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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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四十四話 伯爵②

「今更話し合い……?」


 俺はジュレム伯爵を睨む。

 妙なタイミングではあるが、そうでもないとこちらが聞く耳を持たないと思っていたのであれば、仕方ないことではあるか。

 それに俺は、ジュレム伯爵側の情報があまりに少ない。


 世界を巻き込んだ戦争を引き起こし、その中でクゥドルを疲労させてドゥーム族の始祖メビウスの力によってクゥドルを殺そうとしている……というのはわかっている。

 しかしクゥドルも、ジュレム伯爵が他に切り札を隠し持っている可能性を恐れていた。

 ジュレム伯爵が何者で、何がしたいのか、目的の根源のところは不明なのだ。


 元より少しでも相手の情報が欲しい。

 交渉の余地があると向こうから言っているのならば、聞いておくべきだろう。


「わかりました。聞くだけ聞きましょう」


「杖は下ろしてもらえぬのだな」


 ジュレム伯爵は自身の髭に触れながら言う。


「信用したわけではありませんから」


「おお、怖い、怖い。しかし、よく考えてくれたまえ、我々は敵ではない。君はあの大邪神クゥドルを叩き起こして魔力を三割近く削る偉業を成し遂げ、この私を裏切って反旗を翻そうとしていたリーヴァラス国の偽神メドを討伐し、私にとってキーであったドゥーム族の娘の保護を行ってくれたのだ。最早、戦友のようなものではないか。そう思わないか?」


「もしかして、今までのことがすべて掌の上だったぞ、と馬鹿にしているんですか?」


「いや、そうではない。少なくとも、君がクゥドルを起こしに向かうなど、予想だにしていなかったことだ。単に私は、君を邪険にする気はない、ということを知っていてもらいたかったのだ。心情的にもね。ここまでよくやってくれた君のことを、私は旧知の友の様にさえ見ている。できればこのまま大人しく、私の方についておいてもらいたい」


 ……よく回る舌だ。

 妙な緩急をつけてゆっくりと話すので、聞いていてつい気が削がれそうになる。

 扇動屋だったイカロス元団長に通ずるところがある。


「……訊いておいてなんですけど、前置きはいいので本題を先に話してください」


「アベル君、君の目的は、例の娘と……それから、穏便な、ゆったりとした生活であろう? 王国……ましてや政治や宗教、クゥドルのことはさほど重視していない、そうであったな。しいていえば、ゆっくりと魔術式を弄れる場所があればいい」


 ……まるで見てきた様にぺらぺらと言ってくれる。

 これまでも散々干渉してきていたのだとしたら、それも当然か。


「実はあの娘……私にとってさほど重要ではないのだよ。地の底深くに、ドゥーム族の始祖を封じている、というところまでは知っておったかな?」


 地の底深く……?

 ドゥーム族の始祖が関わっているのはクゥドルから教えられていたが、それは新情報だ。


「その封印を解くのに、どうしても彼女の力を借りたい。それだけなのだよ。少し経てば、全て終わる。その頃に君の許へ彼女は返そう。それに……君を他国へ亡命させてあげてもいい。故郷のマーレン族の集落の安全も保障してあげよう。どうかな、それで? 君にとって、この上ない条件だと思うが……」


 ……確かに、本当ならば、願ってもない条件だ。


「それなら、どうしてメアが幼少の間に確保しなかったんですか?」


「単純な問題だ。彼女の魔力は、年々始祖メビウスの魔力の性質に近づくようになっている。そしてそれは、これから数日の内に最高潮を迎える。そのときに儀式を行う必要があるのだが……厄介なことに、メビウスの魔力に近づけば近づくほど、悪魔を引き付ける様になってしまう。特に、ここ半年が最も危険な時期であった」


 ……そういえば、これまで何度かそういった場面があったか。

 リーヴァラス国との国境沿いで地神崇拝の悪魔であるダンタリオンに難癖をつけられたり、ハイエルフの司祭であるデブなんとかさんの使役していた悪魔タナトスがメアを庇ったことがあった。


「私も、悪魔からは随分と嫌われているのでね。表に出ていない、陰に身を潜めている大悪魔達はまだ多く存在する。彼らに対して、儀式の直前までは彼女の存在を秘匿したかったのだ。そうすると、魔術の腕が立ち、かつ無名であった君は驚くほどちょうどよかったのだ」


 筋は通っている。

 どころか、これで見えなかった部分が繋がってきた。


「……わかりました、概ね納得できました。ですが、二つだけ尋ねてもいいですか?」


「ああ、聞いてくれたまえ、アベル君。……もっとも、大邪神クゥドルに知られると困る話は伏せさせてもらうがな」


「地の底は嘘ですよね。クゥドルは、世界の隅々まで探しても、自身に対抗し得る魔力の片鱗が見つからなかったと言っていました。単純な結界や封印で誤魔化せるようなものではないと思いますが……」


「悪いが、それについては答えられない。本当に申し訳なく思うが、先程言った通り、それはクゥドルに知られるわけにはいかないのだよ。わかるだろう? 嘘は吐いていないが、今は説明できない」


「筋は通ってますし、言えないこともあると最初に予防線は張っていましたけど……それが通るなら、こっちから何を聞いても躱せてしまうから、信頼できる余地がありませんよね。聞いた、矛盾していた、それは説明できないらしいけど信用しよう、とは思えませんよ」


「大邪神クゥドルに儀式を邪魔されては困るのだ。それはわかるだろう、アベル君。君が有益だから、多少のリスクは承知で手の内を明かすつもりではいる。しかし、それについてはさすがに口にできない。わからないか? あまり無茶を言わないでくれ」


 ジュレム伯爵が困った様に両腕の肘を曲げ、掌を見せて来る。


「それを踏まえての、二つ目の訊きたいことです。この状況で、メアが無事で済むと、俺が信頼できる要因はなんですか? それがなければ、そもそもこの話し合いは成立しませんよね。本当に儀式の後に無事で済むのかわかりませんし……そもそも、本当にメビウスの封印を解くことが目的なのかもわかりませんし」


「証拠を見せろ、と来たか。ううむ……とはいえ、あの場所へ連れて行くわけにはいかないし……上手くお互いの妥協点を探られるといいのだが……」


 ジュレム伯爵が弱った様に言う。

 ……なんだ、この違和感は。

 ジュレム伯爵は、口約束だけで俺が安心してくれると思っていたのか?

 というより、何に関しても、まるでこっちの言うことを想定していなかったかのような言を取る。

 異様に低姿勢、というより弱気なのも引っ掛かる。

 これでは、まるで……。


 俺は即座に杖をジュレム伯爵へと向けた。

 すぐさま問題が起こったときのために構えていた二体のオーテムが、ジュレム伯爵へと突進した。


「おお、危ないではないか、アベル君」


 ジュレム伯爵が手で宙を仰ぐ。

 魔法陣も詠唱も魔道具もなしに、唐突に風の壁が生じる。

 ペテロから散々聞かされていたが……無詠唱で魔術を操るというのは本当だったらしい。


 受け流されたオーテムがジュレム伯爵の背後に着地した。


তুরপুন(錬成せよ)!」


 俺の周囲に、高さ一メートル程度のヒディム・マギメタルの壁がせり上がる。

 

「お前、俺を納得させるつもりなんて最初からなかったな! ただの時間稼ぎか!」


 敵の頭であったジュレム伯爵が出てきたことで、自然とその選択を頭から消してしまっていた。

 メアの行方を追跡されるのを嫌って、わざとジュレム伯爵本人が直々に交渉の場へ向かってきたのだ。

 敵側の優先順位を見誤っていた。


「気が付くのが遅すぎたな、魔術狂い」


 その瞬間、ジュレム伯爵の表情が崩れた。

 目の焦点がずれ、口が大きく裂け、その奥から赤紫の舌が覗く。


「私一人であれば、長距離転移で逃げられる。ああ、最後まで君は、私の優秀な駒の一つであった。では、これから私は忙しいのでな、この辺りで失礼させてもらおう。もう会わないことを願っているよ」


 俺は杖を横に振るう。

 ジュレム伯爵の周囲に魔法陣の光が浮かび、それが二つに分かれて掻き消えた。


「……妙な魔力の動きがあったと思ったら、魔法陣の不可視化なんてケチな真似をするんだな。やっぱりただの、カモフラージュだった」


 詠唱も魔法陣もなしに魔術を使えることを見せつけてから、小細工で逃げるつもりだったらしい。

 そもそもジュレム伯爵は、俺の前に姿を現す際に魔法陣を使っている。


 初見なら押し切れると踏んだのだろうが、考えが甘すぎる。

 明らかに周囲の精霊が指向性を持って動いているのを肌で感じた。

 魔法陣や精霊語、魔法具で指示を出していなければあり得ないことだ。


「信じられないことに……確かに、ある程度は過程を省略できるらしい。だが、転移のような複雑な魔術はさすがに魔法陣を必要とするみたいだな」


 ジュレム伯爵の顔が固まった。

 俺は杖先を奴の顔へと向ける。


「で、予定が狂ったけどどうするつもりなんだ? まさかお前、そのチンケな手品頼りだった、なんてわけないよな」

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