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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第七章 クゥドル神復活
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三十五話 大神クゥドル⑨

 青白いぶよぶよとした触手の蠢く巨大な肉塊の上に、触手と同色の身体を持つ人間の上半身が生えている。

 紛うことなく、絵画や神話にて描写されるクゥドルの姿そのものであった。

 なぜ実物のクゥドルに神話の様な人間体の上半身がくっ付いていないのか疑問だったのだが、その答えがわかった。

 今までは、本気ではなかったのだ。


 クゥドルは、試練を乗り越えた者が現れて目覚めた後、すぐにまた再び眠りにつくつもりだったのだろう。

 そのためにクゥドルを造ったヨハナン神官が、クゥドルの精霊体を転用して聖堂を造ることで、二つに分けて封印していたのだ。

 試練挑戦者の願いを叶えるためには、本体部分だけが動いて対処に当たるだけで充分だと考え、そうすることで魔力の消耗を抑えようとしていたのだろう。


 クゥドルが肥大化を重ねる。

 精霊体を引き抜かれ続けている聖堂が目に見えて脆くなっていき、色を失って透明化していき、自重に耐え切れなくなって大きな亀裂が入る。

 毒々しい青一色だった聖堂内の景観が、透き通った硝子塊へと変わり果てていく。

 天井の一部が、ついに崩壊。俺を軽々と押し潰せそうな透明質の塊が、雨霰と落ちて来る。


বায়ু (風よ)

 

 俺は杖を天に向け、頭上に風を生じさせる。

 風を狭い範囲で巡らせ、直径五メートル程度の円を作った。


 風の円に触れた聖堂の残骸の衝突面が大きく削れ、煙を上げて遠くへと弾かれる。


「ペテロさん、大丈夫ですか!」


 俺は離れたところで立っていたペテロへと目を向ける。

 ペテロはゾロモニアの杖を掲げ、光を纏う球状の結界を展開して自身を守っていた。


 ペテロの背後では、幼げな容姿に似合わぬ妖艶な笑みを湛える悪魔の童女、ゾロモニアが宙に浮かび、結界へと手を翳している。

 ゾロモニアの手から漏れた黒い光が、球状の結界を内から外へと通り抜けて、結界の内外の両側から強化している。


 結界は無事に聖堂の瓦礫を防いでいる。

 あの強度なら、落下物から身を守るだけならば、充分持つだろう。

 


『この我相手に、よくやったものよ。褒めてやろう。だが、今はしばし眠るがよい』


 真紅の輝きを放つ、クゥドルの双眸が俺を見る。

 全長十五メートル以上に膨れ上がった巨体から伸びる触手は、今までとは明らかにリーチから桁外れだった。


 俺は上部を確認する。

 あらかた落下を終えた聖堂の天井はスカスカになり、クゥドル登場と共に紅の曇天となった空がよく見える。

 俺の位置に瓦礫が落ちてこない事を確認し、再び杖を掲げる。


 追加で魔法陣を次々に転写させる。

 瓦礫から俺を守っていた風の塊の円盤を上昇させ、同時に送り込んだ膨大な魔力の大半を、回転速度の引き上げへと回す。

 アベル球では威力が拡散してしまうため、頑丈過ぎるクゥドルの体表を突破できるとは思えない。

 ならば、薄い刃に魔力を転換した運動エネルギ―を持たせて回転させ、触手を刈り取って本体ごと切断してやる。


 極限まで威力を高めるために大量の魔術式を思い付きで魔法陣に詰め込み続けたため、魔力の均衡が崩れたのか、過剰魔力で大気の精霊が弾ける音がする。

 焦り過ぎたか。だが、悪くない、アベルノコギリとでも命名しようか。


 唸りを上げる巨大な円の刃は、俺が杖を降ろすと同時にクゥドルへと向かう。

 通過地点に、摩擦熱により生じた炎の軌跡が残る。やや湾曲な動きで、クゥドルの下の顔、根本部分の巨大な単眼を狙う。


『先程同様に行くとは思うな、悪いが、掻き消させてもらおうか』


 クゥドルの図太い触手が伸びて、アベルノコギリの軌道上に立ち塞がる。

 見るからにアベル球で焼失させられた、前形態の触手とは、太さも質が違う。

 だが、切断力に特化したアベルノコギリで無数の触手の一つも破壊できなければ、万に一つの勝ち目もない。

 心中で俺は祈る。


 アベルノコギリが、クゥドルの図太い触手に触れる。

 触手が削れ、精霊の光を散らし、切れ目が生じる。

 だが、同時に、アベルノコギリが大きく減速した。


『な、なぜ、人間の魔術で、我が触手に傷が付く! なぜ掻き消せぬのだ!』

「う、嘘だろ!? アレでも切れないのか!?」


 クゥドルが狼狽え、叫ぶ。

 だが、嘆きたいのは俺の方だ。

 アレで通らないとなると、勝ち筋が一気に薄くなる。


 クゥドルの触手が、アベルノコギリを押し潰そうと触手を前に出そうとする。

 だが、アベルノコギリの推進力に妨げられ、動かしきれないようだった。

 競り合いが続き、アベルノコギリが、触手の三分の一までを切断する。


「あれだけやったのに、なんで……?」


 俺は、手の甲を噛みながら考える。

 どう魔法陣を組めばよかったのか。なぜ、思うように切断できなかったのか。

 どうすれば、思うように切断できたのか。何を変えれば実現でき得るのか。

 頭の中で大量の魔法陣を組んでトライアンドエラーを繰り返す。

 仮説、改善点、課題は見つかったが、この土壇場ですべてを破綻なく押さえ込むのは難しい。


「でも……あの調子なら、アベルノコギリ一発で、触手の一本は奪える……」


『ハァアアアアッ!』


 クゥドルの人間部分が吠える。

 アベルノコギリと押し合いをしていた触手が、震えながらも、ゆっくりと持ち上がった。

 かと思えば、勢いよくピンと伸ばされる。

 アベルノコギリが、クゥドルの背後へと投げ飛ばされた。


「あっ!」


 アベルノコギリは、聖堂の壁を容易く穿つ。

 横一列に綺麗な線が入り、壁が大きく揺れて崩れた。


「ず、狡い……そんな……」


 受け流して対処されていたら、どう優位に見積もっても、俺の魔力では仕留めきれなくなる。


『あんなモノを、真っ当に受け止めてやる義理はない』


 クゥドルの下部の肉塊に埋もれる巨大な単眼が、アベルノコギリが崩した壁の向こう側を振り返る。

 クゥドルに受け流されたアベルノコギリは降下しており、海面に触れた。

 大きな飛沫が上がり、海が二つに裂ける。海原の境界はどんどんと深く、長くなっていく。

 海の裂け目は、まるで巨大な崖の狭間の様であった。

 やがて水平線の彼方へと消え、アベルノコギリの作った海の崖が、大きな波となって消える。


『さて、我は下手に動くだけで魔力を浪費してしまうのでな。終わらさせてもらうぞ』


 クゥドルの触手が持ち上がり、攻撃態勢に構えられる。

 俺は杖を構える。世界樹オーテム、アシュラ5000、通常オーテム二体を動かし、俺を守る様に配置した。

 だが、これだけでは心許ない。


তুরপুন(錬成せよ)


 とにかく規模を稼ぐため、八つの大きな魔法陣を並行展開。

 広範囲に渡って大気の構成成分と精霊を魔力で繋ぎ、性質を書き換えてヒディム・マギメタルを形成。

 俺の周囲一帯がヒディム・マギメタルに覆われ、足場から、クゥドルの触手に対抗すべく生やした、巨大な魔金属の鞭が、無数に生える。


『我の真似のつもりか? 面白い』


 クゥドルが腕を組んで俺を睨む。


 クゥドルの底が見えないのが不気味だ。

 どの程度の攻撃を叩き込めばクゥドルの優位性が崩れるのかがわからない。

 クゥドルは攻撃手段として、今のところ触手しか使っていない。


 最初にディンイーターを下がらせたことから今回は使うつもりがなさそうだが、本来は触手からディンイーターを無尽蔵に生み出すことができる。

 収集家を鼻で笑えるレベルの魔法具のコレクションもある。

 攻撃手段が触手だけ、というはずはないのだ。


 だが、勝機が皆無ということはない。

 俺には、水神様より授けられたリーヴァイの槍がある。

 神話通りなら、四大創造神最弱と名高く、人間相手に神器の所有権を奪われても一向に取り返しに来る素振りさえ見せないあのリーヴァイでさえもがクゥドルを貫けた代物だ。試す価値はある。


 だが、下手に見せるわけにはいかない。

 死ぬ気で防戦を保ち、隙を見て、水神から譲り受けた、リーヴァイの槍を放ち、肉塊の中央にある単眼を貫く。

 失敗は許されない。

 本当にリーヴァイの槍で勝機があるならば、クゥドルは槍の所在を知った瞬間に今以上に全力で俺を潰しに来るはずだ。


「……ミュンヒやメアちゃんと逃げておけばよかったかしら?」


『この規模だと最早どこにおろうが関係ないのではないかの』


 ペテロは球状結界の中から、死んだ目でアベルノコギリが飛んでいった果てを見つめていた。

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