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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第八章 大いなる水の神リーヴァイ
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三十九話 教皇サーテリア④

 俺はメアと共にラルク邸、執務室へと訪れた。


 俺は収集家をいつでも買収できるよう、秘かに武器を準備し、ラルクへと預かってもらっていたのだ。

 奴は武器に目がない。

 特に最近奴は酒場に飲んだくれて、やれ『自分に合うレベルの武器がないからやる気が出ない』だの『今更安っぽい剣を振り回せるか』だのと口にし、腐っていると言う。

 俺のことは嫌いなはずだが、対価さえ払えば、首を横には振れないはずだ。


「ラルクさん、保管していただいていた、例の物を返していただいていいですか?」


 俺はラルクへと声を掛ける。

 ラルクは穏やかに微笑みながら頷き、机の引き出しから鍵を出すと、傍らに立つユーリスへと手渡した。


「わかった。ユーリス、地下の隠し倉庫へと、アベル君とメアちゃんを案内してあげてくれ。持ってきてあげたいところだけれど、あれは私やユーリスでは、残念ながら運べないからね」


「……アベル殿、その、あの様な武器を一体何のために持ち出すのですか?」


 ユーリスはラルクからの命令に応じる前に、目を細めて俺の顔を睨んだ。


「ユーリス、いいんだ。案内してあげてくれ」


 ラルクは笑みを湛えたまま、ユーリスへと言う。


 さすがラルクは物分かりがいい。

 たまに物凄く苦しそうに表情を歪めることはあるが、基本的には一つ返事でオーケイしてくれる。

 物分かりがよすぎてこれでいいのかと疑問に思うことはあるが、俺としては不満はない。

 収集家のくだりやらを今更ラルクに説明しなければならないのは億劫なので、黙って返してくれるのならばそれが一番だ。


 ユーリスは少しムッとした様に、やや眉を顰める。


「しかしですね、ラルク様……渡してくれと言われて、はいと気軽に出せる代物なのですか、あれは? その対応は少々無責任なのでは?」


 珍しく、ユーリスがラルクへと食い下がっている。


「ユーリス、いいんだ」


 だが、ラルクの返答は変わらない。

 ユーリスが掌で机を叩き、ラルクへと顔を近づける。


「ラルク様! アレには、少なくない額のファージ領の資金が投じられています! それに、アレをどう使うつもりなのかはわかりかねますが、危険な代物であるということだけは察しがつきます! もしもあんなものがファージ領にあると、他領の人間に知られたらどうなるか……。アベル殿がどう使うのか、ラルク様には領主として把握しておく義務があるはずです!」


 ラルクが細めていた目を開いてユーリスヘと向け、ワンテンポ開けてから話し始める。


「いいかい、ユーリス。君のその正義感はとても大事だし、君のそういうところは私も好きだ。だが、ファージ領の資金の大半が、そもそもアベル君に由来するものなんだ。それはわかっているね?」


「し、しかし、それでは示しがつきません! 貢献してもらっているから、一部を持ち出しても気にも留めないなど……」


「そして次に、仮にアベル君絡みの問題が発生したとすれば、それは私の手に負える範疇では絶対にない。もう一つ言わせてもらえれば、他領の人間に見られてはいけない物は、この領地にはいっぱいある。なんなら、アベル君自体もそうだ。彼を地下牢にでも入れておくつもりかい? そして最後に一つ、今はどうにかファージ領は安定しているけれど、もしもアベル君が他の貴族の後ろ盾を得て、一切合切の権利を引き上げて唐突に他領へ移住したら、最悪の場合この領地はそれだけで破綻するよ。というより、既にペテロ様あたりが持ち掛けていても不思議じゃないんだ。あの人、すぐ帰るって言ってたのに、全然引き上げないからね。正体は明かさないけど、特権階級者なのは間違いないし。ユーリスは、そのことを考えた上で、アベル君を調査して、場合によっては対応しようって言っているのかい?」


 ラルクがどんどん早口になっていき、最後にはユーリスを責め立てるような口調になっていた。


「そ、それは、その……」


 ユーリスが口籠り、俯く。


 ……ラルク、そういうふうに俺を見ていたのか。

 いや、領主として領地を守る義務があるので、仕方のないことなのだろうけれども。

 確かにペテロがその気になれば、ペテロの息のかかった他の高位貴族を前面に出した上で俺の名前を持ち出し、難癖を付けて権利の範囲を引き伸ばして丸々毟り取り、ファージ領を潰すことも十分できるだろう。


 ユーリスに連れられ、地下通路を歩く。

 ユーリスは肩を落とし、時折溜息を零していた。


 メアは前を歩くユーリスの様子を気の毒そうに眺めつつ、小声で俺へと尋ねる。


「アベル……ユーリスさん、物凄く気にしていたみたいですけど、何を造ったんですか?」


「アルタミアの遺産だよ。懐かしいな、あいつと協力して造ったんだ」


「まだ死んでませんよ……過労で倒れただけです」


 ユーリスが隠し倉庫の扉を開く。

 ラルクの祖父は好んで使っていたそうだが、今は簡素なものである。

 過半数が空きスペースとなっていた。


 床にはわざとらしいくらいに派手な外装の宝箱と本棚が、厚く埃を被った状態で放置されている。

 そしてその奥には、掃除されたスペースの上に、剣の突き刺さった大型の魔鉱石オーテムが直立している。


 柄にオーテムの紋章が刻まれた、紺色の輝きを放つこの剣こそが、収集家を買収するために作った真幻銅の剣オレイカルコス・ソードである。

 アルタミアの造った幻の銅(オレイカルコス)をアベル球と同じ原理で結界魔術で超圧縮し、高熱を加えて加工したものである。


 幻の銅(オレイカルコス)にも魔力を吸い取って魔法現象を弱化させる力があるが、真幻銅の剣オレイカルコス・ソードの魔法弱化効果は、比べ物にならない程に強い。

 魔法現象を叩き斬り、完全に破壊する。

 魔力を糧とする精霊体に対しても大きな威力を発揮するため、あのバカみたいに頑丈なクゥドルでも、普通に斬られるより手痛い一撃となるはずだ。


 ただ、問題があり、重すぎるために常人には持ち上げることさえできず、また木の床の上を歩くと、剣の重量で床が抜けてしまう。

 元となった幻の銅(オレイカルコス)の量が尋常ではないのだ。


 ノリノリで「いくらでも使ってくれていいわよ」と協力してくれたアルタミアが、半泣きでストップを掛けて来たほどである。

 だが、俺はあそこまで頑張って中途半端な出来にしたくはなかった……げふんげふん、クゥドルと敵対したときへの保険としてどうしても必要なものだったので、心を鬼にして最初の予定で強行させてもらった。


 魔力殺しの特性は、リーヴァイへも有効なはずだ。

 四大創造神の全員が精霊なのかはわからないが、少なくともリーヴァイは精霊体だった。

 千切った腕を解析したことがあるので間違いない。

 収集家に持たせておいて損はないだろう。


 収集家が欲しがるかどうかについては、問題ない。

 奴の愛剣『打ち砕く右の王コロムイシュケイダ・レイ』と『斬り刻む左の王マタルグラルダル・レイ』はアベル球一発で塵になったが、この真幻銅の剣オレイカルコス・ソードはアベル球の爆発にちょっと巻き込まれた、くらいでは破損しない。


 俺は剣の台座のオーテムを操り、ラルク邸を後にした。

 確か奴は、今日も昼間っぱらからファージ領内にある酒場『小人の隠れ家』にいる、という話だった。


 俺は『小人の隠れ家』の窓から、店内の様子を盗み見る。

 青と白のツートーンカラーの目立つ髪に、額を中心に大きく刻まれた魔法陣の大男、収集家が店の奥に座っている。


 傍らには金髪の女、イリスが目を細めて穏やかに笑っている。

 ジゴロ収集家の寄生先、もとい元商会の人間のイリスである。


「いたぞ、ばっちりいた。やっぱり、未だに毎日酒場に入り浸っているという情報は本当だったな」


「……メアは噂であって欲しかったです。あの人、ヒモになるために霊薬使って若返ったんですか?」


 しかし、ただのゴロツキジゴロ、伝説のヒモの汚名も今日までである。

 奴はリーヴァイ討伐の一大戦力となってもらい、そしてあわよくばリーヴァイ討伐の張本人としてリーヴァラス国全土から恨みを買う避雷針となってもらう。

 ペテロはどうせリーヴァイが死んだ時点で国内がぐちゃぐちゃになるので心配しなくていいと言っていたが、保険は掛けておきたい。


「じゃあ、早速持っていくか……いや、酒場の床が抜けるから、外に出てもらうか」


「でも、イリスさん凄く楽しそうですね……今は邪魔しないで、そっとしておいてあげません? 外に出てきたところで声を掛けましょう」


「う~ん……でも、何時になるかわからないし……」


 観察を続けていると、急にイリスが手を叩き、糸目の目を大きく開き、収集家の顔を覗く。


「今日ね、実はシュウちゃんにプレゼントがあるの。店主さ~ん、渡していた、あれを持ってきてください」


 イリスが手を振って店主を呼ぶ。

 どうやらサプライズプレゼントのために、店主に何か預かってもらっていたらしい。

 今気が付いたが、以前は呼び名がシュウさんだったのに、シュウちゃんに変わっている。

 ぞっこんじゃないですか、イリスさん。

 そいつ見かけはいいけど、中身はクズでジジイですよ。


「はん、我に贈り物だと? 大きく出たものだな、お前如きに我を満足させられるものを持って来られるとは到底思えぬがな」


 どの口で言ってるんだアイツ。


 店主が持ってきたものを見て、俺は顔が強張るのを感じた。

 一本の、剣だった。まさかの贈り物がだだ被りである。


 しかし、いや、武器はまずい。

 収集家はいくら高価でも、値が付けられるような武器はゴミと見ているような奴である。

 空気の読めない、態度のデカイあの馬鹿が、どんな酷いことを言い出すか、わかったものではない。


「ア、アベル、あれ、イリスさん、まずいんじゃないですか……?」


「で、でも、割り入って止めるわけにもいかなくないか?」


 店の主人が机の上に剣を置いて、誇らしそうに語る。


「これは王都の高名な鍛冶師レイゼフの一品です。値段にして、ざっと五百万Gはするでしょうね」


 村のゴロツキにぽんと五百万Gの剣をプレゼントできるイリスもイリスだが、しかし収集家は王国の資金と張り合えるくらいの資産を持っていた男である。

 五百万Gで動くはずがない。


「……もう、店主さん、値段の話は無粋ですよ」


 イリスが困った様に笑う。

 どうしよう、光景を眺めているだけで胃が痛くなってきた。

 収集家を買収しに来ただけだったのに、なぜこんな修羅場に遭遇しなければならないのか。


 しかし、収集家の反応は、俺とメアの予想とは違っていた。


「ごっ、五百万Gの剣だとぉ!?」


 収集家が驚愕の声を上げ、席を立った。


「イ、イリス! い、いつの間に、そんな高価な剣を用意していたのだ!?」


 ……え?


「一応私、元商人よ。まだ昔の繋がりは残ってるから、そこから手配してもらったの。喜んでくれたみたいでよかった」


「しかし、金は……」


「いいのいいの、私、シュウちゃんが頑張ってるところが見たいだけだから、そんなお金の話なんて……。そうだ、シュウちゃんが有名な冒険者になったら、そのときに出世払いしてもらおうかしら」


 俺は眺めながら、窓の外で首を傾げる。

 おかしい、あれ、本当に収集家か?


「……イリスさんに気を遣ってるんですかね?」


 メアも不思議そうに言う。


「あいつはそんなことする奴じゃないと思ってたけど……」


 俺達の疑問を他所に、収集家は剣を手に取って大燥ぎする。


「よ、よいのか!? では早速……お、おお……! 手に馴染むぞ! さすが! 武器屋の娘に捨てる代わりにただでもらった粗悪品とはワケが違う!」


 収集家は刃に映り込んだ自分の顔を見て、口を大きく三日月形に開いて笑う。


「違うわ。アイツ、全財産なくしたショックで感性が一般人並みに落ちているだけだ」


 


「……何にせよ、イリスさんが傷つかなくてよかったよ」


「そうですね、上手く丸く収まった感じで、メアも凄くほっとしました。収集家さんには、是非あの剣を大切につかってもらいた……あっ!」


 メアが、オーテム型台座に突き刺さったままの真幻銅の剣オレイカルコス・ソードを目にして表情を凍らせる。


「ア、アア、アベル……この剣、どうしましょう?」


「あっ……」


 この剣を持って行けば収集家の気を引けるだろうが、確実にイリスを傷つけることになるだろう。


 い、いや、でも、考えてみれば、収集家は危険人物である。

 下手に連れて行って、途中で裏切られたりしては敵わない。

 そう、そうだ。そうに決まっている。今回の戦力としては、最初から不適切であったのだ。

 俺は色々と考えた結果、やはり収集家はリーヴァイ討伐作戦から外すことにした。


 ――後、頼れるのはゾロモニアしかいない。


 なんやかんや言って、ゾロモニアはハイスペックだ。

 古代精霊語が絡む解析作業においては、俺も何度かゾロモニアからアドバイスをもらったことがある。

 知恵と破滅の大悪魔の称号は伊達でない。


 対クゥドル戦においても大きく役立ってくれた。

 リーヴァイを相手取る際にも重要な戦力となるだろう。


 俺はラルク邸内のまた別の、現在封鎖中の倉庫へと足を運んだ。 

 ゾロモニアを中に閉じ込め、逃げ出せない様に幾多もの結界を施してある。


 この扱いはあんまりだという声も錬金術師団の中で上がっているが、あの愛らしい外見に騙されてはならない。

 ゾロモニアはゾロモニアで、その叡智を用いて何度も主を破滅させてきた災厄の種である。

 俺でも気を抜いていれば裏を掻かれかねない。心して掛からねばなるまい。

 これが人間と悪魔のベストな距離感なのだ。


 開かれた倉庫の中は、壁、床に大量の分厚い本が敷き詰められている。

 ファージ領の資産を使って掻き集めてもらった、古代の魔術と精霊体、四大創造神、人工精霊に関する禁書がメインである。

 リーヴァイの槍の解析の一環として、ゾロモニアに目を通すように命じておいたものである。


 倉庫の中からは青い体表を持つ童女、ゾロモニアが跳び出してきた。

 大きな目の下にはびっしりと張り付いた隈が存在を主張している。


『お、おお! アベルではないか! ようやく妾を、この書物地獄から解放する気になったのだな! うむ、うむ! 法神と対峙したときの妾は、まさにアベルのベストパートナーであったからの! いや、近い内にまた、妾の力が必要になるはずだと思っておったのだ! あ! そうである、槍の解析も、無論しっかりと進めておるぞ! まだ可能性の段階ではあるが、因果を捻じ曲げて槍を命中させるあの力は、応用次第では、防御に転じたり、強力な攻撃手段として昇華できるかもしれぬ。今言えるのは、ここまでであるがな!』


 ゾロモニアが、必死に自分の有用さを俺へと訴えかける。

 俺は腕を組み、小さく頷いた。


「ゾロモニアはやっぱり置いておくか」


 俺はそっと扉を閉める。

 閉まっていく扉の奥で、ゾロモニアが鬼の形相を浮かべ、飛んで扉まで向かって来るのが目に移った。

 俺は閉め終えた扉の裏に魔法陣を浮かべ、また結界を張り直していく。最後に大型オーテムを移動させて扉の前に立たせ、完全に封鎖を施した。

 反対側からドンドンと扉を叩く音がする。


「……いいんですか、アベルあれ」


「ああ、そもそも、ゾロモニアは戦闘型じゃないしな。それにゾロモニアの言っていた、リーヴァイの槍の使い方にも興味がある。調べものを途中で邪魔するのも悪いだろう。今回はそっとしておいてやることにしようと思う」


「それ、アベルがとっとと槍の情報欲しいだけなんじゃ……」


「だ、だって、あの槍は、クゥドルやジュレム伯爵に対して切り札になり得る武器だし……」


 ――三日後、リーヴァラス国へと乗り込む約束の日。

 俺はラルク邸の庭にて、ペテロと顔を合わせた。


「アベルちゃん、木偶竜が延期になって、アルタミアが倒れたのは知っているけれど……収集家とゾロモニアちゃんは?」


「今回は都合が合いませんでした。俺とメア、ペテロさんでリーヴァラス国の聖都へ乗り込みましょう」


 俺は大きくガッツポーズを取り、ペテロへと呼び掛ける。


「……やっぱりワタシもここで待ってていいかしら?」

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