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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第八章 大いなる水の神リーヴァイ
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三十八話 教皇サーテリア③

 その日の内に、俺は三日後のリーヴァラス国襲撃計画に備え、木偶竜ケツァルコアトルの製造を行っていた。

 本来、遅れに遅れたスケジュールは、現段階で既に最短でも一か月は掛かるのではないかと俺は考えていた。


 しかし製造手法、人員の増強、教育方法を徹底的に見直し、俺は新たなるスケジュールを見出した。

 このスケジュール通りに事が進めば、約百時間後にケツァルコアトルが完成する。

 どれだけ詰めてもこれ以上は不可能だったが、俺は皆が俺の想定を打ち破った働きを見せてくれて、七十時間後くらいには完成させてくれていることを願っている。

 きっと大丈夫、錬金術師団の団員達は、やればできる奴らだって俺は信じている。


 俺は現在、『マーレンの瞳』を八つ同時に操って全体の管理を行いながら、見回りに指摘、詰まっている作業の魔術や手作業による解決を行っている。


 『マーレンの瞳』とは、かつて族長の館で見つけた本に書かれていた、監視用オーテムである。

 オーテムの中央に穴を開けて魔鉱石を埋め込んでおり、魔鉱石を瞳と見立てて一つ目模様が描かれたデザインとなっている。

 操作者である俺は、『マーレンの瞳』が得た視覚情報を、そのまま受け取ることができる。

 動きの鈍い作業者がいれば、背後に立たせて圧を掛けることも自在なのだ。

 団員達と臨時作業者たちからは、『団長の目』と恐れられている。


 戦闘能力は皆無に近しいが、それでも魔術師を近接戦闘で捻じ伏せるくらいは容易い。

 先程、ストレスが限界に達したらしい団員に木彫用ナイフで襲われたが、無事に撃退に成功している。


 作業場と化した広間を俺が小走りで進んでいると、目前にリノア元副団長が立ち憚った。

 普段無表情なリノアが珍しく、目に力を込め、口許は歪ませ、怒りと焦燥の合わさった顔を浮かべている。


「団長っ! ダメ、これはさすがにダメ! みんな死んじゃう! これ、あーしも聞かされてない!」


 リノアが震える手で、一枚の紙面を俺に付きつける。

 三日間のスケジュール表である。

 最初から渡すと不満が出そうだったので、作業が進んできたところで、とりあえず錬金術師団の重要人物にだけ『マーレンの瞳』を使って配布したのだ。


「今忙しいんだけど……その話、何秒かかる?」


「中止! この製造スケジュール、今すぐ中止させて!」


「いいか、俺が拘束されると、その分全体の進行が遅れるんだ。今この段階で、既に一分間の遅れが発生した。だからひとまずは、ポーション配布係のメアに言ってくれ。だいたいの問題に対する応答は、事前にメアに教えてある」


「間に人挟んで、有耶無耶で誤魔化そうとするのやめて! これ、それで誤魔化せる域超えてる!」


 むう……手を打っておいたつもりだったのだが、納得してくれそうにはないか。


「いや、諦めが早すぎるだろう……だってこれ、まだ始めてから四時間も立っていないぞ」


 ここからまだ、食事休憩は日に二回五分、睡眠時間は日に一時間半を乗り越えていかねばならないのだ。

 ちょっと不平が出るかもしれないなと危惧していた、最初の食事にもまだ入っていない。


「始まって四時間も立ってないのにこの有様だから言ってる! 既に三人は倒れてる! これ、ダメ! 絶対にダメ! 一人も生き残れない! アルタ副団長も、三体の『団長の目』に張り付かれて、凄くしんどそうにしてる!」


 甘いなリノア、正確には五人倒れている。

 俺は『マーレンの瞳』で常に監視を行っているので、全体を把握している。


「いいか、報酬はペテロさんからたんまり出る! 後は拘束時間は三日なのも最初に伝えたし、スケジュールが進捗に合わせて変更される恐れがあるってことも、みんな納得したはずだろ?」


「ダメ! これはダメ! こんなの聞いてない! あんなに監視されるのも聞いてない! 今までは隙を見て、交代交代で休憩をとって、どうにか回してたのに! 圧迫感凄いし、見られてるだけでアレ、とんでもなく疲れるの!」


「大丈夫だ! 俺が今回のために調合した、特製ポーションがある! 正直あれさえあれば、三日くらい眠らなくたって問題ない! それに、ポーションを呑む間は手を止めることはちゃんと認めてる! それに、ペテロさんからたんまり報酬が出るって聞いて、みんな喜んでたじゃないか! 乗り越えようぜ、これくら……い?」


 リノアとの口論中に『マーレンの瞳』によって脳へと送られてきた視覚情報を見て、俺はつい言い淀んだ。

 身体の奥から、ぶわっと汗が噴き出してくるのがわかる。

 俺が黙っていると、リノアが目を細めて俺へと尋ねる。


「……どーしたの、団長?」


「アルタミ……アルタさんが、泡吹いてぶっ倒れた」


「副団長が!?」


 アルタミアは今回の計画の要である。

 はっきり言って、この木偶竜ケツァルコアトル三日で製造プロジェクトは、俺とアルタミアがほとんど持っているようなものだ。

 百年近く引きこもって研究やってたような奴なのできっと大丈夫だろうと思い、強引に作業を詰め込み、監視を付けて徹底管理していたのがまずかったのかもしれない。


「え……精霊崩壊まで起こしてる?」


 アルタミアの指先が小さな破裂を起こし、白い砂になったのが見えた。

 かと思えば、次には耳の端が破裂した。

 精霊崩壊は一般的に過度な魔力供給によって生じるもので、ストレスや過労は聞いたことがない。


「ちょっ、ちょっとアルタさんの様子を見て来る! 結構まずいかもしれない! 話は後で……わかってる、検討する! 中止も検討する!」


 ……その後、アルタミアの看病を行って精霊崩壊はどうにか食い止め、意識を回復させたものの、本人の強い意志によって、プロジェクトへの復帰は断念となった。

 アルタミアの看病に半日掛かり、その間大半の作業が完全にストップしていた上に、主要人物を失うこととなった。

 こうして木偶竜ケツァルコアトル三日間製造計画は、一日と経たずに中止されることとなった。


「アベルちゃん、どうするの、これ? アルタミアの回復と木偶竜の完成、三日以内は絶望的みたいだけど……」


 その後、ペテロとまた顔を合わせて会議を行っていた。


「……今回は、アルタミアと木偶竜は抜きで行こうかな、と」


「あの、やっぱり延期してもいいのよ? あのときはああ言ったけど、別にそんな急いで仕留められるような相手でもないから。デリケートな問題も絡むし、焦って手違いがあったら目も当てられないわ。リーヴァイは、アベルちゃんが思ってるほど容易な相手じゃないわよ」


「わかっています。でも、収集家は使える奴ですよ、安心してください。それに……ゾロモニアもやっぱり今回、使おうかなと検討しています」


 なにせ収集家は、アベル球を剣で止めた唯一の人間である。

 俺を毛嫌いしているが、それは問題ない。

 前々から、いつか収集家の力が必要になるときに備え、陰で買収の準備を進めている。


「そう……アベルちゃんが、そこまで言うのならワタシも任せるけれども……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 自己評価の低い人ほど自分程度でできること誰でもできて当然だよね? って考えが根底にあります、ブラックである自覚すらないパターンですね そこに職人気質までプラスされるので同類でもきつい状況に
[気になる点] あれ? 俺何かやっ(略) [一言] 女神でも呼んでやらせちゃえよ。 主人公絶対、急速充電とか発電機オーテムとか作れるだろ……。
[一言] 338話ですが…主人公さん魔術師団の方々に殺されても文句 言われないほどのブラック企業ぶりだね。 これくらい出来てあたりまえ的思想の押し付け・休憩なくてもいいんじゃねみたいな考え・力での押さ…
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