか」


 ジェームがその場に膝を突きながら俺を睨む。

 身体の大半が崩れており、精霊体がスカスカになっているのがわかる。

 

 転移の魔法陣は、予め転移先にも魔法陣を刻んでおく必要がある。

 転移先にも魔法陣を転写することでそれを補うこともできるが、ジェームの傍に素直に魔法陣を転写したのでは、掻き消すか、何らかの対策を取られてお終いだ。

 だから事前に内部に色んな術式を刻んでいるオーテムをジェームへと嗾けたのだ。


「彫ったオーテムを壊すのは、気が引けるんだけどな」


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