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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第八章 大いなる水の神リーヴァイ
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十話 進撃のペンラート①

「ほら、どんどん彫って! じゃんじゃん彫って! 腕止めないで! そこ、十秒動きが止まってるけど、何かあったのか!? その十秒があったら俺ならそのパーツもう造り終わってるけど、何かあったのか!?」


 手でメガホンを作り、団員達へと喝を入れる。

 俺はラルクの館の庭にて、錬金術師団達を率いて、木偶竜ケツァルコアトルの製造に掛かっていた。

 オーテムによる製造もある程度は可能だが、複雑な部分が多く、高い精度と錬金術による加工が必要とされるため、やはり人の手を要する部分は完全には排しきれない。


 はっきり言って、俺ではクゥドルに対抗するには、規模が小さすぎる。

 前回の様に不意打ちで人工精霊を乗っけて魔力を削ぐ戦法も、二度目は通用しない。

 あれはクゥドルが俺の手札を把握できておらず、かつまったく予期していないかった手法とタイミングで攻撃を仕掛けられたことに加えて、単に運が味方して偶然成功したに過ぎない。

 だから、規模を補うため、木偶竜ケツァルコアトルの存在は不可欠だ。


 これが完成すれば、エベルハイドが人生を懸けて復活を目論んでいた、ゼシュムの浮上要塞なんて比ではない耐久性と機動力を持つ、無敵の浮上要塞が出来上がる。

 前回、クゥドルはほとんど魔法現象を使わず、単純な触手攻撃を主体として攻めて来た。

 全力を解放したクゥドル相手にどこまで対抗できるかはわからないが、ないよりはマシなはずだ。


「ほら、頑張って! 今のペースじゃ、永遠に完成しないぞ! 頑張って! 俺も頑張るから!」


 団員達は、死んだ目で魔術とナイフを駆使し木偶竜ケツァルコトルの製造を進めていく。

 庭には保護用の結界が展開され、その中に木偶のパーツの山が保管されていた。


「これ……完全に、大規模兵器だよな? なんで許可下りたんだ? こんな短期で?」

「なんか、教会上層部の人が直々に来て許可出したんだってさ。リーヴァラス国で主権握ってる新リーヴァイ派の侵略行為に対する、抑止力だってよ。資金も出てるって」

「教会も、リーヴァラス国も、余計なことしやがって……。アベルさんに餌やったら、苦労するのは俺達なんだぞ……?」


 ちょっと様子を見て回れば、小声で愚痴を零している団員が目に付いた。


「はい、作業間の私語厳禁ですよ! 各自、砂時計で掛かった時間を測ってメモに記載して、所要想定時間の差を見返して、自分で対策を考えてくださいね! 我々の仕事は、悪しきリーヴァラス国の侵略行為よりディンラート王国を守るためのものですから! そこ、しっかりお願いしますよ!」


 俺は手を叩き、声を上げる。

 団員達を激励するのも、団長の重要な役割である。


 所詮、持ち上げられ、アイドル扱いされて浮かれているアルタミアは、長の器ではないのだ。

 俺も怒りたいわけではないが、団員達の成長のためには仕方のない事だ。

 そして何より、俺が口にしたように、リーヴァラス国からこのディンラート王国を守るためには必要なのだ。

 俺も、心を鬼にする。


「そもそもこんな大仰な兵器なくても、アベルさん一人でどうにかなるんじゃ……? 完全にこれ、あの人が造りたいだけだよな?」


「そこ、私語厳禁でお願いしますよ!」


 俺としては、木偶竜ケツァルコアトルをとっとと完成させてしまいたい。

 この後にはリーヴァイの槍の解析と改良、魔力波塔及び、高重力波で空間ごと歪めて破壊する疑似魔力砲の建設が控えているのだ。

 最後のは作らないつもりだったが、せっかく許可も下りたし、資金もある。

 だったら、対クゥドル用兵器は多い方がいい。

 万が一にも、今後クゥドルと対立しないとは限らないのだ。


 槍の解析については、ペテロの権力で国内から禁魔導書を集めてもらい、オーテムの結界を張って逃げられないようにした一室にて、ゾロモニアへ二十四時間フル活動で調べものをしてもらっている最中なので、これが完成する頃には何らかの進展があると思いたいところである。


「アベル、そろそろ休憩を挟んであげても……」


 メアが俺の背に声を掛けて来る。


「でも、これは国を守るための重要な仕事だから……ラルクさんからも、早急に仕上げるように言われている」


「……えっと……そのぅ、あれ、ほとんど、言わせたようなものじゃありませんでした?」


 そんなことはない。

 俺がちょっと『いつ攻めて来るかわからない相手が仮想敵ですから、早い方がいいですよね!? 早い方がいいですよね!? え、そんな余裕あっていいんですか!? ちょっとペテロさんにも確認してきますね!?』と言っただけだ。


「俺達が泣くことで、一つでも多くの笑顔を守れるなら……俺は、それでいいんだ」


 俺へと団員達の、『俺はそんなこと許容してないぞ』という視線が突き刺さる。

 リノアも睨んでいた。俺は目を逸らした。


「ひょっとしてアナタ……リーヴァイの討伐とサーテリアの身柄確保を引き受けたの、兵器造って私からお金引き出す大義名分を強化するためじゃないわよね?」


 様子を見に来ていたペテロが、俺へと確認する様に言う。


 俺はあの後、リーヴァイの討伐に対して、相手の動向を探りつつ準備を進め、必要とあれば取り掛かるという、好意的かつ消極的な考えを提示した。

 正直あまり関わりたくないのが本音だが、こういっておけばペテロはそれ以上は諦めざるを得ないし、準備の名目で錬金術師団が動かせるし、ペテロの息の掛かった貴族と教会から資金も出る。出まくる。


 そんな俺の考えを見越してか、ペテロは少し錬金術師団の視察を行ってからこの地を離れることになっていた。

 そんなに暇なのかと問うと、『忙しいけれど、諸々考慮した結果、視察が最優先になっただけよ』と返された。


「アベル……あんまり急かしてたら、また全員倒れて、逆に効率下がるわよ」


 必要な金属類を錬成していたアルタミアが、席を外して俺の許へとやってきた。


「なんでだ? 働いた分の、充分な給与もしっかり出しているぞ?」


「使う時間がないとストレスは解消されないって知ってた?」


 アルタミアの一声で団員達が立ち上がり、「そーだ、そーだ!」と非難の嵐が舞う。


「今日はもう解散にしましょう。お昼どころか、朝の食事も後回しになってた人が多いでしょう?」


「ああっ! ちょっと、それは困る! ちょっと待って皆! 止まって! 止まってってば! 団長俺なんだけど、ちょっと!」


 アルタミアが言うと、俺が撤回する間もなく、団員達がさーっと掃けて行った。


「さすがアルタさん! 某オーテム馬鹿とは違って話がわかる!」

「一生尊敬する!」

「オーテム馬鹿の団長とは違う!」


 俺はがっくりと項垂れる。

 何故かラルク含め、皆アルタミアを重宝しているが、アルタミアはまだ、正式な団員でさえないんだぞ……?

 そのことを皆わかっているのか?


「それよりアタシ、製造用ゴーレムを本格的に導入したいんだけど、アンタ名義で男爵様に書類通してもらっていい? そっちの方が通りやすいし」


「……その話進めたいから、人払いしたんじゃないよな?」


「だってアンタ作業中、人の話ほとんど聞かないし。どの道、団員達も完全に限界だったわよ。またオーテム投げつけられたりしたいの?」


「…………」


 俺は腑に落ちない気持ちで書類を確認する。

 当然のように完成予定のゴーレムには絶対不要な機能がついていたが、俺は目を瞑ることにした。

 アルタミアもアルタミアで、なかなかいい性格をしている。


「確かにこれがあれば、木偶竜ケツァルコアトルの完成も早まる……」


 俺が引き続き書類に目を通し続けていると、俺から逃げ去っていった団員達とラルクが、顔を真っ青にして俺の許へと走ってきた。


「アベル団長! 一大事です!」

「アベルさん、大変です!」


 さっきと全然、俺に対する扱いが違う……。

 色々釈然としないが、俺は大人なのでモヤモヤを呑み込み、大人の対応をする。


「どうしましたか?」


 全力疾走したせいか酷く咳き込んでいたラルクが、ユーリスに背を摩られつつ、俺へと青い顔を向ける。


「リーヴァラス国との国境の山脈付近から……ナルガルンが、ナルガルンが出たんだ! こっちへ向かっている! それも、一体じゃない!」


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