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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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十二話 ファージ領三大兵器③

「……う~ん、さすがに今のままだと使えそうにないな」


 俺は魔力波塔を見上げながら零す。


 木偶竜ケツァルコアトルが完成し、リーヴァイの槍の魔法陣解析も区切りがついたため、前回通りにオーテムを複数用いての魔力波塔の建造を集中的に行ってはいるのだが、こちらはまだまだ完成というわけにはいかないだろう。


 魔力波塔の完成のみを急ぐのならばここまで苦労はしないのだが、そちらより先に兵器としての機能を完成させておきたいのだ。

 最初は兵器としての機能はおまけのつもりだったが、事情が事情だ。

 そういうわけにはいかなくなってしまった。


 ただ余計な理論をこれでもかと詰め込んでしまったため、運用をしくじれば何が起こるか、正直見当もつかない。

 そのため試運転も行い辛いのが開発のネックとなっている。

 仮説は立てたが実証できていない理論も多い。

 こちらも錬金術師団やアルタミアに投げて進めてもらってはいるが、手違いが発覚すれば大幅な作り直しも考えられる。


「別に……これは造らなくてもいいんじゃないですか? クゥドルさんだって、アベルに全部任せるつもりじゃないって話だったみたいですし……」


 俺の横でオーテムを眺めるメアが、そう零す。

 しかし、クゥドルもドゥーム族の始祖メビウス絡みであるという推測は立てているものの、ジュレム伯爵がメアを使って何をするつもりなのかはわかっていないのだ。

 そもそもどの程度の脅威になるのかもわかっていないようだった。

 もしかしたら知っている上で、俺に黙っていた可能性だってある。


 クゥドルの中で俺の協力とメアの脅威の天秤が傾けば、容赦なくメアを捨てに掛かることは容易に想像できる。

 それへの対策として、俺の価値を高めておく必要があるのだ。


「いや……逆に考えるか。照準だとか、精度だとか、周囲への被害だとかを考えるから難しくなるんだ」


「アベル……?」


「そういうのを全部無視して、いざというときに暴走してディンラート王国を吹き飛ばすだけの爆弾としてしまえば、完成はそれほど難しくない……? 後は俺がスイッチだけ握っておけば、クゥドルも俺の機嫌を窺うしかなくなるはずだ」


「なんかとんでもないこと考えてませんか!?」


 俺はメアの顔をじっと見る。


「ど、どうしましたアベル? メア、何か変なこと言いました? 多分、アベルの方がかなり突飛なこと口走ってますよ」


 メアには……クゥドルから聞かされたことはまだ伝えていない。

 どう伝えるべきか、わからないのだ。


 一応、ペテロには伝え、ドゥーム族について調べておいてもらうようにしている。

 俺も簡単には調べておいたが、ドゥーム族についてはどうにも情報が少ないのだ。

 族長が結界を張って保存していた大昔の本ではあれこれ書いたものもあったはずなのだが、ファージ領内に出回っているものやラルクの書庫を覗いてみても、特にこれといったものは見つからない。

 秘匿されているのか、特に語るべき話がないのかはわからないが、ペテロのコネなら何か掴めることもあるかもしれない。


「いや……上手く言えないけど、ちょっと保険が必要な気がするんだ。クゥドルが初っ端からメアを狙っていたのは覚えてるだろ?」


「え? あ……でも、あれはメアじゃなくて、メアの持ってたゾロモニアの杖を狙ったんじゃないんですか?」


 ……確かに、メアからはそう思えただろう。

 クゥドルはあのときは古代精霊語で喋っていたので、メアには言葉もわからなかった。


「……そうだとしても、他の理由で標的を俺やメアにまた向け直すことは考えられる。とにかく、自爆装置は別としても、これは必要なんだ。クゥドルに切られないためにはな。それに、ジュレム伯爵が何を用意しているかだって、わかったものじゃあない」


 俺は魔力波塔を眺めながら、自分に言い聞かせるように頷いた。

 正直、今の調子だと理論の穴を埋め切った状態で形にするのに、どれだけの時間が掛かるか、見当もつかない。

 最悪、五年くらいは掛かるかもしれない。

 どう詰め切ればいいか皆目わからない面も多い。

 だが、これは絶対に必要なのだ。


「んん……でも、ここまでしなくてもいいかなって、メアはちょっと思うんですけど……」


 メアはそういうが、実際クゥドルはヤバい。

 俺と戦ったときには魔力消耗を抑え、ほぼ触手攻撃しか取らなかった。

 それでも全く勝てるビジョンが見えなかったのだ。


「因みにこれ、どういう兵器なんです?」


 俺は顔を跳ね上げ、メアへと顔を近づける。


「よく聞いてくれた。正直魔術式やアレイ文字でなく言葉で定義するのは難しいんだが、ざっくりと簡単に説明するぞ。ビーム状に疑似五次元空間を作ることで、範囲内の空間を捻じ曲げて対象を確実に捻り潰す兵器だ」


「え……な、なんだか、凄そうですね」


「魔術式上、通過直線状にあった空間の十二分の七が複素平面上に転移することになるが、俺には正直、要するにそれがどこに行くことになると定義すればいいのかいまいち言葉にできない。多分、消えると思っていいだろう」


「何それ怖い……」


「ビーム……というよりビーム状空間なんだけど、展開速度は原理的にはゼロ秒で済むから、まず避けられることはないはずだ」


 速さは申し分ない。

 見てから避けるのは、時間でも戻さない限り不可能だ。

 もっとも射程範囲はどれだけ頑張ってもせいぜいディンラート王国全土よりも一回りは大きい程度なので、国外に逃げられたら使えないのがネックでもある。

 これ以上広げようとすると、どう足掻いても制御できなくなる。


「ただ……何かが一つ違って失敗すれば、この国は疎か星が丸ごと消滅してこの宇宙に大きな落とし穴が爆誕する可能性が高いから、あまり使いたくはないんだけどな」


「や、やっぱり造らない方がいいんじゃないですか!? それ、必要だとメアには思えませんもん!」


 メアが俺の肩を掴んで揺さぶる。

 ちょっと待ってくれ、まだ説明していない部分がある。


「一応、いざという時にも使える様に、魔力の大きい精霊体を射程範囲内からサーチして、照準を合わせる機能もある。これは既に実装してある。最も本体がまだ不完全だから撃てないんだけどな」


「やっぱりそれクゥドルさんしか敵に想定してませんよね!? 何かあったんですよね、アベル!? 何かメアに隠してませんか!?」


 メアがぐらぐらと俺の身体を揺さぶる。


「ちょ、ちょっと待って、吐きそう! オーテム! オーテム今操ってるから! 止まっちゃうから!」


「あ……」


 メアが腕の動きを止め、俺の背後を引き攣った表情で見上げる。

 俺もゆっくりと振り返る。

 ペテロとミュンヒが並んで立ち、俺の背を睨んでいた。


「あ……ペテロさん、何か用事でもありますか?」


「……ペテロ様は、アベル様が妙なものをお造りになっていないか確認にきたのですよ」


 ペテロに代わり、ミュンヒが答える。

 淡々としているが、俺への怒りが滲んでいた。


「その……これ、必要な奴なんで……あの、どこから聞いてました?」


「何を考えてるのですか! ジュレム伯爵から世界を守ってほしいとペテロ様は仰ったかもしれませんが、別にそれはジュレム伯爵が世界をどうこうできない様に、先に世界を壊せと言っているわけではありません! というよりこんなもの撃つくらいなら、あの怪人の思い通りにさせた方がずっっっとマシです!」


 だいたい聞かれていたらしかった。


「わかっています! だから、安全性には本当に配慮してます! 俺もうっかりで世界滅ぼしたくはありませんから! 俺の魔術式とアレイ文字のメモを見ればわかるはずです!」


「そんなもの貴方以外にわかると本気でお思いですか!? ちょっとペテロ様、こいつ駄目ですよ! 全部壊して牢に繋いだ方が……ペテロ様?」


 ペテロが静かだと俺も思っていたが、どうやら様子がおかしい。

 全く反応がないどころか、動きがない。

 ミュンヒがペテロの仮面の前で手を振り、深刻な表情で呟いた。


「立ったまま気絶してる……」

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[一言] 次元波動爆縮放射器
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