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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第八章 大いなる水の神リーヴァイ
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三十七話 教皇サーテリア②

「神話時代に、リーヴァイの落とした魔力の塊……今ではそれは、龍脈と呼ばれているわ。元は何もない砂漠だったのだけれど、リーヴァイの魔力が溶け出すと草木が茂り、水が溢れたとされているわ。以降一万年に渡って聖地と讃えられ続け、リーヴァラス国内乱の原因となり続けている……」


 ペテロが机に肘をついたまま語る。


「聖都リヴアリンは、リーヴァイの半身が眠るホームグラウンドよ。いくらアナタが槍の投げ合いを制したとはいえ……奴の地に乗り込む以上、どうなるかはわからないわ。油断はしないで頂戴」


 ラルク邸の客室にて、俺はペテロと、リーヴァラス国襲撃計画について話し合っていた。

 俺は基本的に他国の事情については無知であるため、ペテロから今回の襲撃対象であるリーヴァラス国について、一から教えてもらい直している。


「なるほど……納得がいきました。確かに前回、四大創造神にしては弱すぎると思ったんですよ。昔の魔力を全部落っことしていたんですね、やっぱり」


 おかしいと思っていたのだ。

 人間と高位精霊では、魔力の出力、保有量に、絶対に覆らない圧倒的な差があるとされている。

 四大創造神ともなれば、高位精霊どころではない魔力量を有しているはずなのに、なんだあの有様は、まさかディンラート王国全土を油断させるための神自ら身体を張った巧妙かつ大掛かりな作戦なのではなかろうかとまで疑っていたのだが、これでようやく納得がいった。

 俺が出会ったのは魔力をほとんど地下へと絞って流した残りカスみたいな奴だったのだ。


「……アナタは一回、リーヴァイ教徒に蛸殴りにされた方がいいわね。四大創造神がキライなワタシでさえちょっとムカついたわよ今」


「そ、そうですか?」 


 ペテロは「まぁ、そんなことはどうでもいいのよ」と言いながら、仮面の額へと手を触れ、溜め息を挟む。


「ただ、今回のことで下手に水神や教皇に手を出せば、報復が怖くありませんか? リーヴァイ教からの攻撃は、今まで以上に根深く、また指揮系統が破綻しているために動向の読みづらいものになると予想できますけど」


 現在、リーヴァラス国からの攻撃は、国境沿いにあるファージ領がすべてを引き受けている形になっている。

 これはリーヴァラス国が当初は山脈の先に拠点を手に入れると同時に、ファージ領を傀儡化し、ディンラート王国全土へと内部工作を行う算段だったと考えられる。

 事件が完全に表沙汰となり、内部工作がほぼ不可能になった状態でもペンラートを送り込んで直接破壊活動を行ってゴリ押ししてきたのは、マリアス、ネログリフを拘束した俺の暗殺が狙いだったはずだ。


 この様に現在のリーヴァラス国は、利と一貫性のあることしか行っていない。

 だが、頭を失った狂信者たちは、ディンラート王国憎しで、双方に何の利もない、出鱈目なテロ活動を行うことも想定される。


「心配しなくていいわよ。蘇ったリーヴァイを元に解釈を正して一から経典を作り直した新・リーヴァイ派は、表向きにはリーヴァラス国の代表みたいな顔をしているけれど、内部では強引に短期間で統一を進めた分、他教派から反感を買いまくって、とんでもないことになってるのよ。正直、こっちに嫌がらせしている余裕はないはずなのだけれど、教皇サーテリアちゃんが、どうあってもディンラート王国との戦争をお望みらしいわね」


 ペテロはぺらぺらと喋ってから、「リーヴァラス国で偵察を行ってたワタシの部下からの情報だから、信頼していい話よ」と付け加えた。


「う、う~ん、なるほど……?」


 あまり政治の話はよくわからない。

 横をちらりと見ると、メアが頭をかくんかくんと揺らしている。

 どうにも意識が泡沫を彷徨っているらしい。


 俺もその気持ちはわかる。

 正直、興味のない話をあまり広げられてもお互い時間の無駄なので、俺にとって有益な部分だけを纏めてわかりやすく教えてほしい。


「……要するに、ディンラート王国を目の敵にしているのは、独裁者サーテリアの意向によるところが大きいので、彼女と水神さえ表舞台から消してしまえば、こっちに矛先が向かう危険性は薄い、ということでいいんですか?」


「そう。もっといえば、サーテリアとリーヴァイさえ消えれば、今まで力で強引に押さえつけられていた勢力が解放されて、本格的な聖地の奪い合いが再開するでしょうね。ワタシたちに飛び火させる余力なんてないわよ。そんな余計なことしてる連中は、他の勢力に潰されるわ」


 ペテロが、あっけらかんと手を振ってそう言った。


「でも、俺は水神を殺した魔術師になるわけだし、この国も水神を殺した国になるわけじゃないですか? そんな親の仇をほっぽって、遺産争いに夢中になんてなりますか?」


「新・リーヴァイ派が力を落とせば、リーヴァラス国内でも、復活したリーヴァイはただの悪魔の騙りだったと見なされて、数ある水神教系の邪教の一つして落ち着くわよ。対抗教派はいっぱいあるのだから、そういうものよ。発言力が強いところに押し潰されて消えるわ、新・リーヴァイ派がそうしてのし上がってきたようにね」


「そ、そうなんですか……」


 ……何が真実かなんて関係ない、力を持っている教派が全て、ということか。


 小規模部族の崇めていた神がただの悪魔だった、という程度のことは、この世界ではよくある話だ。

 イーベル・バウンだって神を自称していたのだ。

 あれをうっかり真に受けた集団が現れれば、それだけで宗教が誕生してしまう。

 悪魔の神騙りなど、そのくらいにはありふれたことなのだ。

 だから、リーヴァイが消えた後に、あれが偽物だったと主張する集団が現れれば、新・リーヴァイ派の影響力はそれだけで衰えてしまう。


 今更ながらに俺、結構ヤバイ問題に突っ込まされているのではなかろうか。

 この問題は、選択肢一つでリーヴァラス国が吹っ飛びかねないし、ばかりかその余波をどの程度ディンラート王国が被るのかも変わってくる。


「あ、あの、やっぱり俺、この話、ちょっと考えさせてもらうこととか‥‥…」


「ちょ、ちょっと! ほらアベルちゃん! ペンラート! ペンラート!」


 ペテロが、元水神四大神官兼俺の右腕の名前を呼びながら机を叩く。

 俺は歯を食い縛った。

 そう、リーヴァイとジュレム伯爵の討伐には、俺のペンラートの安否が掛かっている。

 やるしかないのだ。


「ペテロ様! 今回は、地下室では無くただの客室です! 外にこの話が漏れれば事です!」


「そ、そうだったわ! 今焦っちゃって、つい……」


 ミュンヒが慌ただしくペテロを止め、ペテロも机を叩くために振り上げた腕をそそくさと下げ、こほんと咳払いをする。


「確かに話は、相手を完全に殲滅すればそれでいい、というほど単純なものでもないわ。リーヴァラス国を国民丸ごと吹き飛ばすわけにはいかないもの。もしも予想外の事が起きたら、力だけでは対処しきれない場面も出て来るかもしれない、そういったときの判断の責任をアベルちゃんに押し付けるのは酷ね。……それに、ジュレム伯爵が何か仕掛けにくるかもしれない」


 ペテロが腕を組み、ブツブツと小声で何かを呟きながら、考え込む。

 まさか、やっぱり俺へのリーヴァイ討伐依頼を下げるつもりか!?

 そうなれば、ペンラートの立場が危うくなる。


「ま、待ってください! 俺、きっちり役目は果たします! ですから、ペンラートは……!」


 ペテロは決意を固めたらしく、一人で大きく頷いて立ち上がった。


「わかったわ、ワタシも聖都リヴアリンへ、同行させてもらうわ。四大創造神とやらを、一度直接見てみたかったのよ。これでいいのでしょう?」


「ペテロ様ァ!?」


 ミュンヒが大きく口を開ける。

 目許を隠したヴェールの奥から、ペテロを睨んでいるのがありありとわかる。


「それは心強いです! では次に、計画を纏めておきましょう!」


 ペテロが付いて来てくれるのはありがたい。

 ディンラート王国を牛耳ってきた手腕を持つペテロが面倒な問題が生じたときの対応に当たってくれるのならば、俺の負う不安の重圧もかなり軽くなる。


 だが、ペテロはこの国にとっても要人。

 敵地に乗り込む様な真似は本来避けるべきなのだ。

 ここはペテロの気が変わる前に、後戻りできないところまで話を進めておく必要がある。


「ええ、そうね、またアベルちゃんの気が変わる前に……!」


 ペテロも話を進めておくことに異論はないようだ。

 小声であったため、何を言っているのかは聞き取り辛かったが、同意しているのには違いないようだし、敢えて問い直す話ではないだろう。


 今回の敵は強大だ。

 何せ、四大創造神の一体が、万全の状態で俺を迎え討つというのだ。

 こちらもそれなりの戦力が必要となる。


「ペテロさん、ちょっと厳しいスケジュールにはなりますが……俺は三日以内に、木偶竜ケツァルコアトルを完成させます! それで聖都に乗り込みましょう! そして俺以外に、橙の魔女アルタミア、伝説の冒険者こと収集家を同行させます!」


 後はメアも連れて行く。

 今回、俺がいない間にリーヴァイ教の連中がメアを狙っていた動きがあった。

 大方、俺に対して人質になると考えていたのだろう。

 収集家を置いて行ってメアを守ってもらうのも考えたが、収集家も信用ならない面があるので、傍に置いておいて尻を蹴った方が役に立つはずだ。


「アルタミアも連れて行くの? それに収集家って……え、あの収集家よね? 連絡取れるの?」


 ペテロもファージ領にいる間に見たことがあるはずだが、気が付かなかったらしい。

 すぐ最近に若返ったところなので、無理もないか。


「ええ! 俺の動かせる最高のメンバーで、リーヴァイを仕留めてみせますよ!」


 ペテロ、アルタミア、収集家を連れていけば、龍脈の恩恵を受けたリーヴァイであっても、きっと打ち破れるはずだ。

 ゾロモニアは……ゾロモニアは、いいか。


呪族転生コミカライズの第一話が、コミック アース・スター様のサイトより公開されました!(2018//5/26)

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