表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第八章 大いなる水の神リーヴァイ
323/460

二十三話 不死の怪僧ラスブート④(side:ラスブート)

「う、うう……」


 アルタミアは、腹部を支点にラスブートの構える呪猿杖に持ち上げられたままに呻く。

 精霊体とはいえ、ゼロ距離で放たれた高殺傷能力を誇る水の貫通弾の五連弾は、効率的にアルタミアの身体を破壊した。

 背に空いた、痛々しい五つの穴は、まだ閉じずに残っている。


「どうした橙の魔女! こんなものですかぁ! 貴女、邪魔なのですよ。私は、何としても、あの小娘を回収しなければならないのです!」


 ラスブートが吠える。


「や、止めてください! もしもメアが狙いだというのなら、メアがついて行きますから! アルタミアさんに、酷い事をしないでください!」


 メアが悲鳴を上げる。

 ラスブートが首を鳴らしながら曲げて、メアへと目を向けた。


「ふむ、なぜ、私が言うことを聞いてやらねばならないのですかな? 魔女は殺す、当然でしょう。残しておくと、後々厄介になる恐れがある。今回は勝てましたが、錬金術師は元々、研究が本分ですからね。リーヴァラス国に不利になるものを作られては困るのです。というより、国境沿いのこの領地が力を付けること自体、我々は好ましくない。こいつを始末した後に、ゆっくりと目的を果たすまでなんですよ!」


 ラスブートが呪猿杖を振り下ろし、アルタミアを背から地に叩きつけ、腹部を頭蓋で再び圧迫する。

 『呪体』に強化されたラスブートの腕力は、アルタミア越しに床に罅を入れ、粉砕した。


「ふふ、興奮してきましたねぇ! さぁて、しかし、まだ生きているとは。貴女はどうすれば死ぬのかな?」


 再度、呪猿杖で殴りつけようとラスブートが杖を振り上げ――その手が、宙に固定された。


「む?」


 いつの間にやら、手が、魔金属塊に覆われている。

 ラスブートは足に違和感を覚え、目線を下げる。

 いつの間にやら、足にも金属の枷が設置されていた。


「こ、これは?」


「……あんまり、私を舐めないことね。この私に近距離で戦うには、少し無防備すぎるわよ」


 即席魔導金属、ヒディム・マギメタルの手枷と足枷である。

 精霊であるアルタミアによりほぼノーモーションから放たれる錬成魔術は、自身の周囲の指定位置に、狙った形状で魔金属を生じさせることができる。

 ラスブート程の魔術師ならば、警戒していれば避けれたはずだった。

 しかし、優位に立った驕りと、このまま片を付けるという焦りが、ラスブートの視野を狭めていた。


「少し隙を見せたら、面白いくらいに乗ってくれたわね。ここまでボコボコにしてくれるとは思わなかったけど。さて、研究が本分の錬金術師にしてやられた気持ちはどうかしら?」


「この程度……!」


 ラスブートの身体中の黒が濃くなり、筋力が膨張する。

 魔術式の金色の輝きが増す。

 アルタミアのヒディム・マギメタルの手枷と足枷に罅が入る。


 だが、その隙に、アルタミアの幻の銅(オレイカルコス)の立方体が、ラスブートの背後へと浮かんでいた。


「大した膂力だけど、これで終わり!」


 立方体から伸びた針が、的確にラスブートの心臓を、背中側から貫通した。

 ラスブートの瞳孔が開き、口から喀血した。

 『呪体』により膨張していた膂力が、元の大きさへと戻っていく。


「……あ、ああ、あ……リーヴァイ、様」


 ラスブートは蚊の鳴く様な声を絞り出し、がっくりと項垂れる。


 アルタミアは、まじまじとラスブートを観察する。

 精霊体の塊であるアルタミアには、その気になれば、魔力の動きを感覚として追うことができる。


(生命力と魔力が、急速に弱まっていく……。頑丈だったけど、ラスブートもさすがに人間ね。心臓部を穿たれたら、死ぬしかないみたい……)


 が、そう考えていたのも束の間。

 減少傾向にあったにラスブートの魔力が回復していくのが、唐突に回復し始めた。

 ラスブートの白眼が見開き、歯茎を見せて醜悪な笑みを象る。

 引いていた『呪体』の黒が、再び顔を、痣の様に斑に覆いつくしていく。

 

「えっ……? う、嘘! 今、確かに……!」


 アルタミアは、ラスブートの心臓部へと目をやる。

 未だに針に貫かれたままではあったが、そのままに皮膚が再生し、失血がほとんど止まりかけていた。

 体内に、異様な魔力の動き。

 恐らく、針を避けた位置に心臓を移動させ、強引に機能を再生させている。


「残念ながら、死んだ振りでございます!」


 アルタミアは、宙を舞ってラスブートから間合いを取る。

 ラスブートが乱暴に振り回した呪猿杖が、アルタミアの鼻先を掠めた。


(こ、こんなの、さすがにあり得ない! 確かに、肉体は心臓を失って、急速に弱まっていた。それが、急に……! 外部から、誰かが、死に行くラスブートに干渉したとしか思えない!)


 アルタミアは、ラスブートを睨みながら考える。

 アルタミアを以てしても、ラスブートは容易には理解できない、歪な存在だった。


(一回押し潰した感触があったときに気付くべきだったわ! あの男、ほとんど人形みたいな作りになってる! 誰かが魔力を送って回復させて補佐を行ってるか……そもそも、あの身体を操っているのかも……)


 アルタミアは錬金術師としての知識を総動員させ、ラスブートの正体を探る。

 感知を巡らせ、ラスブート周辺の不審な魔力の動きを探る。

 そして、気が付く。

 ラスブートが死の淵から帰って来て以来、ラスブートの握ってる奇怪な杖を起点に、妙な魔力発信があることに。


「アンタ、まさか……自分の魂の一部を、杖に封じたの!? よく人様を無神論者扱いできたわね。私から言わせてみれば、アンタの方がよっぽど怖いもの知らずよ!」


「ほう、気が付きましたか。さすがは橙の魔女。だが、わかったところで、何もできはしない! この杖は私以上に頑丈! 破壊できるものならば、やってみるがいいでしょう!」


 アルタミアは、ラスブートの杖を観察する。

 確かに、尋常ではない濃さの魔力を感じる。

 しかし、あれを破壊しなければ、杖に眠るラスブートの魂が、肉体を無限に再生してしまう。


(コロッサスのない今の私が、アレを破壊し得るのは……あの魔術を使うしかないわね)


 アルタミアは、かつて長い年月を掛けて作った、塔の最後の番人、幻の銅(オレイカルコス)の大巨人のことを思い浮かべる。

 あの一撃ならば、もしかすれば、ラスブートの杖にも通ったかもしれない。

 しかし、現実にはアベルに粉砕され、予算と手間の関係で復活の見通しはついていない。


(……不要だと思ってたけれど、興味本位で聞き出しておいてよかったわ。問題は、本当に扱い切れるかってところだけれど……どうにか簡易化して、コンパクトにするしかない。この土壇場でそんなことやりたくはなかったけれど、他に手がないのなら、仕方ないわね)


 アルタミアはラスブートを睨み、覚悟を決める。


(規模を押さえたアベル球を、あの悪趣味な杖に叩き込む!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
↑の評価欄【☆☆☆☆☆】を押して応援して頂けると執筆の励みになります!





同作者の他小説、及びコミカライズ作品もよろしくお願いいたします!
コミカライズは各WEB漫画配信サイトにて、最初の数話と最新話は無料公開されております!
i203225

i203225

i203225

i203225

i203225
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ