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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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九話 嵐の前の静けさ③

 クゥドルは俺の反応を窺いながら、続けて語る。


「空神がドゥーム族の始祖となるメビウスを創り出した理由は、二つ考えられる。一つ目はハイエルフの極端な性質を補った種族を配下として繁栄させること、二つ目は自身の直属の手駒とできる強力な特殊個体を創り出すこと、だ。我が早々に空神を殺したため、詳しいことは、分からず仕舞いになっておるがな」

 

 膨大な規模を持つ高位悪魔は、全体の魔力容量に対し、魔力回復量の比率が極端に低くなってしまう。

 そのため貯蔵魔力量は、何よりも大切な物なのだ。


 神話時代においても、四大創造神はその欠点を補うために、悪魔と比べて魔力回復量が高い性質を持つ人間の中から優れた者を選び、魔術を教えて加護を授け、自身の懐刀としていた形跡がある。

 水神リーヴァイの四大神官や、火神マハルボの五大老である。

 現にクゥドルも、いざというときに気軽に使える武器として、俺を配下に加えている。

 空神も同じように、メビウスを自身の使徒としたかったのだろう。


「……空神亡き後、当然、ハイエルフの連中が、自身の弱みを補った別種族の存在など認めるわけがなかった。理由をでっち上げてメビウスを罪人扱いし、彼女を天の国より地へと落としたのだ。その後、メビウスはノークスと交わり、多くの子を成した。ただ、メビウスの子孫は、メビウス本人の赤い魔力結晶とは違い、青い魔力結晶をつけておったという」


 空神の使徒として作られた、メアの大先祖に当たる、始祖メビウス……。

 通常のドゥーム族と異なる、赤い魔力結晶、か。

 メアは確か、物心つく前に、額の魔力結晶は事故で剥がれ落ちたという話だった。


「あの娘は、魔力量こそ異様に低いものの、空神と、もっといえば始祖メビウスと同種の魔力を持っておる。この時期に、偶然その様な者が生まれたとは思えぬ。恐らくは、空神の遺産であるドゥーム族を、何者かが利用しようとしておるのだ。あの娘が何の役に立つのかはわからぬが、不穏な存在であることには違いない」


 ……確かに、クゥドルがメビウスの魔力を感じたという事実と組み合わせて考えると、妙に不穏だ。

 状況が異様に怪しい。もしかしたらメアは、メビウスと同じ、赤い魔力結晶を持っていたのかもしれない。


 聞いたのは随分前の話になるが、メアはドゥーム族の集落内で、石無しとからかわれていたと言っていた。

 何者かが、事故を装ってメアの石を剥がし、偽装したのかもしれない。

 始祖メビウスについて詳しく、メアを利用しようとした人物……と考えると、それがジュレム伯爵であったと、容易に想像できる。


 俺は口を開き、言葉を出すのを躊躇い、頭に手を当てた。

 少し考え直す。しかし、訊かずにはいられない。

 俺はクゥドルを睨みながら、口を開いた。


「……それはつまり、メアが、ジュレム伯爵の抱えている、対クゥドル用の切り札だ、と言いたいのですか?」


「可能性の一つとして見ているに過ぎぬ。我は、あの娘を生かすリスクと、貴様のメリットを天秤に掛け、後者を取ることにしたのだ。だが、あの娘にはもっと気を付けておいた方がいいであろう。攫われでもすれば、何かの生贄にされるかもしれぬぞ」


 俺はクゥドルを睨み、顔を観察する。

 ……もしかすると、まだ、クゥドルの選択肢には、メアを殺すことも入っているのかもしれない。


「あり得ません、あまりに破綻していますよ。仮に、ジュレム伯爵にとってメアが重要だったなら……護衛も付けずに集落から旅をさせたり、これまで散々自由にさせたり、挙句の果てには今みたいに敵将の目の前にぶら下げるようなことは、絶対にしなかったはずです」


「間違いなく世界トップクラスの魔術師である、貴様がついておったではないか。だから、我もあのとき、殺し損ねたのだ」


「……それは偶然ですよ。考えすぎです」


「本当にそうか? もしかしたら……他にも空神の気配に勘付いた悪魔があの娘を狙い、貴様が庇った場面があったのではないか? だとすれば、貴様はこれまでも、護衛として十分な働きをしていたことになる」


 俺は閉口する。

 どう、だろうか。今思えば……あった様な気が、しないこともない。

 クゥドルが俺の目を探る様に見ていた。


「貴様は、なぜ、あの娘と出会った? そのとき、他に怪しい者はおらぬかったか?」


 俺はクゥドルから目を逸らした。

 ……ジェームは、とてもじゃないが、怪しい人だとは思えない。

 確か、犬の魔獣の変異種であるガルムから追われていたときも、必死に馬車を動かして逃げていて……。


『なんで、こんなときに……』


 ふと、馬車を走らせるジェームの言葉が頭を過ぎった。

 ……なぜあの人は、ガルムと遭遇した不運ではなく、タイミングの悪さを嘆いていたのだろうか。

 ガルムはD級魔獣であり、一般人にはまず対処できない。

 魔獣の中でも好戦的であり、逃げ切ることもあの状況ではほぼ不可能であった。


 なのに、まるであの言い方では、俺達さえいなければ、好きに対処できていた、とでも言わんばかりの言い方だ。


 いや、いや、考え過ぎだ。

 クゥドルからあれこれ言われて、妙に懐疑的になってしまっている。


 本当にジェームがそんなことを言っていたかどうかなんて、確信は持てない。

 それに、そうだったとしても、ジェームが自身の命を落とす事よりも先に、俺とメアを巻き添えにしてしまうことを悔やんだだけだったのかもしれない。

 なんとでも考えられることだ。


「そやつが、貴様らの様子を探るかの様に、時間を置いて確認しに来たことはなかったか?」


「怪しい人はいませんでしたよ。それに、その様に見張られていた覚えもありません。……あんまり、人の交友関係にケチをつけないでください。正直、あんまりいい気分じゃないです」


「…………」


 クゥドルが目を細める。


 言い方が、少し悪かっただろうか?

 だが、俺も過去を知った様に根掘り葉掘り探られて、それが全部得体のしれない男の誘導だったのだと決めつけてかかるようなことを言われては、穏やかではいられない。

 これでも、言葉は選んだつもりだ。


「……でも、メアは俺が、絶対に守ります。だからこの件については、安心してください」


「気を付けるのだぞ。我は、常人よりも遥かに頭がよい。ヨハナンが、そういうふうに作ったのでな。だが、ジュレムはどうやら、相当に狡猾で、同じ程度には慎重で、それら以上に邪悪である。奴は、貴様の弱みを既に握っておるかもしれぬ。何があっても、決して惑わされるでないぞ」


 ……やはり、考え過ぎだ、としか思えない。

 クゥドルの考えが正しかったのならば、俺は旅の始まりから今までずっと、ジュレム伯爵に監視され、都合よく操られていたことになる。

 おまけにまるで、俺がこれから取るであろう行動さえも、ジュレム伯爵にとっくに把握されているかのような言い方だ。

 さすがにそんなことは、信じられないというより、受け入れられない。


「話は以上だ。確かに、我の考えすぎもあるかもしれぬ。奴は、想定していた以上に危ない存在だ。とにかく疑って掛からねばならぬ」


 クゥドルはそう言い、オーテムから立ち上がった。

 固めた拳を膝の上に置く俺を一蹴すると、俺に背を向けて歩き始める。

 だが、数歩進んだところで立ち止まり、また声を掛けて来た。


「……例え何が起こったとしても、我と敵対し、ジュレム側につくような真似はするでないぞ。万が一、そのときは、一切妥協せずに全力で貴様を殺しに掛からせてもらうことになる。貴様は、本当に危険なのでな」


 少しだけ、寂し気な言い方だった。

 まるでそのことを、起こり得る未來の一つとして捉えているかのようだった。

 クゥドルには、俺が見えていない、先のところまで見えているのかもしれない。

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