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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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四十二話 破壊の王者⑤

 完全に入った。

 これで、メレゼフはもう立ち上がれないだろう。


「とりあえずこいつ、どうしてやるか……」


 俺はメレゼフを睨みながら言う。

 両腕に術式挟んで、一生フォークより重いものを持てない身体にしてやろう。

 残酷だが、それは外せない。また追って来る可能性がある。

 後はオーテムを使って陸地へ強制送還するか。


「……あり得ぬ。不完全とはいえ、始祖の力の一部を持つ私が敗れるなど……」


 メレゼフが身体を痙攣させながら、起き上がる。

 息を荒げ、肩を揺らしながら俺を見据える。

 それから腕を振るい、俺へと殴り掛かってきた。


 だが、既にさっきまでの変異状態の力はない。

 横から飛んできたオーテムに跳ね飛ばされ、再び身体を地面につけた。


「もう、勝負は終わったんだ。それくらいわかるだろ?」


 メレゼフは俺を睨みながら、無言で起き上がった。

 その様を見ているだけで苛立ってくる。


「なんで……」


「…………」


「なんで実の娘殺すために、そこまで躍起になれるんだよ! お前っ、本当に最低だな!」


 メレゼフは応えない。

 ただ、剣呑な目で、俺とオーテムを見回す。

 まだ、俺を攻略する隙を探っている。

 その一挙一動に腹が立つ。


「俺の父親は、押しつけがましいし、調子乗りだし、俺が風習に逆らおうものなら聞く耳持たずで強引に事を進める、そんな人だよ。でもな、俺が魔獣に襲われたとき、命懸けで俺を庇ってくれたんだよ! 命懸けで娘を殺しに来たお前は、もう父親でもなんでもない! ただのクズだ!」


 メレゼフが動きを止める。だが、俺の罵声に言い返して来る様子はない。

 この男は、メアのことなど根本的にどうでもいいのだ。


 周囲からヒディム・マギメタルの触手を持ち上げる。

 最大限に穏便に済ませてやるつもりだったが、その気も失せ始めて来た。


「デフネはなぁ! お前がメアを手に掛けなくても済む様に、わざわざお前を置いて悪役を買ってでてきてくれたんだぞ! それに、あの人はずっと悩んでいた! お前が一言やめろと言えば、すぐにメアを追いかけるのは中止に出来た! そうだろ!?」


「貴様に、貴様などに、何がわかる!」


 メレゼフが吠える。

 つい気圧された。

 能面の様な無表情な目から、大粒の涙が流れていた。


「デフネらがいい奴だと? そんなことは知っておるわ! 私だって、止めろと言いたかった! 当たり前だろうが! メアは、メアは、我が娘だぞ! それも、最愛の妻が、最期に命を懸けて生かそうとした忘れ形見だぞ! たかだか十数歳の貴様に、この私の気持ちの何がわかる!」


「だ、だったら、止めろと言えば……!」


「ああ、そうだろうとも! 私が一言やめろと言えば、いや、言わずともその素振りを見せれば、すぐさま奴らはやめるだろう! 赤石が、我らドゥーム族の全てをジュレムの殺戮人形に変えるための道具だったと知っていてもだ! 私が言えば、本当に止まってしまうのだ! 言い出せるわけがないだろうが!」


 俺は沈黙する。

 メレゼフは、もっと冷たい悪鬼の様な奴だとばかり思っていた。


「貴様如きに……」


「わかったよ。だったら俺が、止めてやる」


 俺は杖を振るう。

 飛来したオーテムが、メレゼフの身体をすっ飛ばす。

 今度こそ意識が途絶えたはずだ。


「がっ!」


「安心しろ。メアのことは全部、俺に任せてくれ。絶対ジュレムの駒になんてさせない」


 すっ飛んだメレゼフの身体が、ヒディム・マギメタル塊に打ち付けられる。

 もう、起き上がっては来なかった。


 俺は大きめのオーテムを転移させ、木彫用ナイフで彫って桶状にし、中にメレゼフを入れた。

 これで、ディンラート王国まで流してくれるはずだ。

 万全ではないが……この人も化け物級だから、どうにかなるだろうと思いたい。


「……腕は残しておいてやる。だからもう、突っかかってこないでくれよ」


 桶が王国の陸地へと流れていく。

 俺は再び船へと戻ることにした。

 仕方がないとはいえ、いきなりメアの傍から離れてしまった形になっている。


 おまけにメアの親父が叩き潰してくれたせいで、今は見張りのオーテムがいない。

 やはり三つ四つくらいは見張りオーテムをつけておくべきだったかもしれない。


 大丈夫だろうが……万が一、ということがある。

 すぐにでも戻るべきだろう。


 空を見上げる。


「あんなに大きくなってたのか……」


 まだ明るいが、空に巨大な白い円が浮かんでいる。

 ディンだ。月祭ディンメイがもう間際まで近づいている。

 それは俺にとって不吉なことだった。


 しかし、嫌なタイミングでメアの父親が現れたものだ。

 俺が逃げたツケではあったのだが、下がってくれたからよかったものの、ジゼルが現れたのも本当に微妙なタイミングだった。


「いや、ジゼルが来たのは、あのシムとかいうジュレムの手先だかが占いとか言って誘導したんだったか……」


 そこまで呟いて、気が付く。


 そもそもジュレム伯爵が俺からメアを引き剥がすために、身内のジゼルを嗾けて隙を作りにきたのは間違いない。

 だとしたら、メレゼフもまた、同様の目的で誘導されたのではないか、と。


 ジゼルで俺の精神に揺さ振りをかけ、それで失敗すればメレゼフで直接攻撃によって隙を作りに来る、二段構えだったのではないか、と。

 そうだとすれば、ジュレム伯爵がこのタイミングでメアを狙ってこない理由がない。


 ジゼルに対してあれだけ慎重にシムに取り入らせ、罠を仕込んでいた奴だ。

 好きなタイミングで俺からメアを引き剥がせる様に、大分前から周到な準備を行っていたに違いない。

 そもそもが、メレゼフが俺達の居場所をギリギリで正確に特定できたのが怪しすぎる。

 情報は出回らない様に少人数で動いて来たし、メレゼフの部下筆頭であったデフネもミスリードを行ってくれているはずなのだ。


 ジゼル同様、直前で情報を与えて誘導を行った人物がいたと考えれば筋が通る。

 国から逃げる前に何としてでもメアを殺そうと切羽詰まっていたメレゼフだ。

 ジゼルのときのように長く信頼を築かずとも、適当な第三者として接触して噂話を吹き込めば、メレゼフはそれに従うしかなかっただろう。



「まさか……」


 考えすぎ、だとは思いたい。

 しかし、疑いたくはないが……俺の周りには、ジゼルの旅の指標がシムであったように、俺の行く先々で今後どうするべきかのアドバイスをくれていた人物が、一人存在する。

 そして彼女は、今、メアと行動を共にしている。

 偶然にしてはあまりに出来過ぎている。

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