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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第八章 大いなる水の神リーヴァイ
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三十二話 進撃のペン爺④

【お詫び】

 申し訳ございません……。

 一時間弱に渡って謝って数話分のプロットを記載してしまうミスがありました。

 現在削除しておりますが、見てしまった方はそっと記憶を頭の片隅に追いやってくださると助かります。(2018/04/22)

「アベル様に馴れ馴れしいぞ女! 貴様の様な小娘が、ジレメイムを理解できるはずもなかろう! どうせ名前だけ聞きかじったか、面白可笑しく書き立てられたパンドラ箱のニャルンの思考実験を耳にしただけなのであろう? ミーハー女が、アベル様の解釈を聞きたいなどと、思い上がりも甚だしい!」


 ペンラートがアルタミアへと叫ぶ。


 ペンラート、小娘と言うが、そいつ元魔女の塔の主の、百歳近い人工精霊だぞ。

 言っては何だが、アルタミアとペンラートでは、二つは魔術師の格が違う。


 アルタミアがムッとした表情でペンラートを睨み返すが、すぐに無視して俺へと顔を戻す。


「……あの爺はほっといて、ほら、早く話しなさいよ」


「ええ……」


 コイツ、メアほったらかしてペンラートと魔術談議を繰り広げていた俺を説得しに来たんじゃなかったのか。

 アンデッド狩りがアンデッドになってるじゃないか。

 俺も俺なりに反省していただけに、この手の平返しは正直ちょっと引く。

 なんで錬金術師団では、俺ばっかり魔術狂扱いされて、アルタミアが聖人扱いされているんだ。


「ア、アルタさん……メアの、メアの味方してくれるんじゃ、ないんですか?」


 メアが絶望しきった顔で、アルタミアの袖を引く。

 アルタミアはメアの方を振り返り、申し訳なさそうな顔を浮かべ、すぐに俺の方へと向き直る。


「ほら、この娘もこう言ってるんだから、早く話しなさいよ!」


「今凄く都合よく頭の中で変換しましたよね!?」


 マイナー言語を三つくらい跨いで電子翻訳したくらいには意味が変わっている。

 最早原型がない。


「だから、概要を早口で言うだけでいいって言ってるじゃない! さっさとアンタが話してたら、もうとっくに終わってるわよ!」


「絶対終わりませんもん! さっき終わりませんでしたもん!」


 メアが目を涙ぐませながら、アルタミアの説得に掛かる。

 しかしメアはそう言うが、アルタミアはペンラートとは違う。

 俺以外を軽視しているペンラートはそもそもメアのために話を区切ろうという気概が、今思えばまったくなかった。

 俺もすっかり乗せられてあれやこれやと喋ってしまった。


 アルタミアは意外とその辺りの気配りはしっかりしている。

 俺も色々言ったが、そうでなければ、錬金術師団で今の地位は確立していなかっただろう。


「わかった、じゃあ触りの部分だけ……」


「ハッ、アベル様の話を欠片でも理解できるとは思えんがな。しかし、アベル様が許容したのなら仕方あるまい。だが、女、貴様が何もわかっていないと判断した瞬間、このペン爺が叩き出してくれるわ! 覚悟しておくがいい!」


 ペンラートに怒鳴られても、アルタミアは軽く睨み返すだけで取り合わない。

 ……ペンラートとまともに話ができそうなのは俺を除いてはアルタミアくらいなのだが、こうも折り合い悪いと、それも難しそうだ。

 この爺さんちょっと攻撃的過ぎる。

 ファージ領にペンラートが馴染むのは、もう少し後になりそうだ。


「じゃあ『ジレメイムの仮想悪魔のパラドクスの解釈』についての俺の解釈の概要を簡単に、口頭ですぐ理解してもらうために、まず『ハインマの精霊仮説』と『リアリスの特定条件下における微視的精霊体と巨視的精霊体のマナ総量変異式の比較』について話して、そこから派生させよう。ハインマはあまり有名な人物ではないし、リアリスのマナ総量変異式の比較に至っては魔術学校の一学生の論文だから、アルタも知らないだろう」


 ハインマは百二十年程度前だが、リアリスはたかだか四十年前の話だ。

 リアリスの論文が話題になったのは、アルタミアが塔で優雅に暮らしていた時期である。

 当然、塔から最近出て来たばかりのアルタミアが、リアリスを知っているわけがない。


「どっちも知ってるから、結論だけ簡単に話して頂戴。私だって、そのくらいのことは調べてるわよ。もっとも、リアリスの式は、そんな大したものだとは思わなかったけれどね。条件別に数式上の差分を比較して、そこからその差の値の魔術的な意味を考えるということでしょう? そのくらい私もやったことがあるし、結論も凡庸なものだったわね」


 おっと、アルタミアも、塔を出てから魔術学にどの程度の発展があったのか、調べものをしていたらしい。

 これは俺が少しアルタミアを舐めていたな。


「ぐ、偶然知っておったに違いない。強がりを……」


 ペンラートが歯噛みしながらアルタミアを見る。

 アルタミアが得意げに笑う。


「こ、これならすぐに終わりそう……」


 メアが小声でそう漏らした。


 ――そして、ニ十分が経過した。


「……なるほどね。つまりは、パラドックスそのものがない、というのが解だというのね」


「ああ、強いて言うのなら、第二マナ関数の魔術的な意味を考える、というのがこのパラドクスの真の問題になるだろう」


「そればかりは答えが出しようがないわね。それについては解釈が異なっても、数式が同等になるもの。概念上のものというより他にないんじゃないかしら」


「俺はこれについて、一つの説を提唱したい。俺の説と言うよりは、ジレメイム自身が仄めかしていたことだけど……」


「アイツ、そんなところまで布石打ってあるの? ああもう! ほんっとに性格悪いわね! 徹底して『敢えて言わないけど、俺本当はわかってるから』みたいな面倒臭さを感じるわ。絶対プライドの塊よ! アレイ文字の癖や魔術式の構造見ててもわかるわ!」


 アレイ文字は、魔術師特有の、魔術書を書く際に用いる文字だ。

 一般言語を使っていると魔術書は簡単なものでもどれだけの文量になるかわかったものではないので、アレイ文字という、一文字に多くの魔術的意味を持たせた言葉で綴られるのが常なのだ。

 アレイ文字は国や時代、はたまた個人によって型が異なるため、魔術師の本質を示す鏡にもなる。


 俺は杖を振るい、宙に文字を綴る。


「今までの従来の考え方では、単精霊体と仮定した際の、ジレメイムの仮想悪魔の動き方は、この波形を取る……。マーズ式や、混合型の仮説でもこうか、こう……でも俺が示したいのは違う。単精霊体の動き方は、ずばりこうなる。これが、第二マナ関数が自然数以外を取りうる意味の正体」


 俺は単精霊体仮想悪魔を模した円を描いた後に矢印を引き、その先に二つの半円を描く。


「あっ、あ、あーーー! 嘘、あー! そっち! あー! ほんっとにもう、あー! そりゃあ公には発表できないわね」


 アルタミアが手で口を押えて声を上げる。

 アルタミアは理解が早い。

 これはペンラートには今は理解できないだろうと思い、彼とメアに話すときには黙っていた部分だが、アルタミアがあまりにもぐいぐい来るので、俺もノリノリで最後まで話すことにしたのだ。


「アベル様! こここ、これは、どういうことですか!? なぜ、なぜ単精霊体が二つに分かれたのですか!? 精霊体の最小単位でしょう!? それが今までの魔術学における常識です! これが真実ならば、すべての定理は魔術学上のみの、便宜上のまやかしになってしまう! あるはずがない……そうでしょう!? アベル様、アベル様ァ! これだけは、あってはならないことでしょう!?」


 案の定、ペンラートは受け入れきれず、半ば混乱状態にある。

 ペンラートが俺の肩を縋る様に掴んで揺さぶる。


「これが、愚かにも目に見える物だけを信じてきた人間への罰だとでも言うのですか!?」


「落ち着けペンラート。哲学は俺の領分じゃあない」


「しかし、しかし……これを見て落ち着けというのですか! アルタ女史! アルタ女史は、これを受け入れられるのですか!? 既存の魔術学への、あまりにも残酷な指摘でしょうこれは!?」


「認めるしかないでしょう。私はいっそすがすがしい気持ちよ。今言うと強がりみたいで恥ずかしいけど、私もまったく引っ掛かってなかったわけじゃないの。むしろ納得がいったわ。それに認めない限り、人類の魔術に発展はないし、私の探究してきた魔術の真理にも近づけないわ。アンタはここで諦めるの? 聞かなかったことにする?」


「アルタ女史……愚拙は、愚拙は……! 愚拙は無為に年月を重ね、気づけばこんな歳でございます……! 今更この愚拙めに何ができましょうか……?」


 ペンラートがぽろぽろと涙を零し始める。


「お、おいペン爺、何も泣かなくても……ん?」


 ふと俺が気が着くと、広間にちらほらと、休憩を終えた終錬金術師団の面々が戻り始めてきていた。


「あっ……」


 俺は咄嗟にメアの方を見る。

 メアが死んだ目で、ペンラートとアルタミアを、じっともの言いたげに見つめていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「だから俺がいる……!」 [気になる点] なんか、仲良くなりそう。 [一言] よかったよかった。 ……またメアか……壊れるなぁ。
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