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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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三十九話 破壊の王者②

「アベル、アベル! しっかりしてください!」


 メアが目に涙を溜め、俺の肩に手を触れる。

 俺はゆっくりと自分の首元に手を当て、息を整える。


「だ、大丈夫、大丈夫だ……」


 俺は気力を振り絞って答える。

 しかし、それが余計にメアを心配させることになってしまったらしい。


「ちょ、ちょっと待ってください! メア、船医の人を呼んできます!」


 立ち去ろうとするメアの腕を、俺は握った。


「……今お前は、ジュレムに狙われてるはずだ。ペテロが、『アモーレ』の魔術師を嗾けてきている可能性だってある。なるべく俺から離れずにいろ」


 『アモーレ』は、ペテロが影の長となっている、クゥドル教の過激派組織だ。

 俺が無断で立ち去ったことへの制裁として処分しに掛かってくるかもしれないし、クゥドルの話を受けてジュレム伯爵が狙っているメアの暗殺に来るかもしれない。


「アベル……でも、でも……!」


「いや、ただの船酔いでしょ……そんな世界の終わりみたいな顔して。アベルちゃんもメアちゃんも、大袈裟なんだから……。あんまり船医の人を困らせないであげてよ」


 通りかかったシェイムが呆れたように言う。


「でも、でも、アベル、今にも死にそうなくらいやつれていて……!」


「……元からそれくらいまっ白くなかった?」


「そんなことありませんもん! アベルは元々色白ですけど、ほら、ちょっと青くなってる! 青白くなってるんです!」


「う、う~ん、そうかな? 元から不健康そうな顔色してるから……」


 シェイムが首を傾げる。


「シェイムさん、お願いします! メア、アベルを見てるんで、船医の人を呼んできてあげてください! 早くしないと、アベルが、アベルが!」


「呼ばないけど……」


「なんでですかぁ! アベル、こんなに苦しそうにしてるんですよ!」


 ……まさか、俺がここまで船に弱いとは思わなかった。


 昔からオーテムに乗って移動することはあったし、馬車にもそれなりに乗ってきた。

 この世界の馬車は、馬の膂力が前世とは桁違いなので速いのだが、道が舗装されていないため揺れがやや強いのだ。


 メンタル的な問題だろうか?

 長らく住んで慣れていたファージ領を離れて旅続きであったことと、俺が逃げて来た故郷の連中と顔を合わせたことで精神的な疲労もあったので、少し疲れているのかもしれない。

 魔法陣弄りに夢中になって昨晩まともに寝ていなかったのも響いているのかもしれない。


「吐くと楽になるよ~」


 シェイムは大きく身体を前傾させ、手を怪し気に動かしながら俺へと近付いて来る。

 その前にメアが立ち憚った。


「や、やめてください! 本当に、本当に今のアベル苦しそうなんですよ!」

 

 ……二人共楽しそうで何よりだ。


「とと、そうだ。アベルちゃんにちょっとお願いがあるんだけど」


 シェイムが表情と姿勢を切り替える。


「お願い……?」


 シェイムがぱんっと手を合わせる。


「そそ、お願い。アベルちゃん、ほら、あの悪魔の石を拾ったって言ってたじゃない? あれがちょっと気になっちゃって、よく見せてくれない?」


「……アレか」


 呪詛返しで石化したシムのことだ。

 ……ただ、あれは中身が間抜けだったからどうにかなったが、長らくジゼルに張り付いて彼女を利用する機会を窺っていた危険な奴だ。


「ちょ、ちょっと危ないんじゃないか? そんないいものじゃないぞ、別に綺麗なわけでもないし」


「実は黙ってたけど、アタシ、悪魔の扱いはちょっと自信あるの。ね? アベルちゃんも、好奇心のためなら多少危ないものの方がむしろ興が乗るタイプだから、アタシの気持ちわかるでしょ?」


 シェイムが悪い笑みを浮かべる。


「それは凄くわかるが……」


 ……というより、シェイムの口から悪魔の扱いなんて言葉がでてきたのが意外だ。

 元々低級冒険者であるのが不思議なくらいのバイタリティと顔の広さを持っていたので、何か隠してやっている本業でもあるんじゃないかと勘繰っていたのだが、それ関係なのだろうが。


「ね? アベルちゃんの見てる前だけでいいからさ! 一生のお願い!」


 シェイムがこんなふうに頼んでくるのは珍しい。

 恩人であるし、できることなら頼みは聞いておきたい。

 シェイムはかなりしっかりしているし、本人も自信があると言うのならば大丈夫か。


「まぁ、それなら大丈夫か」


 俺は懐を弄り、シム石を放り投げた。

 シェイムは両手でキャッチする。


「ん、ありがと、アベルちゃん」


「……アベル、警戒してた割にはぞんざいに扱ってますね」


「まぁ、投げたくらいでどうにかなるものではないからな」


 俺は苦笑いを返す。


「ちぇおっ!」


 シェイムは間髪入れず、船の外へとシム石を持つ腕を大きく振るった。


「シェイム!?」


「冗談冗談」


 シェイムはからから笑いながら手を開ける。

 しっかりと掌にシム石が握られていた。

 ……び、びっくりした、一瞬本気で放り投げるつもりかと思った。


「ただ、アベルちゃんと話してるところもすっごい嫌そうな奴だったから、なんかムカついちゃって」


 シェイムはシム石を掌の上に乗せながら、親指を曲げて小突いていた。

 シムがロクでもない奴だったのは確かだ。

 人間に対する恐ろしい害意を感じた。


 それからしばらく、メア、シェイムと、ガルシャード王国についたらどうするかの話を進めていた。

 ……もっとも、俺は体調があまりよくないため、二人が話すのを横で聞いているのが主だった。

 途中でシェイムから、視界が揺れると余計に酷くなるので遠くを見ておいた方がいいという助言をもらい、ぼうっと海や太陽を眺めていた。


 ふと、遠くの方に何かが見えた。

 水飛沫をあげてこちらに直進してくる何かがいたのだ。

 魔物だろうか? だったら俺には魔術で応戦する義務がある。


「……あれ、海の上、走ってない?」


 霞んでいた意識が、急に鮮明になってきた。

 物凄い速度で近づいて来るそれは、明らかに海の上を恐ろしい速度で走っていた。


 それがある程度接近して、ようやく暗色のマントを羽織る人間であることに気が付いた。

 荒々しい濃紺色の髪に、額に輝く青の結晶石。

 二本の巻き角が頭からは伸びていた。

 背には、大きな槍があった。

 

「ド、ドゥーム族……?」


 信じられないことに、そいつは水面を蹴って大きく跳び上がった。

 飛行と、そう称しても相違ない高さだった。

 明らかに人間の範疇の脚力ではない。 


 それは船の中央部へと着地し、床を容易に貫いて内部へと落ちて行った。

 その後、少し横の床が砕け散り、下から大男が跳び上がってくる。


「なんだあいつ…」


 以前、ドゥーム族の襲撃があった際には、あんな奴は絶対にいなかった。

 デフネも一流の戦士としての風格を感じたが、この男はそんな次元ではない。

 獣、というか化け物だ。


「しゅ、襲撃だぁ! 海賊か!? どこから来やがった!?」


「ご、護衛の魔術師はどこだ!」


「無茶だ! こんなの、どうするっていうんだ!」


 船内は一瞬にして悲鳴の嵐となった。


「我が名はメレゼフだ。貴様らに危害を加える理由はない。だが、赤石が船にいるはずだ。庇う様な真似は止めておけ、そのときには全員海の底に沈んでもらうことになるかもしれぬぞ」


 大男が低い声で言う。

 説得力があり過ぎる言葉だった。


「メ、メア、なんだアレ?」


 メアが呆然とした顔で、メレゼフと名乗った大男を見ていた。

 顔色が蒼白になっていた。


「と、父様……です」


「父親!?」


 俺はもう一度メレゼフを見る。

 ごわごわした髪に、貫禄のある髭。

 物を破壊することに特化したかのような太い両腕に、厳めしい顔つき。

 睨めば小動物くらいなら本当に殺せてしまいそうな凶悪な三白眼が印象的な男だった。


「メ、メアは母親似なんだな」


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