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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第八章 大いなる水の神リーヴァイ
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七話

 その後、俺とペテロ、その付き人であるミュンヒ、流れでついてきたアルタミアは、ユーリスの誘導の許に、客室へと移動した。

 ペテロはユーリスに速く出て行くように急かした後、ミュンヒへと目を向ける。


 ミュンヒは小さく頷き、扉に杖先を当てる。


চাবি(鍵よ)


 扉に魔法陣が浮かぶ。

 魔法で鍵を掛けたのだ。


বাধাসজ্জা(結界展開)


 続けて杖を振るい、部屋内に簡単な防音結界を張ってから、ペテロへと頭を下げる。


「ご苦労、ミュンヒ」


「ないよりマシ程度の、簡単な魔法ですね」


 会話が漏れないための措置だろうが、魔術師がその気になれば、すぐ外からでも破れるだろう。

 ミュンヒは口許に引き攣った笑みを浮かべていた。

 手がぷるぷると震えている。


 俺はそっと口に手を当てた。

 思ったことがついそのまま口を出た。

 余計な事は言わない様にしよう。


「えっと……アタシを通してくれたってことは、本当にペルテール卿?」


 アルタミアが、ペテロへと詰め寄る。


「……アルタミア、あれから時間も十分に経ったから、人里に出るなとは言えないわ。どの道、アナタが強行すれば止められなかったものね。でも、まさかここにいるとは思わなかったわ。ハイエルフに連れ去られたのは……そっちのアベルちゃんの、大嘘だったのね。今思えば、もっと早めにこの可能性に気付くべきだったわ」


 重い空気の中、会話が交わされる。


 アルタミア、と聞いてミュンヒの口許が固く結ばれ、肩の震えがぴたりと止んだ。

 それから彼女はアルタミアへと視線を向け、ペテロへと首を向ける。


「ペテロ様……もしや、もしや、このお方が伝説の錬金術師、アルタミアなのですか!?」


「ええ、そうよ。最悪の魔女、アルタミアよ」


 ペテロが苦い口調で言う。


 二人が顔見知りだった、というのは薄っすら俺も知っていた。

 アルタミアが塔に引き篭ることになったきっかけに、ペルテール卿が噛んでいた、という話は、アルタミアから聞いたことがあった。


 やや沈黙があり、アルアミアが固い表情を一気に崩した。


「えっ、嘘、やだっ、! 意味わかんないんだけど! 本当に意味わかんないんだけど!? え、これペルテール卿なの? なんで!?」


 アルタミアが精霊体特有の跳躍でペテロの横に立ち、身体を不躾にペタペタと触る。


「いいじゃない、可愛いじゃん。え、でも、うっそ! あの真面目を絵に描いた様なペルテール卿が、女装したさに禁忌に手を染めるなんて! あ、仮面外していい? ねぇねぇ、目許はどうなってるの? 薄々怪しいとは思ってたけど、いつから女装に興味あったの?」


「……ペテロ様、このものへの処分を命じてください」


 ミュンヒの様子から緊張の色が消える。

 淡々とした声で言い、アルタミアへと杖を向ける。


「……連れて来た時点で、多少は覚悟してたわ。予想よりなお酷かったけれど。ただミュンヒ、抑えなさい。アナタの目前にいるのは、錬金術師の頂点、魔女アルタミアよ。彼女は、このワタシより強いわよ」


「…………」


 ミュンヒが疑惑の目をアルタミアへと向ける。


 今の彼女の様子を見たら、疑うのは無理もない。

 俺も、アルタミアの異様なハイテンションに呆然としている。

 こんなに燥いでいるアルタミアは初めて見た。

 俺もちょっと素で引いている。


「ねぇねぇどうして? ねぇどうして? 散々アタシに、罰が当たるとか、不自然な命は輪廻に導かれないとか、法神への反逆だとか、世の全ての魔術師の悪い見本とか言っておいて、自分だけちゃっかり延命重ねて、ついでに女の人になっちゃったのはどうして?」


 アルタミアがばんばんとペテロの肩を叩く。

 どうしよう、このままそっと部屋を出たい。


「ペテロ様! なぜ、なすがままにされているのです! 魔女だからと言えど、ペテロ様へのこれ以上の無礼は、私が命に替えても許しませ……!」


「……昔、十回近く厄介事を片付けてもらったから、頭が上がらないのよ。もう、いいわ。アルタミアについては、いないものと考えてちょうだい。ワタシは、アベルちゃんとの話があるから」


 ペテロが疲れ切った様に言う。


「ペテロさんも、大変だったんですね……」


 俺は大きく同情しておいた。

 確か、アポカリプス(でっかい金魚)の封印のために塔の建設をアルタミアに依頼したのも、ペテロだったはずだ。

 この様子を見るに、他にも色々と借りがあったのだろう。


「……とにかく、これが、アベルちゃんからの申請のあった、魔力波塔建設の許可書よ。ワタシの方から、他の貴族を通して資金提供の根回しをしてもいいわ。王家の印もしっかりとあるから、問題事になることはまずないわよ」


「さっすがペテロさん! あの二つの権威の指輪、ペテロさんに預けておいた甲斐がありました!」


 俺は立ち上がって喜び、ペテロへと手を伸ばし、思わず握手した。


「預けてじゃなくて! 元教皇の証と、アモールの大導師の証は、どっちもペテロ様のものですから!」


 ミュンヒが頬を真っ赤にして怒鳴る。

 にこやかに笑う俺の顔を見ながら、ペテロが小さく首を振るう。


「……ペルテール卿も、アベルに目を付けられるなんて大変ねぇ」


 アルタミアが醒めた目で俺とペテロを見る。


「アナタ達……自覚ないみたいだけど、二人ともそんなに変わらないわよ?」


 俺は許可書を受け取り、鼻歌を歌いながら中身を確認する。

 確認したのだが、不安になってきた。


 捲っても捲っても、俺が出した内容がそのまま全部許可が出されている様にしか見えない。

 俺はラルクを出し抜き、ちょっとでも許可書が通る要項を増やすために、思いついたことはふざけ半分で全部盛り込んでおく癖がついていた。

 だが、それが、隅から隅まで全部マルが付けられているのだ。

 ちょっと現実的じゃない。

 これ、本当に読んでるのかこの人。


 挙句の果てには、魔力波塔の余剰魔力を集めて強力な指向性のある重力波を撃ち出し、直線状の空間を時間差なしで歪めて捻じり潰す、ある意味光速を超えた疑似魔力砲まで許可が降りてる。

 こんなもの完成したら、その気になったらファージ領から王城を消し飛ばせるぞ。


「あの、ペテロさん、これ、ちゃんと目を通しました? こんなの渡されて、許可はこれで大丈夫……なんて言われても、ちょっと信用できないんですけど。いくら俺でも、こんなもん作りませんよ」


 俺は許可書の重力砲のページを開いで左手で押さえ、ぺしぺしと右手で叩いた。


「じゃあ、そんなのペテロ様に出さないでくださいよ……」


 ミュンヒの口から、力ない俺への非難の声が漏れる。

 ペテロがこほんと咳払いをし、両肘を机に突いて、手を組んだ。


「……実は、アベルちゃんにお願いごとがあるのよ。一つは、どうにか、ワタシとクゥドル神の、橋渡しをしてほしいってこと。もう一つは……四大創造神の一柱、水の神リーヴァイの抹消と、教皇サーテリアを捕えてほしいの。リーヴァラス国は、間違いなく近い内に動くわ」



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