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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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七話 嵐の前の静けさ①

 俺はファージ領の人里の端にて、五十体のオーテムを操り、木材やら石材やらを運び、塔を積み上げていた。

 五十時間ほどぶっ通しでこの調子なので、そろそろ身体に色々と限界が訪れているが、アベルポーションによってどうにか事なきを得ていた。

 二日と十時間を過ぎたくらいから視界に青みが掛かり、三日目にさしかかってから真っ赤へと変わったが、とりあえずアベルポーションさえ服用しておけば頭痛は止まるので、作業にそこまでの影響はない。


「なぁーんだぁ! 魔力波塔、思ったよりすぐ完成しそうじゃない! もう全部アンタがやった方がいいんじゃないの!?」


 俺の横で、アルタミアがきゃっきゃっと燥いでいる。

 声が頭に響くので止めてほしい。俺はもう一本アベルドリンクを飲んだ。


 俺は大きめのオーテムに置かれた、束ねた設計図の一枚を手に取り、脳裏に焼き付けるように隅から隅まで見直していく。

 この設計図は、ファージ領一の鍛冶屋と建築士、そしてアルタミアと俺で協力して造り上げたものだ。


 魔力波塔の建設は、元々ファージ領内から多くの大工と錬金術師を雇って行っていたものだったが、俺とアルタミアで二人して急かしまくった結果、集団ボイコットを受けるというあまりにあまりな結末を迎えていた。

 仕方がないので大工の監修の人を日に十時間以上絶対に働かせないという約束の元に雇い、ペテロに頼んで彼の部下を借りてどうにか作業を続行することにしたのだが、二日目からペテロの部下がバタバタ倒れ、三日目に何故かペテロの部下が大量に行方不明になった。

 失敗から学んで気を付けてはいたのだが、なんというか、途中から少しテンションが上がってしまったのだ。

 そして四日目に監修の大工からも契約違反を理由に絶縁を申し渡され、同時にペテロから人材の派遣だけは勘弁してほしいと頭を下げられ、今に至る。


「アベル最強じゃない! アンタ、本当に凄いわね! ちょっと見直したわよ本当に!」


「ごめん、アルタさん……もう、ダメそうかも。やっぱり、全体に異なる精密動作をさせ続けるのは、脳が持たない……。さっきから、なんだか手の震えが止まらない……」


「えぇ!? いつもの調子はどうしたの? ほら、乗り越えたら行けるわよ! ほら、いつもアンタ、錬金術師団で部下達にあれこれ言ってるじゃない!」


 鬼か、この人。

 なんでこんなに魔力波塔に執着しているんだ?

 今、物凄く錬金術師団団員の気持ちがわかった。

 明日からは優しい団長になれそうな気がする。



「今後は気を付けようと思う。やっぱり大工のバマーレさんにもう一度謝って、他の人との仲も取り持ってもらおう。俺……他の仕事もいっぱいあるし……」


「ええ……私、魔導携帯電話(マギフォン)、結構気に入ってたのに……」


 駄目だ、この人、結構畜生だ。

 むしろ、研究心が行き過ぎて王国を追われた様な人間が、常識人であるわけがなかったのだ。

 錬金術師団からは無理を言わないいい人と見られているが、俺に対しては最近どんどん無理を強いて来るようになってきたような気がする。

 このままではアルタミアに俺は殺されるかもしれない。


「それは嬉しいんだけど、少しだけ後回しにしよう。どうせ資金はペテロからいくらでも出る。雇う規模を増やせばいいだけだ。大丈夫だ」


「……ああ、そう言えば……『アモーレ』に活動資金を援助している噂のあるレイングルム辺境伯が、自慢の絵画数点と、別邸の二つ売りに出したそうよ。金策をペルテール卿に依存するのは少し厳しいかもしれないわ」


 ……『アモーレ』は、ペテロが影の長となっている、クゥドル教の過激派組織だ。

 レイングルム辺境伯とやらも、ペテロの傀儡の一人なのだろう。

 ペテロ本人は多くは語らないが、恐らくは直接大金を動かし辛い立場にあるペテロは、資金を自身の息の掛った貴族に分散させて預けているのだ。

 そのレイングルム辺境伯の資産運用に翳りが見えるということは、少々資金作りに無理をしている可能性が高い。


「ペルテール卿も、教皇の座を降りてからかなり後ろ暗いことをやって資産作りしてたらしいから、かなり貯め込んでたはずなのよ。国家予算に近い額を持ってるって前に自慢してたもの。……ただ、ちょっと木偶竜と魔力波塔の資材費が、まずかったかもしれないわね。アンタが欲しがってた禁魔導書も、全世界中のコレクターと交渉して、かなり無理をして集めたみたいだったから。……私も色々便乗したから、あんまり人のことは言えないけど……」


 ……ペテロにはリーヴァイ教の件で借りを幾つも作った気でいたので、これで好きなだけ引き出せると思い、少々やりすぎたかもしれない。

 新しい研究と開発には、どうしても金が必要なのだ。

 研究を急いて金策を少々疎かにしていたが、こちらももう少し手を付けなければいけないかもしれない。

 うわ、またやることが増えた。


「そ、そうだ、サーテリアから引き出そう! あの人ならきっと心よく出資してくれる!」


 なにせ彼女は、国と教会のトップである。

 アーヴェル教も随分順調だと聞いている。

 お布施の一部を教神が受け取るのは正当な権利であるはずだ。


 リーヴァラス国はこれまで内部の争いが激しくロクに採掘もできていなかったらしいが、元々資源に溢れた肥えた土地をお持ちなのだ。


「……あの娘はあんまり頼らない方がいいんじゃないの? 多分、かなり拗れるわよ。噂を聞いてる限り、結構本気でアンタのこと崇拝してるみたいだし……」


「そ、そう?」


「まぁ、そんなことはまた今度考えればいいのよ。しばらくは活動できるだけの資材は揃ってるんだから。ほら、オーテムが止まってるわよ! 頑張れ、頑張れ、アベル! 身体が駄目なのはわかったから、とりあえず、明日から休みましょう!」


「はい……」


 俺は二度と錬金術師団に無理強いはするまいと誓いながら、オーテムの作業を再開した。

 俺が黙々とオーテムを動かしていると、不意に声を掛けられた。


「アベルよ、少し話がある。付き合え」


 よく通る荘厳な声の後に、マーオ、という猫の様な鳴き声が聞こえる。

 振り返ると、地に着くほど長い群青の髪を持つ、ニャルンを抱きしめる、神秘的な雰囲気の女が立っていた。

 クゥドルの人間形態である。


「あ……どうも」


「どうした、酷い顔をしておるぞ?」


 クゥドルが顔を顰める。

 やっぱり俺は大分今マズイ顔をしているようだ。

 昨日までは結構平気だったのだが、ヤバいラインを越えてしまったのかもしれない。


「アベル、この人と知り合いだったの? 隅に置けないじゃない、メアちゃんが可哀想ねぇ」


 アルタミアがうりうりと肘で突いて来る。

 胃の内容物が出てきそうだから今は止めてほしい。


 そういえばアルタミアには、あの一件についてはかいつまんで説明していたが、クゥドルがニャルンを引き連れてウロウロしている、領民達を騒がす美人冒険者と同一人物であることは伝えていなかった。


「とにかく来い、ジュレムとやらのことで話がある。今後、奴が取ってくるであろう動向について、お前にはもう少し話しておくべきだと思ったのだ。あの娘についても、結局は何も言わず仕舞いであったからな」


 ……何にせよ、これで作業地獄から一時的にとはいえ解放される。


「わかりま……」


 俺が椅子にしていたオーテムから立ち上がろうとすると、アルアミアが、両腕でがっしりと俺の腕を掴んだ。


「あ、ちょっと待って! アベルはほら、忙しいのよ! アベルの時間ってすっごく貴重なの! ファージ領の資源なの! 作業しながらじゃ難しい話だったりするの?」


 誰が資源だ、誰が。こいつ、本性を現したな。

 アルタミアめ、とんでもない事を言う。

 大邪神クゥドル様を相手に片手間で神託を受けようなど、不敬で済まされる話ではないぞ。


 ふわりと身体に浮遊感を覚える。

 気が付くと俺の身体が、クゥドルに片手で担がれていた。


「え、あ、嘘……?」


 アルタミアも、突如俺が移動したことに戸惑っていた。

 さすがクゥドル、マハラウン王国トップと元教皇のオカマが手を組んで作り上げた、ガバガバ最強ランキングでも堂々と一位の座にふんぞり返っていただけのことはある。


 とんでもない速度だ。

 ……今、これが実戦だったら、やられていた。

 俺はクゥドルの後頭部を睨みながら、普段から護衛のオーテムを付けておくべきかもしれないと考えていた。

 とはいえ今は、アルタミアの魔の手から救い出してくれるのはありがたいことだ。


「案ずるな、すぐに返す」


 俺はクゥドルの言葉を聞き、がっくりと項垂れた。

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