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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第七章 クゥドル神復活
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とある集落の話10(sideジゼル)

 マーレン族アベル捜索隊の四名、ジゼル、シビィ、フィロ、リルは、隠れて観光ツアーを企てていた大人組を置き去りにし、ロマーヌの街からアッシムの街へと進み、更にそこから続いて北部へ移動。

 そしてついに、アベルがいるという話のあった都市ルーガートへと辿り着いていた。


 都市ルーガートの位置するディンラート王国北部は、国内で最も平均気温が高く、また盗賊や魔獣が放置されがちであるため治安が悪く、なかなか厳しい旅路となった。

 おまけに乾燥が酷く奇妙な風が吹き、度々砂嵐が発生する。

 間違いなくディンラート王国最悪の地であった。


 一年を通してほぼ涼しい気候で安定しているマーレン族の集落出身の身としては、ディンラート王国北部の悪気候と治安の悪さには散々疲弊させられていた。

 デザート・フォーグという砂の塊の様な魔獣に襲われてはジゼルが水魔術で応戦して溶かし、竜巻がくればジゼルが風魔法で死ぬ気で逸らし、盗賊団がくればジゼルがオーテムを操って応戦した。

 他の三人は暑さでバテて倒れていたので応援に徹していた。


 一行はマントを身体、そして顔まで覆い、都市ルーガート内部を歩いていた。

 都市ルーガート周辺では砂嵐が度々吹き荒れる。

 そのため、砂で顔や衣服が汚れない様、外を歩くときにはマントで全身を守る必要があった。


 靴底が乾いた大地を削り、砂埃を立てる。


「……ここに、アベルさんがいるんですね。長くなりましたけど、ようやくこれで不便でしんどい旅も終わりますね。とりあえず顔を合わせたら、文句を言ってやらないと。何も、こんな辺鄙なところに来なくたっていいのに」


 シビィが呟く。

 その足取りは重い。

 残る二人、リルとフィロも、疲れ果てた様子でふらふらと街を歩いていた。


「足痛い……暑い……帰りたい……」


「汗と砂が混じって気持ち悪い……ボク、今の状態でアベルに会いたくないかな……」


 ジゼルだけが険しい顔で、黙ったまま先へと進んでいた。


「どうしたのジゼルちゃん」


 シビィが声を掛ける。

 ジゼルは振り返らずに答えた。


「気持ちが、焦ってしまっていました。もっと早めに気付くべきでした……こんな悪条件の地に、兄様が来るわけがない」


「「「あっ」」」


 後ろから付いて来ていた三人が足を止める。


「い、いやでも俺、何人からも裏付け取ったし……間違いないって! 絶対アベルさん、ここにいますよ!」


「実際に、ここまで来てわかりました。いくらなんでも、ここの領地は最悪です。おまけに、今思えば、不自然に目撃情報が多過ぎました。この二点から察するに……私達は、恐らく嵌められたんです」


 ジゼルが足を止めて振り返った。


「やだああああああ! あたし、これ以上旅するのやだああああああああ!」


 リルがその場に崩れ落ちてわんわんと泣き始めた。

 近々アベルと再会できると心中で喜んでいたフィロも呆然としている。


「さっ、捜すだけ捜してみましょう! 可能性がゼロってわけではありませんし!」


「いえ、これはもう絶対ダメですね。兄様は絶対ここには来てません。仮に来る気があっても、恐らく確固たる目的のない限りは間違いなく引き返しています。アッシムまで引き返しましょう。あそこで罠が張られていたということは、あそこまでは間違いなかったはずです。後は、そこで情報収集を行い直し、兄様ならどこへ向かうかを考え直します。ルーガートに罠を張った以上、こちら側ではありません。大きく絞れるはずです」


「あれだけ苦労してここまで来たんですよ!? それを無駄にしたくない!」


 シビィの言葉を聞き、ジゼルの脳裏に、自分が必死に竜巻の軌道を逸らそうとしている後ろで、魔術で出した水をがぶ飲みしているシビィの姿が移った。

 が、今はそこには触れないことにした。


「逆に、兄様の動きがここまで絞れたんです! 今回は残念でしたが、次、次で確実に追いつくためには、一刻も早く動かないと……! ここは絶対に違います!」


「う、うう……で、でも」


 ジゼルが口籠るシビィを見つめていると、不意に嫌な気配を覚えた。

 周囲を窺うと、こちらへ向かって来る集団があった。他のここの住民達は雰囲気が違う。

 なぜかわからないが、砂除けのマントは羽織っていなかった。

 どこか不吉なものがある。


「す、少し隠れてましょう!」


 ジゼルは状況が呑み込めないシビィのマントの袖を引き、建物の陰に隠れた。

 他の二人もそれに従ってついて来る。

 ジゼルは首を伸ばし、集団の様子を窺う。

 背負う長い槍に強い既視感を覚え、以前にロマーヌの街で見たドゥーム族であると思い出した。


 以前と同じく、十人いる。

 一律に術式の様な記号が縁で記された暗色のマントを羽織っており、背には長槍を背負っていた。

 頭部が隠されていないため、彼らドゥーム族の誇りであり象徴である二本の角と額の青い結晶石は、ルーガートの砂に汚れていた。


 頭目らしき男が不機嫌そうに歩む。

 他の者はそれにビクビクと震えながら付き従っていた。


(ドゥーム族まで、なんでこんなところに……)


 ジゼルは目を細める。

 まさか、行き先が被っているとは思いもしなかった。


「……メルゼフ様、どういたしますか? まるでメア様……ゲフン、赤石の姿がありません! 目撃情報も、まるでありません……」


 部下の一人が、先陣を切って歩む男へ声を掛ける。


「本当に、ここはルーガートなのか?」


「そのはずですが……そのはずなのですが……! い、一応、また確認してみましょうか?」


「……そうだな、一応確認しておけ。来るときも、三度ほど道を間違えた……もしかしたら、以前のときの様に同名の全く異なる地だった、ということもあるのかもしれぬ」


「は、はい!」


「それから……あの、頭に巻いている奴を何かと交換してもらえないか、ここの者に交渉してみよ。いくらなんでも、これは敵わぬ……」


 メレゼフが、自身の額の青い結晶石に付いた砂を指で拭い、疲れ切ったように口にした。


「さすがメレゼフ様、聡明なお考えです!」


 ジゼルはやり取りを耳にしながら、首を傾げていた。


(それは単に事前確認が甘すぎるのでは……?)


 ドゥーム族もマーレン族同様、狭い集落の中で自分達の規則で生きていたため、他への適応能力が著しく欠けていた。

 全員が長く集落生活を送ってきた大人だったため、ジゼル達以上に経験を曲げて新環境へ合わせるといったことができていなかったのだ。


「赤石は、必ず葬る……。月祭ディンメイが近い、時間はないぞ」


 ドゥーム族一行が通り過ぎて行ってから少し時間を置き、マーレン族四人組は道へ出る。

 顔を合わせてから、一斉に頷いた。


「とりあえず、アッシムへ戻りましょうか……」


 ドゥーム族の彼らの目的は知らないが、砂塗れで都市ルーガートに固執している彼らを眺めていると、なんとなく彼らと同じことをしていても目的が果たせない様な気がしたのだ。

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