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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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四話 とある火の国の凶兆④(side:リムド)

 ――ディンラート王国の遥か西にある地、マハラウン王国。


 神話時代には、四大創造神の一柱であるとされる火の神マハルボが支配していたとされている。

 今でもマハルボに仕えていた『五大老』と称されていた五人の魔術師の内、マハルボ亡き後に初代国王となったドグラの子孫を代々王と定め、他の四人の子孫を王の補佐としてマハラ・ラオル宮殿に置いている。

 マハラウン王国では、補佐の四人と王を合わせ、国の今後を左右する彼らのことを、今でも『五大老』と称して敬う。


 マハラ・ラオル宮殿の通路にて、壁に背を預けて一人佇む、背の高い男の姿があった。

 頭に巻かれた赤いターバンの下からは、鋭い三白眼が覗く。

 金の装飾の施された、煌びやかな衣服を纏っていた。

 手には、炎の鳥の姿を持つ、火の神マハルボが象られた金杖が握られている。


 五大老のまとめ役であり、マハラウン王国最強の魔術師と称されるリムドである。

 炎魔術の使い手としては、世界全土を含めても、彼と並ぶ者は今後永遠に現れないだろう、とまで言われていた。


 通路に不規則な足音が響きく。

 リムドはそれを聞くと、背を壁から浮かせた。


「おお、おやおや、どなたかと思えば、リィムド殿ではありませんか。ヒホホ……先程の会議では申し訳ございませんでしたなぁ、マグラ王も、ディンラート王国を警戒し始めているようですぞ」


 現れたのは、極端に矮躯の老人であった。

 普段は衣から手足を出さないため、加えて醜い顔を隠しさえすれば、子供と見紛うほどの体型である。

 彼は、リムドと同じく五大老の一人である、ジームであった。

 ただ、戦争回避のためにペテロと接触まで取ったリムドとは対照に、ジームはやや行き過ぎた過激派であった。

 特に他の者へと相談することなく単独で部下を率いて動き、事態を難化させることが多いため、リムド以外の他の五大老も、厄介者として扱っている節があった。


「慎重なのは結構、結構。だが、ここまで来てしまっては、流れは変わりはせぬ。ガルシャード王国上層部も、クゥドル神の復活に対して動き始めておりますわい。リムド殿も、そろそろ覚悟を決めていただかなければなりませぬ。こうまで理のないことを主張されては、リムド殿がディンラート王国と内通しているという噂に、根や葉がついてしもうたように勘繰ってしまう……」


 リムドはジームを睨んだまま、何も答えない。

 ジームはわざとらしく肩を竦ませる。


「おお、怖い、怖い。その様な目で私を睨まないでいただきたい。リムド殿は、顔がお怖いのだからの、ヒホホ。嫌であるのお、私とリムド殿は、仲間同士ではございませぬか。それより……はて、少し、宮殿内の様子がおかしくはありませぬかな? リムド殿は、何か聞いていらっしゃるのか?」


 宮殿内は、普段ならばもう少し賑やかなのだ。

 五大老が会議を行う、宮殿最上階の『マハルボの間』は五大老以外立ち入りが厳禁であるが、他の階層には宮仕えの者や、マハルボ教の高僧のものが出入りしているはずであった。


 リムドが事前に、ジーム以外の五大老と結託してジームの暗殺計画を練り、この日のこの時間帯に、宮殿内の人間が計画関係者しかいないように、綿密に調整しておいたのだ。


 ジームの思想や行動は、マハラウン王国にとって害であった。

 そう結論付けていたリムドは、元々ジームの影響力を弱めることができないか、度々他の五大老と策を練っていたのだ。


 だが、血筋で定められる五大老の地位を貶めることは難しい。

 下手に軽視すれば、国の権威に関わる問題になる。

 それに、五大老の地位を貶めることは、明白にマハルボの意志に背くことでもある。

 地位に守られているジームだからこそ、彼を取り除くには、殺す以外の方法がなかったのだ。


「ヒホホ……無視、でございますか。会議以外ではこの私の面も見たくない、と。リムド殿は、わかりやすすぎるのが玉に瑕でございますなぁ。隠さねば、本心は。リムド殿は、真っ直ぐすぎるのでございますよ。英雄には向いていても、為政者には不向きであったのかもしれませんな」


 ジームがリムドを嘲弄する様に言う。


 リムドはジームに悟られぬよう、しかし全神経を研ぎ澄まさせ、彼の様子を観察していた。


 もう、いつでも仕掛けることができる。後はタイミングだった。

 元々、実力でいえば人間最強と称されるリムドと、ただ五大老の一角というジームでは、大きな開きがある。

 だが万が一逃走を許したり、時間が長引いたりによって今回の暗殺計画が露呈すれば、民衆からの五大老への信頼が傾く、最悪の事態になりかねない。

 だから、ジームから少しでも油断を引き出し、そこを突き、一瞬で終わらせる。その必要があった。


「……ジーム殿よ、考えを曲げてはもらえぬか? 大邪神クゥドルは、神屠りの悪魔であったとされるが、神を失った国に対して攻撃を仕掛けたことはなかった。そのことは、我らの聖書にも、しっかりと記されている。そもそも、マハルボ様は、大邪神クゥドルの矛先が向かない様に、この国を去った、とまで伝えられる。我らマハラウン王国の民が、今の段階で無用に触れるべき問題ではない」


「何度も繰り返してきた問いですな。今更、その話に何の価値が?」


 ジームは馬鹿にした様に笑い、リムドの横を通り過ぎ、彼に対して背を晒す。

 リムドは彼の背を睨む。


 ジームの視界から外れた。

 この距離で素早く魔術を行使すれば、ジームは抗う間もなく死に至るはずだ。

 リムドの魔術には、それだけの威力と速さ、そして避けようのない規模がある。


 リムドが金杖を握る手に力を籠める。

 そのとき、予想外のことが起こった。

 ジームが勢いよく振り返り、素早くリムドへと飛び掛かったのだ。

 顔には、一面に狂笑を浮かべていた。


 あり得ないことだった。

 リムドはまだ、攻撃する素振りを見せてはいなかった。

 ここでのやり取りで、ジームに気取られるような場面があったとは思えない。


 ジームが宮内の様子から不信感を持って警戒していた、にしては、あまりに行動が早すぎる。

 ジームが同じような手段でリムドの暗殺を企てていたために早々に気が付くことができた、というのであれば一応の筋は通っている。

 しかし、一番可能性が高いのは、五大老の中に裏切り者がいたケースである。

 だがそれは、今考えている余裕はない


 予想外の事態ではあったが、リムドも修羅場には慣れている。

 素早く金杖を振るい、魔法陣を浮かべる。


নুড়ি(石よ)চূর্ণ(砕けよ)!」


 リムドとジームの間の床が割れ、鋭利に尖った千の断片が、ジーム目掛けて飛来する。

 ジームは地面を蹴って大きく跳び上がり、通路の壁へと両足を付けて屈む。

 まるで重力を無視したかのような動きであった。


 石の嵐から逃れたジームが、壁を蹴ってリムドへと再び飛び掛かろうとするも、床に入った罅がどんどん規模を増していき、再びジームの進路を遮った。


「チッ!」


 ジームが背後へ飛び退く。

 だが、罅が大きく伸びてジームを追い越し、彼の背後で四方に拡散して床を破壊した。


「ぬう……! ここまでとは……!」


 ジームの姿が、鋭利な石の弾丸に覆われる。

 加えて、更に床を破壊していた罅が大きく左右に伸び、通路の壁を破壊し、ジームを覆い尽す。

 崩れた壁に、通路が塞がれる。


「終わったか……だが、まさか、五大老の中に裏切り者がいるとは……。これは、簡単にことは済まぬかもしれぬな」


 リムドは瓦礫の山から目を離さないようにしつつも、息を零す。

 ジームの動きも、暗殺を知っていたにしては妙なのだ。

 自惚れのある男ではあったが、この様な無謀な戦いを挑んでくるとは、考えづらかった。


「まさか死ぬことは計算の上だとでも? もしや、俺の地位を失墜させるため、同胞殺しの汚名を着せようと……」


「まったく……この狭い場所で戦わねばならぬのは、少々骨であるの。」


 ごく自然と、さっきからそこにいたとでもいうふうに、ジームが瓦礫の山に立っていた。

 リムドも、彼が出て来た瞬間を見誤った。


「な……ど、どうやって這い出た! 確かに押し潰したはずだ!」


「言ったであろう? 本性はもっと、隠さねばならぬと。私がいつ、リムド殿に持ち札の全てを明かしたと? 安心せい。私は、逃げるつもりなどない。どちらかが死ぬまで、存分にやってやろうではないか」


 ジームが肩を震わせて笑う。

 リムドが金杖を天井へと掲げた。


নুড়ি(石よ)হাত(手を象れ)!」


 辺りに散らばっていた石の瓦礫が積み上がり、二つの巨大な腕となり、リムドの前方に浮かび上がった。


「あまり、マハラ・ラオル宮殿を破壊するような真似はしたくなかったのだが、仕方あるまい」

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