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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第八章 大いなる水の神リーヴァイ
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二話 とあるフィクサ―の因縁①(side:ペテロ)

 ディンラート王国、レイングルム辺境伯領を歩く、ペルテール元教皇ことペテロと、その部下であるミュンヒの姿があった。

 レイングルム辺境伯家は代々ペテロの補佐を行っている貴族であり、この領地にはペテロの拠点の一つがあった。


「久々に、何度か死ぬかと思ったわ……」


 遠くに見える拠点である館を目にし、ペテロが力ない声を漏らす。

 ペテロの目許は罅の入った仮面が隠していたが、しかしそれでも、唇の歪み方に疲労感が滲み出ていた。


 横を歩くペテロの部下、ミュンヒが彼の顔を見て表情を顰める。

 ペテロは彼女の顔を横目で見て苦笑した。


「でも……予定は瓦解したけれど、ディンラート王国の守護神を復活させられたのは間違いないわ。もっとヤバイ精霊兵器だと思ってたから、何がなんでも縛り付けて制御するつもりだったけれど……あの様子なら、もう、ワタシの出る幕はないわね。目前で見て分かったけれど、あれをどうこうできる何かが、この世界のどこかにあるとは思えないわ」


 元々、ペテロの目的は、いずれ来る災厄に備えて、クゥドルを復活させることであった。

 制御下におきたかったのも、クゥドルの実態が不明であった点に限る。

 地位を捨て、禁じられた魔術による延命を繰り返してきたのも、そのためであった。


「万全を期すなら、不安要素の芽は摘んでおきたかったけど……その判断も、クゥドル神をワタシが制御できなかった以上、ワタシにどうこう言えることじゃないわね。できることは、やったわ。ワタシの延命した、四十年の年月を掛けて……」


「そう、ですね……ペテロ様、お疲れ様でございました」


「アナタも、散々振り回してくれたけれど……よく協力してくれたわね、ゾロモニアちゃ……」


 ペテロは自身の隣へと目を向け、言葉を途切れさせる。

 それから力なく溜め息を吐いた。


「いたらいたでウザかったけれど、いなくなったら寂しいものがあるわね」


 ゾロモニアは、既に封印から解いて解放してしまっている。

 今はアベルに召喚紋を残し、本体は自由の身となっている。

 野放しにしておいて安全な存在とはいえないのだが、最後にペテロの言葉通りに命懸けでクゥドルへと抗った功績もあり、またすぐに捕らえるという気にも、ペテロにはなれなかった。

 本当に危うければ、ゾロモニア同様にアベルの周辺にいるはずのクゥドルがどうとでもするはずなので、ペテロが頭を悩ませる必要も薄かった。


「……ペテロ様、目的の一つであった、ディンラート王国の他国への戦争による宗教統一はよろしかったのですか?」


 ミュンヒの問いに、ペテロが首を振る。


「クゥドル神の協力がないと、そんなこと不可能よ。それに、クゥドル神は、強すぎるわ。元々、宗教統一は、いつか動くアイツの行動を防ぐためだったのだけれど……クゥドル神がいる以上、危険や不幸を生んでまで、通すべきことじゃあないわ。本格的に、ワタシも御役御免というわけね」


「度々口にしていましたが、アイツ、とは……?」


「そうね、もう言ってもいいでしょう。ワタシが一度死を偽装して、教皇の身を捨てた四十年前……その少し前に、ワタシ、会ったことがあるのよ」


「その、どの方に……?」


「怪人、ジュレム伯爵よ」


「ジュレム……?」


 ミュンヒが戸惑う。

 ジュレム伯爵は、半ばお伽噺の存在である。


 六百年程前にディンラート王国内にいたとされる伯爵で、ある日を境に行方不明になってしまったのだという。

 ただそれから百年以上経った後に、ディンラート王国内どころか、世界の各地でジュレム伯爵に似た人物を目にした人が現れ始めたのだ。

 なんでも歴史に残るような大事件の場に居合わせては、周囲から離れたところで一人笑っているのだ、と。


 ディンラート王国の者ならば九割方の人間が知っているであろう、有名な話であった。

 だが、本気で信じている者は滅多にいない。

 時折新しい噂が出るが、ただの後付けや出任せ、勘違いばかりであった。


 年に数人は俺がジュレム伯爵だと主張する者が現れ、毎年恒例のロマーヌの仮装祭りでは、ジュレムの仮装を行う者の姿が必ず確認される。

 因みに今年のロマーヌの仮装祭りでは参加者の過半数がガストンの仮装をする珍祭となったが、そのことはどうでもいい。


 ミュンヒが疑いの目でペテロを見る。

 ミュンヒほどペテロへの忠誠が深い人間であっても、真偽の判断に迷っていた。

 妄想か、或いはただの冗談である可能性も高い。

 そんなミュンヒの疑惑の目へと、ペテロは微笑で返す。


「話もしたわよ。アレとは、当時のディンラート大宮殿の最上階……聖座の間で遭ったのよ。不敵にも、警備を壁に磔にして、聖座に座ってワタシを待っていたわ」


「ジュレム伯爵が……?」


 ミュンヒの顔には依然として困惑があった。

 ジュレム伯爵は、善悪の概念がそもそも不明瞭であった。

 宮殿に襲撃へ出向いていたなど、どこの記録にもそんなことは記されていない。


「あいつは言ったわ。『ペルテール卿よ、私はいずれ、他の四大国を、このディンラートへと同時に嗾ける。哀れな教皇よ、その頃には貴様は、年老いて、既にこの世にはおるまい』……とね」


 ミュンヒの困惑顔が、驚愕に変わる。


「あっ……だ、だから……!」


 四大国とは、四大創造神のかつて建国したとされる国のことである。

 それが同時にディンラート王国へと牙を剥くようなことが万が一にでも起これば、ディンラート王国は確実に壊滅する。

 ペテロは未然にそれを防ぐため、身分を捨て、神話に縋ってクゥドルを追い続ける必要があったのだ。

 他四国の宗教統一も、ジュレム伯爵がいずれ仕掛けて来る攻撃を見越した、国を守るための先制攻撃であった。


「お伽噺通り……あいつは、完全に精霊を介さない魔法現象を引き起こせるわ。戦ったけど……フフ、酷い目に遭わされたわ。誰もジュレム伯爵が喋っていた、なんて話をしなかったから、あんな饒舌だとは思わなかった。あの調子じゃ……ただの傍観者じゃなくて、何度も歴史に介入しているわね。そんなことができるなら、表には出さなくとも宗教上ディンラート王国を恨んでいる四国を唆して、ディンラート王国へと攻撃させることも、不可能じゃないかもしれないわね」


「そ、そんな……」


「ジュレム伯爵のことは未だに夢で見ていたけど……クゥドル神を見てから、綺麗さっぱり見なくなったみたい。ジュレム伯爵は、手も足も出ない相手だったけど、クゥドル神とアベルちゃんを敵に回して、何かができるとは思えないもの」


 ペテロが笑う。

 身分を捨て、信念を曲げて生きながらえ続けた結果、ついに歴史の怪物を落とす力を蘇らせることに成功したのだ。


 つられてミュンヒも笑う。

 話している間に、拠点である館へと辿り着いていた。

 ミュンヒが扉を開けて横に外れ、ペテロを先に通す。


「さて、目的も果たした以上、無意味に世の理を乱して延命する意味もないわね」


 ペテロが寂し気に呟く。


「ペテロ様、それは……!」


「と……言いたいところだけど、ディンラート王国の今後と、あの伯爵の最期を見届けるくらいは、きっとクゥドル神もお許しになるでしょう」


 ペテロが言い、ミュンヒが笑う。


「それに……アベルちゃんが何をするのか見張っておかないと、気が気じゃないわ……。でもワタシが相手だと付け上がりそうだし、ワタシも強く出れないから、ちょっと一回死んで名前を変えようかしら。この顔、気に入ってるのに……」


 ミュンヒの笑みが止まる。

 彼女も手で顔を覆い、悲痛げに溜息を漏らす。


「救世主となるのか、破壊神になるのか……」


「両方遂げる可能性が一番高いかと」


「だから性質が悪いわね。ラルク男爵は凄いわ。あの化け物を抱えて、まだあそこまでで押さえているのだから。気弱な軟弱男かと思ったけれど、意図して制御しているのなら、とんでもない手腕よ」


 ペテロの冷や汗をミュンヒが布で拭う。

 ペテロは階段を上がりながら、怪訝に口許を歪める。


「迎えがないわね……? 扉のところから、おかしい気はしていたけれど。誰かいないのかしら」


 ペテロは言いながら首を傾げる。

 ミュンヒが最上階層である四階の奥の扉へと手を掛けた。


「なっ……!」


 ミュンヒが驚嘆の声を漏らす。

 部屋は血に汚れ、館にいたペテロの部下や使用人、十数名が血塗れで倒れていた。

 奥のペテロが座っている椅子には、恰幅のある、緑白色の髪の、壮年の男が座っていた。


「久し振りではないか、ペルテール卿。どうだね、いつぞやの再現の様であろう? 自称するのも恥ずかしい話だが、私は案外、粋な性質でね」

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