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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第八章 大いなる水の神リーヴァイ
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四十五話 教皇サーテリア⑩

「どうでしょうか、アベル様! アベル様は、辺境地の一魔術師としておくには、あまりに勿体のない御方です! どうか国主となり、民を導いてはいただけないでしょうか?」


 俺を教皇にしたいというサーテリアの顔に、迷いはなかった。

 しかし、俺はリーヴァイ教に詳しくないどころか、リーヴァイには悪感情しかない。

 そもそも宗教や国の長になれるような器だとは思っていない。


「あ、あの、俺そんな、サーテリアさんが思ってるほどいい人じゃないっていうか……多分、どっかで情報が曲解されていますよ。それに、教皇なんて……そんなの、乗れませんよ。リーヴァイ教の事なんて何も知らないのに……」


 サーテリアが何を期待しているのかはさっぱりわからないが、悪いが、イエスといえる理由が何一つない。

 俺のことを下調べしていたとはいっているが、どうにも適当に調べたとしか思えない。

 リーヴァイに行動を制限されていたので、あまり大きくは動けなかったのかもしれない。


「アベル様は、ディンラート王国法の魔術規制に悩んでいるとお聞きしましたが、アベル様が教皇となれば、聖典の解釈も思うがままですよ! それに、このリーヴァラス国では、稀少な魔鉱石が豊富で、古代より残る、未解明な魔術石板も、多く保存されております! 研究対象にも困らないはずです! 人員も、国中から選りすぐりの魔術師を集め、リーヴァラス国最高の魔術師団を用意してみせます! 魔術訓練で早々に根を上げるような者はおりません! 国の存続を懸けて、倒れるまでアベル様から学んでくれるはずです!」


「マジですか!?」


 俺は思わず、前のめりになって声を上げた。


 ペテロが唖然とした顔で、サーテリアと俺、そしてリーヴァイへと順に目を走らせる。

 さすがにこれは予想していなかったらしい。


「サーテリア……アナタ、そこまで下調べしておいてそうするってことは、国を、悪魔に売るつもり? 正気かしら!? 重圧に押し潰されて馬鹿になったんじゃない!?」


 ペテロがサーテリアへと非難する様に指を向ける。


『サーテリア……貴様! 余と敵対しているアベルを引き込むことで、余を牽制するつもりか! どこまでも貴様は、このリーヴァイに対し、舐めたことを! ふざけるな! 急に貴様が教皇の座を、他国の、よりによってディンラート王国の、他の三大神官を捕らえた男に譲る? 民が納得するわけがないだろうが』


 リーヴァイが、口を大きく開けて吠える。


「……私がお飾りなことは、リーヴァラス国の民は、薄々勘付いている事です。リーヴァイ様が指名したとなれば、公には不平を口にする者はいないでしょう。それにアベル様は、リーヴァイ様の槍を扱えるというではありませんか」


 サーテリアが、冷たい目でリーヴァイへと言い放つ。


『余に、余に、アベルをリーヴァラス国の中枢に置くと公言しろというのか! そんな余の首を絞めるような事を、するわけがなかろうが!』


「できないのなら、リーヴァイ様はここで、アベル様に消されて、私と国と、仲良く心中するだけです。リーヴァイ様の我儘で破談になるのならば、私は龍脈も使いません!」


『サ、サーテリア、貴様……アベルと国の主権を牛耳り、余を、この余を、ただの飾りに仕立て上げようというのか? 貴様……こんなことが、本当に許されると、思っておるのか……?』


 リーヴァイがサーテリアへと、説得する様に、或いは懇願する様に、声を掛ける。


「……はい、その通りです。申し訳ございませんリーヴァイ様、こうしなければ、リーヴァラス国がなくなってしまいますので」


 サーテリアが淡々とリーヴァイに頭を下げる。


「ディンラート王国から信頼を得るには、ペテロ様の重宝している魔術師を国の中枢に添えるのが一番です。加えて、リーヴァイ様の影響力も弱めなければ、納得してはいただけないでしょう。それに、四大神官の三人を欠いた今、各地の内乱を抑えるには、ペンラート殿以上の錬金術師が必要です。リーヴァイ様、これは、貴方が身勝手に動いたために広がった穴なのです。アベル様ならば、一人で全て埋められます」


 リーヴァイは目を血走らせ、何かを言おうとしたのか、口を動かす。

 だが、言葉が紡がれることはなかった。少し遅れて、リーヴァイの口から嗚咽が漏れる。


『余が……神であるこの余が、こんな小娘に言いくるめられて、飼い殺しにされるというのか……?』


 それだけ言うと、がっくりと三つの目が閉じられた。

 ペテロは先程までのサーテリアを嘲弄する様子はなく、真剣な表情で、彼女へと目を向けていた。


「……そう、そこまで覚悟は、できていたのね」


 つ、ついに、リーヴァイと、ペテロが折れた……?

 ということは、え、俺、俺が教皇になるのか?


 俺はちらりと、リーヴァイの方を見る。

 凄く悲しそうな目を俺に向けた後、顔を逸らされた。

 最初の好戦的な様子とは打って変わってのこの有様である。

 俺の討伐は、龍脈に全て託していたらしい。

 肝心な龍脈の鍵を、サーテリアが抱えていてよかった。

 他の大神官ならば、とんでもない事になっていただろう。


「えっ……本当にアベル、リーヴァラス国の教皇になるんですか?」


 メアが恐々と俺へと尋ねる。

 俺はサーテリアへと横目を向ける。

 凄く綺麗な笑顔で返された。


「なんか、そうらしい……」


 俺が四大神官を埋めないといけないのだろうか。

 俺とサーテリアは固定として、後はアルタミアとペン爺か?

 収集家……は、いらないな。多分、呼んでも来ないな。

 いや、まだわからない。リーヴァラス国には、もっとすごい人材が眠っているかもしれない。

 いっそのこと、七人くらに枠を増やすか?


「……なんだか、アベルが遠くなっちゃいますね」


 メアが寂しそうに言う。

 俺は少し腕を組んで考える。


「メアも、リーヴァイの大神官になるか?」


「いいんですか!?」


 メアが声を弾ませて、サーテリアを見る。

 サーテリアは笑顔で頷いた。


「ええ、ええ、他ならぬアベル様の推薦でしたら、問題ありません。アベル様に引き受けていただけさえするのならば、多少の無理も私が何とか通してみせます。リーヴァラス国は多くの問題を抱えておりますが、共に協力し、平和な国に変えていきましょう」


「平和な国……あっ!」


 メアが唐突に、何かを閃いた様に声を上げた。


「どう致しましたか、メア様?」


 サーテリアが笑顔でメアへと尋ねる。


「あ、いえ、ごめんなさい、大した話じゃないんです。ちょっと疑問に思っただけで……失礼な話になっても嫌ですし……」


 メアが声を上げてしまったことを恥じる様に口の前に手を当て、サーテリアに謝る。


「いえいえ、疑問に思ったのでしたら、私がお答え致します。宗教の違い、考え方の違いは、私も尊重できるよう、心掛けております」


「えっと、じゃあ、そのう……メア、思ったんですけど、あの、もしかしてこれ、水神様いなかったら、全部上手く行きませんか? ほら、ペテロさんも妥協できると思いますし!」


 サーテリアが、引き攣った表情を凍り付かせた。


 リーヴァイの方から、大きな音が鳴った。

 巨大な青い腕が、宮殿の柱の一つを、壁に指を突き立てて握り潰していた。

 苛立ちが我慢の限界を超えたらしい。


 多分、俺の表情もちょっと引き攣っていただろう。


「メア……それはできないんだ。ここまでサーテリアさんの一派がリーヴァイ教の教派統一を進めて来られたのは、一番に、元々の教神であるリーヴァイが味方に付いていた事が大きい。リーヴァイを切った時点で、サーテリアさんの行ってきた統一に、一切の正当性がなかったと宣言するようなものだ」


 恐らくそうなれば、内乱も、今の規模では治まらないだろう。

 全国民が敵に回ってもおかしくない。

 ペテロはリーヴァイを殺した時点で国中が大混乱に陥ると予測していたが、リーヴァイを堂々とサーテリア側が処分などすれば、混乱はその比では済まない。

 リーヴァラス国と和解するならば、リーヴァイは、お飾りとしてリーヴァラス国に残り続けてもらわないといけないのだ。


「そ、そうなんですね、メア、黙ってます、ごめんなさい……」


「いえいえ、お気になさらずに!」


 サーテリアが、やや引き攣った笑顔でフォローを入れ、恐る恐るとリーヴァイの顔を確認していた。


 何はともあれ、無事に話し合いで解決した。

 また後日に、ペテロから王家に話を付けてくれ、正式に同盟が結ばれるのだろう。

 もっとも、これから俺は、どうなるのか……。


「ペテロさん、これでいいんですよね?」


 俺はペテロへと目を向ける。

 ペテロは何か考え事をしていたらしく、頬に皺を寄せ、下唇を噛んでいた。


「……はぁ、だからまともに話し合いなんて、したくなかったのよ。後味が悪いわね」


 溜息を零し、俺へと顔を向ける。


「アベルちゃん、戦闘の準備を整えておいてちょうだい」


「えっ……ペ、ペテロさんも、認めたんじゃ……」


 ペテロは小さく首を振る。


「もう詰んでるのよ、この国は。これから滅んでいく国の主の、夢見物語に付き合うつもり? アナタは流されてるだけで、そんな覚悟なんてないはずよ。ここからは、ワタシも少し、真面目に話させてもらうわ。サーテリア、アナタもわかっているんでしょう? なるべく最良の形で亡命させてあげるから、もう諦めなさい」

【コミカライズ】呪族転生コミカライズ二話、コミック アース・スター様のサイトにて更新されました!(2018/06/26)

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