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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第八章 大いなる水の神リーヴァイ
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四話

 例のクゥドルとの戦いから二週間程が経過した頃に、ファージ領のラルク邸へと、俺とメアに来客があった。


「またアベルちゃん、メアちゃん連れて変なところ行ってたでしょ!? もー……本当、アベルちゃん、もー……なんて言えばわかってくれるのかな?」


 緑髪の尾が、机にうつ伏せになったシェイムの頭の上で力なく垂れる。

 いつぞやの恩人、ポニーテールの活発な少女、F級冒険者のシェイムであった。


 シェイムは俺とメアが故郷の追手に追われてパニックになっている間に、見ず知らずの俺達へと逃げ込み先を調べ上げ、共に考えてくれた大恩がある。

 彼女がいなければ、メアと俺はそれぞれの集落へと引き戻されていた恐れがあるほどだ。


 そして俺はその大恩人に、ガチ説教を受けていた。

 俺は何も言い返せず、椅子の上で小さくなっていた。


「一回目じゃないよね? アタシ、前も言ったよ? こんなこと続けてたら、アベルちゃんだけは大丈夫でも、メアちゃんがどうなるかわからないって」


「はい……」


「あのね、アベルちゃん。アベルちゃんは確かに、奇跡的に何故か人の形を保ってる魔力の化け物かもしれないけど、メアちゃんは普通の女の子だから、もっと大事にしてあげないとダメよ? 死地に連れていかないであげて? もう、本当に今更かもしれないけど」


「お、俺そんな化け物じゃ……」


「錬金術師団の人が言ってたよ? 東を起点に空が赤黒く輝いたと思ったら、東の方から『次は勝てるか?』ってぼやきながらアベルちゃんが帰ってきたって。知ってる? ディンラート王国最東の方で、地形や海底断層に大規模な破壊による変形が生じて海流が変わったのを、王家が揉み消そうとしてるって話。アベルちゃんでしょ、ねぇ!? 絶対アベルちゃんでしょ!?」


 ア、アベル鋸か!?

 アベル鋸が海底を切り開いたのか!?


 俺はあの時、諸々考えることを止め、如何にクゥドルへと確実にダメージを叩き込むかのみに意識を向けていた。

 周囲への影響は全く考えていなかった。


 アベル球が力任せの拳の一撃なら、アベル鋸は研ぎ澄ました刃の一閃である。

 魔力出力の引き上げのための魔力の疑似増幅術式等や、エネルギーの塊を押さえつけて形にするための多重結界術式等は、アベル球からアベル鋸へと引き継いでいるため、アベル球の派生魔術といえる。


 アベル球の衝突時のエネルギー拡散や、火属性という点に固執しなければ、アベル鋸はほぼアベル球の上位互換といっても過言ではない……はずだったのだが、エネルギ―を早々に散らして崩壊するアベル球に比べて、どこまでも斬り進んでいくアベル鋸は、周囲への悪影響が少々大きいかもしれない。


 しかし、王家……ということは、十中八九、ペテロ絡みだ。

 どうやら問題ごとへと発展する前に、ペテロが王家に圧力をかけてくれたのだろう。

 さすがペテロだ。指輪を返しただけはある、きっちりと働いてくれた。

 ただそのせいで、ディンラート王家が魔術兵器の実験や持ち出し、国民に黙って兵器の試運転を秘密裏に行ったのだとあらぬ誤解を招いているようだったが、俺には関係のない話である。


「最初に会ったとき……ガストンに功績投げてたら、何故か英雄になって王都に連れていかれたって聞いたときからぶっ飛んでるなーとは思ってたけど……会うたびになんで大問題引っ提げてるの……? ここの領地薦めたのは、アタシのミスだけどさぁ……」


「シェイムさん、違うんです! メアがついて行きたいって言ったんです! それに、今回は、最初はそんなに危なくなるはずじゃありませんでしたもん!」


 メアが項垂れる俺の左腕へ抱き着き、俺の擁護の言葉を並べながらシェイムを睨む。


「ね、アベルは全然悪くないですよ?」


 メアが、俺の顔を覗き込む様に見る。


「メア……!」


 そう、そうだ。

 俺はただちょっと、持ってるだけで世界中から命を狙われかねない大神宝典へとちょっと書き込みを行ったり、教会に黙って解析を押し進めたり、好奇心で宝典の示す先へと向かっただけである。

 ただの古代聖堂観光旅行ツアーで済むはずが、『刻の天秤(バランサー)』やペテロの嫌がらせに遭い、クゥドルに難癖を付けられてあんな羽目に落ち至った。

 そう、いわば俺は彼らの被害者なのだ。

 今回の災難は俺にどうこうできるものではなかった。


 俺は自信を持って胸を張る。


「……魔女の塔に行った後、勢い余って塔吹っ飛ばしたってアタシ聞いたけど?」


 俺はそっと耳を塞いだ。

 

「メ、メアはずっとアベルの隣にいますもん! シェイムさんには感謝してますけど、こんなところまでとやかく言われたくはありません!」


「いいの? この子といたらメアちゃん、幸せになれないかもしれないよ? アベルちゃん、ちょっと人とずれてるから、凄く苦労するよ?」


 俺はメアとシェイムのやり取りを、落ち着かない気持ちで眺めていた。

 俺を前に俺を評価するのは止めてほしい。


「アベルと一緒なら、メア、不幸になってもいいですもん!」


 メアから返された言葉で、シェイムがしばし沈黙する。

 それから溜息を吐き、呆れた様に首を振った。


「ま、正直アタシ、メアちゃんならそう言うんじゃないかと思ってたけどね……。もう、何と戦ってたのは聞かないことにするけど、今回より危険なこともそうそうないだろうし、いいんじゃない?」


 シェイムが呆れた様に言い、はーとか、ふーとか、溜め息を吐いている。


 お節介だと言いたいところだが、ペテロの裏切りで俺とメアが危なかったのは事実だ。

 クゥドルが考えを変えなければ、メアがクゥドルに殺されていた可能性も高い。

 俺は無警戒と単に実力不足で二回ほどメアを死なせかけている。


 結局あれだけ立ち回っていたペテロを二度見逃したあたり、クゥドルは神話で語られるほど残虐でも短気でもない。

 ただ敵対者への牽制としてその様に振る舞っていただけだろう。

 俺も恐らく、あっさり負けていても見逃されていた可能性が高い。

 ただその反面、メアへの害意は本物だったように思える。

 クゥドルの古代聖堂は、俺とメアが世界で一番行ってはいけない場所だったかもしれない。


 シェイムは上辺の断片的な情報しか知らないはずだが、彼女の言っていることは恐ろしくもっともである。

 顔見知り程度の仲でしかない俺達に行き先の手配から情報収集、そしてアフターケアに時間と交通費を掛けて何度も様子を見に来てくれる上に、こうして忠告までくれるのだ。

 感謝と申し訳なさで頭が上がらない。


 俺は額を机に付けたまま小さくなっていた。


「アベルちゃんへのお説教はこれくらいにして、他にちょっと言っておきたいことがあったからこっちに来たんだけど……。アッシムの街で、ドゥーム族の集団と、マーレン族の集団を、アタシの友達が見たんだって」


 シェイムが声のトーンを落とし、真剣そうに俺へと伝える。


「も、もうそこまで!?」


 俺は慌てて頭を上げた。

 メアの表情も凍り付いている。


 まずい。思えば、別に偽装らしい偽装をしてここまで来たわけじゃない。

 マーレンやドゥームは、やはり人目を引く。

 アッシムまで来てしまえば、後は情報収集を続けていれば、ファージ領の話がいくらでも入ってくるはずだ。


 元々閉鎖した辺境の田舎領地だからここを選んだのだが、ナルガルン討伐以来、流通が復活している。

 おまけにナルガルンの鱗を大量に他領地へ売り捌いている。


 更にはアルタミアが秘蔵にしていたはずの幻の銅(オレイカルコス)の生成・精製・合成を、こともあろうか錬金術師団の団長たる俺が不在の間に勝手にラルクの許可を取って進め、錬金術師団のメイン事業として確立させようと画策しているようだった。

 もうこれは完全に言い訳の余地なく、アルタミアが奥の手を使って俺の地位を潰しに掛かっているとしか思えず、リノアとイカロスに続く、ついに俺とアルタミアによる第二次錬金術師団派閥争いの火蓋が切って落とされた。

 自己擁護とアルタミアの計画を正論の刃で潰す準備を行っておかねばならないが、その問題はひとまず後で考えるとして、とにかく幻の銅(オレイカルコス)の噂が既に漏れ、ファージ領が注目されつつあるところが問題である。


 アッシムの街は流通の要であり、ここファージ領も、アッシムを主要な流通の経由場として他領との交渉や商売を行っている。


「アッシムにいれば、確実にファージ領での俺の噂が入ってくる……もう、時間がないんじゃ……」


「うんにゃ、ひとまずアタシが友達に頼んでデマ撒いてたんだけど、大して調べずに二組ともそっちに向かったみたい。上手くいけば、ここでもう途切れるかもね」


 シェイムが硬くした表情を一気に崩して笑う。

 俺もメアもほっとして一息。

 あの世間知らずの室内犬の如く育ってきたマーレン族は仕方ないにしても、ドゥーム族までそんなあっさり引っ掛かって立ち往生しているとは思わなかった。

 結構似た者部族なのかもしれない。


「でも、警戒するに越したことはないから、一応メアちゃん達の耳に入れておこうと思って」


「わ、わかった。その忠告のために、こっちまで来てくれたのか?」


「あはははは、そんな気にしなくってもいいって! アタシが好きでやってることだから」


 シェイムはそう言ってウィンクし、誤魔化す様にひらひらと右手を動かした。


 ドゥーム族が集落ぐるみでいびって追い出したメアを血眼になって追いかける理由には、まるで見当もつかない。

 クゥドルと同じ理由ならば、何としてでもクゥドルから聞き出さねばならない。

 場合によっては、待ち伏せしてドゥーム族を叩き伏せて追い返すのも手だ。


 だが、マーレン族だけは、どう対応すればいいのか、皆目見当がつかない。

 シビィや父ゼレートはともかく、俺が一方的に傷つけて逃げて来たジゼルに向けて魔術をぶっ放す気にはなれない。 

 泣きつかれたらそのまま流されて帰る羽目にもなりかねない。

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