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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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十七話 とあるドゥーム族の過去の話②

【訂正】

従来の設定と齟齬がありましたので、前話においてメアを第一子と称しておりましたが、第二子と修正しております。(2018/08/31)

 ――精霊獣狩りが終わったのは、半日後のことであった。


「ふう、ふう……まさか、こうも倒しても倒しても湧いて来るとは。魔獣災害(モンスターパニック)にしても、些か異常すぎますな。しかしメレゼフ様、さすがにもう大丈夫でございましょう。奥方様方に、会いに向かわれては?」


 デフネが肩の傷を押さえながら、メレゼフへと声を掛ける。


「……デフネ、緑色をした、球体の様なものを見かけたか?」


「え……? いえ、別に……? あの、何の話でございましょうか?」


「精霊獣に混じって奇妙なものを見たと言っている子供がいたのだ。どうやら錯乱状態にあったようだから、単に見間違えたのかもしれぬな」


 メレゼフはそう言い、集落の外れの方を睨む。

 デフネも釣られてメレゼフの視線を追った。


「とと! それよりも、奥方様とご子息のダレル様の安否の確認に向かいましょう! メレゼフ様のお子様も産まれているかもしれないのですよ! 急ぎましょう!」


 メレゼフはデフネに押されるように歩きながらも、再び目を細めて森の方を睨んでいた。

 このとき、デフネには敢えて口にしていない不安が二つあった。

 一つは本当にネレア達が無事であるのかということと、もう一つは『赤石』の件である。


 メレゼフの新しく産まれる子供が『赤石』に当たる可能性も、無論ある。

 メレゼフもそのことは思い当っているだろう。

 だが、メレゼフが族長になってから出来た掟の一つに、『赤石』が生まれた場合には、その場ですぐに殺す、というものがあった。


 メレゼフとデフネが屋敷へと向かっていると、そこへ慌ただしく駆けつけて来る、一人のドゥーム族の姿があった。


「メ、メレゼフ様! 大変です! 屋敷が、精霊獣に襲われまして、その、その……! ダレル様はご無事なのですが……ネレア様が、奥様方が、奴らの爪にやられたようでして……今、屋敷で治療を行っています!」


 報告を聞き、デフネが真っ青に青褪めた。

 メレゼフは無表情のまま、顎を動かして続きを促す。


「……幸い大事には至らなかったのですが、その……少々、気が動転していらっしゃるようでして……メメ、メレゼフ様にお会いしていただければと……。あの、その、お子様も産まれておりますので……」


 随分と言い辛そうな調子であった。

 さすがのメレゼフもこの様子には訝し気なものを感じた。

 デフネを追い抜かし、駆け足で屋敷へと向かう。

 デフネも慌ててメレゼフへと追いついた。


 屋敷の中は酷い有様だった。

 壁が精霊獣の爪で引き裂かれ、体当たりの後か大穴を空けられている。

 中も家具や食器棚が倒されて、割れた食器や本が床へと散らばっていた。


「……予想以上に、精霊獣が集中していたようだな。ネレアは……奥の部屋だな」


 メレゼフは耳に人の声を拾い、屋敷の中を進む。

 デフネは彼の横に並んで歩いた。


「ほんっとうに、酷い目に遭ったわ! どうしてもっと早くに来なかったのよ! 私の状態のことを知らなかったわけがないでしょう! あの人も全然来ないし、どうなってるのよ!」


 奥の部屋では、顔に包帯を巻かれたメレゼフの妻、ネレアが周囲の魔術師へと当たり散らしていた。


「お、落ち着いてください、ネレア様! この辺りは、精霊獣の集中が本当に酷く……!」


「私には関係ないわよ! 知ったことじゃあないわ!」


 デフネは戸惑った。

 ネレアは元々優しく物静かな人柄だった。

 最近はやや不安定だったようにデフネの目に映っていたが、それでも今日の彼女は様子がおかしい。


「か、母様……ベギンおじさんは、庭に出ていた僕を助けてくれて、その……」


 メレゼフとネレアの長子に当たる、三歳になったばかりのダレルも、家政婦の手を握り、母の様子に戸惑った様に、泣きそうな顔でオロオロとしている。


 ネレアの叫び声に混じり、赤子の鳴き声が聞こえる。

 家政婦がネレアに代わり、赤子を抱いていたようだった。

 デフネは赤子の無事を確認し、ほっと安堵する。


「お、落ち着いてください奥方様……! 赤ちゃんも、奥方様を見ております。ほら、奥方様に似た可愛らしいお子様です。あの、抱いてあげては……」


「そんな石無し、私の子じゃないわよ! それと似てるなんて言わないでちょうだい!」


 ネレアがベッド横の机に乗っている置物を掴み、赤ん坊目掛けて投げ付けた。

 置物は家政婦の足許に落ちて割れた。


 それを聞いて、デフネは慌てて赤ん坊の額を確認する。

 青い結晶石の粉の様な断片が貼りついてはいるものの、完全に剥がれ落ちてしまっていた。


「あ、あ……」


 続けてベッドの周囲へ目をやれば、散らばった青い結晶石の断片が視界に入った。

 ドゥーム族において、額の結晶石の破損は、顔の目立つ傷よりもずっと重い。

 ドゥーム族の誇り、象徴とする風潮が強く、澄んだ綺麗な青の結晶石を持つ者は、魔力も高く、精神も優れているとされている。

 族長の娘が石無しというのは、格好のつかないことであった。


「も、申し訳ございません……。私があのとき、身を呈して、ネレア様とお子様を守っていればこんなことには……。足が、足が竦んで、動かなかったのです」


 その場に居合わせたらしい家政婦の一人が、項垂れる。


「そうよ! 貴女が死んでれば、こんなことにならなかったのに! どうしてくれるのよ! それは、私の娘で、族長の娘だったのよ! 責任取りなさい!」


 あまりに辛辣な言葉に、場の空気が凍り付いた。


「ネレア、とにかく落ち着け」


 メレゼフがネレアの前へと出る。

 ネレアは彼が来るのが遅かったことを批判する様に鼻で笑った。


「そう、そうよ、殺してしまいましょう! いいこと考えたわ! いなかったことにするの! こんな子、悪目立ちして仕方がないわよ! いいじゃない! 私達にはダレルがいるんだから!」


「お前……自分が何を言っているのか、わかっているのか? 混乱しているのだろうと思っていたが、限度があるぞ」


「わかっていないのはメレゼフ様の方よ! 族長がこんなの生かしていたら、他の人に示しがつかないでしょう! 絶対に誰かが、赤石だったから削ったに違いないって言い出すのよ! そう、そうよ、そうに違いないわ! 私は嫌よ! こんな子のせいで後ろ指をさされるのは!」


 ネレアは散々怒鳴ったかと思えば、わぁっと泣き出して伏してしまった。

 メレゼフはしばらく沈黙していたが、身を翻した。


「……カノン、その子を連れたままついて来い。こいつには、しばらく任せられぬ」


 そして、赤子を抱いている家政婦へと声を掛ける。


「えっ、は、はい……」


 メレゼフについて、赤子を抱いたまま家政婦が歩く。

 デフネも慌ててメレゼフの後を追い掛ける。

 通路を三人で進んでいる間、デフネが必死にメレゼフへと声を掛ける。


「い、いいのですか!? 奥方様方と、あれ以上言葉を交わさずに!?」


「精霊獣による被害状況、怪我人、行方不明者を早く把握せねばならぬ。本来、後回しにすべき問題ではなかった。だが、その子に関しては、拾っておいてよかったがな。まさか、ネレアがあんなことを口にするとは」


「確かに、最近少し、様子が妙ではありましたが……あそこまでとは」


 家政婦が言い辛そうに言う。


「そうか、私は忙しくて顔を見ておらんかったので、気が付かなかった」


 メレゼフが淡々と返すのを聞き、デフネが表情を歪める。


「……奥方様がかようなことを口走るとは、私も思ってはおりませんでした。しかし、メレゼフ様、貴方の無関心さも、私は軽蔑いたしますよ」


 メレゼフは特に何も返さなかった。

 沈黙の中、彼らの足音だけが淡々と耳に届く。


「……生まれるときまでに名前の候補くらいはせめて考えておいてほしいと言われていたのだが、ネレアに伝える機会はなさそうだな」


 メレゼフが少し寂し気に、小さな声でそう零した。


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