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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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四十三話 伯爵①

 メレゼフとの戦いを終えて船に戻ったとき……船員が全員、眠りについていた。

 遠くから見たときに、船がただ海を漂っている様に見えたので、妙な気はしていたのだ。

 どうやら魔術によって眠らされているらしかった。


 異様な光景だった。

 船乗りや商人達が、全員揃って床に寝そべっていたのだ。

 周囲を見回すが、メアと……そして、シェイムの姿が見当たらない。


 吐き気がする、思考が纏まらない。

 胃液が掻き混ぜられたような不快感がした。


「嘘、だろ……」


 俺は立っていられなくなり、その場に座り込んで額に手を当てた。

 もう少し捜してみようと思う反面、これ以上は無駄だという確信があった。


 状況から考えて間違いない……。

 シェイムは、ジュレム伯爵の仲間だったのだ。

 彼女も一緒に連れ去られたと考えることもできるが、現状その線は限りなく薄いように思える。


『貴様は、なぜ、あの娘と出会った? そのとき、他に怪しい者はおらぬかったか? そやつが、貴様らの様子を探るかの様に、時間を置いて確認しに来たことはなかったか?』


 クゥドルの言葉が脳裏に浮かぶ。

 ……結局、あいつの忠告通りになってしまった。

 さすが神話時代に終止符を打った邪神と称されるだけのことはある。

 

 シェイムは、何かにつけて俺とメアの様子を見に来ていた。

 よっぽど世話焼きなのだなと暢気に考えていたが、今思い返せば確認だったのだろう。

 シェイムが俺よりメアを気に掛けていることはわかっていたが、まさかそれがジュレム伯爵絡みのことであったとは思いもしなかった。


 一刻も早く後を追わないと、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 ジュレム伯爵が何のためにメアを使おうとしているのかはわからない。

 クゥドルも、ドゥーム族の始祖であるメビウス絡みの何かだろうと推測しているだけだった。


 しかし、何が起こるにせよ、メアがクゥドルとジュレム伯爵の争いに巻き込まれる、という点に変わりはない。

 メアが無事で済むとは思えない。


 ……こっちは大人しくフェードアウトしたいだけだったというのに、ジュレム伯爵はどこまでもしつこく追いかけ回して来る。

 やはりジュレム伯爵は、ジゼルとメレゼフを連続でぶつけ、俺が動揺して隙を見せるのを狙っていたのだろう。

 大口を叩いておいて、結局相手の思惑通りになってしまった自分に腹が立つ。


「……ただで済むと思うなよ、ジュレム、シェイム……絶対に、後悔させてやるからな」


 俺は苛立ちを押さえるため、右手の甲に逆の手の爪を立てた。

 今から大手を振ってディンラート王国派につくことは難しい。

 しかしそれでも、第三勢力として俺一人でもメアを取り戻し、ついでにジュレム伯爵の許に爆弾でも仕掛けておいてやらなければ気が済まない。


 ジュレム伯爵は、あのクゥドルでさえ対応を計りかねている危険な相手だ。

 油断は禁物だ。

 俺がガルシャード王国への逃亡を試みた要因の一つに、ジュレム伯爵と直接対峙するのをできれば避けたかった、ということもあった。 

 しかし、メアを誘拐された以上、俺も全力で叩くしかなくなった。


 メアを無事に連れ戻せれば手を引くつもりではあるが、どうせ奴の膝元まで行くのならば、ついでに足を刺してやらねば気がすまない。

 それに、逃げてもまた追って来るのならば、またいずれ同じようなことになるかもしれない。

 メアの救出ついでに全力で嫌がらせして、こっちに手を出すのは損だと思わせてやる。


 俺は目を瞑り、息を整える。

 とにかく冷静にならなければいけない。

 時間が経てば経つほど行方を追うのは難しくなる。

 駄目元で周囲の人間を起こし、何か知っている情報がないか、探ってみるべきだ。


 近くで寝ていた船員の一人へと歩み寄り、肩へと手を触れようとしたとき、背後に妙な魔力を感じた。

 振り返って杖を突きつけると、魔法陣が展開される。複雑だが……転移の魔法陣だ。

 かなり遠くから飛ばしている。


 術式から読み取るに……常人ならば、魔力が尽きる距離だ。

 いや、俺でもこの距離を人間一人を生きたまま転移させるには、魔力消耗が激しすぎるのでよほどの理由がない限りは行わない。


 魔法陣を作り変えるか?

 いや、それは避けるべきだ。


হন(運べ)


 俺は左右に魔法陣を浮かべる。


 俺は自身の両側に、計二体のオーテムを転移の魔術で呼び出した。

 至近距離で、丸腰で会っていい様な奴だとは思えない。


 俺がオーテムを呼び出したのと同時に、前方の魔法陣の上に、恰幅のいい大柄の男が現れた。

 歳は、四十か五十といったところか。緑白色の髪と髭をしていた。

 恰好は黒の礼服を纏っている。やや肥えているため、服が僅かに張っていた。

 手には大きな、飾り気のない地味な杖を持っている。


「おお……怖い怖い、これでは下手に魔術も使えぬな」


 俺に杖を向けられているのを見て、男は飄々とそう言った。


「さすがに、術式を弄る余裕はなかったようであるがな」


「ええ、細部がわからなくて、下手に弄ると不発させるか、殺してしまいそうだったので。情報を吐き出さないまま死なれては困りますから」


 男が眉間に皺を寄せる。


「冗談か本気なのか、わかりかねるのがお前の怖いところだ」


「会ったことはないと思いますが」


「そうだとも。私とて、人伝手に、見て、聞いたに過ぎぬ。随分なことをやらかしてくれているそうだな」


 俺は杖を下げない。

 すぐに使えて、かつ効果的な魔術を頭の中で探っていた。


「で……あなたが、ジュレム伯爵でいいんですか?」


「如何にも。……もっとも、ディンラート王国の伯爵であったのは昔の一時期だけの話なのだが、お前達は私のことをそう呼びたがるらしいな」


 ジュレム伯爵が大きく咳払いを挟む。

 隙に見えたが……攻め込むのはひとまず待つことにした。

 情報がなさすぎる。わざと隙を見せたようにも思えた。


「さて……できれば話し合いをしたいのだが、どうかね。私もできれば、お前に纏わりつかれたくはないのだよ。それに、悪い話を持ってきたつもりではないのだが」

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