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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第七章 クゥドル神復活
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四十三話 大神クゥドル⑰

 俺はクゥドルの巨体の遥か高みを見上げる。

 複雑に絡み合った触手は、巨大な樹の根を思わせる。


 クゥドルが『タイプ・ワールドツリー』と自称したこの形態は、もう正攻法では対処のしようがない。

 リーヴァイの槍を放っても、この膨大な質量による打たれ強さの前では、攻撃を強行できる。

 回避に専念してくれていたゾロモニアの魔力が、彼女の大言とは裏腹に早々と尽きようとしている現状から鑑みて、従来通り戦っていてもこちらがジリ貧になってやがて詰むのは、既に明白であった。


 だったら、奇策に賭けるしかない。


 俺は元々、戦闘魔術師タイプではない。

 解析や錬成を得意とする錬金術師寄りの人間だと自負している。

 表に立ってドンパチやるのが間違いだったのだ。


 ゾロモニアが、俺の背後に立ち、そっと背に手を沿える。

 情報を直接相手に伝える『記憶写し』の魔法である。

 似たような技は耳にしたことがないので、恐らく知恵と破滅の大悪魔と称される、彼女の特異魔法だろう。


 元々精霊体の塊である悪魔は、単純な魔術ならば魔法陣を使わずに魔法として再現できる。

 その魔法の中には、個々の悪魔にしか扱えない魔法がある。ハーメルンの魔物を操る性質も、特異魔法の一つである。


 小さな手を伝い、クゥドルの解析結果が流れ込んでくる。

 確かに、クゥドルが人工精霊であることに間違いないはないようだが……改めて、とんでもない規模の存在だとわかる。


『どうかの? これで……どうにかなるのか?』


 ゾロモニアが声を掛けて来る。


「……ちょっと難点が……まぁ、どうにかなる範囲だとは思いたいけど」


『難点?』


 俺は曖昧に頷く。


 難点は、ゾロモニアの持ってきた、ここ一番の最重要データであるクゥドルの情報の精度が、かなり甘いことである。

 ゾロモニアが疲労していることはわかっているのであまり期待はしていなかったが、なんかもう解析結果だけ見ても突っ込みどころ満載で、『こことここ明らかに矛盾してるよね? 人工精霊の構成術式の解釈から間違っていて、別方面から解析し直そうとは思わなかったのかな? うん? もしもこれを俺が妄信して突っ走ってたらその場で終わりだったからね?』と詰りたい気持ちがなくもなかったが、そんなことを今更言っても何の役にも立たないので、黙っておくことにした。


『ようやく抵抗する意志も失せたか、マーレンよ』


 止まったまま考えている俺を見てか、クゥドルが声を掛けて来る。

 会話に出てくれるならありがたい。

 この隙に俺は、話を上辺で聞きながら、ゾロモニアから受けた情報を頭の中で整理しつつ、脳内で魔法陣を走らせて試運転し、対クゥドルの策を固める。


『貴様の魔術が、ヨナハン以上と分かった時点で、適当なところで屈服させるつもりであったが……まさか、ここまで人間相手に魔力を使わせられるとはな』


 うん……?

 その言い方だと、まるで俺を倒すのではなく、降参を取るのが目的だったような言い方だ。

 まさか、この流れは……。


『貴様の最後の抵抗は、ここからでも貴様は我が魔力を削ぐことができるであろう。目覚めてすぐに、これ以上の魔力を失うのは、我としても堪え難い。もう少し追い込む予定ではあったが、止めだ。この我が、取引してやろう』


「取引……?」


『停戦だ。あの女に手出しをするのは止めにしてやってもいい。アレは不穏ではあるが……そのために、別の大きな駒を逃すのは痛い』


 何を言っているのかはイマイチわからないが……アレ、というのがメアであるということはわかる。

 大きな駒は、俺の事か?


『あの女を見逃すことで生じ得る痛手の分、貴様が戦力として補うというのであれば、な。詳細は話さぬ。今、ここで決断せよ。乗るというのなら……その冷たい魔金属の手に握る槍を、下に落とせ。あくまでも戦うというのならば、我に向けて放ってみるがよい。それを我は、貴様の判断とする。以降は耳を持たぬと思え』


 願ってもいない申し出だ。

 奇策頼みで突っ込んで行っても、正直勝算は薄い。

 奇策は所詮奇策だ。ほとんど自殺の様なものである。


 ただ……罠の危険性もある。

 クゥドルからしてみれば、例え千分の一でも、魔力を削られたのは痛手のはずだ。

 ここまで来てあっさり和解というのは、あまりにも俺にとって都合がよすぎる。

 都合のいい話には罠が付き物だ。


 クゥドルの言葉から察するに、俺の様子から窮鼠の一撃が跳び出してくることを予期している。

 クゥドルの魔力はまだまだ底を尽きないが……クゥドルの魔力の自然回復は、その総魔力と比べ、恐らくとんでもなく少ない。

 魔力消耗を抑えるため、俺の戦意を削ぎ、無防備になったところを安全に仕留めるつもりかもしれない。

 リーヴァイの槍はワンアクションで手許に寄せられるとはいえ、そのワンアクションの間に、タイプ・ワールドツリーのクゥドルが巨大な触手を放てば、こっちは一気に後手に回り、防戦一方となる。

 そうなれば、まともに抵抗する猶予もなく、そのまま命を落としかねない。


 だが、クゥドルが最初に設けた『ディンイーターを造らない』という縛りを未だに守っている辺り、誇り高さ、或いは自尊心の高さが窺える。

 そんなクゥドルが、格下相手に、魔力をケチるためだけに不意打ちなんて使うだろうか?


 どう考えても、罠の確率よりも、戦って俺が勝てる確率の方が、遥かに低い。

 確率で考えるならば、わざわざ和解の手を蹴って俺が得をすることは何もないのだ。

 クゥドルから見ても、恐らくこのことは明らかだ。

 そう考えてしまうのは驕りではない。

 論理的に考えて、俺が生き残るために打てる手がそれしかないという、ただの事実だ。

 しかし……本当に、それでいいのか?


『何を迷っておる? ここから何をしても、アレはどうにもならぬぞ。素直に従う他にあるまい』


 ゾロモニアが、俺の背後から急かしてくる。

 俺は頷き、杖を下げる。

 ヒディム・マギメタルの腕が、リーヴァイの槍の矛先を下へと向ける。

 続けて俺は杖を振る。


বহন(運べ)


 リーヴァイの槍近くへと魔法陣を浮かべて、精霊語で詠唱する。


『む? 貴様、何を……』


 転移の魔術が発動。

 俺の身体が、垂直下向きに構えられた、槍の尾先の上へと移動する。

 ちょっとバランスを崩してふらつきながらも、どうにか体勢を整える。


『何の真似だ、マーレンよ』


「これで、俺は槍を投げられません。力を込めて投げれば、上に乗っている俺が先に死にますからね。槍の性質を考えれば、落とすよりも、こっちの方が確実かと思いまして」


 そこまで行ってから、両手を上にあげる。


「降参です。言うことに、全面的に従います。ですのでどうか、命だけは見逃してください」


 深く、頭を下げる。

 クゥドルは遥か高みから、俺の様子を訝し気に見下ろす。


『余計なことはするな。槍を、手から放せ。それだけを降伏の合図として受け取ると、この我が言ったのだ。二度はない、早くしろ。それとも……手放せば困る、事情があるのかと勘繰ってしまうぞ?』


 来た、ここだ。

 ひとまず駆け引きでは、俺に分があがった。

 油断があったのだろう。絶対に、自分の交渉を蹴られるわけがない、と。

 それが結果として、隙になった。


「はい、わかりました……」


 俺が杖を振る。

 ヒディム・マギメタルの腕が、俺が乗ったままのリーヴァイの槍を、真下に海面へと落とす。

 空高くにあるクゥドルの顔が、一瞬緩んだ様に見えた。

 ゾロモニアも不安げに俺を見ていたが、ほっとしたのか、安堵の息を吐いている。


『そう、それでよ……』


「最初の問題は、どうやって遥か高みにある本体部分へと、極力隙がなく移動するか、ということでした」


 転移は、転移座標へと予め魔法陣を転写しておく必要がある。

 ゾロモニアの転移結界は乱数で散らした座標への転移であるが、どちらにしろ魔力の流れが先行するため、決して不意を突くことはできない。

 魔力の気配で、転移先の座標を感知されるのだ。


『何の話だ?』


 『運命歪曲』の発動のための前提は、槍を投げたという事実にある。

 歪んだ因果であっても、始まりが必要である、という不文律は変わらない。

 このほとんど自由落下の消極的投擲であっても、その条件は満たすことができる。


ভাগ্য(運命)নড়ন(歪曲)


 俺の詠唱と同時に、六つの魔法陣が並ぶ。

 六つで一つの巨大魔法陣が輝き、運命を捻じ曲げる。


 リーヴァイの槍の着地点は、『海面』から『クゥドル・ワールドツリーの上方部』へと書き換えられた。

 低い位置から自由落下させられたリーヴァイの槍が、書き換えられた因果の果て、遥か高みのクゥドルの身体の一部へと着地した。


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